研究部門・組織
共同研究推進部
南極海洋-氷床-海氷結合システム
Antarctic Coupled Ocean-Ice System
背景
南極大陸とそれを取り巻く海洋は、海水位や水循環の変化、南極底層水の形成など、グローバルなインパクトを有する領域です。南極の海洋、海氷、氷床・氷河・棚氷そして大気は相互に関係しあいつつ変動しています。低温研の研究者を中心とする研究チームは、南極地域観測 (Japanese Antarctic Research Expedition: JARE) の第9期では重点テーマの一つ ROBOTICA プロジェクトを実施し、南極気候システムの実態把握に努めてきました。低温研は、雪氷、海洋圏やその生物・生態系を中心として、60年以上の歴史をもつ JARE の最初期からその中核の一翼を担ってきた実績をもっています。
目標
これまで分かってきた海洋-氷床-海氷システムの実態と土台にして、その時間的な変動性やグローバルな環境変動との関連性について、さらに研究を発展させます。海洋-氷床-海氷システム間の相互作用メカニズムや海洋・海氷・氷河の十年規模変動の実態とダイナミクスの把握し、熱帯海洋との関連性を明らかにすることを目指します。フィールド観測を中心としつつ、人工衛星観測や数値実験の知見を積極的に活用し、相互にフィードバックしつつ理解の進展を図ります。
海洋-氷床-海氷システムの模式図と着目するプロセス
これまでの成果と今後の計画
フィールド観測を中心とした分野・手法融合型のアプローチにより、システムの相互作用の解明に挑むのが特色としています。これまで、リュツオホルム湾での暖水流入と氷河・棚氷融解1)2)、海氷の十年規模の分布・構造変化3)、アメリー棚氷からケープダンレーへと続く氷河融解水が底層水形成におよぼす影響 (下図参照)4)、トッテン氷河前面海域の海底地形構造の把握と暖水流入5)6)などに数多くの実績をあげてきました。第10期の JARE 計画にもひきつづき参画しつつ、白鳳丸や諸外国との連携などの JARE 以外の南大洋観測の機会を追求して、南極システムのより広域への影響の調査を目指します。
南極アメリー棚氷とケープダンレーポリニヤ域での通常の夏と暑い夏での海洋状況の違い
参考文献
- Hirano, D., T. Tamura, K. Kusahara K. I. Ohshima, K.W. Nicholls, S. Ushio, D. Simizu, K. Ono, M. Fujii, Y. Nogi, and S. Aoki. Strong ice-ocean interaction beneath Shirase Glacier Tongue, East Antarctica. Nature Communications, 11, 4221, 2020.
- Minowa, M., S. Sugiyama, M. Ito, S. Yamane, and S. Aoki. Thermohaline structure and circulation beneath the Langhovde Glacier ice shelf in East Antarctica. Nature Communications 12, 4209, 2021.
- Aoki, S.. Breakup of land-fast sea ice in Lutzow-Holm Bay, East Antarctica and its teleconnection to tropical Pacific sea-surface temperatures. Geophys. Res. Lett., 44, 3219-3227, 2017.
- Aoki. S., T. Takahashi, K. Yamazaki, D. Hirano, K. Ono, K. Kusahara, T. Tamura, and G. D. Williams. Warm surface waters increase Antarctic ice shelf melt and delay bottom water formation. Communications Earth & Environment, doi:10.1038/s43247-022-00456-z, 2022.
- Nakayama, Y. C.A. Greene, F. S. Paolo, V. Mensah, H. Zhang, H. Kashiwase, D. Simizu, J.S. Greenbaum, D.D. Blankenship, A. Abe-Ouchi, and S. Aoki. Antarctic Slope Current modulates ocean heat intrusions towards Totten Glacier. Geophys. Res. Lett., 48 (17), e2021GL094149, 2021.
- Hirano, D., K. Mizobata, H. Sasaki, H. Murase, T. Tamura, and S. Aoki. Poleward eddy-induced warm water transport across a shelf break off Totten Ice Shelf, East Antarctica. Communications Earth & Environment 2, 153, 2021.
メンバー
- 青木 茂(低温科学研究所)
- 豊田 威信(低温科学研究所)
- 小野 数也(低温科学研究所)
- 平野 大輔(国立極地研究所)
- 田村 岳史(国立極地研究所)
- 草原 和弥(JAMSTEC)
- 中山 佳洋(ダートマス大学)