ILTS

低温研ニュース

2006年12月 No.22

衝突

 半径0.1µmの氷粒子512個からなる塵(ダストアグリゲイト)の衝突シミュレーション結果。アグリゲイトの構造は、低速度(∼0.4m/s)ではほとんど変形せず、ある程度の速度(∼9m/s)でコンパクトになり, 高速度(∼50m/s)で破壊される。

目 次

Research 研究紹介
塵の衝突シミュレーション
和田 浩二(低温基礎科学部門)
Study of the temperature gradient metamorphism of snow by using microtomographic images
フレデリック・フリン(元低温基礎科学部門)
Report 報告
北大・環境科学院・スイス氷河実習
杉山  慎(寒冷陸域科学部門)
Administration Office 平成19年度共同研究・研究集会公募について/会議開催報告/人事異動

北海道大学低温科学研究所
http://www.lowtem.hokudai.ac.jp/

低温研ニュース第22号
(北海道大学低温科学研究所広報誌)
発  行 北海道大学低温科学研究所 所長
〒060-0819 札幌市北区北19条西8丁目
編  集 低温研ニュースレター編集委員会
編集委員 渡部直樹・的場澄人・事務部共同利用担当
(ご意見・お問い合わせ、投稿は編集委員まで)
TEL (011)706-5465、FAX (011)706-7142

Research … 研究紹介

和田浩二

塵の衝突シミュレーション

和田浩二(低温基礎科学部門)

 冥王星が惑星の分類から外され、世間の注目を集めたことは記憶に新しい。惑星を再定義したことは太陽系の進化過程の理解が進んだ成果ともいえるが、では惑星を始めとする太陽系天体はどのように形成されたと考えられているのだろうか?近年確立されつつある惑星形成論によれば、まず原始惑星系円盤において、沢山の粒子(一つ一つはµm以下のサイズ)が凝集した塵(ダストまたはダストアグリゲイトと呼ぶ)が、衝突や重力不安定によって付着成長し、やがて数kmサイズの微惑星が形成され、さらに微惑星が合体成長することで惑星が形成される、というシナリオが有力である。このシナリオは多くの研究に裏付けされたものではあるが、実はダストから微惑星が形成される過程には不明な点が多く、惑星形成論の大きな問題点となっている。ダストが微惑星にまで成長する過程では、その密度や断面積といったダストの構造が、円盤中でのガス抵抗や衝突速度などに影響し、ダストが付着成長できるかどうかを左右する。したがって微惑星形成を論じる上で、ダストアグリゲイト同士が衝突した結果どういう構造となるのか、その構造進化過程を明らかにすることが重要となっている。

 ダストアグリゲイトの構造進化を明らかにすべく、これまでにアグリゲイト同士の衝突の数値シミュレーションが行われてきた。そのシミュレーションは粒子間相互作用を考慮しながらアグリゲイトを構成する粒子一つ一つの運動を計算するものであり、計算コストが非常に大きい。そのため、過去に行われた研究では40個の粒子からなるアグリゲイトで2次元衝突を扱ったものに過ぎず、3次元多数の粒子からなるアグリゲイトの構造を論じるうえでは不十分であった。そこで我々のグループでは、最近の計算機能力の向上を踏まえて、3次元・多数の粒子からなるアグリゲイト同士の衝突を数値シミュレーションすることで、ダストアグリゲイトの構造進化モデルを確立することを目指している。

 シミュレーションを行うための数値計算コードにおいては、粒子間相互作用、すなわち粒子間の圧縮引張・滑り・転がり・捩れの各自由度に対して働く力、を如何に記述するかが重要となる。ダスト粒子は小さいために表面張力が効く。そこで表面張力が作用する弾性球に対する粒子間相互作用モデルを用いて、我々はエネルギー保存の極めて良い数値計算コードを開発した。数十Kといった低温環境の原始惑星系円盤においては、ダスト粒子は岩石成分のほか、氷も主成分である。したがって、石英または水氷からなる半径0.1µmの粒子を最大2000個程度付着させたアグリゲイトをあらかじめ用意し、それらの衝突シミュレーションを行っている。とくに、衝突したアグリゲイトの構造がその衝突エネルギーによってどれだけ圧縮・破壊されるか、に注目し、その構造変化の物性依存性や粒子数依存性を明らかにしようと試みている。

 図1は、シミュレーション結果の代表的な例を示したものである。衝突エネルギーが小さいうちは、アグリゲイトはほとんど変形せずに「ふわふわ」なままの構造を維持するが、衝突エネルギーが大きくなるにつれ変形・圧縮され、やがて破壊されてしまう。

 アグリゲイトの圧縮度合いは、全体の大きさや接触点数の変化によって定量的に評価出来る。多数のシミュレーションの結果、それらの変化の仕方は物性や構成粒子数に依らず、粒子一つあたりの衝突エネルギーと粒子を転がすのに必要なエネルギーの比のみで決まることが示された。また、物性によってどこまでコンパクトに圧縮できるかに差が見られた(氷のアグリゲイトのほうが石英のアグリゲイトに比べよりコンパクトになるなど)が、それも唯一つのパラメーター(粒子を転がすのに必要なエネルギーと引き剥がすのに必要なエネルギーの比)のみで決まることが示された。このようにアグリゲイトの変形・圧縮が少数のパラメーターのみで記述されることは、より簡便なダストの構造進化モデルが構築できると期待させるものである。ただし、アグリゲイトの破壊に関しては、大きな(構成粒子数が多い)アグリゲイトほど破壊されにくい、という結果が得られつつある。これが本当ならば、ダストが大きくなるにつれ破壊が生じにくくなりより効率的に成長できることを意味し、ダストの成長と微惑星形成過程に対して重要な示唆を与えることになろう。

 以上で紹介した結果は、アグリゲイトの正面衝突の結果得られたものである。一般的には衝突方向がずれたオフセット衝突になると考えられ、その影響も評価する必要がある。また、実際に何度も衝突を繰り返した果てにどう構造が変化(進化)していくのか、も当然扱わなければならない問題である。今後はそのようなシミュレーションも行うことで、より一般的なダストアグリゲイトの構造進化モデルが得られると期待される。

(a) Eimp = 1.1 Eroll

図1a

(b) Eimp = 0.14 nk Eroll

図1b

(c) Eimp = 4.1 nk Ebreak

図1c

(d) Eimp = 13 nk Ebreak

図1d

図1:128個の石英粒子からなるアグリゲイト同士の2次元正面衝突シミュレーション結果の例。衝突エネルギーEimpが大きくなるにつれて、(a) 変形開始、(b) 最大圧縮、(c) 一部が剥がれる、(d) カタストロフィックな破壊、といった違いが見られる。(Erollは粒子を転がすのに必要なエネルギー、Ebreakは粒子を引き剥がすのに必要なエネルギー、nkは衝突前のアグリゲイト中の全接触点数をあらわす)


Research … 研究紹介

フレデリック・フリン

Study of the temperature gradient metamorphism of snow by using microtomographic images

Frédéric FLIN(元低温基礎科学部門,学振外国人特別研究員)

During a snowfall, the snow crystals accumulate on the ground and gradually form a complex porous medium constituted of air, water vapour, ice and sometimes liquid water. This ground-lying snow transforms with time, depending on the physical parameters of the environment. This process, called metamorphism, can be divided into three main types: the wet snow metamorphism, the isothermal metamorphism, and the temperature gradient (TG) metamorphism.

Among these different kinds of metamorphisms, the last one is probably the most interesting. Typically occurring by cold and clear nights, when the TG between the top and the bottom of the snow layer is high, this metamorphism is characterized by the formation of facets at the bottom of the grains, while upper parts remain rounded (Yosida et al., 1955; Colbeck, 1983).

Since the TG metamorphism may be the source of weak layer formation in the snow cover, its study has major issues in avalanche sciences, and is an active research field in snow and ice community. Despite of this interest, the TG metamorphism remains quite poorly understood. In particular, two fundamental questions have not really been solved. First, what is the driving force of the matter exchange in the ice matrix and what are the associated mechanisms? Second, what determines practically whether well-rounded or faceted shapes can appear?

These two questions have been addressed and partly solved by Colbeck twenty years ago, but the results where based on 2D observations and very simple approximations on the snow geometry. In our approach, we wanted to use high-resolution 3D snow images obtained by X-ray microtomography in order to revisit these questions by taking into account the real geometry of the snow structure.

We first proposed a simple model that estimates locally the interfacial matter fluxes in a snow sample submitted to temperature gradients. This model is based on the description of three main physical mechanisms:

Practically, the proposed model can determine locally whether the ice is condensing or subliming, just depending on both the temperatures in the snow and the mean curvatures of the ice/pore interface. It can also explain the location of facets that appear during the metamorphism: faceting occurs on grains undergoing condensation while their sublimation triggers rounding.

Fig.1

Fig. 1 Simplified model of TG metamorphism: the upper (respectively lower) grain is colder (warmer) than the surrounding vapour. It leads to condensation (sublimation) on the grain surface.

In order to check the validity of this model, we submitted snow samples to different temperature gradients (3 to 16 K/m, around -3°C), and obtained 3D images of the metamorphosed snow structures by X-ray microtomography. The obtained images were first used to estimate the curvature and temperature fields in the samples. By using these 3D numerical fields, we could then compute the local matter fluxes at the interface, and deduce the location of the sublimation and condensation sites. We finally checked that faceting happens for grains undergoing condensation while rounding occurs for grains submitted to sublimation (see Fig. 2), as suggested by our model.

Thanks to X-ray microtomographic images of snow samples obtained under moderate temperature gradient conditions, the validity of this model has been checked. This offers interesting outcomes for the numerical simulation of the temperature gradient metamorphism.

References

Colbeck S. C., J. Geophys. Res., 1983, 88, No. C9, 5475.

Flin F., J.-B. Brzoska, B. Lesaffre, C. Coléou and R. A. Pieritz, J. Phys. D: Appl. Phys., 2003, 36, No 10, A49.

Flin F., J.-B. Brzoska, R. A. Pieritz, B. Lesaffre, C. Coléou and Y. Furukawa, Proc. 8th Int. Conf. X-ray Microscopy, IPAP Conf. Series, 2006, 7, 306.

Flin F., J.-B. Brzoska, R. A. Pieritz, B. Lesaffre, C. Coléou and Y. Furukawa, Proc. 11th Int. Conf. Physics and Chemistry of Ice, Royal Society of Chemistry, in press.

Yosida Z., H. Oura, D. Kuroiwa, T. Huzioka, K. Kojima, S. Aoki and S. Kinosita, Contrib. Inst. Low. Temp. Sci., 1955, 7, 19.

Fig.2

Fig. 2 Map of the computed sublimation and condensation zones for a snow sample submitted to a TG of 3 K m-1. Condensing parts are faceted while subliming parts are rounded as forecasted by the model. Edge size of the volume: 300 voxels ≈ 3 mm. Some 2D cuts extracted from the 3D volume are represented on the right side of the figure. The top (respectively, the bottom) of the images corresponds to the lowest (highest) and warmest (coolest) side of the physical sample.


Report … 報告

杉山慎

北大・環境科学院・スイス氷河実習

杉山 慎(寒冷陸域科学部門)

スイス・アレッチ氷河ではじめての氷河観測を終えて、引き揚げてきた氷河実習参加者の写真です。この日は朝から風が強くて気温も低く、楽なコンディションではありませんでした。それでも観測を無事に終えて、3500mの薄い空気に息をきらしながら戻ってきた学生15人は、なかなか良い顔をしていると思いませんか?

ここでご紹介するのは、2006年5月に北大・環境科学院で実施されたスイス氷河実習です。この新しい野外実習は、タスマニア大学を中心に設立が準備されている国際南極大学のカリキュラムとして実現しました。2週間のプログラムには環境科学院から15名の学生が参加し、アルプスの氷河地形観察、スイス連邦工科大学やダボス雪・雪崩研究所の訪問、スイスの雪氷研究者による講義などを経験しました。中でも参加者に強い印象を残したのは、2日間にわたる氷河上での観測実習です。この観測を実現するために、高山病や低体温症、クレバスの危険について学び、ロープワークや心肺蘇生の訓練を受けました。また観測機材やスノーシューの使い方も事前に指導を受け、自分たちの手で梱包して輸送しました。その成果として得られたのが、アルプス最大の氷河・アレッチ氷河の涵養量、流動速度、積雪密度、レーダ探査による氷河内部構造などです。氷河の特性や最近の変動を示すこれらの貴重なデータは、学生自身の手で解析されて2006年11月の雪氷学会で発表されました。

自然現象を理解するために大切な姿勢のひとつは、その現象をよく見て、聞いて、感じることではないでしょうか。極地研究を志す世界の若者に、自然界の現象を間近で感じられるカリキュラムを提供していくことが私達の目標です。冬には北海道・サロマ湖での海氷実習が開催されます。ひとりでも多くの大学院生に、自然の中に身をおいて観察することの大切さ、そして楽しさを知ってもらえたらと願っています。国際南極大学、スイス氷河実習およびサロマ湖海氷実習の詳細をぜひこちらでご覧ください。 (http://wwwearth.ees.hokudai.ac.jp/IAI/)

Fig.1


Administration Office

平成19年度共同研究・研究集会公募について

 平成19年度共同研究・研究集会については,平成18年12月1日から募集を開始しています。
 詳しくは,11月下旬発送の公募要領又は共同研究のホームページを御覧ください。

会議開催報告

人事異動(平成18年6月2日以降)

日付 異動内容 氏名 職名(旧職)
18. 7. 1転入松田 拓巳庶務係(北大病院総務課人事係)
18.10.31転出持田 陸宏名古屋大学高等研究院特任助教授(助手)

北海道大学 低温科学研究所