研究部門・組織

共同研究推進部

メゾスコピック雪氷界面科学

Mesoscopic interface science of snow and ice

プログラムの背景

水や氷,水蒸気は地球上に遍く存在すると同時に,私たち生命にとって必要不可欠な存在である.これらは H2O という物質の三態を構成する「相」であるが,それらの相の間の移り変わりである「相転移」は,地球上,特に寒冷圏の自然現象を司る重要な因子となっている.また,臓器や生体組織,細胞の冷凍保存や食品の凍結・解凍技術などの低温生物学や食品科学にも深い関わりがある.

本プログラムで着目する氷の表面・界面は,氷結晶の成長・融解というシンプルな物理過程のみならず,不凍タンパク質やエアロゾル等の外来不純物の付着や化学反応,氷上の潤滑・摩擦,着氷を介在する場であるため,その基礎的理解は上記の現象とのつながりを探求する上で極めて重要である.近年,光学顕微鏡法,プローブ顕微鏡法,和周波発生分光などの表面選択分光法,分子動力学シミュレーションなどの一分子観察技術の急速な発展により,氷表面・界面の一分子レベルの動的構造にまでアクセスできるようになってきた.しかし,それらミクロな素過程と各々の自然現象が支配するマクロな時空間スケールにおける現象論がどのように結びつくのかについては未だ理解の糸口を掴めていない.このミクロとマクロの中間領域 (原子・分子論的描像と連続体的描像が交差するメゾスコピックスケールに該当する) を支配する物理法則こそが地球寒冷圏の自然現象において本質的な役割を果たすと考えられる.

プログラムの狙い

本プログラムでは,「雪氷界面」をキーワードに,着氷や氷の潤滑,積雪構造の経年変化 (Aging) などといった身近な問題から,雲形成,降雪と大気エアロゾルとの関係,積雪汚染といった地球規模の現象に至る氷に関わる諸問題を統一的に理解し,雪氷界面と地球寒冷圏における様々な自然現象とのつながりの物理的基盤を構築することを目的とする.そのためには,原子・分子スケールでの氷の界面描像とマクロスケールでの現象論との間に存在する時空間階層をシームレスに結びつける必要がある.しかし,氷上の潤滑を例にとっても,潤滑材となる擬似液体層の分子論的生成メカニズムと実際に潤滑を司る擬似液体層の濡れや流体力学との間の関係性は全く自明ではない.本プログラムでは,その未知なる中間領域に光を当てることで,分子・原子論的基盤に裏打ちされた真にボトムアップ型の研究を展開する.特に,単一の時空間スケールに縛られない研究を目指すことを意図し,プログラム名を「メゾスコピック雪氷界面科学」とした.

プログラムの特徴

本プログラムでは,ソフトマター物理学,物理化学,結晶成長学,地球環境科学など専門の異なる研究者が有機的かつ分野横断的に連携する.それぞれの専門領域で培った多彩な実験アプローチ,数値モデリングを駆使し,プローブ型顕微鏡観察から光学顕微鏡観察,分子動力学計算からフェーズフィールド計算,さらには気候モデリングへと,分子スケールからに地球規模に至る幅広い時空間スケールを網羅することで,従来分野ごとに個別に扱われてきた氷界面に関する研究テーマを包括的に取り扱う.本プログラムの目標として「氷の界面現象の統一的理解」を掲げ,国内外の研究者との分野を越えた学際的な共同研究を推進する.そして,共同研究を起点として異分野融合研究の核となり,雪氷に関する新たな学術領域の創成を目指す.

メンバー

  • 村田憲一郎(北海道大学 低温科学研究所)
  • 長嶋剣(北海道大学 低温科学研究所)
  • 斎藤史明(北海道大学 低温科学研究所)
  • 安成哲平(北海道大学 北極域研究センター)
  • 高江恭平(東京大学 生産技術研究所)
  • 羽馬哲也(東京大学 大学院文化総合研究科)
  • 望月健爾(浙江大学)
図

図: (左) 融点直下の氷上に出現する擬似液体層の様子 (スケールバー: 20 μm).これまで擬似液体層は氷上を均一かつ完全に濡らしていると考えられてきたが,レーザー共焦点微分干渉顕微鏡による直接観察により,液滴と薄膜が共存する極めて特異な濡れ形態を呈することが明らかになった.(右) 過冷却水中の氷の成長界面の様子(スケールバー: 200 μm).氷結晶の一分子段差 (ステップ) が自己組織化した特異な成長パターンが見られる.同じ氷の表面・界面であっても,環境相 (左図は気相,右図は液相) の違いによって,発現する物理現象も大きく異なる.これらの氷の表面・界面の多様性は着氷や氷の潤滑,エアロゾルや不凍タンパク質の付着にどう影響するだろうか.

北海道大学低温科学研究所
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