ILTS

年報

2002年(平成14年)

目次



部門・附属研究施設の研究概要

寒冷海洋圏科学部門:MARINE AND ATMOSPHERIC SCIENCE RESEARCH SECTION

教官:FACULTY MEMBERS

教授:PROFESSORS

竹内 謙介・理学博士・大気海洋相互作用および気候変動学
TAKEUCHI,Kensuke/D.Sc./Air-Sea Interaction and Climate Change

若土 正曉・理学博士・海洋物理学;海洋循環と海氷変動
WAKATSUCHI,Masaaki/D.Sc./Physical Oceanography; Ocean Cirenlation and Sea Ice Variability

河村 公隆・理学博士・有機地球化学および大気化学
KAWAMURA,Kimitaka/D. Sc./Organic Geochemistry and Atmospheric Chemistry

藤吉 康志・理学博士・雲科学
FUJIYOSHI,Yasushi/D.Sc./Cloud Science

助教授:ASSOCIATE PROFESSORS

遠藤 辰雄・理学博士・雲物理学、大気エアロゾル科学
ENDOH,Tatsuo/D.Sc./Cloud Physics, Aerosol Science

大島慶一郎・理学博士・海洋物理学;海氷−海洋結合システム
OHSHIMA,Keiichiro/D.Sc./Physical Cceanography; Ice-Ocean Coupled System

中塚 武・博士(理学)・同位体地球化学
NAKATSUKA,Takeshi/Ph.D./Isotopic Geochemistry

助手:ASSISTANT PROFESSORS

豊田 威信・博士(地球環境科学)・海氷・大気・海洋相互作用
TOYOTA,Takenobu/D.Env.E.Sc./Geophysical Research of Sea Ice

河村 俊行・理学博士・雪氷物理学
KAWAMURA,Toshiyuki/D. Sc./Glaciology,Sea-Ice Physics

深町 康・学術博士・海洋物理学;海氷−海洋結合システム
FUKAMACHI,Yasushi/Ph.D./Physical Oceanography; Ice-Ocean Coupled System

持田 陸宏・博士(理学)・大気化学および地球化学
MOCHIDA,Michihiro/Ph.D./Atmospheric Chemistry and Geochemistry

川島正行・理学博士・メソスケール気象学
KAWASHIMA,Masayuki/D.Sc./Mesoscale Meteorology

研究概要:OUTLINE of RESEACH

当部門は、寒冷海洋圏、特に海氷域の全球的気候における役割の解明を主要な研究目標にしている。海氷は太陽からの放射エネルギーの大半を反射し、大気・海洋間の熱交換を著しく抑制する働きをもつ。一方、海氷が形成する際に生成する高塩分水は深層水の源であり、世界の海洋大循環に大きな役割を果たしている。

当部門では、北半球で最も低緯度に位置する季節海氷域として、また近年、北太平洋中層水の起源水の生成域として注目されている、オホーツク海を含む海洋と大気を研究対象域とし、そこでの詳細な観測を行いつつ、学際的な研究を行っている。以下に示す、多くの研究課題に取り組むために不可欠な、いろいろな研究分野(気象学、海洋物理学、大気化学、地球化学、同位体地球化学、雪氷学)、研究手法(観測、化学分析、データ解析、リモートセンシング、モデリング)をもつ研究スタッフから構成されているのも当部門の大きな特色である。また、国際共同研究にも積極的に取組んでいる。

The major purpose of this section is to clarify climatological and biogeochemical roles of highlatitudinal seas, and related oceans,including the Sea of Okhotsk which is a seasonal sea ice zone located in the lowest latitude in the Northern Hemisphere and is believed as a source region of North Pacific Intermediate Water. Our scientific backgrounds include meteorology, physical oceanography, atmospheric chemistry geochemistry, isotope geochemistry and glaciology. Some studies are conducred as international joint programs.

研究課題と成果:CURRENT RESEARCH PROGRAMS

降雪粒子に含まれる硝酸塩が長距離輸送される可能性の研究

助教授 遠藤辰雄

On abilities of NO3- in solid precipitation participating in long range transport: T. Endoh

札幌と石狩における観測結果から、雲粒の付かない降雪粒子は雲粒付きに比べて、硝酸塩をかなり高濃度で含んでいることが発見された。その時の降雪粒子は都市大気によって汚染された下層の大気層を落下してきたので、これらの雲粒の付かない雪から検出された硝酸塩は雲底下で人為起源の汚染大気から及んだものと考察された。この仮説を確め、かつ降雪粒子の構成成分の起源を調べるために、この観測が遠隔過疎地であるの北大演習林の母子里と北極圏スバルバールのニーオルセンで同様の観測がなされた。観測点の環境大気のNOxガスと硝酸塩エアロゾルはフィルター法でモニターされた。また、降雪試料は大きな防風ネットの中心に置かれた清浄された容器で、汚染物の混入に注意して集められた。特に後者ではローボリュムエアサンプラーを使用して、環境大気のガス成分とエアロゾルの微粒子と素粒子に分けて化学成分を分析した。母子里では海岸に近いこともあって、雲粒付き雪結晶の併合した雪片が降ることが多かった。雲粒の付かない雪結晶の硝酸塩濃度も観測点の下層大気中の硝酸塩濃度と平行に変わることから、雲底下の捕集機構は依然として主要因と言える.。しかし、環境大気の硝酸塩濃度がかなり低い時でも、ある程度の濃度が雲粒付きの雪粒子にも検出され、しかも、その濃度値が霰の芯の部分の濃度に近いことから、これは雲内で捕集されたものであり、これは下層大気から雲内まで吸い上げられて長距離輸送に組み込まれている可能性が期待される。ニーオルセンでの観測では、この地では珍しく比較的風の弱い状態で降雪粒子が採取され、メキシコ湾流によるオープンシーからの雲粒付きと北極海からの雲粒無しの降雪を区別して採取され、特に北極海からの降雪にも硝酸塩が有意に認められ、これらが長距離輸送されていることは明らかである。

<関連施設・装置等>低温室・質量分析計

船舶用スカイラディオメータによる海上大気のエアロゾルの観測

助教授 遠藤 辰雄

Shipborne measurement of aerosol by sky radiometer T. Endoh

宇宙からのリモートセンシングによる大気エアロゾルのデータに対する地上からの検証・更正は今のところ、背景のアルベードが低くて、安定な一様性がある海上におけるデータに関して計算がなされ、全球的なマップ化が進められている。しかるに、海上におけるスカイラディオメータによるエアロゾルの放射特性の観測例は極めて少ないのが現状である。それは動揺する船舶上で、太陽を追尾観測することの困難さが原因である。これを克服して完全無人観測化に、概ね辿り着いたので、この装置を4台にて展開する観測を開始したところである。実用試験を開始した船舶は、東大海洋研の「白鳳丸」、海洋科学技術研究センターの「みらい」それと(株)商船三井の石炭・鉄鉱石運搬船の「矢作丸」と「神山丸」である。それぞれの海域は、研究船については太平洋の北東部亜寒帯海域と西部熱帯海域とインド洋の一部である。商船については、いずれも日本と豪州の間を定期的に往復するものであるが、この航路では必ずどこかで暴風雨圏や台風と遭遇するので機械的な損傷は多くみられている。現在のところ南北に沿った航路でエアロゾル濃度を比較すると北半球の方が南半球に比べ常に濃度が高いことが認められる。今後はこのエアロゾルの光学的特性を解析検討して行くところである。

<関連施設・装置等>船舶用スカイラディオメター

酸素安定同位体比を用いたオホーツク海南部海氷のsnow iceの見積もり

助手 豊田威信

Estimation of snow ice contained in the sea ice of the southern Sea of Okhotsk from isotopic compositions of stable oxygen: T.Toyota

積雪と海水では酸素安定同位体比が大きく異なることを利用してオホーツク海南部の海氷に含まれるsnow iceを検出し、その特徴を調べた。海氷サンプルは1996〜2000年の5年間にわたってオホーツク海南部の比較的広範囲な海氷域から採取された約50個のFirst-year iceとYoung iceを用いた。その結果、snow iceは全体の約10%を占めること、積雪の寄与は全体の約1%程度であることなどが分かった。また、海水結氷時の見かけの分別係数は統計分布から1.76±0.20‰と推定された。

<利用施設,装置等>低温実験室、分析棟、安定同位体比質量分析装置

オホーツク海南部の海氷の特性に関する研究

助手 豊田威信

Characteristics of sea ice in the southern Sea of Okhotsk: T.Toyota

冬期海氷に覆われる南限の海域として知られるオホーツク海南部に存在する海氷の特性について、主として砕氷船「そうや」を用いた現場観測により、1996年から継続して調べている。2001年のオホーツク海海氷域は統計開始(1971)以来、2番目の広がりを見せ、近年稀にみるほど発達した。このため観測航海中、海氷上に降りて海氷コアや積雪をサンプリングしてその特性を調べることが可能となった。この結果、海氷はほとんど粒状氷からなること、積雪の塩分、温度、δ18Oの鉛直プロファイルなどの特徴が明らかになった。

<利用施設,装置等>低温実験室、分析棟、安定同位体比質量分析装置

オホーツク海南部海氷域の氷盤分布の解析

助手 豊田威信

Analysis of sea ice distribution in the southern Sea of Okhotsk: T.Toyota

オホーツク海南部海氷域の海氷分布を知ることを目的として、船舶とヘリから撮影されたビデオ画像、ADEOS/AVNIR画像の解析を行った。ビデオ画像は明るさに応じて2値化して見積もった海氷密接度のスペクトル解析を行い、衛星画像はおよそ10km四方のいくつかの領域に含まれる氷盤の大きさを一つ一つ計測してサイズ分布を調べた。その結果、1)海氷密接度は数km、数百mにスペクトルのピークをもつこと、2)氷盤の大きさが100〜1000mの間では自己相似性が認められることなどが分かった。

南極海氷域の変動機構

教授 若土正曉

Mechanisms for the variability of sea-ice extent in the Antarctic: M.Wakatsuchi

南極海海氷域において、大気と海氷の季節内程度の変動について統計的手法を用いて解析している。空間および時間変動を捉えることができるCEOF(Complex EOF)解析法を用いて、対象海域の大気と海氷の変動特性を求めた。その結果、海氷においては、低緯度海氷縁域付近において変動の大きい海域が現れており、全般的に東へ伝播する様子が現れ、波数は3〜4が最も卓越していた。一方の大気においては、海氷より北の大洋上で最も振幅が大きく、波数4で東へ伝播していることが現れていた。また、両者の回帰を求めると低緯度海氷縁で顕著であった。

日本海中層水形成機構

教授 若土正曉

Mechanisms for the Formation of the Japan Sea Intermediate Water: M.Wakatsuchi

日本海中層水は、日本海北部で生成した低塩分水がシベリア沿岸沿いを南下し、ウラジオストック沖合いで冬季の大気冷却によって形成するとこれまで言われてきた。

本研究では、過去に得られたすべての観測データに基づいて解析した結果、日本海中層水の形成には、この北部海域の低塩分水よりは、秋に東シナ海から日本海に流入する低塩分水の方が大きく関わっていることが分かった。

オホーツク海における風成循環

助教授 大島 慶一郎

The wind-driven circulation in the Sea of Okhotsk: K. I. Ohshima

オホーツク海の最も顕著な循環である中北部の反時計回り循環に対し、風応力のcurlによる風成循環によることを提出した。そして、東樺太海流はその西岸境界流を担っていると考えた。風応力と温度・塩分データの解析から、内部領域では概ねスベルドラップバランスしいていることが示され、風成循環が示唆された。海洋3次元モデルを用いた数値実験からも風成循環として、観測される反時計回り循環及び東樺太海流を再現した。

オホーツク海の熱収支と海氷の役割

助教授 大島慶一郎

Heat budget in the Okhotsk Sea and the role of sea ice on it: K. I. Ohshima

オホーツク海全域における大気ー海洋(海氷)間の熱収支を、種々のデータとバルク法などによって見積もった。海氷域では、マイクロ波放射計データから海氷の種類(薄氷か厚い氷か)を識別できるアルゴリズムを用い、海氷密接度と海氷の種類を考慮して、収支計算を行った。乱流フラックス及び正味の熱収支は冬季に最も大きな年々変動をする。これは海氷が断熱効果を持つことと海氷域の年々変動が大きいことによる。年平均した正味の熱収支は北部では強い負の値、南部では正の値、という顕著なコントラストを作る。これは海流による熱輸送の他に海氷による熱輸送による。すなわち、北部で潜熱を放出して生成した海氷が、風と海流によって南部へと運ばれ、そこで潜熱を吸収して融解するという、海氷による負の熱の南への輸送を示している。本計算からは、オホーツク海は大気へ熱を供給しているという結果となる。

海氷の性質と成長過程の研究

助手 河村俊行

Study on sea ice characteristics and growth processes: T. Kawamura

典型的な季節海氷域であるオホーツク海とバルト海を海氷気候の観測研究の拠点として、大気・海氷・海洋の観測を行っている。その一環として、オホーツク海やサロマ湖とバルト海・フィンランド湾で海氷を採取し、密度・塩分・酸素同位体比等を測定して、その諸性質や成長過程の研究を行っている。解析した結果、いずれの海域の海氷も表層に粒状の結晶粒を持つ氷が卓越していた。この氷は積雪に海水が浸み込んで出来た snow ice と推測され、海氷成長への積雪の寄与を示唆していた。また、海氷の構造におよぼす低塩分水の影響の知見も得られた。

<関連施設、装置等>附属流氷研究施設、安定同位体比質量分析装置

海氷の成長に及ぼす積雪の寄与に関する研究

助手 河村俊行

Contribution of snow cover to sea ice growth: T. Kawamura

近年の南極域の海氷研究から海氷成長に及ぼす積雪の寄与が注目されている。その過程には積雪に海水が浸み込んで出来た snow ice によるものと積雪の融解水の再凍結によって形成される superimposed ice によるものがある。それらの成長過程と積雪の寄与を詳細に把握するため、サロマ湖の定点で海氷を採取し、その解析を行っている。また、実験水槽を用いて、それらの海氷を制御された条件下で作成し、その氷化過程を研究している。その際、氷化過程にともなう光学的性質の変化も観測している。

<関連施設、装置等>附属流氷研究施設、安定同位体比質量分析装置

東カラフト海流と高密度陸棚水の係留観測

助手 深町 康

Mooring measurement of the East Sakhalin Current and dense shelf water: Y.Fukamachi

オホーツク海のサハリン東岸沖は、北太平洋中層水の起源水の一つと考えられている北西陸棚域で生成される高密度水の輸送経路として、重要な海域である。しかし、この海域に存在する東カラフト海流および高密度陸棚水の実態については、長期の係留観測などが行われて来なかったこともあり、理解が進んでいなかった。そこで、日・露・米の国際共同観測の一環として、1998年から2年間にわたり、流速、水温、塩分などの長期係留観測を、この海域では初めて実施した。観測の結果、東カラフト海流の流量は冬季に最大となり大きな季節変動が存在すること、この海流によって輸送される高密度陸棚水の流量には、この2年間については、大きく異なる季節変動が存在することなどが明らかになった。

北海道沖における海氷・海洋の係留観測

助手 深町 康

Mooring Measurement of sea-ice and oceanic properties off Hokkaido: Y.Fukamachi

1998−99年から2000−01年の冬季に、オホーツク海北海道沿岸の湧別沖において、超音波氷厚計、鉛直流速プロファイラー、水温・塩分計などを係留して、海氷の厚さと漂流速度、海洋中の鉛直流速プロファイル、海水の水温・塩分の連続観測を行った。これらのデータのうちの岸沿い方向の海洋流速を、稚内と網走の潮位差および北海道周辺海域での風データと比較したところ、10日付近で相関が高いことが示された。また、風データと潮位差の関係については、陸棚波の伝播によって説明される可能性が示唆された。2002年11月には、更なるデータの収集のために、過去3年間と同様の係留系を再び設置した。

ACE-Asia 観測における大気エアロゾルの採取と有機物組成の解析

教授 河村公隆、助手 持田陸宏

Aerosol characterization experiment in the Asian/Pacific region by aircraft, ship and ground stations: K. Kawamura and M. Mochida

国際共同研究として実施されたACE-Asia集中観測(2001年3月から5月)に参画し、航空機(NCAR C-130)、研究船(NOAA R/V Ron Brown, JAMSTEC みらい)、地上観測点(韓国・済州島、小笠原諸島・父島、北海道・札幌)にてエアロゾル試料および気体試料を採取した。エアロゾル試料は純水および有機溶媒による抽出により、それぞれ極性有機物、脂質有機物を分離し、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC/質量分析計により測定した。試料中にシュウ酸など水溶性有機物などを検出した。これらの濃度は、ハワイ沖の中部北太平洋で低く、アジア大陸に近ずくにつれて高い値を示し、南シナ海・日本海で最高値を示した。また、航空機観測で採取した試料中にも高い濃度のシュウ酸を検出した。これらの結果は、北太平洋域の大気組成がアジア域の人間活動の影響を強く受けていることを明らかにした。

脂肪酸の個別安定炭素同位体比:C3およびC4植物ワックスの海洋エアロゾルへの寄与

教授 河村公隆、日本学術振興会特別研究員 松本公平

Carbon isotopic composition of fatty acids in the marine aerosols from the western North Pacific: Implications of the source and atmospheric transport:Kimitaka Kawamura and K. Matsumoto

西武北太平洋海洋エアロゾル試料より脂肪酸を分離し、その安定炭素同位体比(δ13C)をGC/IR/MSを用いて測定した。その結果、海洋生物起源の低分子量脂肪酸(C14-C18)は重い同位体比(-24 ‰ から-26 ‰)を示した。しかし、季節的特徴は特に認められなかった。これに対し、陸上植物起源の高分子量脂肪酸(C20-C32)の同位体比(-26 ‰から-32 ‰)は、冬から春先にかけて軽く秋に重くなるという季節変化を示した。C3植物およびC4植物から分離した脂肪酸の炭素同位体比を測定したところ、前者は-31‰、後者は-21‰であることがわかった。この結果を用いて、西部北太平洋大気へのC4植物の寄与を評価した。

大気エアロゾル中に存在する個別脂肪酸の放射性炭素年代測定

教授 河村公隆、日本学術振興会特別研究員 松本公平

Compound specific radiocarbon analysis of fatty acids in aerosol samples: K. Kawamura and K. Matsumoto

昨年度までに開発した分取キャピラリーガスクロマトグラフ(PCGC)システムを用いて、札幌で採取したエアロゾル試料中の脂肪酸の分離と精製、および国立環境研究所の加速器質量分析計を用いて個別脂肪酸の14C測定を実施した。その結果、パルミチン酸(C16)やC18-C22の脂肪酸は、現代の値を示したのに対し、C24+C26脂肪酸は5860(±200)年、C28+C30+C32脂肪酸は271(±120)年という年代値を示した。C16やC18-C22の脂肪酸は、現在生息している生物から直接大気中に放出される有機物が主であるのに対し、C24以上の脂肪酸は過去に生産されたものであり土壌中に数百年から数千年の間滞留した後に大気中に放出されたものと解釈された。試料採取点に近い土壌試料を採取し、その脂肪酸の放射性炭素を測定した結果、周辺土壌の脂肪酸の年代は現代の値を示した。これらの結果は、大気中で認められた古い年代の脂肪酸はローカルな土壌からではなく、中国大陸などで過去に生産されたものが、黄砂とともに日本まで運ばれてきた可能性を指摘している。

航空機観測による非メタン炭化水素の炭素安定同位体比の研究

教授 河村公隆、科学技術振興事業団研究員 斉藤拓也

Studies of carbon isotopic ratios of non-methane hydrocarbons in the troposphere by air craft measurements: K. Kawamura and T. Saito

2002年1月に行なわれたPEACE A (Pacific Exploration of Asian Continental Emission) テストフライト(日本海上空)において大気試料を採取し、対流圏及び下部成層圏における非メタン炭化水素の濃度と炭素安定同位体比を測定した。C2-C5の炭化水素の濃度は地表付近から上空にかけて減少し、それらの同位体比は高度とともに増加する傾向を示した。これは、炭化水素の光化学的分解の結果同位体分別が起こったものである。この結果は、2001年春に行なわれたACE-Asiaの結果と一致したが、同位体比の解析から、炭化水素の酸化は1月よりも4月において著しく進行していることが分かった。この結果はOHラジカル濃度の季節変化と調和的である。また、本研究で初めて観測された下部成層圏におけるエタンの同位体比は約-19‰であり、その直下の上部対流圏(高度10km)より約5‰も重くなっていることが明らかとなった。

北極で採取されたのエアロゾルと積雪中の含ハロゲンジカルボン酸の分布

教授 河村公隆

Halogenated dicarboxylic acids in the arctic aerosols and snowpacks collected in the high Arctic: K. Kawamura

2000年の冬(2月)と春(4〜5月)に北極圏カナダのアラートにて採取されたエアロゾルと積雪中の水溶性有機物を分析し塩素および臭素を含むジカルボン酸(C3, C4)を測定した。含ハロゲンジカルボン酸は、春の試料中にのみ検出された。この結果は、太陽光の存在下で有機物がハロゲンが関与する酸化反応によって生成されていることを示唆している。これは、塩化コハク酸が塩化物イオンと強い正の相関を示したことによって支持される。また、臭化マロン酸(C3)は海洋生物起源のDMSの参加生成物であるメタンスルフォン酸(MSA)と良い相関を示したことから、海洋生物起源の有機物が光化学酸化反応によって生成したものと考えられる。本研究は、極域大気中における有機物の光化学的変質にハロゲンが関与していることを示した最初の結果である。(地球環境科学研究科 成川正広)

<関連施設・装置等>分析棟、低温実験室、ガスクロマトグラフ・質量分析計

最終融氷期から初期完新世にかけての陸起源有機物のオホーツク海への輸送の増大

教授 河村公隆、助教授 中塚武

Enhanced transport of terrestrial organic matter from the last deglaciation to the early Holocene in the Sea of Okhotsk: K. Kawamura and T. Nakatsuka

オホーツク海から採取した柱状堆積物中に陸上植物ワックス起源の長鎖アルカンを過去3万年にわたり測定した。その結果、長鎖アルカンのフラックス(堆積速度)は最終氷期最寒期には小さく、融氷期(1万5千年)から完新世(Holocene)にかけて大きく増加したことがわかった。そして、現在にかけて減少傾向にあることが明らかとなった。融氷期における陸起源有機物のフラックスの増大は、最終氷期の終焉とともに温暖化が進むにつれ海水準が上昇した結果、それまで陸上植物が繁茂していた陸地の一部が水没し、それに伴って大量の陸源有機物が土壌などとともにオホーツク海に運ばれたためと解釈された。(地球環境科学研究科 関宰)

オホーツク海における大陸棚から外洋への溶存・懸濁有機物の流出フラックスの解析

助教授 中塚 武、教授 河村公隆

Estimates of export fluxes of dissolved and suspended organic matter from the continental shelf to open sea in the Sea of Okhotsk: T. Nakatsuka and K. Kawamura

沿岸から外洋への有機物輸送は、全球的炭素循環において大きな役割を果たしているが、その正確な観測例は少ない。オホーツク海では、海氷の生成によって生じる高密度水が、生産力の高い大陸棚の底層から外洋中層へ直接流出しており、効率的な有機物輸送が生じていることが予想される。本研究では、オホーツク海北西部大陸棚〜サハリン東岸沖の計数10地点の海面〜海底までの各層から得られた、海水と懸濁粒子中の有機炭素量の空間分布を測定し、大陸棚から外洋中層に輸送されている有機物量が、年間約16.5TgCであることを示した。(地球環境科学研究科 都田麻梨)

深海底における有機物の沈降・堆積過程の解析

助教授 中塚武

Analyses of sinking and sedimentary processes of organic matter in a deep sea basin: T. Nakatsuka

海洋の炭素循環において、有機物フラックスの質的特徴を明らかにすることはその起源や分解特性を理解する上で重要である。本研究では、相模湾の海盆(1500m)と斜面(700m)の海底付近にセジメントトラップを設置し、有機物組成の季節変動を解析した。全有機炭素のフラックスは斜面・海盆域を問わず、年間を通して極めて高い値を維持したが、海盆域に、分解し易い植物プランクトン色素が多く堆積するのは春の一時期のみであり、他の時期に堆積する有機物は、長時間の分解を受けた斜面からの再懸濁物であることが示唆された。

樹木年輪セルロースの酸素・水素同位体比の気候学的解析

助教授 中塚 武、 教授 原 登志彦、 助教授 隅田明洋

Climatological implications of oxygen and hydrogen isotopic ratios in tree-ring cellulose: T. Nakatsuka, T. Hara and A. Sumida

樹木年輪セルロースの酸素・水素同位体比は、数百年〜数千年間変質しない高解像度の古気候指標であるが、分析法の難しさから、その規定要因についてこれまで殆ど検討されてこなかった。本研究では、新たに設置された「熱分解元素分析計+同位体質量分析計」を用いて、その迅速な分析法を確立し、北海道〜カムチャッカ半島の樹木年輪の解析に応用した。その結果、北海道では、年輪同位体比と冬季降水量の間に高い相関が認められ、降水同位体比の顕著な季節変動を反映して、年輪同位体比が過去の水循環変動の指標になることが明らかとなった。

<関連施設、装置等>熱分解元素分析計・同位体質量分析計

地球温暖化に果たす雲・エアロゾルの役割に関する研究

教授 藤吉 康志、助手 川島 正行

Role of clouds on the global warming: Y. Fujiyoshi and M. Kawashima

スカイラジオメーターという装置を用いて、札幌市上空のエアロゾルの濃度と粒径分布の季節変化、年々変動、黄砂による変動の特性を明らかにした。また、より南の本州との違いも明らかにした(地球環境科学研究科、青木一真)。さらに、エアロゾルの間接効果を実験的、理論的に検証するため、釜石市の釜石鉱山所有の鉛直立坑を用いた人工雲実験を他大学・国立環境研と共同で行った。

様々な雲システムの観測および数値モデリング

教授 藤吉 康志、助手 川島 正行

Observation and numerical modeling of various types of cloud systems: Y. Fujiyoshi and M. Kawashima

(1)中緯度帯から北極域にかけての雲・降水観測

地球観測フロンティアと共同して、長江での梅雨観測に参加し、激しい豪雨をもたらす降水システムのドップラーレーダー観測に成功した。(地球環境科学研究科、工藤 玲、大竹秀明)。また、海洋科学技術センターとの共同研究で、海洋観測船「みらい」の北極航海に参加し、主にドップラーレーダーとゾンデ観測データを基に、北極層雲のレーダーエコー構造や出現時の大気構造の特性を明らかにした(地球環境科学研究科 尾関竜彦)。

また、高分解能の衛星画像の解析により、寒気吹き出し時に海上で発達する筋状雲の成因として、風上の地形による収束が重要であることを明らかにした(地球環境科学研究科 長浜則夫)。更に、2001年の1月から2月にかけて、新潟県柏崎市において行ったドップラーレーダーによる降雪観測データを用いて、海岸に平行に形成される強い降雪帯の形成機構を明らかにした(地球環境科学研究科 吉原華子)。

(2)激しい気象擾乱の観測と予測

大阪平野に豪雨をもたらす激しい気性擾乱を、本研究所のドップラーレーダー、関西空港の航空気象ドップラーレーダー、及び稠密な地上観測網によって観測を行い、突風、雷、豪雨に関する総合報告を行った(地球環境科学研究科、新井健一郎、大石英子)。また、バックビルディングタイプの降水システムの個々の対流セルの降水効率及び、降水システム内での水蒸気フラックスの水平・鉛直変動を、尾鷲で行ったドップラーレーダー観測データを用いて明らかにした(地球環境科学研究科、久保田圭)。

また、ドップラーレーダーで得られた風速場、降水場から得られた非断熱加熱量の時系列データを用いて数値モデルを初期化し、対流性降水システムの短時間予報を行なう手法を開発した。

(3)雲・降水システムのモデリング

個々の雲を解像できる非静力学モデルを用いて、様々な形態の降水系を対象とした数値実験を行っている。3次元雲解像モデルを用いて降雨帯を構成する降水セル同士の相互作用の環境場(安定度、風速の鉛直シア)依存性について調べた。他に梅雨季に発生するクラウドクラスターの数値シミュレーションを行なった。

<利用施設、装置等>降雪ダイナミックス移動観測システム


部門・附属研究施設の研究概要

寒冷陸域科学部門:CRYOSPHERE SCIENCE RESEARCH SECTION

教官:FACULTY MEMBRES

教授:PROFESSORS

本堂 武夫・工学博士・固体物理学;氷床コア研究
HONDOH, Takeo / D.Eng./ Solid State Physics; Ice Core Research

小林 大二・理学博士・雪水文学、融雪流出過程
KOBAYASHI, Daiji / D.Sc./ Snow Hydrology ; Snowmelt Runoff Processes

グラジーリン,グレブ・エフランピエビッチ・理学博士・水文学
GLAZIRIN,Gleb Evlampievich / D.Sc./ Hydrology

大畑 哲夫・理学博士・寒冷圏気候学
OHATA,Tetsuo/ D. Sc./ Cold Region Climatology

原 登志彦・理学博士・植物生態学
HARA, Toshihiko / D.Sc./ Plant Ecology

助教授:ASSOCIATE PROFESSORS

成田 英器・理学博士・雪氷物理特性研究;氷床コア研究
NARITA,Hideki / D.Sc./ Physical properties of Snow and Ice

山田 知充・理学博士・雪氷学
YAMADA,Tomomi/ D. Sc./ Glaciology

隅田 明洋・博士(農学)・森林生態学、植物生態学
SUMIDA,Akihiro / Ph.D./ Forest Ecology; Plant Ecology

成瀬 廉二・理学博士・氷河学;氷河物理学
NARUSE,Renji / D.Sc./ Glaciology; Physics of Glaciers

堀口 薫・理学博士・雪氷物理学
HORIGUCHI, Kaoru / D.Sc./ Physics of Snow and Ice

水野 悠紀子・理学博士・雪氷物理学
MIZUNO,Yukiko / D.Sc./ Physics of Snow and Ice

石川 信敬・理学博士・雪氷気象;微気象
ISHIKAWA, Nobuyoshi / D.Sc./ Glacio-Meteorology; Micro-Meteorology

助手:ASSISTANT PROFESSORS

堀 彰・博士(工学)・材料科学
HORI, AKira / D. Eng./ Materials Science ; Ice Core Research

石井 吉之・理学博士・流域水文学、寒地水文学
ISHII,Yoshiyuki / D.Sc./ Basin Hydrology ; Cold Region Hydrology

西村 浩一・理学博士・雪氷学
NISHIMURA,Kouichi / D.Sc./ Physics of Snow and Ice

曽根 敏雄・学術博士・寒冷地形学
SONE,Toshio / Ph.D./ Geocryology

鈴木 準一郎・博士(理学)・植物生態学
SUZUKI,Jun-ichirou / Ph.D./ Plant Ecology

白岩孝行・博士(環境科学)・氷河学
SHIRAIWA,Takayuki / Ph.D. in Env. Sci./ Glaciology

兒玉 裕二・博士(大気科学)・境界層気象;雪氷気象
KODAMA, Yuji / Ph. D./ Boundary-Layer Meteorology; Glacio-Meteorology

研究概要:OUTLINE of RESEARCH

地球規模の気候システムの中で、寒冷陸域における雪氷及び生態系の特性について地球科学及び環境科学の両面から総合的に研究する。研究分野は雪氷変動、融点附近の雪氷現象、雪氷循環、雪氷気象、雪氷環境、氷河・氷床、寒冷生物圏変動等に分かれる。

上記の研究分野を雪氷の循環に従って記載すると次のようになる。降雪が地上の積雪となってからの変態及びその水量の地球上の分布状態はどうなっているか等の研究分野がまず挙げられる。積雪も極地においては長年の堆積の結果、氷河氷床を形成する。氷河・氷床等はその生成過程における地球の気候変動を記録している。又地球上の積雪の分布は寒冷地域の気象と強い相互作用を有し、永久凍土、植物群集の動態及び生態系等と密接に関連している。積雪地域では地吹雪が発生し、山地では雪崩が発生する。又融雪は洪水をもたらす。氷床の融解は汎世界的な海面上昇をもたらし、氷河の衰退によって生まれた氷河湖は決壊洪水を発生させる等、積雪や氷河は災害問題とも関連している。上記の雪氷の素過程の研究の他に、地球上の雪氷及び生態系の総合的研究が必要となり、南極、スピッツベルゲン、ロシア北方域、カムチャッカ、カナダ、アラスカ、パタゴニア、ネパール等において共同の研究観測調査を行っている。

Physical properties of polar ice cores; Freezing characteristics of interfacial water; Deformation mechanisms of polycrystalline ice; Hydrologic cycle in a snowy drainage basin; Areal snow accumulation and ablation; Areal heat balance in a drainage basin; Boundary-layer meteorology; Snowmelt discharge; Comparative snow-hydrology; Forest meteorology; Chemical dynamics of snow and soil; Mechanism of avalanche release(Weak-layer in snow cover, avalanche forecast) Dynamics of glaciers and ice sheets(Glacier variations, characteristics of glacial flow, Quaternary glaciation, deduction of paleoclimate from ice properties); Fluidization of snow dynamics of mixed-phase snow flow in relation to the mechanism of blowing snow, snow-accretion; Palsa formation in the Daisetsu Mountains; Permafrost; Ecology and physiology of cold-hardiness of insects; Phenological and developmental divergence of plant life histories in the cold climate; Ecology of forest and grassland plant communities.

研究課題と成果:CURRENT RESEARCH PROGRAMS

氷床コアの物性と古気候・古環境の復元

教授 本堂武夫、助教授 成田英器、助手 堀彰

Physical properties of ice cores and paleoclimate/paleoenvironment reconstructions:T.Hondoh, H.Narita and A.Hori

氷床コアから信頼度の高い古気候・古環境データを抽出するためには、そこに記録されたデータがどのように形成され、どのような変性を受けたか、という点を明らかにしなければならない。本研究では、種々の物理過程を詳細に調べることによってそのメカニズムを解明すると共に新たな解析手法を確立することを目指して研究を進めている。個別課題と最近の成果概要は以下の通り:

1)極地氷床におけるクラスレート・ハイドレートの生成と大気の挙動
教授 本堂武夫、日本学術振興会特別研究員 深沢(池田)倫子
Formation of clathrate hydrates and behavior of atmospheric gasses in polar ice sheets:T.Hondoh and T.Ikeda-Fukazawa

気泡として氷に取りこまれた大気は、深部ではクラスレート・ハイドレートのゲスト分子として存在する。これまでの研究で、ハイドレート中の気体組成(N2/O2組成比)が元の大気組成から大幅にずれていることおよびその原因がクラスレート・ハイドレート生成に伴うO2の優先的な拡散にあることを明らかにしてきた。また、気泡からクラスレート・ハイドレートへの遷移過程および気体の分別挙動を定量的に記述し得るモデルの開発も行ってきた。さらに、この遷移以前にクローズオフ過程を反映して、気泡内圧の相違によっても気体の分別が起こり得ることを明らかにした。これによって、氷床全層にわたる大気組成気体の挙動を明らかにできる見通しが得られており、モデル化を進めている。

一方、気泡とクラスレート・ハイドレートの数密度が年層に相当する変動を示すことが見出されているが、長期的には氷期‐間氷期変動に対応して変動することおよびこの変動から涵養量の変動を定量的に議論できることを明らかにした(地球環境科学 研究科博士課程1年 大野浩)。しかし、遷移帯における気泡とクラスレート・ハイドレートの分布を詳細に調べた結果、核生成は極めて不均一に起こり、必ずしも気泡とクラスレート・ハイドレートが1対1に対応していないことが明らかになっている。このような遷移帯以深におけるクラスレート・ハイドレートの分布の変化過程を明らかにするのが、次の課題である。

2)南極ドームふじコアの層位解析による間氷期と氷期の雪涵養量変動の比較研究
助教授 成田英器、教授 本堂武夫
A comparison of periodic changes in accumulation rates between Holocene and Wisconsin periods by a new stratigraphical analysis of the Dome Fuji ice core: H. Narita and T. Hondoh

年間堆積量が少ない南極内陸部から採取されたコアでは、酸素同位体組成比や化学成分等から堆積の季節変動を見出すことは非常に困難である。しかしながら、これまでの積雪層位、気泡、及びクラスレート数密度層位解析から各々の平均層位厚さが酸素同位体組成比と氷の流動を用いて氷床の中の年堆積層厚を計算するD-Jモデルによる値とよく一致することが発見された。層位解析データの充実を図り、現在(完新生)と前氷期における雪涵養量変動の比較解析を行っている。

3)融解・再凍結層を含む氷コアの高分解能解析と新たな涵養量抽出法の開発
助教授 成田英器
High-resolution analysis of ice cores including summer melt layers and development of a new method for determining accumulation rates: H. Narita

中緯度地域やカナダ北部、スピッツベルゲン等高緯度地域でも標高が低い所に存在する氷床、氷河から採取される氷コアは、ほとんど融解/再凍結層を含む「融解コア」である。これらのコアは、南極やグリーンランド内陸部から得られるコアと異なり、夫々の地域の特徴ある気候・環境情報を多く持っているので、その地域の気候・環境復元や相互の比較解析を行うために重要である。しかしながら、これらのコアは、融解水浸透のために堆積初期の気候・環境情報の成層構造が乱されたものである。そのために、この類の解析が滞っているのが現状である。本研究は、積雪中の融解水の挙動・それに伴う層位構造変化・形成と物質移動の素過程研究を基に「融解コア」の涵養量の高分解能抽出と化学分析や固体微粒子等古環境情報の解読の高度化を目指している。

4)X線透過法により測定した南極氷床浅層コアの密度プロファイル
助手 堀 彰、教授 本堂武夫、助教授 成田英器
Detailed density profile of the Antarctic shallow ice cores measured by X-ray transmission method: A. Hori, T. Hondoh and H. Narita

南極浅層コアに見られる層構造の形成過程の解明を目的として、ドームふじコアの表面付近から深さ40mまでの密度プロファイルを、X線透過法により1mm間隔で連続的に測定した。目視観察により決定した積雪単位層厚とラムダ値(年間堆積量の推定値) とが等しくなる深さは約30mであり,圧密の機構が機械的な充填によるものから塑性変形によるものへと変化する深さ(密度:550kg/m3)とも一致する。機械的な充填による圧密の過程で、密度プロファイルに見られる細かい層構造が消失し、その結果、積雪単位層の厚さがラムダ値に近づき,同時に年層に相当する構造が明瞭になったものと解釈できる。

5)氷コアの結晶組織形成と気候変動
教授 本堂武夫、助手 堀彰
Development of crystal textures in ice cores relating to climate changes: T. Hondoh and A.Hori

氷コアの結晶組織は、流動に関する基本データの1つであるが、最近の研究で気候変動との関係が明らかになってきた。1例として、カナダ・バフィン島ペニー氷冠はローレンタド氷床の東端の一部が残存したもので、氷床底部に最終氷期の氷が存在していることが分かっている。しかし、夏季の融解量が多いために化学分析などから有意なデータを取得することは困難と思われていた。本研究では、結晶粒径、結晶C軸方位分布、気泡数密度、Melt-feature等の測定と詳細な解析の結果、長期的な変動のみならず季節変動を解読できること、および流動履歴の解析が可能であることなどを明らかにした(大学院地球環境科学研究科博士課程2年 奥山純一)。この手法を確立するためには、結晶組織の形成過程を明らかにすることが重要であり、X線回折による結晶方位解析を進めている。

6)氷コアのX線結晶解析
助手 堀 彰、教授 本堂武夫
X-ray crystallographic analyses of ice cores: A.Hori and T.Hondoh

氷床深部の氷結晶は、長期間にわたって静水圧と変形応力を受けた特殊な結晶である。これまで、主として偏光観察で氷結晶の方位解析や粒度解析が行われてきたが、その一方でX線トポグラフ法によって光学的な手法では観測できない複雑な微細構造があることも明らかになっている。そこで、本研究は、X線回折技術を駆使して、氷結晶の微細構造の特徴を明らかにし、さらに塑性変形過程や生成過程等との関連を明らかにすることを目的としている。これまでの研究で、X線回折曲線(ロッキング・カーブ)の形状と幅から生成過程および塑性変形履歴が推定できること、および結晶組織の微細構造の解析が可能なことを明らかにした。

<関連施設・装置等>低温実験室(顕微鏡画像解析システム)、分析棟(氷床コア解析システム、自動X線回折装置、顕微ラマン散乱測定装置)

氷およびクラスレート・ハイドレートの構造と物性

助手 堀彰、教授 本堂武夫

Structures and physical properties of ice and clathrate hydrates: A.Hori and T.Hondoh

クラスレート・ハイドレートは、氷床コア解析における新たな気候変動の指標として、また、新しいエネルギー資源や温暖化ガスの貯蔵物質として、強い関心が寄せられている。しかし、その生成過程や物性については未解明の課題が多い。一方、氷は古くから研究されており、膨大なデータが蓄積されているが、その構造的特徴であるプロトン配置の問題は古くてなお新しい課題である。本研究では、これまでに行ってきたX線回折、ラマン散乱等の実験的手法と分子動力学(MD)法等の計算機実験ならびに分子軌道法等の理論的手法を用いた研究を踏まえて、以下のような課題に取組んでいる。

1)希ガス原子と水分子クラスターの相互作用
助手 堀彰、教授 本堂武夫
Interaction energies of gas molecules encaged in water molecular clusters: A.Hori, T.Hondoh

気体を含む水分子の12面体クラスターが,ガスハイドレートの生成過程の初期段階で形成される。これまでヘリウムやネオンのような小さな気体では,ガスハイドレートは生成しないとされてきた。希ガスのガスハイドレートの生成の可能性を探るため,非経験的分子軌道法により種々の希ガスを含むクラスターの全エネルギーを計算し,エネルギー的安定性を比較した。MP2/6-311G(d,p)//RHF/6-311G(d,p)レベルでの計算では,ネオンは,アルゴンやクリプトンと同程度に安定であり,ハイドレート生成の可能性があることが分かった。これは最近の実験結果を支持するものである。

2)氷における気体の拡散に関する理論的研究
助手 堀彰、教授 本堂武夫
Theoretical studies on diffusion of gases in ice: A.Hori, T.Hondoh

氷床内部では,窒素と酸素の分別現象をはじめとする,種々の気体の拡散現象が起こっているが,対象となる気体の氷結晶中での拡散係数の実測値はない。そこで分子軌道法により,前述の酸素や窒素,メタン等の拡散の障壁エネルギーを計算した。特に構造緩和を考慮すると酸素や窒素の障壁エネルギーの差は,約0.1eVでこれまでの報告と同じであるが,拡散係数自体は,従来の報告より1桁程度大きい。メタンについては0.7eVと依然として大きく,氷床内での拡散への寄与はほとんど無いものと考えられる。

3)氷内部および界面に存在する気体分子の拡散と組織化
科学技術振興事業団研究員 深沢(池田)倫子、教授 本堂武夫
Diffusion of gas molecules in ice and organization of clathrate hydrates: T.Ikeda-Fukazawa and T.Hondoh

氷床コアは、過去数十万年の大気組成を復元し得る貴重な情報源であるが、最近、氷床深層部で起こるクラスレート・ハイドレートの生成に伴い氷床内の空気分子の分布が著しく変化することが明らかになった。本研究では、氷結晶中の気体分子の拡散およびハイドレート生成の過程を分子動力学シミュレーションで明らかにし、信頼性の高い大気組成復元法の確立を目指している。これを達成するために、氷結晶中における分子拡散過程のスーパーコンピュータによる分子動力学シミュレーションを行っている。その結果、Heなどの希ガス原子と水分子では拡散過程がまったく異なることが明らかになり、これまでの格子間拡散機構に修正が必要なことが明らかになっている。

4)X線回折による氷およびクラスレート・ハイドレートの結晶構造に関する研究
教授 本堂武夫、助手 堀彰
X-ray crystallographic studies on ice and clathrate hydrates: T.Hondoh and A.Hori

氷やクラスレート・ハイドレートの結晶構造は、古くから調べられているが、プロトン配置の秩序化の問題やゲスト分子の配置の問題は、なお未解決である。いずれも、中途半端な秩序構造が問題を難しくしているが、同時にこの中途半端さが氷やクラスレート・ハイドレートの物性を多様にしている原因のひとつである。最近、極地氷床の氷が、実験室で得られる氷とは違って、プロトン秩序構造を持つという指摘がなされており、新たな課題として注目されている。これまでに、X線粉末回折によって、コア氷と実験室氷で回折強度プロファイルが大幅に違うこと、バックグラウンドに非晶質に特徴的なプロファイルがあることなどを見出したが、粉末作成法に依存することも明らかになっており、測定法も含めてなお検討を進めている。

<関連施設・装置等>分析棟(氷床コア解析システム、自動X線回折装置)

Methods of evaluation of change of glacierization, snow cover characteristics, run-off of mountainous rivers under climate change.

Prof. GLAZIRIN,Gleb Evlampievich

Evaluation of various natural objects response to predicted global climate change is an important scientific and applied problem. I developed several methods of solution of the problem. It is obvious, that various natural objects demand the various approach. As a rule, various methods of mathematical simulation and searches of statistical dependences are used. Investigation in this area are continued.

Methods of evaluation structure and regime of mountainous glacial systems.

Prof. GLAZIRIN,Gleb Evlampievich

Glacial system (all set of glaciers in a river basin) is more important than individual glaciers, than the largest ones from hydrological and environmental points of view. For example, summer melting and rivers feeding occurs on all glaciers simultaneously, glaciers react to climate change all together , etc. It causes research of the whole sets of glaciers. Nevertheless, the sets have rather specific probabilities distribution. It demands application of untraditional statistical methods. Many interesting results can be found on this way.

Research of climatic system of Central Asia and the Aral Sea regime.

Prof. GLAZIRIN,Gleb Evlampievich

River run-off and, consequently, both and economy and life of the population in Central Asia are rigidly controlled by climate. Fast reduction of the Aral Sea area influences also. The estimation long-term tendencies of climatic parameters in various parts of the region (mountains and plains) is executed. Methods of an estimation change of water and salt regime of the Aral Sea under various climate change scenarios and withdrawal of water from main feeding rivers are developed. The next important task is to select most suitable ways of the Sea regime control.

Investigation of perennial snow-patches stability.

Prof. GLAZIRIN,Gleb Evlampievich

Perennial snow-patches are only glaciological objects in Japan. Therefore their investigation is very attractive and has big interest. It was shown earlier for the snow-patches in Central Asia that their stability is controlled by powerful feedback by accumulation of snow and its thawing. Results of calculations for three perennial snow-patches of Japan have confirmed it. Investigation of show-patches should be continued.

寒冷多雪地域における流域水循環

助手 石井吉之・兒玉裕二、助教授 石川信敬

Hydrologic cycle in a snowy drainage basin: Y. Ishii, Y. Kodama and N.Ishikawa

北海道母子里の流出試験地において、3〜5月の融雪期に、融雪水・土壌水・地下水・河川水・湧水の主要イオン濃度と酸素同位体比を測定し、融雪水の河川への流出過程を調べた。融雪水と河川水の酸素同位体比は融雪期間を通じて大きく異なり、イオン濃度とは異なった特徴を示した。このことから、酸素同位体比はイオン濃度からは得られない新たな情報を提供するトレーサーとして有効なことがわかった。一方、この流域における冬期の積雪底面融解量が場所によってどのように異なるかを確かめるために、露場と山頂で3つの方法(熱流量計算、断面観測、ライシメーター)を用いて底面融解量を測定した。その結果、地中および雪中の熱流量計算から求めた底面融解量はライシメーターで測定した底面融解量に近い値となった。これにより熱流量計算による底面融解量を推定法が適切であることがわかった。また、いずれの方法によっても山頂と露場の底面融解量が大きく異なることが確認された。これらの研究には、地球環境科学研究科の山崎学と佐藤大輔が博士過程及び修士課程研究として参加した。

<利用施設、装置等>融雪観測室、水文気象観測システム、雪崩観測室、融雪試料室

積雪からのイオン流出に関するカラム実験

助手 石井吉之・兒玉裕二、助教授 石川信敬

Experimental study on ion elution through snowpack by melting: Y. Ishii, Y. Kodama and N.Ishikawa

融雪初期に積雪からの高濃度のイオン流出が起きるメカニズムを、人工積雪試料を用いたカラム実験によって調べた。融解条件(強度・熱源)や雪試料条件(積雪深・密度・濃度)に対する依存性、融解再凍結の有無、層構造の影響、水みちの有無などを考慮した実験から、いずれの場合にも浸透速度が小さい場合ほどイオンがより濃縮されて流出することが明らかになった。この研究には、地球環境科学研究科の梶貴司が修士課程研究として参加した。

<利用施設、装置等>精密低温室、低温室、融雪観測室

東シベリアにおける水・エネルギー循環の研究(GAME-Siberiaプロジェクト)

教授 大畑哲夫、助手 兒玉裕二・石井吉之

Studies on water/energy cycle in Eastern Siberia (GAME-Siberia Project):T. Ohata, Y. Kodama and Y. Ishii

本研究は、WCRP計画の一つである国際共同研究計画GAMEの一部であり、大学・国公立研の共同研究として実施している。東シベリアの大河川レナ川の流域を対象に、水・エネルギー循環や大気陸面相互作用の実態解明と、凍土・積雪を含めた大気陸面系のモデル化を目ざしている。低温研はGAME-Siberiaプロジェクト推進チームの一翼を担うとともに、この地域の代表的地表面の一つであるツンドラとアラスでの観測研究を担当している。

1)1996-2001年のGAME-Siberiaプロジェクトの総括

日本・ロシアの研究者間の強い連携の元に現地での観測研究は成功裏に進められた。現在なお解析が続けられているが、ツンドラ地帯とタイガ地帯における陸面過程の特性、大気陸面相互作用の広域実態観測、降水リサイクルの特性、水文モデルの感度解析、自動気象観測システムの仕様指針の提示、などについてこれまでに得られた成果をまとめた。

2)1998-2001年のツンドラ湿原上のエネルギー・フラックス観測

4ヶ年における夏期のツンドラ湿原上のエネルギー・フラックスの季節変化・年々変化を抽出し、各フラックス成分ともに特徴的な季節変化は認められず6月から8月にかけて漸減すること、乱流フラックス成分に顕著な風向依存性があること、を明らかにした。

3)ツンドラ地帯とアラス地帯における水・エネルギー循環の比較

極地ツンドラ湿原とタイガ帯アラスにおける草地のエネルギー・フラックスを比較解析した。入力エネルギーに対する消費エネルギーの比を比べたところ、活動層の厚さがアラスの1/3程度と薄いにもかかわらず、ツンドラ湿原における地中熱流量の寄与が著しく大きくなった。これは、ツンドラ地帯は積雪量が少ないために冬期の寒気が凍土内に蓄積され、夏期の入力エネルギーの多くがこの層の昇温・融解に費やされるためである。

衛星データを用いた地球雪氷圏の研究

教授 大畑哲夫、非常勤研究員 スーディク,スィルヴィアン

Study on cryosphere conditions using satellite data: T.Ohata,S.Surdyk

1) 衛星搭載マイクロ波放射計データの解析による寒冷圏の気候変動の研究

南極内陸の大気循環を解明するために、雲や気象に影響されないマイクロ波(37GHz)を使用し、雪温変動をなかだちとすることにより気温変動の空間分布や時系列、積雪状態についての知見が得られることをもとに、南極氷床上の突発温度変化、雪質分布の特徴を解明してきた。さらに、北半球のシベリア地域のマイクロ波特性ついての解析を順次進めている。また、現在、Radarsat のデータを取得し、それを元に環北極ツンドラ地域の積雪状態についての解析を行っている。

2) シベリア地域を中心とした積雪域の把握

積雪は、地球の水循環および気候を理解する上で重要な因子であるが、寒冷圏における直接観測は少なく、衛星の有効利用が必要とされている。本研究は農環研の研究員との共同研究として行われ、積雪水量推定の研究を進めるとともに、新たにマイクロ波により大陸積雪域の融解状態についての情報取得の解析を行い、融解域推定が可能であることが示された。積雪面で融解が開始すると、融解水の存在のため測定時刻によりマイクロ波射出の特性が変わり、それを探知できることが分かった。可視域を用いてNESDISで出している積雪範囲と対応させたところ、その有効性が示された。

モレーン堰き止め氷河湖の形成・発達機構の研究

助教授 山田 知充、助手 西村 浩一

Formation and development mechanisms of moraine dammed glacier lake: T.Yamada,K.Nishimura

本年度から3年計画でネパール、クンブー地方のイムジャ氷河湖とデブリ氷河群を対象に、標記研究を開始した。湖の拡大速度をツォー(I%ロルパ氷河湖と比較すると、面積では約半分の速度、深さ方向にはほとんど拡大していないなど、氷河湖によって拡大速度に大きな違いがあることが判明した。そこで、この違いを明らかにするための資料を収集した。今後の拡大予測のため湖盆図と、エンドモレーンと湖の間のデッドアイス部分の地形図を作成した。重力測定とTEM法によってエンドモレーン内部の構造を明らかにした。デブリ氷河群の広域観測により氷河湖の形成機構に関する作業仮説を得た。

スンタルハイアタ山脈NO.31氷河の日露共同研究

助教授 山田 知充、助手 白岩孝行

Russian - Japanese Collaborative Research Project of the Glaciers in Suntar-Khayata Mountain Range, Saxa Republic, Russia: T.YAMADA,T.Shiraiwa

40年前のIGY以来調査が途絶えていた当該氷河を再訪し、コア掘削の予察調査をロシア科学アカデミー地理学研究所(モスクワ)との共同研究として実施した。過去40年間に氷河末端は厚さで約20m薄くなっており、氷河末端は約200m後退していた。滞在期間(7/21-28)中のBC(2000m)の平均気温は+17.2℃、全天日射量は最大1kwm-2に達し、季節接線は2360m付近にあって,消耗域では水量換算で20-30cm、涵養域では7-15cmと、氷河全域で観測期間中の表面質量収支は負であった。涵養域は上積み氷帯で、氷点下の氷体表面を20-30cm深の濡れざれめ雪が覆い、多量の融雪水が帯状に流れている状況であったことから、コア掘削には不適当な氷河であることが判明した。この研究は、高橋修平(北見工大)、藤井理行(国立極地研)との共同研究で実施された。

南極吹雪データの解析と数値モデルの開発

助手 西村浩一

Antarctic blowing snow dada analysis and development of its numerical model: K.Nishimura

第41次南極地域観測隊に参加して得られた吹雪観測データの解析を実施するとともに、大気乱流、雪粒子の慣性効果、粒径分布、雪面でのスプラッシュ過程などの物理プロセスを厳密に組み込んだ数値モデルの開発を行った。これにより跳躍層と浮遊層の遷移過程および両者を含む吹雪全体像の記述が可能となった。本研究は地球環境科学研究科大学院生、根本征樹と共同で実施した。

地震計を用いた雪崩モニタリングシステムの開発

助手 西村浩一、助教授 山田知充

Studies on seismic signals induced by snow avalanche flow: K.Nishimura, T.Yamada

天塩演習林内に地震計とビデオカメラを設置し、雪崩発生モニタリングシステムの開発を行った。観測期間中に取得された全層雪崩50例の震動を周波数解析することで、雪崩発生位置と規模の推定手法を確立するとともに、波形と雪崩の運動との関係についても考察を行った。本研究は、森谷武男(理学研究科助教授)、今西伸行(地球環境科学研究科大学院生)と共同で実施した。

<利用施設、装置等>問寒別雪崩観測施設

MRI(核磁気共鳴映像法)を用いた積雪の3次元ネットワーク構造の解明

助手 西村浩一、技官 中坪俊一

Analysis of 3-D snowpack structures by NMR Imaging: K.Nishimura, S.Nakatsubo

積雪構造の定量的把握を目的に、非接触で3次元ネットワーク構造の可視化が可能なMRI(核磁気共鳴映像法)の適用を試みた。氷からの信号強度は微弱であるが、空隙を浸透性が大きく融点が約−12℃の有機化合物であるドデカンに常磁性試薬を加えた溶液で満たすことで、氷球、ざらめ雪、しもざらめ雪の可視化に成功した。本研究は尾関俊浩(北海道教育大学 助教授)、巨瀬勝美(筑波大学 助教授)と共同で実施した。

雪崩ダイナミックスの研究

助手 西村浩一

Studies on the avalanche dynamics: K.Nishimura

雪崩の内部構造と流動機構を解明する目的で、黒部峡谷志合谷において雪崩衝撃圧、静圧変動、風速、音、地震波動などを測定するするとともに、問寒別雪崩観測施設の自然斜面を利用して自然積雪を流下させ、急斜面を流れ下る過程での粒状化・流動化そして堆積という実際の雪崩に見られる全過程を再現する実験を行った。本研究は川田邦夫(富山大学 教授)、和泉 薫(新潟大学 助教授)、伊藤陽一(地球環境科学研究科大学院生)と共同で実施した。

カムチャツカ半島における周氷河環境

助手 曽根敏雄

Periglacial environment of the Kamchatka Peninsula: T. Sone

カムチャツカ半島中央部イチンスキー火山西麓の標高約1000m地点においてほぼ1年間の地温、気温、風向、風速データが得られた。冬期には、積雪を吹き払うような南東の強い卓越風が吹く。標高1000m地点まで永久凍土の発達する可能性が高い。また標高約1700m地点においてもほぼ1年間の地温観測データが得られた。これらの結果に基づいて永久凍土の発達について検討を行なっている。

つぎにエッソ村南東方標高1000m付近の小規模岩石氷河の測量を行なった。さらにこの岩石氷河の地温観測を開始した。この岩石氷河は現在も活動中である可能性が高い。またエッソ村南西斜面では、標高約550m付近まで点在的に永久凍土が分布する可能性があることが判明した。

本研究は、上越教育大学、山縣耕太郎助手、大学院地球環境科学研究科、カムチャツカ生態学研究所との共同研究である。

南極半島James Ross島、Seymour島における永久凍土

助手 曽根敏雄

Permafrost on James Ross Island and Seymour Island, Antarctic Peninsula: T. Sone

南極半島James Ross島およびSeymour島において、永久凍土の地温観測を続けている。James Ross島Rink地域においては、永久凍土と関連が深いStone-banked terraceの地表付近の物質の移動速度のデータが得られた。またLachman海岸付近の永久凍土の発達開始年代を推定できる14C年代が得られた。本研究はアルゼンチン南極研究所、Jorge Strelin研究員、大学院地球環境科学研究科院生、森 淳子との共同研究である。

寒冷圏における大気−植生−雪氷相互作用

教授 原 登志彦、助教授 隅田明洋、助手 鈴木準一郎、非常勤研究員 石井弘明、小林剛

Interactions between vegetation, water and soil in the boreal forest: T. Hara, A. Sumida, J. Suzuki, H. Ishii, T. Kobayashi

林床植物が高木種の生長と個体間競争および森林をめぐるエネルギー・水循環に及ぼす影響を明らかにするため、北海道大学農学部附属雨龍地方演習林のダケカンバ二次林において、林床のササの刈り取り実験を行った。同じ出現順位にある夏葉のCO2固定速度・気孔コンダクタンス・蒸散速度および窒素濃度は,葉面積ベースではいずれもササ除去の下で低かったが,葉重ベースではササ除去の影響は不明瞭であった。ササとの競合下におけるダケカンバ個葉の光合成特性や窒素濃度の変化は,主に葉の形態(LMA)の変化によって説明できる。また,光化学系IIの光利用効率や電子伝達速度にもササ除去による変化は無かった。以上の結果から,ササとの競合下にあるダケカンバは,出葉数に制限を受ける一方で個葉のサイズを大きくするとともに,葉面積ベースでの光合成能力を高めていることが示唆された。これに対して,ササの除去下では重量ベースでの葉の生産性を維持しながら,開葉数の増加とともに当年枝の長さの増加を実現させていると言える。いずれの場合でも,葉の機能に顕著なストレス(ダメージ)は検出されず,ダケカンバは形態や機能の可塑性によってササの有無のそれぞれの条件下で適応的に振る舞っていることが分かった。本研究によって,1)寒冷地の夏緑樹の光合成特性,そして2)下層植生と上層林冠木の相互作用・共存メカニズムが明らかにされつつある。本研究は、植村滋(北大フィールド科学センター雨龍研究林・助教授)との共同研究である。

光合成の環境応答に関する生理生態学的研究

教授 原 登志彦、助教授 隅田明洋、助手 鈴木準一郎

Ecophysiological study on the responses of photosynthesis to environments: T. Hara, A. Sumida, J. Suzuki

実験植物シロイヌナズナの様々なエコタイプを様々な温度と光条件下で生育させ、その生長とストレス応答を光合成系の機能の面から研究している。光合成の「光障害」は、環境ストレス下において生じる過剰なエネルギーによる活性酸素の発生によってもたらされることが知られている。活性酸素を除去する酵素であるアスコルベートペルオキシダーゼ(APX)の活性や開花日数、開花時の植物体サイズが光強度でどのように変化するのかを調べた。光強度の増加と共にAPXの活性が急激に増加し、開花までの日数が減少し、また開花時の植物体サイズも減少した。播種時からコンスタントに1000μE/m2/sで生育させると、播種後10日、ロゼット葉の直径0.5cmで開花することを見出した。これまで開花に影響を与えるのは日長や光質であると考えられてきたが、光強度も光ストレスを介して開花に影響を与えると考えている。

この研究は、当グループの博士課程大学院生Shubhangi Lokhandeを中心に、小川健一(岡山県生物科学総合研究所・細胞機能解析研究室長)、田中歩(低温研・低温基礎科学部門教授)、田中亮一(同 助手)との共同研究である。

カムチャツカ半島における植生動態と環境変動の相互作用過程の解明

教授 原 登志彦、助教授 隅田明洋、非常勤研究員 石井弘明

Vegetation dynamics and environmental variation in Kamchatka: T. Hara, A. Sumida, H. Ishii

2001年9月にロシア・カムチャツカの中央低地帯を中心に森林火災後の植生の回復状況を調査した。衛星画像データの解析とも合わせて、近年のカムチャツカにおける森林火災の状況と植生の回復過程に関する解析を現在進めている。森林火災後の植生回復の過程ではそれぞれの樹種の侵入・定着様式を繁栄した空間パターンが見られた。個体群のサイズ構造においても、萌芽によって栄養繁殖をするドロノキとシラカバはどの調査区においても、継続的な更新をあらわすL字型分布を示したのに対し、実生によって侵入するカラマツは焼失後40年の調査区ではL字型のサイズ分布を示したが、200年後の調査区では更新がおきていないことをあらわす一山型を示した。年輪のデータ解析による個体の年令調査からも同様の結果が示唆された。以上の結果から各樹種の侵入・定着様式の違いによる、森林火災後の植生回復のパターンが明らかになった。現在、これらのデータに基づいたシミュレーションモデルを構築中である。以上は、当グループの博士課程大学院生Jiri Dolezalおよびカムチャツカ生態学研究所との共同研究である。

気候と植生変動の相互作用のモデル化

教授 原 登志彦、助教授 隅田明洋

A multi-layered integrated numerical model of surface physics - growing plants interaction, MINoSGI: T.Hara, A.Sumida

地域および全球スケールにおける、生態系—気候間のフィードバック過程を明らかにするモデル開発を目指している。これまでには、その前段階として、プロット・スケールにおいて群落微気候と植生動態の相互作用を再現するために、群落微気候モデルと植物サイズ構造動態モデルを結合したモデルを開発した。昨年度の常緑針葉樹スギ林に続き、実際の気候データをインプットしたシミュレーションの結果、落葉針葉樹のカラマツ林で測定された樹高頻度分布の5年間の経年変化をうまく再現できることがわかった。また、シミュレーション実験の結果、気温の上昇は森林の生長動態にほとんど影響を与えないが、空気中の二酸化炭素の上昇は大きな影響を及ぼすことがわかった。将来的には、このモデルの大気大循環モデルへの組み込みを念頭に置いている。この研究は、渡辺力(森林総研)、横沢正幸(農環研)、江守正多(国立環境研)、高田久美子(地球フロンティア)、名古屋大学大学院生命農学研究科・山本進一教授の研究室との共同研究である。

広葉樹林の空間構造の発達過程の解析

助教授 隅田 明洋

Analyses for spatial structure and its development in hardwood forests: A Sumida

<落葉広葉樹の枝の三次元構造とその生態学的意義に関する研究>

落葉広葉樹林内に生育するクリ(Castanea crenata)の枝の三次元構造測定データをさらに解析し、樹冠全体構造を決めている個々の枝構造について詳しい検討を行った。その結果,クリの個々の枝が他の樹種に隣接するとき枝による獲得空間が狭いことを見いだした。また,この現象に関連して,葉のフェノロジーの種間差と森林内の個体の水平分布様式の重要性が森林内における種の生存の要因として重要である点を指摘した。

温暖氷河のダイナミクスおよび質量収支特性

助教授 成瀬廉二、助手 白岩孝行 

Dynamics and mass-balance features of temperate glaciers: R. Naruse and T.Shiraiwa

カムチャツカ半島カレイタ氷河にて2000年夏季に実施した氷河ダイナミクスおよび質量収支に関する観測結果を解析した。その結果、氷河流動速度は融解量とよい相関が認められ、底面滑り速度の変動を融解量の関数で表すことが可能となった。また、観測期間の2ヶ月間、氷河表面の高度は低下し、これは氷河内部、底部に水脈として貯留されていた水の排水のためと解釈した。熱収支解析の結果、融解に占める熱要素は放射収支が第1位であるが顕熱もそれに匹敵する程度に大きな寄与を占めることがわかった。さらに、融解量を簡単な気象要素から算出するモデル開発を試みた。また、同氷河に隣接するポールマルコバ氷河においても流動速度と融解量の調査を行った。

一方、スイス・アルプスのウンタアール氷河において2001年夏季に氷河ダイナミクスの観測を行った。氷河の水平流動速度、氷河表面高度、鉛直ひずみ速度のいずれも顕著な日変動を示した。本研究の各項目は、地球環境科学研究科の大学院生、山口悟、松元高峰、杉山慎、紺屋恵子、Serguei Tchoumitchevがそれぞれ中心となって行った。

パタゴニアの氷河のカービング機構

助教授 成瀬廉二

Mechanisms of glacier calving in Patagonia: R. Naruse

パタゴニア南氷原から東側の湖へカービング(末端崩壊)しているウプサラ氷河等において、カービング速度を水深の1次式で表す経験式を導いた。また、ペリートモレノ氷河末端部の地上写真をもとに、流動速度とカービング速度の解析を行い、カービング速度を支配する主要因を考察した。本研究は、Pedro Skvarca(アルゼンチン南極研究所)および小林俊一(新潟大学)と共同で行った。

北太平洋における十年・数十年周期の気候変動が周辺雪氷圏に与える影響の評価

助手 白岩孝行

Evaluation of impact of the decadal and interdecadal climatic changes on North Pacific Cryosphere: T.SHIRAIWA

カムチャツカ半島ウシュコフスキー山で掘削された雪氷コアから復元された年涵養速度、カムチャツカ半島の氷河質量収支の年々データ、北米ローガン山で掘削された雪氷コアから復元された年涵養速度の3種の時系列データを使用し、過去170年間に遡る年々変動をスペクトル解析したところ、32年、12年、5年、3年の共通した周期が得られた。これらの周期は、北太平洋で発現するDICEと呼ばれる気圧変動の周期に一致し、DICEが主として年々の涵養速度の変動を通じて雪氷圏に大きな影響を及ぼしていることを明らかにした。一方、170年間の時系列データには、これらの周期のほかに、19世紀から20世紀にかけて酸素同位体比の長期変動が認められ、更に長い周期の変動が内在していることが示唆された。

山岳氷河用携帯型アイスレーダの開発

助教授 成瀬廉二

Development of a portable ice-penetrating radar system for mountain glaciers: R. Naruse

温暖氷河の氷厚測定および内部層構造探査のため、小型、軽量アイスレーダを開発、実用化することを目的とし、インパルス式「低周波アイスレーダ」(5MHz)を製作し、「高周波アイスレーダ」として既存の地中探査レーダ(900MHz)の性能テスト、およびデータ処理方法を検討した。

2001年夏季、カナダ・アサバスカ氷河にて、低周波レーダの作動テストを行った。その結果、種々改良すべき点が明らかとなった。一方、高周波レーダについては、北海道各地と立山等にて、積雪層構造や雪質による反射特性、およびアンテナの方位、角度、高さの影響についての野外実験を行った。これらにより得られたデータを解析するとともに、ノイズの評価と除去、電波の空間減衰に関する較正実験を行った。以上のデータ処理を施すことにより、積雪内部の厚い氷板や密度の著しい不連続層が内部反射層として検知できることが分かった。また、本レーダによるエコーの遅延時間から積雪水量を見積もる経験的関係が得られた。本研究は、地球環境科学研究科大学院生、松岡健一および山本竜也と共同で行った。

インパルスレーダを用いたクレーター氷河の内部層検出

助手 白岩孝行

Detection of internal layers in a crater glacier by means of an impulse-type radio echo sounder: T.Shiraiwa

カムチャツカ半島ウシュコフスキー山の山頂に位置するクレーター氷河においてインパルス型アイスレーダを使用し、氷河底面および内部層の探査を実施した。この氷河は、氷河内に多数の火山灰層を有し、測定した電波の反射波には多数の内部からの反射と思われるエコーが観測された。これらのエコーと、既に得られているコア中の火山灰層の層準とを比較することにより、インパルス型レーダによる内部層検出の可能性を探ったところ、1cm程度の厚さをもつ顕著な火山灰層は、簡易的なインパルス型レーダによっても検出可能であることを明らかにした。この研究は、ロシア科学アカデミー地理学研究所のYuriy Macheret, Andrey Glazovsky, Evgeny Vasilenkoとの共同研究として実施した。

氷の付着仕事の評価に関する研究

助教授 堀口 薫

Study on adhesion work of ice to hydrophile materials: K.Horiguchi

付着した氷を少ないエネルギーで除去するにはどのような材料がよいかという課題は、実用的な側面だけでなく界面科学の面からも重要な問題である。特に、融点付近では、これまでの常識とは反対に、親水性の材料で、表面の凹凸が1マイクロメートル以下のものが有効であることがソーダガラスを使った実験から分かった。現在スチールや親水性塗料等についてもガラスと同様な結果が得られつつある。

<利用施設、装置等>低温室、着氷力測定装置

氷の力学的性質に対する組織及び側圧の効果

助教授 水野悠紀子

Effects of texture and confining pressure on mechanical properties of ice: Y.Mizuno

雪氷寒冷圏には成長過程、応力履歴により種々の結晶組織の氷が存在する。巨大な氷体の力学的性質や構造物と氷との相互作用において側圧の効果は大きい。本研究では氷の強度、破壊変形様式に対する粒径と側圧の影響を実験的に明らかにした。氷は塑性から脆性に移行する臨界歪速度で最大強度を示すが、側圧の増大とともに臨界歪速度は増し、従って氷の強度も増す。平均粒径1mmの氷では側圧を10MPaにすると臨界歪速度は約2桁大きくなり、その結果、強度は側圧のない場合の5倍になった。また粒径が増すと同一の臨界歪速度に対する側圧は増すことを明らかにした。

氷が破壊する時の発光現象

助教授 水野悠紀子

Light emission associated with fracture of ice: Y.Mizuno

雪氷の破壊現象は多岐にわたっている。破壊にともなう光子、イオン、電子などの粒子放出の研究は、応力下の電子状態、破断面の電荷分離など、氷の破壊機構の新たな理解につながる。研究の目的は氷の破壊と発光の関係を直接調べることである。第一段階として、力学試験と同時に大気中で測定可能な光子測定を行い、破壊と発光の同時性、発光強度と波長分布、破壊時の力学エネルギーとの関係を求めた。氷の破壊に伴って可視域から近紫外域の波長の光を出すことを明らかにした。

<利用施設、装置>低温実験室、材料試験機(インストロン)

アラスカ永久凍土地域における熱及び水循環の研究

助教授 石川信敬 助手 兒玉裕二、石井吉之

Energy and water balance experiments in permafrost regions by N. Ishikawa, Y. Kodama and Y. Ishii

全地球水循環研究の一環として、アラスカ内陸部カリブーポーカークリーク実験流域において永久凍土地帯の熱収支、水循環プロセスの研究を行っている。本年度は土壌水分量と地温の微起伏依存性を求めた。また流域内の裸地面、水面、植生面とそれぞれ異なる地表面状態での蒸発(散)量の比較測定、さらには植生面と大気との炭酸ガス交換量の時間変化を測定した。これまでの研究により流域内の永久凍土分布、小流域毎の流出特性の違い、土壌水分量の地形依存性が明らかになってきた。

北方森林における熱収支特性

助教授 石川信敬 助手 兒玉裕二、石井吉之

Heat balance characteristics of boreal forest by N. Ishikawa, Y. Kodama and Y. Ishii

森林における熱収支、物質交換過程を道内の寒冷多雪地域と寒冷少雪地域の落葉広葉樹林において研究している。本年度は主に炭酸ガスの季節変化を林内林床面において観測した。さらに冬季積雪下面の炭酸ガス濃度も測定した。その結果、林内においては林床面で炭酸ガスの放出が、樹冠面で吸収が卓越し場所による顕著な相違が得られた。また積雪下面の濃度は融雪が始まるまで大気中の数倍になることが観測された。

<利用施設,装置等>母子里融雪観測施設、水文気象観測装置

海氷気候の研究

助教授 石川信敬、白澤邦男 助手 河村俊行、皃玉裕二

Sea ice climate study by N. Ishikawa, K. Shirasawa, T. Kawamura and Y. Kodama

季節海氷域における海氷の存在が局所気候に及ぼす影響をサロマ湖沿岸とバルト海ハンコ沿岸で研究している。さらに海氷の放射特性について新庄雪氷防災研の室内実験で行なった。なお結氷前後の気候変化は沿岸部分と隣接する標高500mの山頂部分における気温を比較する事により求めた、その結果、海氷期に気温の日較差が大きくしかも気温逆転が強くなる事が分かった。

<利用施設,装置等>附属流氷研究施設

凍結路面発生機構の研究

助教授 石川信敬、成田英器

Mechanism of ice film formation on road snow by N. Ishikawa and H. Narita

気象条件ばかりでなく車両の影響を考慮して道路上に形成する氷膜発生のメカニズムを研究している。本年度は南北道と東西道において日射環境と路面状態の相違を観察した。また車両からの赤外放射熱を熱収支モデルに組込む試みとタイヤの制動摩擦熱による道路雪氷の融解量を見積もった。

<利用施設,装置等>赤外線温度解析装置

大気地表面相互作用の研究

助手 兒玉裕二、助教授 石川信敬 

Interaction between the ground surface and atmosphere: Y. Kodama and N. Ishikawa

気温逆転層の形成・消滅過程の観測を母子里盆地で行った。係留気球や、流域内に設置されている気象水文観測システムを利用して盆地内気温の水平、鉛直構造を求め、さらに大気熱収支を算定した。その結果、温度逆転層の解消プロセスは無雪期には盆地底面からの乱流混合で説明がつくが、積雪期では説明がつかず斜面からの移流熱の寄与や大気の沈降を求めるさらなる観測が必要となった。

<利用施設,装置等>母子里融雪観測施設、水文気象観測装置、赤外線温度解析装置、係留ゾンデ

積雪層内の対流と融雪水浸透の研究

助手 兒玉裕二、助教授 石川信敬

Studies on air-water vapor convection and melt water percolation in snow pack: Y.Kodama and N. Ishikawa

積雪が50cmを越えると積雪下面は融解しており、夜間積雪表面が低温になると積雪層内に対流が起こることが考えられる。この対流が積雪層内の雪粒の変態を不均一に促し、融雪水浸透の際のみず路の原因となることが予想される。また雪面からの二酸化炭素フラックスが観測され、この事実からも積雪内での対流が予想される。これを野外観測と室内実験、及びモデルで実証することに取り組んでいる。


部門・附属研究施設の研究概要

低温基礎科学部門:BASIC CRYOSCIENCE RESEARCH SECTION

教官:FACULTY MEMBRES

教授:PROFESSORS

前野 紀一・理学博士・雪氷物理
MAENO, Norikazu / D.Sc./ Physics of snow and ice

香内  晃・理学博士・惑星科学
KOUCH, Akira / D.Sc./ Planetary Sciences

田中  歩・理学博士・植物生理学
TANAKA, Ayumi / D.Sc./ Plant Physiology

芦田 正明・理学博士・昆虫生理化学
ASHIDA, Masaaki/ D.Sc./ Physilogical Chemistry of Insects

助教授:ASSOCIATE PROFESSORS

皆川  純・博士(薬学)・植物分子生物学
MINAGAWA, Jun/Ph. D./Plant Molecular Biology

早川 洋一・理学博士・生化学
HAYAKAWA, Yoichi / D.Sc./ Biochemistry

古川 義純・理学博士・結晶成長学、氷物理学
FURUKAWA,Yoshinori/ D. Sc./ Crystal Growth/Ice Physics

助手:ASSISTANT PROFESSORS

荒川 政彦・博士(理学)・惑星物理学
ARAKAWA, Masahiko / D.Sc./ Planetary Physics

渡部 直樹・博士(理学)・星間化学物理、原子分子物理
WATANABE,Naoki / D.Sc./ Astrophysics/ Atomic and Molecular Physics

田中亮一・理学博士・植物生理学
TANAKA, Ryouichi / D. Sc./ Plant Physiology

荒川圭太・博士(農学)・植物生理学、植物生化学
ARAKAWA, Keita / D. Agr./ Plant Physiology, Plant Biochemistry

竹澤 大輔・Ph. D.・植物生理学、植物分子生物学
TAKEZAWA, Daisuke / Ph. D./ Plant Physiology, Plant Molecular Biology

島田 公夫・理学博士・昆虫生理学
SHIMADA, Kimio / Dr. Sc./ Insect Physiology

片桐 千仭・理学博士・生化学
KATAGIRI, Chihiro / D. Sc./ Biochmistry

落合 正則・理学博士・昆虫生化学・分子生物学、比較免疫学
OCHIAI, Masanori/ D. Sc./ Insect Biochemistry and Molecular Biology; Comparative Immunology

研究概要:OUTLINE of RESEARCH

当部門では、低温および特殊環境下での自然現象・生命現象を物質科学および生命科学的側面から実験的に研究している。研究分野は、雪氷物性、惑星科学、生物適応科学、生命科学、その他である。研究内容は、水および雪氷に関連する様々な物理現象、生命現象の動的メカニズムについての研究、太陽系惑星空間に存在する極低温、超真空等の極限状態の氷についての実験的研究、寒冷環境に対する生物の適応機構についての研究、生物間および生物−環境相互作用に関する生化学的、分子生物的研究、その他である。

Dynamical mechanisms of various physical and biological phenomena related to snow and ice, physical properties of ice at low temperatures and high vacuum conditions, physiological and biochemical mechanisms of cold adaptation in plants and insect, biochemical and molecular biological interactions between insects and environments including physiological interrelationship between parasite and host insects, and others.

研究課題と成果:CURRENT RESEARCH PROGRAMS

星間有機物の隕石母天体での変成作用

教授 香内 晃

Alteration of interstellar organic materilas on meteorites' parent bodies: A.Kouchi

有機質星間塵が隕石母天体で経験した水質・熱変成作用を再現する実験を行った。まず、有機質星間塵のアナログ物質と水を200℃、15気圧で加熱し、水質変成過程を再現した。次に、試料を凍結乾燥させ、さらに真空中で200−400℃に加熱し、隕石母天体での熱変成作用の再現実験とした。得られた試料の元素組成、赤外線スペクトルなどの測定結果を、実際の隕石中の炭素質物質と比較した。その結果、本実験が隕石母天体でおこった現象をよく再現していることがわかった。

隕石の起源に対する有機物の効果

教授 香内 晃、 助手 荒川政彦

Effect of organic materials on the origin of meteorites: A.Kouchi, M.Arakawa

原始太陽系星雲に存在する有機物微粒子が小惑星領域で生成される隕石の諸性質にどのような影響を与えるかを有機物の加熱蒸発実験、衝突付着実験の結果をもとに考察した。付着性に富む有機物が存在していた領域ではエコンドライト母天体が急速に形成された。いっぽう、その外側の領域では炭素質母天体が、内側領域では普通コンドライト母天体がエコンドライト母天体よりも遅れて形成された。放射性元素26Alがかなり存在している時に形成されたエコンドライト母天体では大規模な溶融がおこったが、コンドライト母天体は26Alが少なくなってから形成されたためにわずかな温度上昇による変成作用がおこっただけである。

高速度衝突における氷・岩石混合物の衝突物性

助手 荒川政彦、教授 前野紀一

Physical properties of ice-rock mixture in the high velocity collisions:Masahiko Arakawa, Norikazu Maeno

雪と岩石粉末を用いて空隙率が55%から0%の混合物試料を作成し,その衝突破壊強度と破片速度を調べた。氷のみと岩石と氷の質量比が1対1の試料を用い,氷の弾丸を150m/s〜700m/sで衝突させた結果,衝突破壊強度の空隙率依存性が明らかになった。衝突破壊強度は,氷のみの場合,空隙率が高くなると大きくなることがわかった。一方,氷・岩石混合物の場合,空隙率が大きくなると小さくなった.クレーター形成時に発生するイジェクタの飛翔速度は,岩石の含有率に関係なく空隙率のみに依存する。その速度は,空隙率の増加と比例して小さくなることがわかった。

<利用施設、装置等>低温実験室,分析棟衝突実験室,高速度動作解析システム

氷微粒子の付着成長

助手 荒川政彦

Sticking growth of small icy particles in collision: Masahiko Awakawa

ミクロンサイズの氷微粒子が衝突する様子を観察するために倒立顕微鏡とハイスピードカメラを用いた観察システムを開発した。空気中の水蒸気を直接凝縮させて作成した氷微粒子同士の衝突をこの装置を用いて観察した.微粒子のサイズは10ミクロン以下であり,熱対流する空気により速度〜cm/sで運動している。ハイスピードカメラの観察から微粒子同士の衝突付着現象を直接確認することができた。このことから付着成長の限界速度は〜cm/sより大きいことがわかった。

<利用施設、装置等>分析棟衝突実験室

クロロフィルb合成遺伝子の機能に関する研究

教授 田中歩、助手 田中亮一

Enzymatic studies on chlorophyllide a oxygenase: A. Tanaka, R. Tanaka

植物は光を利用して生命活動に必要なエネルギーを光合成によって作り出す。クロロフィルb合成遺伝子(Chlorophyllide a oxygenase、CAO)をシロイヌナズナから単離し,それをシロイナズナに過剰発現させることによって、集光装置の制御におけるCAOの役割を探った。その結果、CAOはクロロフィルbの合成を誘導し集光装置大きさを調節していること、また光合成の光環境への適応に中心的な役割を担っていることが明らかになった。

<関連設備,装置等>分析等、DNAシークエンサー

光合成生物の進化

教授 田中歩

Evolution of photosynthetic organisms: A. Tanaka, R. Tanaka

光合成色素系の研究を通じて、光合成生物の進化と葉緑体の起源に関する研究を行った。その結果、光合成生物の進化の過程で光合成色素合成の遺伝子の獲得が大きな役割を担ったこと、クロロフィルbは光合成生物の誕生の初期に獲得されたことが明らかにされた。そこで、クロロフィルbの獲得過程を、遺伝子工学的な手法を用い試験管内で再現する試みを行った。その結果、過去の色素の獲得が部分的に再現されることが示された。これらの実験より色素系の進化に関する新しいシナリオを提出した。

<関連設備,装置等>分析等、DNAシークエンサー

光化学系II酸素発生部位の構造と機能

助教授 皆川  純

Structure/function study on the photosynthetic oxygen evolution: J.Minagawa

緑藻クラミドモナスを用いて、光化学系IIの反応中心タンパク質D1のC末端アミノ酸置換の影響を解析した。原子吸光スペクトル、EPRスペクトル、熱発光、蛍光収率のキネティクス等による解析より、D1タンパク質C末端の置換はMn原子複合体の酸化還元電位の低下をもたらすなど、酸素発生反応に致命的な影響を及ぼすことを明らかにした。この結果は最近の構造学からの知見と一致し、D1タンパク質のC末端がMn原子に配位していることを示唆している。

<関連設備,装置等>DNAシークエンサー

光合成集光装置の光環境応答

助教授 皆川  純

Photoacclimation of the photosynthetic antenna system: J.Minagawa

緑藻クラミドモナスの光合成集光装置をコードする全遺伝子を分離同定し、系統解析を行った。その結果、進化上まず緑藻と高等植物の分化が起こり、その後それぞれにおいて独立に集光装置内の細分化が起きたことが明らかとなった。次に、クラミドモナスの各集光装置遺伝子の発現が葉緑体電子伝達系の酸化還元状態の支配を受けないことを解明したが、これは、未解決の問題である光環境シグナルの発生部位についての新しい知見となった。

植物細胞における凍結傷害機構に関する研究

助手 荒川圭太、助手 竹澤大輔

Studies on the mechanisms of freezing injury in plant cells: K. Arakawa and D. Takezawa

植物における凍結傷害の発生機構を解明するために、組織、細胞及び分子レベルでの分析をおこなっている。シロイヌナズナを用いて長時間の凍結がもたらす傷害発生機構について解析したところ、比較的高い凍結温度(−4℃以上)の下でも凍結処理時間の経過に伴って細胞膜での傷害発生率が増加すると共に、細胞膜上に特徴的な微細構造変化が発生することを見い出した。このような細胞膜上の微細構造変化は−2℃での過冷却状態ではほとんど観察されなかったが、未凍結での高塩濃度処理で軽度の構造変化が発生することが明らかになった。

<関連施設、装置等>分析棟、植物低温育成チャンバー、プログラムフリーザー、超低温試料観察電子顕微鏡システム、低温共焦点レーザー走査顕微鏡システム

植物における低温馴化ならびにアブシジン酸誘導性遺伝子の生理機能の解明

助手 荒川圭太、助手 竹澤大輔

Studies on physiological functions of cold- or abscisic acid-induced genes in plant cells: K. Arakawa and D. Takezawa

植物の寒冷環境に対する適応機構を解明するために、低温馴化や植物ホルモンのアブシジン酸によって誘導される様々な生理的変化に関連する蛋白質や遺伝子群について、その生理機能の解明を試みている。小麦アポプラストに局在するアブシジン酸ならびに低温誘導性のタウマチン様蛋白質の遺伝子を過剰発現させて得られたリコンビナント蛋白質を用いて抗菌活性の測定をおこなったところ、タウマチン様蛋白質が土壌細菌や雪腐れ病菌のいくつかに対して生育阻害効果を示すことが明らかになった。

<関連施設、装置等>分析棟、低温棟、植物低温育成チャンバー、低温共焦点レーザー走査顕微鏡システム

植物が低温馴化過程で蓄積する細胞膜蛋白質の同定

助手 荒川圭太

Identification of plasma membrane proteins induced during cold acclimation in plants: K. Arakawa

越冬性のイネ科植物では、低温馴化過程で凍結耐性の獲得に伴って細胞膜に特徴的な蛋白質が蓄積する。このような低温誘導性の細胞膜蛋白質の遺伝子のひとつを単離した後、これを用いてリコンビナント蛋白質を調製し、凍結ストレス下での細胞膜蛋白質の生理機能や構造特性の解明を試みている。

<関連施設、装置等>分析棟、植物低温育成チャンバー、フーリエ変換赤外顕微分光測定装置

植物カルモジュリン結合タンパク質の解析

助手 竹澤大輔

Analysis of calmodulin-binding proteins in plants: D. Takezawa

植物が低温などの環境ストレスに応答して細胞内環境を変化させる過程において、細胞内カルシウムイオンが情報伝達物質として重要であることが知られている。カルシウム結合タンパク質カルモジュリンは細胞内カルシウムの上昇により活性化され、「カルモジュリン結合タンパク質」として総称される様々な標的タンパク質と相互作用してそれらの機能を調節している。今回、蘚類ヒメツリガネゴケからカルシウムカルモジュリン依存性プロテインキナーゼ遺伝子を単離し、カルモジュリン結合部位の特定とカルモジュリンによる酵素の活性化を明らかにした。

<関連施設、装置等>分析棟、植物低温育成チャンバー

昆虫血液からクチクラへの表皮細胞をよこぎるタンパク輸送に関する研究

教授 芦田 正明

Transepithelial protein transport from hemolymph to cuticle: M.Ashida

表皮を横切ってタンパクが表皮細胞の一方の側から反対側へ移送される(transcytosis)はすべての高等動物で生理的に重要な現象である。しかし、高等哺乳動物以外の動物群ではtranscytosisは研究されていない。家蚕幼虫を用い、フェノール酸化酵素前駆体をプローブとして血液からクチクラへ表皮細胞を横切ってタンパクが移送される仕組みを免疫電顕の手法をもちいてしらべた。直径が数ナノメーターの小胞状細胞内構造物(caveolea)に取り込まれて前駆体が表皮細胞をよこぎって移送される可能性が示唆された。

<関連施設、装置等>電子顕微鏡、超遠心機

昆虫の血液およびクチクラに存在するフェノール酸化酵素前駆体カスケードに関する研究

教授 芦田 正明

Studies on the prophenoloxidase cascades in the hemolymph and cuticle of insect: M.Ashida

家蚕のフェノール酸化酵素前駆体カスケードを構成する新たなセリン型プロテアーゼ前駆体を精製し、そのcDNAクローニングを行った。

<関連施設、装置等>電子顕微鏡、超遠心機

寄生性昆虫と宿主昆虫の生理的相互作用の研究

助教授 早川 洋一

Studies on the physiological interaction between parasitic insects and their host insects: Y. Hayakawa

本研究の焦点は発育阻害ペプチド(GBP)という昆虫生理活性ペプチドに当てられている。私たちは、このペプチドを寄生バチによって寄生された宿主昆虫・アワヨトウ幼虫の発育遅延として発見し構造決定を行った。近年、GBPは細胞増殖や血球活性化作用といった多機能性を持つ昆虫サイトカインであることが分かった。今年度は、この細胞増殖と血球活性化に必要な最小構造を明らかにした。その結果、細胞増殖にはアミノ末端残基が、そして、血球活性化にはカルボキシル末端残基が比較的重要であることを明らかにした。

昆虫休眠誘導の分子機構

助教授 早川 洋一

Molecular mechanisms of the inductionof insect diapause: Y. Hayakawa

ヨトウガは、幼虫期間の短日経験によって蛹休眠に入る。短日飼育と長日飼育の幼虫脳内における遺伝子発現を解析し、前者のみで特異的に発現が高まる遺伝子の同定を試みた。その結果、約12クローンを同定し、その内の1種類について詳しく解析を行った。全塩基配列を決定した結果、この遺伝子はreceptor for activated C-kinaseと高い相同性を持つ遺伝子であることが明らかになった。

昆虫における休眠の誘導機構

助手 島田公夫、日本学術振興会外国人特別研究員 J.PAVELKA

Mechanisms of diapause induction in insects: Kimio SHIMADA, J.PAVELKA

光周期による昆虫休眠の誘導を遺伝学的に解析して、休眠の誘導には生物時計遺伝子のひとつであるtimelessが、正常に発現する必要があることを明らかにした。

<利用施設,装置等>分析棟:培養室、装置:DNA分析システム

昆虫リポホリンと体表炭化水素

助手 片桐 千仭

Insect lipophorin and cuticular hydrocarbons: C.Katagiri

昆虫の体表を覆う炭化水素は疎水性の高い物質であり、体内からの水の蒸散などに対するバリアーとして働いている。上皮細胞で合成された炭化水素は直接体表に移行せず、一度体液中のリポホリンに取り込まれた後、体表に出現するが、クチクラ中を炭化水素がどのように移動するか分かっていない。そこで私たちは免疫組織化学の手法を用いたクチクラの電子顕微鏡観察を行い、クチクラ中でもリポホリンが炭化水素を輸送していることを示すデータを得た。

<利用施設,装置等>電子顕微鏡

昆虫の生体防御機構における異物認識の分子機構

助手 落合正則

Molecular mechanism of non-self recognition in insect defense system: M.Ochiai

昆虫の生体防御機構において重要な役割を担う異物認識蛋白質の生理機能及び立体構造を解析する目的で、カビやバクテリアに対する異物認識蛋白質(βGRP, PGRP)の組換え体を産生し続けることが可能な昆虫細胞系を樹立した。これにより、異物認識蛋白質のX線結晶回析に必要な大量精製標品を得ることが可能になった。また、新たなPGRP類似蛋白質2種を発見し、これらが細菌細胞壁成分に結合することを証明した。

<利用施設,装置等>プロテインシークエンサー、イメージング解析システム、レーザーイオン化質量分析計、DNA分析システム

不凍糖タンパク質水溶液中での氷結晶成長における自発的周期変動機構の研究

助教授 古川義純

Mechanism of self-oscillatory growth of ice in antifreeze glycoproteinsolution: Y.Furukawa

不凍糖タンパク質の水溶液中で氷結晶を成長させると、成長速度が自発的に周期変動する現象のメカニズムについての理論的考察を行った。結晶成長駆動力に対する結晶成長速度依存性にヒステリシスが存在することが必要条件であることを、はじめて明らかにした。すなわち、成長速度が増加するときと減少するときに異なる依存性を示すことが本質的ある。このような現象は、結晶の内部に生じる結晶欠陥の生成や、欠陥の空間分布を発生させる原因のひとつと考えられ、非常に重要である。(本研究は、受託研究員西村良浩との共同研究)

<関連施設、装置等>リアルタイム位相シフト干渉計、動的光散乱装置、偏光解析装置

微小重力環境での微細気泡の氷結晶成長界面での挙動の研究

助教授 古川義純

Studies of behavior of fine bubbles in front of solidifying interface under microgravity condition: Y.Furukawa

一方向成長実験装置により、界面活性剤を含む水から氷結晶を成長させると、界面前方には界面活性剤の濃度分布(拡散場)が生じる。この拡散場の中に微細な気泡が存在すると、気泡の表面での界面活性剤の濃度に分布により表面張力分布が生じる。このため、気泡には界面に向かう方向に力が作用し、界面に向かって引き寄せられる。航空機による微小重力実験を行い、浮力による気泡の運動を除去することで、表面張力分布による気泡の運動を精密に解析することにはじめて成功した。この現象は、結晶成長における不純物の効果にとどまらず、生体内での生体高分子の挙動など多方面への応用が可能である。

<関連施設、装置等>リアルタイム位相シフト干渉計

干渉計による熱・物質拡散場の可視化技術の開発

助教授 古川義純

Development of new method for in-situ observations of thermal and material diffusion fields: Y.Furukawa

干渉計で得られる干渉縞をフーリエ変換法や位相シフトなどの新しい画像処理法により、高速で処理する方法を開発した。これにより、従来にない高感度で成長中の氷結晶周辺の熱拡散場や物質拡散場を可視化することが可能になった。これにより、拡散場のダイナミックな時間変動を解析することも可能になった。

<関連施設、装置等>マッハツエンダー干渉計、画像解析システム

微小重力を利用した氷結晶のパターン形成機構の研究

助教授 古川義純

Studies on morphological instability of ice disks under microgravity condition: Y.Furukawa

宇宙開発事業団との協力により、スペースシャトルによる無重力環境において、過冷却水中での氷結晶の自由成長実験を行うための装置(Ice cellと呼ばれている)の開発がほぼ終了した。これにより、氷のような円盤状形態の結晶における形態不安定の理論モデルの詳細な検証が可能となる。この装置は、SCOFと呼ばれる溶液成長共通観察装置に取り付けられ、近い将来スペースシャトルに搭載される予定である。


部門・附属研究施設の研究概要

寒冷圏総合科学部門:BOREAL ENVIRONMENTAL SCIENCES RESEARCH SECTION

教官:FACLTY MEMBERS

教授:PROFESSORS

福田 正己・理学博士・凍土学(雪氷学)シベリア永久凍土と地球温暖化
FUKUDA,Masami /D.Sc./Geocryology/Siberian Permafrost and Global Warming

戸田 正憲・理学博士・群集生態学,ショウジョウバエ類の分類学と生物地理学
TODA, Masanori J./ D. Sc./ Community Ecology; Systematics and Biogeography of Drosophilids

講師:LECTURER

丹野 皓三・理学博士・動物生理学,低温生物学,越冬昆虫の耐凍性と生態
TANNO, Kouzou/ D. Sc./ Animal Physiology; Cryobiology; Frost-Resistance and Ecology of Over-wintering Insects

助手:ASSISTANT PROFESSORS

串田 圭司・博士(農学)・リモートセンシング、植生の放射伝達
KUSHIDA,Keiji / Ph.D. (Agr.)/ Remote sensing; Radiative transfer in vegetation

大舘 智志・博士(理学)・動物生態学、哺乳類学
OHDACHI, Satoshi / D. Sc./ animal ecology, mammalogy

研究概要:OUTLINE of RESEARCH

寒冷域の海洋圏,地圏及び生物圏にまたがる自然現象を総合的に研究する。

気候変動

南北両極地域では、気候変動が他の地域よりも顕著にまた鋭敏に出現する。当研究分野グループでは過去5年間シベリア永久凍土の調査を手がけてきている。シベリアに広範に分布するツンドラではかなりの分量のメタンガスが放出され、将来の温暖化への影響が懸念される。また永久凍土中には最終氷期に集積した地下氷が存在し、そこに貯留されたメタンガスが凍土の融解で大気へ放出されている。当研究分野では多くの大学院生の参加を得てシベリア永久凍土の動的変化に注目して研究を遂行している。これは地球温暖化への関連をもち、IGBP-NESプロジェクトと連携している。

生物多様性

地球上に現存する生物の多様性(遺伝的,分類学的,生態的,地理的)は,過去の生物進化の帰結である.現在の生物多様性成立の歴史的側面を研究するために,ショウジョウバエ類とトガリネズミ類に関して北東ユーラシアから東南アジアにいたる地域の生物地理とこの地域を中心に分布する分類群の系統関係を研究している.また,生物多様性は,現在,それぞれの生態系の中で働いている局所的生態プロセスによって影響を受ける.特に,生物多様性を維持促進する生物群集の自律的プロセスに着目して,森林生態系の骨格生物である樹木が作り出す三次元生息空間構造と昆虫群集の多様性,餌・住み場所である植物と動物の相互作用を研究している.

以上のような視点に立って,現在,文部省の新プログラム方式による「地球環境撹乱下における生物多様性の保全及び生命情報の維持管理に関する総合的基礎研究」(代表 川那部浩哉)に参加し,緯度および高度傾度に沿った森林動物群集の生物多様性の変化パターン,植物の被食防衛をめぐる生物間ネットワークの研究を行っている.

Climate Change Research Group

In Arctic and Antarctic regions, climate change tends to occur more distinctively and sensitively than other regions. In last 5 years, the group has engaged in an intensive field survey in eastern Siberian Permafrost regions. There widely distributes tundra wetland in Siberia, where considerable amounts of Methane emit into atmosphere as to cause future global warming. In Siberian Permafrost, ground ice accumulated in large scale in Last Glacial Periods under recent trends of warming, ground ice thaw so that stored Methane in ice releases to atmosphere. The group with many graduate students focuses on the dynamic changes of Siberian Permafrost in specially related to Global Climate Change with cooperating with IGBP-NES (Northern Eurasian Study).

Biodiversity Research Group

Genetic, taxonomic, ecological and geographic diversities of extant organisms are products of past evolution on the earth. To reveal historical aspects of the present biodiversity, we are studying the biogeography and phylogeny of drosophilid flies and shrews in Northeast Eurasia to Southeast Asia. On the other hand, the biodiversity is being affected by contemporary, local ecological processes. We, focusing especially on autonomous processes that promote and maintain the biodiversity in local communities, are studying mechanisms how the habitat complexity produced by trees, skeleton organisms of forest, promotes the diversity in insect communities living there and how interactions between plants (as food and home) and animals promote the biodiversity of either or both. In this context, we are now engaged in “An integrated study on biodiversity conservation under global change and bioinventory management system” (a project funded by a MESSC Grant-in-Aid for Creative Basic Research under the leadership of Hiroya Kawanabe), with specific themes on 1) latitudinal and altitudinal gradients of biodiversity in sylvan animal communities and 2) network of interspecific interactions created by defense strategies of plants.

研究課題と成果:CURRENT RESEARCH PROGRAMS

シベリア地域の北方森林の攪乱が地球温暖化に与える影響

教授 福田正己

Boreal Forest Disturbance in Siberia and its Effect to Global Warming: M.FUKUDA

世界最大の森林であるシベリアタイガが火災や伐採で攪乱を受けると凍土の大規模融解を促進する。その結果、永久凍土からのメタンガスの放出を促し、地球温暖化を促進する。これらの過程について東シベリア・ヤクーツク付近で長期の現地観測を実施し、火災による攪乱で森林の二酸化炭素吸収機能が減少することを定量的に掌握した。また永久凍土表面での熱収支バランスの乱れを確定し、それによる永久凍土融解量を推定した。また凍土に貯留されているメタンガスの存在量を明らかにした。

関連機器 現地二酸化炭素収支観測タワーシステム

東シベリアおよびアラスカ北方森林の火災に伴う環境変化のリモートセンシング

助手 串田圭司

Remote sensing on environmental changes induced by boreal forest fire in east Siberia and Alaska by K. Kushida

シベリアやアラスカの永久凍土帯の森林火災は、温暖化に対して正のフィードバック効果を持つことがモデル等により指摘されてきている。2年にわたる、夏期の現地測定によって得られた林床、葉、幹等の構成要素ごとのスペクトル特性に基づいて、放射伝達モデル解析により、東シベリアおよびアラスカの火災の影響を含む主要な林分の衛星データを解釈するためのデータベースを構築した。本データベースは、樹種の区分、バイオマス量、林床の状態といった情報と可視から近赤外の衛星リモートセンシングデータとの関係を与えた。

<利用施設、装置等>リモートセンシングシステム

ショウジョウバエ類の生物多様性に関する研究

教授 戸田正憲

Studies of biodiversity in drosophilid flies: Masanori J. Toda

樹形、森林構造、ショウジョウバエ群集の関係を亜寒帯と冷温帯のシラカバ林で比較研究した。シラカバ個体の樹冠形は、冷温帯林でより浅く平面的であるのに対し、寒帯林ではより細く円錐的である傾向を示した。葉群の垂直分布を比較したところ、冷温帯の林ははっきりとした2層構造を示したのに対し、亜寒帯の林は成層構造を示さなかった。ショウジョウバエ群集の多様性に関する様々な指数は、冷温帯の林でより高い値を示した。両群集間での種多様性の相違は、実質的に寒帯林の林冠層に生息しているショウジョウバエ群集の貧弱性に帰結された。(地球環境科学研究科 田辺慎一)

ショウジョウバエ類に関する系統分類学的研究

教授 戸田正憲

Studies on the systematics of Drosophilidae: Masanori J. Toda

ショウジョウバエ科の中のニセヒメショウジョウバエ属に着目して、多くの形態形質に基づく分岐分析により、系統関係を明らかにした。本属は多系統群であること、そのうちの主体となる系統群は、ショウジョウバエ属シマショウジョウバエ亜属と姉妹群を形成することが判明した。その結果、ショウジョウバエ属も多系統群であり、キイロショウジョウバエを含むシマショウジョウバエ亜属は属に格上げする必要があることが示唆されたが、キイロショウジョウバエの属名変更(DrosophilaからSophophora)は、多くの生物学分野に少なからぬ混乱をもたらすことが予想されるため、さらなる証拠が蓄積するまで留保することにした。

西太平洋・アジア地域国際生物多様性観測年事業

教授 戸田正憲、日本学術振興会特別研究員 平井 喜幸

International Biodiversity Observation Year (IBOY) in Western Pacific and Asia (DIWPA): Masanori J. Toda and Yoshiyuki Hirai

2001年から2002年にかけて、生物多様性国際共同研究計画(DIVERSITAS)の提案で行われている国際生物多様性観測年のコアープロジェクトの1つである、西太平洋・アジア地域生物多様性一斉観測に参加し、森林生態系の生物多様性を標準化した観測方法により、サイト横断的に比較可能な情報を収集することを目指して、観測手法の標準化(観測マニュアルの出版、国内外の観測スタッフのトレーニング)、観測サイトの選定、観測機材の提供、標本・データ管理システムの開発などに携わると同時に、日本におけるコアーサイトである北大苫小牧研究林での観測を担当した(地球環境科学研究科 田辺慎一、稲荷尚記、萬屋宏)。

<利用施設、装置等>凍上観測室

バイカル/シントウトガリネズミ・グループの生物地理学的歴史の推定

助手 大舘 智志

Estimation of biogeographical history of Sorex caecutiens/shinto group:S.Ohdachi

北ユーラシアに広く分布するバイカル/シントウトガリネズミ・グループの生物地理学的歴史を、ミトコンドリアのチトクロムb遺伝子の塩基配列と核のrRNA遺伝子のスペーサー領域の制限酵素断片長多型(RFLP)の二つの遺伝的情報をもとに推定した。その結果、バイカルトガリは樺太において大陸と北海道からそれぞれ移入、交雑がおこり後に樺太において北海道由来のミトコンドリアゲノムが消失したか、極稀にしか見られないと解釈された。

RFLPの分析は主に地球環境科学研究科の修士課程の内藤由香子がおこなった。

<利用施設,装置等>分析棟、DNA分析装置


部門・附属研究施設の研究概要

附属流氷研究施設:SEA ICE RESEACH LABORATORY

教官:FACULTY MEMBERS

教授:PROFESSOR

青田 昌秋・理学博士・極域海洋学、大気−海洋−海氷相互作用、氷海の海洋物理・生物過程、沿岸海洋学
AOTA, Masaaki/ D.Sc./ Polar Oceanography; Air-Sea-Sea Ice Interaction; Physical and Biological Processes in Ice-Covered Waters, Coastal Oceanography

助教授:ASSOCIATE PROFESSOR

白澤 邦男・理学博士・極域海洋学、大気−海洋−海氷相互作用、氷海の海洋物理・生物過程
SHIRASAWA, Kunio/ D. Sc./ Polar Oceanography; Air-Sea-Sea Ice Interaction; Physical and Biological Processes in Ice-Covered Waters

研究概要:OUTLINE of RESERCH

当施設は1965年にオホ−ツク海の流氷や海洋学等の基礎的研究を目的として紋別市に設立された。施設設置と同時に、北海道ホーツク海沿岸域の流氷を検知するための流氷観測レーダ網が設置され、沿岸域約50kmまでの流氷分布、流動などの観測研究が続けられている。また、流氷期間中は流氷分布図を流氷情報センター(海上保安庁)、気象庁や水産漁業等各関係機関に配布している。

典型的な季節海氷域であるオホーツク海の海氷域は、地球温暖化などの全地球規模での環境変動や気候変動に敏感に影響を受ける。オホーツク海の海氷気候の変動機構の理解を深めるために、北サハリンをオホーツク海北部の厚い海氷域の、サロマ湖を南部の薄い海氷域の観測拠点として、海氷生成に伴う、大気ー海洋間相互作用の研究をロシアと共同で実施している。サハリンや北海道での観測から蓄積された気象、海洋、海氷、積雪などのデータから海氷生成、成長、融解に至る消長過程や海氷構造の変遷過程のモデル化やモデルの検証実験を行っている。

また、アイス・アルジーを基礎生産者とする海氷圏生態系の食物連鎖作用の実態や海氷変動の物理機構と海氷生態系との関係を把握するための研究を、北海道オホーツク海沿岸域の流氷タワーやサロマ湖等で進めている。

これらの研究計画は、オホーツク海同様に典型的な季節海氷域であるバルト海の海氷気候の変動機構を解明するために、フィンランドなどのバルト海周辺国の研究者と比較共同研究としてオホーツク海とバルト海でそれぞれ実施している。

The Sea Ice Research Laboratory (SIRL) was founded in Mombetsu in 1965 to conduct studies mainly on sea ice and coastal oceanography. The SIRL has successively operated a sea-ice monitoring radar network on the Okhotsk Sea coast of Hokkaido since 1969. The network consists of three landbased radars which allow a continuous monitoring of realtime ice field scenery along a 250-km coastline to as far as about 50 km into the Okhotsk Sea. Utilization of those radar data has been essential to studies on coastal sea ice dynamics as well as long-term sea ice variability, and to winter navigations on the ice-covered Okhotsk Sea coast.

The dynamics and thermodynamics of sea ice are key variables in ecosystems in perennially/seasonally ice-covered waters. Global change modeling requires an adequate understanding of the mechanical, electromagnetic, optical, and thermal properties of sea ice, as well as its capacity to transfer solutes through the ice sheet, to support biological activity, and to entrain and transport contaminants. Field experiments have been conducting to track the evolving properties of land-fast ice sheets at sites in the northern Sakhalin and Saroma-ko Lagoon in the north and south of the Sea of Okhotsk, respectively, as well as near Oulu and the Gulf of Finland in the north and south of the Baltic Sea, respectively. Those sites are instrumented to monitor the thermal regime through the ice sheet during the ice forming, growth through melt seasons to understand the characteristics and processes in the seasonally ice-covered waters.

研究課題と成果:CURRENT RESEARCH PROGRAMS

流氷レーダー網による北海道・オホーツク海沿岸域の流氷分布・動態の観測

教授 青田昌秋、助教授 白澤邦男、助手 深町康、技官 石川正雄、高塚徹、大坊孝春

Distributions and dynamics of sea ice off the Okhotsk Sea coast of Hokkaido with the sea-ice radar network by M. Aota, K. Shirasawa, Y. Fukamachi, M., Ishikawa, T. Takatsuka and T. Daibou

流氷レーダーによる北海道オホーツク海沿岸域の流氷分布の観測が1969年から2002年まで34年間続けられている。レーダー観測域に占める流氷密接度は、この34年間に顕著な周期性は認められないが、1987年以降、流氷期間、流氷密接度ともに減少しつつあること等が調べられた。流氷レーダーの画像から流動ベクトルを計算する方法が開発された。沿岸域に音波式氷厚計と多層流速計測装置が係留され流氷期間中の流氷漂流速度や氷厚が測定され、流氷レーダによる分布との関係などが調べられた。流氷レーダーにより観測される毎日の流氷分布図は北大のホームページ(http://www.hokudai.ac.jp/lowtemp/sirl/shome.html)に掲載されている。

結氷海域における大気・海洋および海洋生物環境の観測研究

助教授 白澤邦男、技官 石川正雄、高塚徹、大坊孝春

Physical and biological processes in ice-covered waters by K. Shirasawa, M., Ishikawa, T. Takatsuka and T. Daibou

季節海氷域の氷縁域の薄い海氷域に注目した大気ー海氷ー海洋の相互作用の研究、またアイス・アルジーを基礎生産者とする海氷圏生態系の食物連鎖作用の実態を把握するための研究を、北海道オホーツク海沿岸域の流氷タワーや流氷レーダー網、サロマ湖を定点観測基地として研究を進めている。沿岸域のクロロフィルa量は春と秋に増加のピークを示したが、春のピークは海氷融解後のアイスアルジーなどの植物プランクトンの増殖を現しており、植物プランクトンの分布が海氷域の分布に大きく影響していることがわかった。

海氷消長過程における海氷構造変遷過程の観測研究

助教授 白澤邦男、助手 河村俊行、技官 石川正雄、高塚徹、大坊孝春

Evolving properties of land-fast ice sheets through ice forming, growing and melting processes by K. Shirasawa, T. Kawamura, M. Ishikawa, T. Takatsuka and T. Daibou

サロマ湖をオホーツク海南部の薄い海氷域の観測拠点として、海氷生成から成長、融解に至る消長過程における海氷構造の変遷過程を解明するために、大気、海洋、海氷、積雪などの現場観測を行った。積雪の効果を含む海氷成長モデルから求められた結果は実測データと比較的よい一致を示したが、比較的薄い海氷の内部構造は複雑であり、海氷生態系を含むモデルの改良、開発が進められている。

サハリン北部の海氷及び気象、海洋学的観測研究

助教授 白澤邦男、助手 深町康、技官 石川正雄、高塚徹、大坊孝春

Sea ice and hydrometeorological investigations on the Okhotsk Sea coast of Sakhalin by K. Shirasawa, Y. Fukamachi, M. Ishikawa, T. Takatsuka and T.Daibou

北サハリンのチャイボをオホーツク海北部の厚い海氷域の観測拠点として、季節海氷域の海氷気候に関する観測研究を行っている。北サハリンのチャイボ湾で観測された気象、海洋、海氷、積雪等の観測データを用いて、厚い海氷(1m程度)の熱力学モデルの検証を行った。モデルにより氷厚、雪氷、スラッシュ層の厚さ、融解開始等がよく再現出来た。流星バースト通信を用いた観測データの伝送システム、音波式氷厚計、多層流速計測装置、漂流ブイの設置などの準備を開始した。

オホーツク海とバルト海の海氷気候の比較研究

助教授 白澤邦男、石川信敬、助手 河村俊行、技官 石川正雄、高塚徹、大坊孝春

Sea-ice climatology in the Okhotsk and Baltic Seas by K. Shirasawa, N. Ishikawa, T. Kawamura, M. Ishikawa, T. Takatsuka and T. Daibou

ヘルシンキ大学、オウル大学やフィンランド国立海洋研究所などと共同で、典型的季節海氷域であるオホーツク海とバルト海を海氷気候の観測研究の拠点として、大気、海洋、海氷、積雪等の観測を行っている。バルト海の北部と南部に観測基地を設け、海氷熱力学過程の比較観測研究を行った。積雪、海氷の存在自体が熱の遮断や光の反射、透過に大きな影響を及ぼすが、融解期の海氷崩壊に伴いアルベドの減衰、光の透過率の増加が顕著に現れた。

<関連施設、装置等>流氷観測レーダー網、流氷観測用レーダー情報処理装置、レーダー映像記録再生装置、氷海域気象海象観測システム(流氷タワー)、超音波風速温度計、CTD測定システム、電磁流速計、自動気象観測装置、氷海観測プラットフォーム、流星バースト通信システム、音波式氷厚計、多層流速計測装置、漂流ブイ


COE研究プロジェクト
寒冷圏における大気−植生−雪氷相互作用

研究目的

寒冷陸域は、雪氷と水、寒冷圏固有のエネルギーの流れおよび寒冷地特性を持つ植生によって特徴づけられる。寒冷圏での様々な時間および空間スケールでの大気−陸域系の振る舞いはそれらの影響を強く受けているが、未解決な問題が多い。本共同研究では、雪氷を中心に関連する分野との統合をめざし、相互作用系の研究を行う。すなわち、「大気−植生−雪氷相互作用の解明」である。特に環境科学の研究において、生物学的観点を地球物理学・化学に取り入れる試みは、その重要性が指摘されているにもかかわらず、ほとんど行われていない状態である。特に、雪氷が存在する寒冷圏における植物の生理・生態は未解決な部分が多いので、本共同研究でこの方向の研究を進める。

寒冷圏における大気−植生−雪氷相互作用を解明するために、平成13年度は以下の2つのアプローチから研究を行った。まずは、(I)の野外における林内微気象の観測と樹木の生長および生理活性の季節変化の測定である。そして、(II)の大気−植生−雪氷相互作用のプロセスに関する理論モデルの開発である。今回は、(I)の結果から推定したパラメータを(II)で開発したモデルに取り入れてシミュレーションを行うところまではいかなかったが、それは平成14年度に行う予定である。

(I)寒冷地の夏緑林における生物間相互作用に関する生理生態学的研究:北海道母子里におけるダケカンバ林の水および炭素収支に対する林床のササ類の影響

はじめに

寒冷地の生物は低温や積雪だけでなく,短い好適期間という制約にさらされている。夏季に葉をつける樹木が短い生育期の間に効率よく炭素を獲得するためには,夏の日中の強光や乾燥といった環境条件に対して適応的な光合成反応を持たなければならない。寒冷地における環境変動に対する「落葉広葉樹林の光合成による炭素獲得 → 生態系における炭素収支」の変化の予測のために,落葉樹の光合成の環境応答を夏季に集中して評価することが重要である。

北海道の森林の多くは,林床をササ類におおわれている。林床に密生するササ類は樹木の新規加入を妨げることはもちろん,上層木に供給されるべき水分や栄養塩を奪い取る存在である。ササ類が樹木の実生の定着を直接左右することは数多く研究されてきたが,林床におけるササの繁茂が林冠木の生育状態にどのよう な影響を持っているかについては未知の点が極めて多い。とくに,ササと樹木の間の水や栄養塩などの競合は,林冠木の資源獲得の機構を変化させている可能性がある。

本研究では,北海道北部(北海道大学 雨龍研究林)のダケカンバ(Betula ermanii)林の林床に優占するチシマザサ群落の刈取りによる除去が,ダケカンバ林冠木の個葉光合成特性(ガス交換,クロロフィル蛍光など)および当年枝の構造(葉の展開の季節性,伸長成長など)をどのように改変しているかについて,高さ約13mの林冠アクセスタワーを活用して調べた。得られた結果から,寒冷地の夏緑性落葉広葉樹(ダケカンバ)の光合成生産および環境応答と,それらに対する生物間相互作用の関与について検討を加えた。

調査地

これまでのCOEプロジェクト・特別共同研究の成果から,ササの除去(1999年に実施)が土壌水分条件を改善することが示唆されてきた(高橋ほか)。ササの蒸散活動による土壌水分の消費が抑制されたためである。しかし,今回の調査ではササの除去から2年が経過し,ササの除去に対する植物の順化反応や生態系の水循環が平衡に達しつつある状態で調査を行うことになることが予測された。

測定項目

結果と考察

ダケカンバ当年葉の展開はササ除去下でやや速くなり,生育期間内における積算着葉数も増大した。従って,ササとの資源競合がダケカンバのシュート成長を制約している可能性が示唆される。一方,ササ除去によって,ダケカンバ夏葉のサイズ(面積やLMA)は季節を通して小さくなる傾向にあった。

同じ出現順位にある夏葉の二酸化炭素固定速度・気孔コンダクタンス・蒸散速度および窒素濃度は,葉面積ベースではいずれもササ除去の下で低かったが,葉重ベースではササ除去の影響は不明瞭であった。ササとの競合下におけるダケカンバ個葉の光合成特性や窒素濃度の変化は,主に葉の形態(LMA)の変化によって説明できる。また,光化学系IIの光利用効率や電子伝達速度にもササ除去による変化は無かった。

以上の結果から,ササとの競合下にあるダケカンバは,出葉数に制限を受ける一方で個葉のサイズを大きくするとともに,葉面積ベースでの光合成能力を高めていることが示唆された。これに対して,ササの除去下では重量ベースでの葉の生産性を維持しながら,開葉数の増加とともに当年枝の長さの増加を実現させていると言える。いずれの場合でも,葉の機能に顕著なストレス(ダメージ)は検出されず,ダケカンバは形態や機能の可塑性によってササの有・無のそれぞれの条件下で適応的に振る舞っていることが分かった。

本研究によって,1)寒冷地の夏緑樹の光合成特性,2)下層植生の除去による上層林冠木の機能の改善,そして3)下層植生と上層林冠木の共存メカニズムが明らかにされつつある。

(II)陸面物理過程と植物生長動態の相互作用に関する多層統合モデルの開発

はじめに

植物は、大気および土壌と相互作用を行いその結果、エネルギー・水・物質の循環が行われ陸上生態系が形成される。今日、人口増加や工業化などの人間活動および環境変化が陸上生態系に及ぼす影響が重大な問題となっている。陸上生態系の変化は、陸面における熱・水収支や微気象に影響を与え、気候システムの変化をもたらす。本研究の目的は、陸上生態系と気候システムのこれらのフィードバック過程を地域およびグローバルなスケールで解明することである。

モデル

まず、プロット・スケールにおいて植生動態と物理環境(気象)の変動を記述する統合モデルMINoSGI (Multi-layered Integrated Numerical Model of Surface Physics - Growing Plants Interaction) を開発した。このモデルでは、植物群落における微気象モデルと植物群落のサイズ構造動態モデルが統合されている。実際の樹木群落のデータを用いてこの統合モデルの有効性について検討を行った。我々の最終目標は、この統合モデルとGCMを結合し、グローバル・スケールに展開することである。

(1)植物群落における微気象モデル

このモデルは、垂直一次元多層キャノピー・モデルであり、土壌−植物−大気系における微気象を記述する。このモデルは以下のようなプロセスを考慮している:

(2)植物群落におけるサイズ構造動態モデル

このモデルは、植物個体の生長と枯死の結果としての植物群落のサイズ構造の変化を記述する。サイズ構造の変化は「連続の式」で与えられ、実生の新規加入の過程はその境界条件として与えられる。植物群落微気象モデルは、気象データから各サイズクラスの植物個体の光合成速度を計算する。これらの結果は、植物群落サイズ構造動態モデルに取り込まれ、次の時間ステップでの植物群落のサイズ構造が計算される。この新しいサイズ構造は再び植物群落微気象モデルに取り込まれ、植物群落における次の時間ステップでの物理環境およびそれらに対応する植物個体の光合成速度が計算される。以上のプロセスにより、植生動態と気候変動の相互作用が記述される。

結果と考察

我々の統合モデルを検証するために、まずは常緑針葉樹であるスギ(Cryptomeria japonica)林のデータ(名古屋大学演習林)を用いた。これは、1982年から1988年(樹齢、20から26年)までのスギ個体の生長のデータである。このデータの詳細は、勝野氏の名古屋大学農学部・博士論文(1990)に与えられている。樹木個体のアロメトリー関係、光合成速度、呼吸速度、個体の生長速度など必要なデータはすべてこの学位論文から採用した。また、このスギ林の近くの気象データも入手した。

1983年のサイズ構造を初期値として、我々の統合モデルに基づき5年間におけるスギ林のサイズ構造の変化をシミュレートした。植物群落微気象モデルにおいては、数値解析の時間ステップは1時間とし、植物群落サイズ構造動態モデルにおいては1日とした。シミュレーションの結果は、実際に観測されたスギ樹高のサイズ分布を非常によく再現していた。我々の統合モデルは、このように植物群落における生長動態と陸面物理過程の相互作用をよく記述しているモデルであると言える。

上記(I)で観測・調査しているダケカンバ林すなわち寒冷圏の落葉広葉樹林にこのモデルを適用するために、落葉および開葉のプロセスを取り入れたMINoSGIを現在開発中である。


COE研究プロジェクト
オホーツク海及び周辺陸域における大気─海洋─雪氷圏相互作用(平成8年〜平成12年度)

1.オホーツク海研究

高緯度海域に広く分布する海氷が、世界の気候に大きな役割を果たしている事はよく知られている。なかでも、オホーツク海は地球上で最も低緯度に位置する海氷域であり、地球温暖化の影響が最も顕著に現れる場所として、近年特に注目されている。また、オホーツク海は北太平洋中層水の起源水域であり、二酸化炭素の吸収域、高生物生産域など物質循環の見地からも重要な海域である。

しかし、オホーツク海はこれまで観測が少なく、何故そのような低緯度で海氷が形成・発達できるのか等、基本的な問題が未解決である。本研究では、ロシアの協力によりロシア船を用いたオホーツク海ほぼ全域の海洋観測、ロシア航空機を用いた冬季海氷域上空からの大気・海氷観測、砕氷船「そうや」を用いた海氷域現場観測(水路部との共同観測)など、実際の現場での観測を中心に、リモートセンシング、モデリングなどの手段を総動員して、海氷の消長過程、北太平洋中層水起源水の生成機構、海氷変動とそのインパクト、大気ー海洋相互作用などを明らかにし、オホーツク海における海氷の実態と気候システムにおける役割の解明をめざしている。

得られた数多くの貴重なデータについては、現在その解析がの解析が精力的に進められており、最終的な成果の公表には、今しばらく時間を要するが、現在までに明らかになったことの一部を以下に紹介する。

1)海洋循環

最大の成果は、今まで「まぼろしの海流」とも言われ、その実態が不明であった「東樺太海流」の存在を初めて確認し、その季節変動を明らかにしたことである(詳細は、2)を参照)。この係留による「オイラー的」海洋循環の観測と平行して実施した、アルゴス海洋漂流ブイ(計20基)によるラグランジェ的観測からも、サハリン東岸沖の陸棚にほぼ定常的な0.2ー0.3m/s程度の強い南下流が等深線に沿って存在することが分かった。

全体的な循環としては、反時計回りの循環と西岸強化流としての東樺太海流の存在が顕著であった。また、南部の千島海盆域では時計回り循環が卓越し、その内部に100kmから150kmスケールの高気圧性渦が数個、ほぼ決まった位置に存在することが分かった。また、太平洋に流出したブイのほとんどが、ブッソル海峡を通過したことから、オホーツク海水の太平洋への流出は、ほぼブッソル海峡を通じて起こっていることが示唆された(詳細は3)を参照)。

また、PALACEフロートを用いて、中層循環も調べているが、基本的には表層循環とほぼ似たパターンであることが明らかにされつつある。さらに、この観測から、オホーツク海では初めての結氷に至るまでの冬季混合層の深まりについての直接観測にも成功している(詳細は省略)。

2)東樺太海流の空間構造および季節変化

今まで「まぼろしの海流」と呼ばれていた、東樺太海流の長期流速計係留系による観測を実施し、その存在と季節変動を初めて明らかにすることができた。係留観測は、サハリン東岸沖の海域で計10ケ所に係留系を設置し、1998年から2年間にわたって実施した。その結果、サハリン東岸沖の全ての係留点、全ての深度において、等深線に沿って南下する流れが卓越し、その強さは、冬最大(約35cm/s)、夏最小の顕著な季節変化を示した。これら流速データから見積もられた南下流の流量は2月に最大値12.3Svをとり、1998年7月から翌年6月まで1年間の平均流量は6.6Svであった。また、これら南下流において、夏のアムール河流出水による低密度水と冬季海氷形成にともなって生成する高密度水による密度流の存在も観測で捉えることが出来た。

3)ブッソル海峡における北太平洋との海水交換量の観測

オホーツク海は、近年、内外の研究者の注目を集める北太平洋中層水(NPIW)起源として、太平洋循環に赤道域まで及ぶ広い影響を与えていることが明らかになってきている。このオホーツク海と北太平洋の海水交換は、両者を隔てる千島列島に存在する数十の海峡を通じて行われる。これらの海峡のほとんどは深度1000m未満の浅い海峡で、中層に影響を与えると考えられる深い海峡は2つしかない。本研究では、その最大の海峡であるブッソル海峡で集中観測を実施した。

実は、ブッソル海峡では1998年から1999年にかけて係留系観測を実施したが、予想をはるかに越えた強力な潮流の影響のため、充分なデータは取得できなかった。そこで、時期は限られるものの、潮流の影響も考慮した空間的に高分解能な流速測定を、降下式音響ドップラー流速計(LADCP)を用いた観測を2001年9月に実施した。その結果、潮流の影響を除いた定常流としては、海峡のほぼ全体で、表面から1000m深までは、オホーツク海から太平洋に流出していることが分かった。また、いわゆる北太平洋中層水の起源となる水がこの海峡を流出した後、北海道沖にまで達していることも平行して実施した観測から明らかになった。

また、特筆すべきは、海峡の南西側の1000mをこえる深度に 、1 m/s以上の強い日周潮が観測された。これほどの深さで、これほど大きな潮汐が観測された例は極めてまれである。

4)物質循環

2001年度には、2000年度にクロモフ号の航海で採取した水柱中の溶存・懸濁有機物試料、および時系列セジメントトラップ試料の分析を進めた。その結果、陸棚高密度水の流出に伴う有機物の大陸棚から外洋への輸出過程、アムール河から外洋表層水の何倍にもなる著しく高濃度の溶存有機物が流入し、それがオホーツク海北西部の高生物生産性に寄与していること、さらに、粒子の沈降・堆積過程での有機化合物の選択的分解とその古海洋学的意味(詳細は省略)などが明らかとなった。

5)航空機を用いたオホーツク海氷上の大気境界層観測

観測は、2000年2月9日、14日、18日の計3回、それぞれサハリンの南部、中部、北部の三ケ所で、いずれも三層(100m、500m、800m)の高度で行われた。このような総合的な航空機観測がオホーツク海上で実施されたのは初めてであり、季節海氷域上での気団変質過程を理解する上で非常に貴重なデータを取得することができた。まだ、解析中の段階であるが、現在までに明らかになったことは以下の通りである。ビデオ観測から得られた高分解能の海氷密接度と乱流熱フラックスの関係から、海洋から大気への熱フラックスは、リードと海氷とでは、前者の方が100倍大きいことが分かった。寒気吹流し時の海氷域(沿岸から氷縁まで300km)における気温と水温(結氷温度)の差を、リード幅の積算値の関数で調べたところ、風下方向35kmまでは直線的に減少することが分かった。ところが、35kmを越えた氷縁域にくると、ある臨界幅以上の大きなリードの存在によって、対流活動が盛んになり、大気境界層が厚くなり、結果的に雲の発生をもたらすことになる。このような現象をともなう氷縁域では、従って、温度差はほとんど変化が無くほぼ一定であった。この結果から、ポリニアやリードでの新生氷の形成とそれにともなう海氷域の発達を理解する上で、この風上側に無数に存在する細長いリードすべての幅の積算値は重要なパラメータになることが示唆された。

6)リモートセンシングによる海氷研究

SSM/Iマイクロ波データを用いた、かなり高精度の「海氷の漂流速度」の導出に成功したことから、それを用いることにより、北半球全体(北極海を除く)の海氷域の変動機構が明らかになった。例えば、バレンツ海、ベーリング海、オホーツク海の海氷域の発達は、風による海氷の移流でほぼ説明できるが、ラブラドル海やグリーンランド海の海氷域は、海流場にかなり影響され、風速の変動に依存しないことも分かった。また、オホーツク海の海氷域の年々変動については、ほとんどは風の場に依存するが、2002年の場合のように、海氷域の極端な拡大には、結氷前の秋の表面水温分布が大きく関与することも明らかになった。



北海道大学 低温科学研究所