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共同研究推進部

寒冷圏樹木光適応

Adaptation of evergreen trees to light environments in boreal regions

一般的に植物は、「光があたるほど成長がよい」と考えられているが、これは必ずしも正しくはなく、実際は、気温が低い場合や空気が乾燥している場合など条件によっては、強い光が傷害(葉焼けなど)をおこすことが知られている。とくに寒冷圏の樹木にとって、光傷害を防ぎ、光合成タンパク質や葉緑体の機能を維持することは死活問題である。

光障害を回避するためには、細胞内での電子伝達を抑制する必要がある。そのため、根本的な光障害の対策としては (1) 落葉する(落葉樹の場合)、あるいは、(2) 光を吸収してもそのエネルギーを熱として放出することによって電子伝達を回避する(常緑樹の場合)、という生存戦略が考えられる。実際は、落葉や熱放散の応答は樹種によって一様ではなく、寒冷圏においては、落葉樹は落葉や紅葉のタイミングを調節し、常緑樹はエネルギーの熱放散の割合を調節することで、気温と光環境の変化に適応していると考えられる。落葉樹の場合は、Stay-Green とよばれるクロロフィル分解酵素の働きによって、クロロフィルが分解し、葉が緑色から黄色や紅色に変化するプロセスが重要である (図1)。低温研では、クロロフィル分解酵素の反応メカニズムや、クロロフィル分解酵素が落葉や葉の老化に及ぼす影響を研究している。また、常緑樹においては、冬期の熱放散のメカニズムをさまざまな光合成応答の解析、次世代シークエンサーを利用したトランスクリプトーム解析、光化学系タンパク質複合体の構造、分光学的解析などを通して研究を進めている (図2)。

また、本研究に関連して、低温研ではクロロフィル、カロテノイド、テトラピロール代謝中間体の検出定量を HPLC によって行うシステムやタンパク質複合体を高い分離能で安定的に分析する Native 電気泳動システムを運用しており、これらのシステムを用いて、積極的に共同研究を行っている。

図1

図1:クロロフィル分解酵素 Stay-Green の構造。水色の部分がタンパク質(酵素)を表し、青色が基質となるクロロフィル a を表す。

図2

図2:常緑樹は冬季には光合成活性を抑制し、光による障害を防いでいる。(低温研正面のイチイ。写真撮影:小野数也)

プロジェクトメンバー

  • 田中亮一 低温科学研究所 教授
  • 高林厚史 低温科学研究所 助教
  • 伊藤寿 低温科学研究所 助教
  • 小野清美 低温科学研究所 助教
  • 秋本誠志 神戸大学 准教授
  • 北尾光俊 森林総研北海道支所 グループ長

参考文献

  • Sapeta H, Yokono M, Takabayashi A, Ueno Y, Cordeiro AM, Hara T, Tanaka A, Akimoto S, Oliveira MM, Tanaka R (2022) Reversible down-regulation of photosystems I and II leads to fast photosynthesis recovery after long-term drought in Jatropha curcas. J Exp Bot. published online, 10.1093/jxb/erac423
  • Kitao M, Yazaki K, Tobita H, Agathokleous E, Kishimoto J, Takabayashi A, Tanaka R (2022) Exposure to strong irradiance exacerbates photoinhibition and suppresses N resorption during leaf senescence in shade-grown seedlings of fullmoon maple (Acer japonicum). Frontiers in Plant Sci. 13:1006413, 10.3389/fpls.2022.1006413
  • Dey D, Nishijima M, Tanaka R, Kurisu G, Tanaka H, Ito H (2022) Crystal structure and reaction mechanism of a bacterial Mg-dechelatase homolog from the Chloroflexi Anaerolineae. Protein Sci. 31:e4430, 10.1002/pro.4430
  • Ito H, Saito H, Fukui M, Tanaka A, Arakawa K (2022) Poplar leaf abscission through induced chlorophyll breakdown by Mg-dechelatase. Plant Sci. 324:111444, 10.1016/j.plantsci.2022.111444
  • Dey D, Dhar D, Fortunato H, Obata D, Tanaka A, Tanaka R, Basu S, Ito H (2021) Insights into the structure and function of the rate-limiting enzyme of chlorophyll degradation through analysis of a bacterial Mg-dechelatase homolog. Comput Struct Biotechnol J. 19:5333-5347
  • Matsumae R, Shinsa K, Tanaka R, Takabayashi A (2022) Weak-Acidic clear-Native polyacrylamide gel electrophoresis for the separation of the intact forms of thylakoid protein complexes. Plant Cell Physiol. 63(7):883-885
  • Chen Y, Yamori Y, Tanaka A, Tanaka R, Ito H (2020) Degradation of the photosystem II core complex is independent of chlorophyll degradation mediated by Stay-Green Mg2+ dechelatase in Arabidopsis. Plant Sci. 307:110902
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