研究部門・組織

共同研究推進部

宇宙低温物質進化

Evolution of extraterrestrial materials at low temperatures

プログラムの背景

小惑星探査機はやぶさ2による小惑星リュウグウへのタッチダウン,およびサンプル採取成功という歴史的快挙によって,地球以外の天体からその構成成分を現地で回収し,ほぼ無傷のまま地球上で分析できるようになったことが証明され,地球外物質を対象としたサイエンスは新たな局面を迎えようとしている。今後,NASA 主導の小惑星サンプルリターン計画 OSIRIS-REx や JAXA 主導の火星衛星探査計画 MMX など,現在運用中ならびに近い将来に計画されている国内外のプロジェクトでも,様々な地球外天体から貴重なサンプルが回収されることが強く期待されている。そうした地球外天体に由来するサンプルは,地球での風化および汚染の影響が極めて小さいため,約46億年前の太陽系形成当時の貴重な情報をその構成成分内に保持しているはずである。そのため,それらの分析によって,極低温の星間分子雲に存在した物質から原始惑星系円盤の形成,そして太陽系形成から地球上での生命誕生に至る物質進化解明の糸口をつかめることが期待される。天体を構成する成分は,ケイ酸塩などの無機物を主成分とし,炭素や窒素,酸素,水素など軽元素で構成される有機成分,さらに,極域などの低温領域には氷成分も存在する。したがって,限られた試料量を有効活用するためにも,対象によって大きく異なる分析手法,および緻密な分析計画の構築とそれを適切に実行する環境の準備が必要とされる。さらに,それらの始原的太陽系物質の生成プロセスをより詳細に理解するためには,太陽系形成に至るまでに起こりうるプロセスを実験室で再現し,得られる実験結果と地球外物質分析結果を比較することが不可欠である。

図1a©JAXA
図1b©NASA

プログラムのねらい

本プログラムでは,国内の宇宙化学,地球化学,分析化学等を専門とする研究者の協力によって,生命をつかさどる有機物や,地球の材料となった鉱物を含む太陽系構成成分がいつ,どのようにして形成されたのか,という極めて根源的な長年の謎を,地球外物質の分析,および実験室内での模擬実験を駆使して解明することを目的としている。さらに地球外物質の分析に関しては,南極氷床分析で培った技術をもとに,将来的に太陽系天体の極域や彗星での採取が期待される氷などの低温成分まで対象に含めて,そこに含まれる揮発性試料を,低温を保持したまま分析できる体制の構築を目指す。

プログラムの特徴

本プログラムは,地球外物質を専門とした研究者だけでなく,宇宙化学,地球化学,物理学,分析化学,雪氷学などを専門とする研究者も参画している分野融合型研究である。それぞれの専門的な知見・技術をもとにプログラムを推進し,地球外物質の無機成分・有機成分を化学分析・分光分析等の最先端手法を駆使して詳細に分析する。さらに得られる分析結果と太陽系形成以前の物理・化学プロセスを再現した低温模擬実験で得られる結果を比較し,太陽系形成までの物質進化解明に資する。

これまでの成果

分析操作中の汚染を防ぐためのクリーンな分析環境の構築 (クリーンブース内にクリーンベンチ設置) が完了している。研究成果としては,炭素質隕石からヘキサメチレンテトラミン (HMT) という有機分子を世界で初めて検出したことが挙げられる (Oba et al. 2020, Nature Communications)。隕石中 HMT は太陽系形成前の星間分子雲における光化学反応で生成したと考えられる有機化合物で,アミノ酸など主要隕石中有機物の生成に不可欠なアンモニアやホルムアルデヒドなど揮発性分子の供給源となる分子である。そのため,隕石での HMT の検出によって,星間分子雲での極低温化学反応が太陽系に存在する有機分子生成の根源となっていることが強く示唆された。さらに炭素質隕石から生命の遺伝子の構成成分,核酸塩基5種すべてを検出することに成功した (Oba et al. 2022, Nature Communications)。これら隕石中核酸塩基が生命誕生前の原始地球上に供給されることで,同環境での化学進化に強く寄与したことが示唆された。

図2©NASA

実験装置群

当研究所の「雪氷新領域部門」および「水・物質循環部門」にある実験装置・分析装置群(液体クロマトグラフ―飛行時間型質量分析計,極低温真空表面反応実験装置,極低温超高真空透過型電子顕微鏡,ガスクロマトグラフ―同位体比質量分析計など)を利用する。

図3a
図3b

プロジェクトメンバー

  • 大場 康弘 北海道大学低温科学研究所
  • 木村 勇気 北海道大学低温科学研究所
  • 力石 嘉人 北海道大学低温科学研究所
  • 飯塚 芳徳 北海道大学低温科学研究所
  • 高野 淑識 海洋研究開発機構
  • 奈良岡 浩 九州大学
  • 古川 善博 東北大学
  • 瀧川 晶 東京大学
  • 臼井 寛裕 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
  • 橘 省吾 東京大学/宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
北海道大学低温科学研究所
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