1999年10月 No.8
「ウシュコフスキー氷冠(4000m付近)、カムチャッカ半島7月下旬」
白岩 孝行 撮影
藤吉 康志 (寒冷海洋圏科学部門)
我々は、数キロメートルから数千キロメートルの水平スケールを持ち、かつ降水、降雪をもたらす気象擾乱(通常、メソスケール雲システム)の生成・発達・維持過程を、観測および数値モデルの両面から研究を行っています。当面の目的は、局地気候の形成や、局地的水・エネルギー循環に果たす雲・降水システムの役割を定量的に明らかにすることですが、将来的には大気・海洋を結合した大循環モデルや気候モデルへの組み込みを考えています。とは言っても、研究に必要な時空間的に密な観測データはまだまだ不足していて、様々な観測プロジェクトに参加しながらデータ整理、解析に追われているのが現状です。今回は、研究室の活動紹介を兼ねて、短時間に狭い領域に集中する激しい気象擾乱の検出法に関する最近の話題を紹介します。
ご記憶に新しいと思いますが、アメリカのオクラホマ州で今年5月3日に発生した竜巻によって、多くの方が家や家族を失いました。現地からの報告によれば、この竜巻の強さはF5で、140 m/s以上の風速を記録したようです。竜巻の強さは、昨年亡くなられたシカゴ大学の藤田哲也博士が提唱された、通称「藤田スケール」で測られ、F0からF12まであります。これまで日本で報告された最大の竜巻の強さF4と今回のF5を、藤田博士は以下のように定義されています。
F4(93〜116 m/s、荒廃的被害):住屋バラバラになって飛散、弱い非住家は跡形もなく吹き飛び、1トン以上もある物体が降ってきて、ミステリーが起こる。
F5(117〜142 m/s、信じられない被害):人家が跡形もなく吹き飛び、立木の皮がはぎとられ、車や列車が飛ばされ数トンもある物体が、どこからともなく降ってくる。
もちろん、風速計などは吹き飛んでしまいますので、竜巻の中の風速を直接測定することはできません。倒れた木や、吹き飛んだ車や家の様子から推測している場合がほとんどです。ところが、今回はかなり正確に風速が測定されました。それは、ドップラーレーダーという、風速を測ることもできる気象レーダーで観測されていたからです。測定原理は、車やボールのスピードを測定するスピードガンと同様に、電波のドップラー効果を利用しています。オクラホマで夏に観測される竜巻は、通称スーパーセルと呼ばれる発達した巨大積乱雲から発生することが知られています。気象レーダーで竜巻が発生している雲をみると、鈎爪状のレーダーエコー(フックエコー)が見られます。アメリカでは、テレビ局専属の竜巻解説者や竜巻追跡のボランティアがいて、これまたテレビ局が所有しているドップラーレーダーの画像、空中や地上からの生の撮影画像を使って、緊急ライブを延々と続けます。それでも、5月3日のような惨事が起こるのは、竜巻の発生や進路予想がいかに困難であるかを物語っています。我が国では、竜巻による被害はアメリカに比べて数が少ないためか、竜巻を想定した防災準備はできていません。しかし、単位面積当たりの発生率はアメリカの半分程度で、必ずしも少なくはありませんし、我が国でもっとも竜巻襲来率が高い場所は東京近辺で、その値もアメリカに比べて決して低くはありません。
また、発達した積乱雲によってもたらされる災害は竜巻のみではなく、豪雨、降雹、落雷、突風、そしてこれも藤田博士が見出したダウンバーストも起こります。このダウンバーストは、雲の底から冷たい空気の塊が地上に向かって落下する現象で、強い下降気流と地上で強い発散流を伴うことが特徴です。この現象の発見が、航空機墜落事故の調査の過程で見出された経緯もあり、ガストフロントと呼ばれる突風と、ダウンバーストの早期検出を目的とした航空気象ドップラーレーダーが、各地の空港に設置されつつあります。ガストフロントやダウンバーストは、何れも風向、風速の時間・空間的急変に対応した現象ですので、雨の強さを測る通常の気象レーダーではその存在を探知できません。そこで、風速を測定できるドップラーレーダーで監視を行うわけですが、ドップラーレーダーでは、レーダーに向かう風の1成分しか測ることができません。水平風向と風速を正確に測るためには、少なくともあと1台のドップラーレーダーが必要です。我々の研究室では、昨年の夏から柏原市にある大阪教育大学のキャンパスに移動型ドップラーレーダーを設置して、大阪管区気象台と関西航空地方気象台と共同で、大阪平野周辺に発生する激しい気象擾乱の調査・研究を開始し、これまでにダウンバーストの3次元的構造の時間変化を捉えることにも成功しています。
大阪平野で観測を行う最大の理由は、関西航空気象台のドップラーレーダーとの共同研究観測にありますが、それ以外に2つの理由があります。ひとつは、淀川チャンネル沿いに出現する停滞性の降雨バンドの研究で、もうひとつは熱帯降雨観測衛星(TRMM:Tropical Rainfall Measuring Mission) に搭載された降雨レーダーの地上検証です。淀川チャンネル降雨バンドは、ほぼ同じ場所に長時間停滞して存在するため、しばしば大阪平野に大雨をもたらします。これまでの研究によれば、この降雨バンドの形成維持には、単に湾から平野に侵入する気流のみではなく、東西南北のあらゆる方向から侵入する気流が重要であることが指摘されています。2台のドップラーレーダーを用いた観測は、このような複雑な気流系と降雨バンドの形成維持機構との関係を明らかにするために大変有力であると言えます。
一方のTRMMですが、この衛星の主目的は、これまで測定が困難であった赤道域の、主に海上の降水量とその鉛直分布を測定することにあります。そのため、TRMMに搭載された降雨レーダーの較正と、雨量の見積もり精度を地上で検証するという必須作業が、世界各地で行われています。この降雨レーダーの水平分解能は約4kmですので、地上の雨量計も少なくとも4kmグリッドに配置されていると雨量の検証が容易です。大阪教育大学では、独自に十数台の雨量計を約6kmグリッドで大阪平野に展開しています。アメダスや建設省の雨量計と組み合わせたこのように稠密な雨量観測網は、まさにTRMMの地上検証に最適であるばかりではなく、もう一つの研究目的である降雨バンドによる集中豪雨のような、狭い領域での降雨を検出することが可能です。
TRMMの軌道の北限は、大阪平野のやや北にありますので、より以南でTRMMの地上検証が行われています。我々も今年は沖縄県の宮古島にドップラーレーダを設置して、宇宙開発事業団(NASDA)のドップラーレーダーとの同時観測を5〜6月に実施しました。TRMMの通過を待つ或る日の朝方、川島助手が周りを見渡したとき、発生中の竜巻に気づきました。発見から消滅まで時間にして約10分弱程度ですが、比較的近距離(約10km以内)に発生したこと、地上(海上?)にまで竜巻が達したこと、それを研究者が目撃してビデオ撮影したこと、近距離で気象ゾンデ観測を行っていたこと、そして2台のドップラーレーダーで観測していたという幸運が重なり、恐らく我が国では初めての貴重なデータが得られました。もちろんオクラホマ大学の研究者達は、このようなデータを数多く取得しているのですが、我々が観測したケースは、スーパーセルから発生した竜巻ではなく、寒冷前線上に発生する比較的背の低い対流性の雲から発生した点が異なっています。気象台の方に伺うと、宮古島ではこのような竜巻はよく見られるとのことで、私が約25年前の冬に同じ宮古島で行った観測に参加したときにも目撃しています。現地語では「てんばう」(天の蛇)と呼んでいた記憶があります。
ところで、夏の風物詩と考えがちな、雷や竜巻が、実は我が国では冬の日本海側にも多いことが分かっています。それも、1回の落雷による放電量が夏の雷を遥かに凌ぐ、スーパーボルトと呼ばれる現象や、落雷の際に運ぶ電荷の符号が夏の雷と逆という正極性落雷など、豪雪以外にも興味深い現象が多々あります。また、冬の日本海側、特に能登半島沿岸では、冬の雷と同時に、竜巻が多く報告されています。今年の冬にもNHKのカメラマンが偶然撮影した能登半島沖の竜巻がテレビで放映されました。丁度、オクラホマ大学で竜巻の研究を行っているワーマン助教授が客員助教授として本研究所に滞在されていましたので、研究用としてNHKから頂いた編集前のビデオ画像、気象庁のレーダー画像や静止気象衛星「ひまわり」画像などとりあえず入手できるデータを集めて発生原因について議論しました。レーダー画像を見ますと、これまでの冬の竜巻に関する研究と同様に、寒冷前線付近に形成された背の低い対流性の雲から発生していたことが分かりました。しかし、竜巻を発生させた雲と他の雲とは、レーダーエコー画像からはほとんど区別できません。この点も夏のスーパーセルからの竜巻と異なっています。この竜巻については、それ以外に有力な観測データが入手できていませんでしたので、その後解析作業がすすんでいなかったところに、先ほどの宮古島での竜巻観測の報告が入りました。とりあえず入手できたデータをみると、冬の竜巻と同様に、このケースも非スーパーセルタイプの雲から発生していたことが分かりました。
ところで、ガストフロント、ダウンバースト、竜巻など、小さなスケールで起こる強烈な気象現象に対して先ず望まれることは、どれだけ早く現象を探知して警報を出せるかということにあります。複数のドップラーレーダーを用いた観測データから気流の3次元構造を求める現在の我々のやり方は、各レーダーのデータをオフラインで1箇所に集めてから作業を行うため、とても短時間予報には使えません。1台のドップラーレーダーのみを用いた検出アルゴリズムも、残念ながら原理的に限界があります。ところが最近、1台のドップラーレーダーで、かつほぼリアルタイムに水平風を求める方法が、上記のワーマン助教授らのグループによって考案されました。バイスタティックシステムと呼ばれるこの方法は、送受信を行う1台のドップラーレーダー(親局)と、受信のみを行う複数の子局から構成されています。測定原理を簡単にまとめますと、雨滴などによって散乱された電波のドップラー情報を親局と子局の両方で同時に受け,子局はその情報を電話回線などで親局に通信し、親局で信号処理して水平風を計算するというものです。もちろんこの方法でも、感度が低いため観測範囲が狭く水平分解能が低いという欠点はありますが、これまでの観測法よりも原理的に優れた点が他にも数多くあります。我々のドップラーレーダーも今年度中にバイスタティックシステムに変更し、これまで通り関西航空地方気象台とのデュアルドップラーレーダー観測を継続すると共に,バイスタティックシステムによるリアルタイム観測データとの比較も行う予定です。
古川 義純(雪氷相転移ダイナミクス研究グループ)
雪氷に関連した様々な自然現象は、結晶の成長や融解に代表されるような相転移現象に伴って起こる場合が多い。降雪現象、氷河の流動・発達、氷晶のダイナミクス、凍上現象、積雪構造の変動等、さらに酸性雪の生成やオゾンホールの発達など、雪氷の相転移現象に密接な関連を持つ現象は数多く存在する。当グループでは、このような現象を視野におきながら、氷の表面・界面の分子レベル微細構造および相転移現象のダイナミクスに関する基礎的研究を実施している。この研究は、雪氷に関する諸現象の最も基礎的な部分に属するが、一方で物性物理学や結晶成長学等の基礎科学の重要な問題でもある。以下に主な共同研究の内容を紹介する。
まず、氷の結晶成長機構と成長に伴うパターン形成の研究である。これは、氷結晶の表面や氷/水界面の構造を分子レベルで明らかにし、非平衡での表面・界面挙動を解明することを目的とする。氷結晶の表面融解や氷/水界面での水分子の取り込みプロセスの解明など、表面・界面の詳細な研究を行っている。一方、結晶のパターン形成を理解するには、パターンの時間発展をどの様にモデル化するかも重要な視点である。本研究は、学振日米科学協力事業と科研費国際学術研究(現:基盤研究B)の援助を受けて国際共同研究として実施している(1998〜2001)。前者は、氷表面や界面の分子レベルでの構造、後者はパターン形成モデルに関する視点で研究を実施し、この問題の総合的理解を目指している。
一方、従来は定数であった重力値を変化させると、同じ現象であっても、全く異なる側面が浮き彫りになる場合がある。このような視点から、雪氷に関する様々な実験を微小重力環境を利用して実施している。例えば、1998年には、パターン形成に対する微小重力効果の解明を目指し、宇宙開発事業団のTR1Aロケット7号機による、氷の自由成長の宇宙実験を実施した。宇宙での氷結晶の成長に初めて成功するとともに、樹枝状結晶の3次元パターン発展に関する重要な結果が得られた。この成果は、現在建設中の国際宇宙ステーションで実施が計画されている、氷の結晶成長の長時間微小重力実験に生かされている。
また、宇宙環境利用に関する地上公募実験((財)日本宇宙フォーラム)による、非平衡での氷/水界面現象のメカニズム解明に焦点を当てたプロジェクトも進行中である(1997〜2002年)。これは、非平衡での氷/水界面における様々な現象(例えば、界面での熱・物質拡散場と成長機構、核生成、界面での不純物吸着、界面化学反応など)のダイナミクスを分子レベルで解明することを目指している。特に、これらの現象が重力と関連するかどうかが本プロジェクトの焦点のひとつで、航空機や落下塔による短時間微小重力実験なども積極的に実施している。
このほかにも当グループでは、文部省科研費、宇宙科学研究所共同研究、低温科学研究所特別共同研究などの共同研究を実施しており、研究推進の原動力となっている。雪氷に関する相転移の研究は、地球科学、環境科学、さらには生命科学など極めて幅広い分野に関連が深い。今後、これら研究分野の基礎研究としての役割を果たせるような研究展開を計っていきたい。
過冷却したD2O水から成長する樹枝状結晶周辺に観察された熱拡散場(微少重力実験)。左図は干渉縞画像で樹枝状結晶を横から見ている。右図は干渉紋解析により得られた熱拡散場を示す。
塩を含む過冷却水からの氷結晶成長の微少重力実験。重力下(左図)では排斥された高濃度塩分水による対流が発生するが、微少重力下(右図)では対流が消失し物質拡散場が明瞭に観察される。
池田倫子・本堂武夫(寒冷陸域科学部門)
極地氷床は、降り積もった雪が過去数十万年にわたって堆積し、氷化したものである。そのため、過去の大気成分等を含んでおり、気候と環境の変動を研究する上で極めて有用な試料である。氷床中の空気分子は、氷床浅部では気泡として存在するが、深層部では包接水和物結晶に取り込まれる。包接水和物結晶と気泡は、長期間にわたる変遷期(transition zone)の間、氷中に共存している。気泡から包接水和物結晶への変遷は、氷床中の空気分子の分布と組成に影響を及ぼす可能性がある。したがって、この変遷過程の解明は、氷床氷コアから過去の大気組成を高精度で復元するための重要な課題であると考えられている。
本研究では、広深度域(83−3316m)にわたる南極Vostok氷コア中の気泡と空気包接水和物結晶のラマンスペクトルの測定をおこなった。[1] その結果、気泡と包接水和物結晶のN2/O2組成比は、transition zoneにおいて深度と伴に変化することを発見した(図参照)。この現象を理解するために、氷格子中の気体分子の拡散モデルの構築をおこない、モデル計算を行った結果、気泡と包接水和物が共存する氷中では拡散流が生じて空気分子の分布が変化すること(空気分別現象)が明らかになった。
空気分別現象は、N2、O2のみではなく、CO2等の他の空気分子においても生じていることが予測される。氷床氷中の空気分子の拡散は、数ミリ程度の狭領域で生じる現象であるため、非常に長いタイムスケールでの大気組成の変化には大きな影響を及ぼさない。つまり、過去の大気組成復元の貴重な試料としての氷床氷の価値に変りはない。しかしながら、氷床コア氷から過去の大気組成を高精度、高時間分解能で復元するためには、空気分別現象の効果を考慮することが非常に重要であると考えられる。我々は、氷床中の空気分子の分布の変化過程の理論モデルを基に、氷床中の空気分子の挙動を明らかにし、氷床コア解析による精密な大気組成復元法を確立しようとする研究を進めている。
[1] T. Ikeda, H. Fukazawa, S. Mae, L. Pepin, P. Duval, B. Champagnon, V. Ya. Lipenkov, and T. Hondoh, Geophys. Res. Lett., 26, 91 (1999).
図:南極Vostok氷コア中の気泡と空気包接水和物のN2/O2組成比の深さプロファイル。[1] ▲は空気包接水和物のデータを、○は気泡のデータを示す。波線は大気組成比(3.7)を示す。
時期: | 2000年2月6日(日)〜2月10日(木) |
場所: | 北海道・紋別市(紋別市民会館、紋別市文化会館) |
主催: | 北海道低温科学研究所(文部省) オホーツク海・氷海研究グループ |
趣旨: | このシンポジウムは世界各国から海洋、気象、水産、生物、工学、環境、リモートセンシングなどの学際的分野の研究者・技術者が一堂に会して、地球環境、氷海寒冷海域での諸問題について論議するものです。とくにオホーツク海の解明、環境保全に焦点を置いた研究発表の場としたいと考えています。 |
会議の主題: |
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締め切り日: |
研究発表申し込み 1999年10月10日 発表申し込み、アブストラクト 1999年10月10日 要旨集原稿 1999年12月10日 |
シンポジウムへの申し込み・問い合わせ先: | |
〒094ー0013 北海道紋別市南が丘6ー4ー10 北海道大学低温科学研究所附属流氷研究施設 オホーツク海・氷海研究グループ事務局 白澤邦男 Phone: +81-(0)1582-3-3722 Fax: +81-(0)1582-3-5319 E-mail: kunio@pop.lowtem..., ... は .hokudai.ac.jp と読みかえる |
山田知充(寒冷陸域科学部門)
今回日本雪氷学会から1998年度学術賞が授与された「氷河湖の形成と決壊に関する研究」は1990年から1996年に亘って実施された国際協力事業団(Japan International Cooperation Agency, JICA)による国際援助の一環として行われたものでした。これは低温研が人材派遣の責任機関となって、雪氷分野の人材を後進開発国支援に派遣した最初の事例となりました。
あまり日本では話題になっていませんが、ネパールヒマラヤを始めアジア高山地域の谷氷河末端には近年になって大きな氷河湖が続々と形成され、これが小氷期のモレーンを破って決壊し、大きな洪水被害を頻発させています。こうした氷河湖決壊洪水(Glacier Lake Outburst Flood, 略称GLOF)は主に雨期に起こることから、当初は降雨による洪水と思われていました。1985年8月、エベレスト山麓のナムチェバザール付近で完成間近の水力発電所が技術者の目の前で流された洪水の原因がGLOFであることが分かってから、俄に注目され始めた雪氷災害のニューフェースです。ネパールヒマラヤでは氷河湖の形成がおよそ半世紀ほど前から始まり、1960年代中頃からGLOFの発生を見るようになりました。その後3年に1度以上の頻度で起こっています。昨年9月2日にも東ネパールのクンブー地方にあるSabai Tsho氷河湖の決壊による洪水被害が報告されています。近年の地球温暖化の影響が目に見える形で表れた現象の可能性があるとして注目されている所以です。
当初はヒマラヤ山中のどこに氷河湖があるのか定かでなく、氷河湖の実態に至っては全く未知でした。飛行機で飛び回って氷河湖の分布を調べ、危険な氷河湖を同定するなど手探りの調査が始まりました。氷河湖で初めて深さを測った時、用意した50mの巻尺が届かず、ありったけの紐を動員して100mにも及ぶ深さを確認した時、「まさかこんなに深いとは!」と些かたまげました。実態を調査した危険な氷河湖のうち、最も危険な氷河湖である東ネパールロールワリン渓谷のツォロルパ氷河湖を選んで、モレーンの内部構造や氷河湖の湖沼学的調査の傍ら、気象と湖水位、湖水から溢れ出す流量の観測を3年間に亘って継続し貴重なデータを得ることが出来ました。
これらの結果をまとめ、氷河湖決壊洪水防除対策を提言してネパールを離れました。幸い提言が受け入れられ、昨年はツォロルパ氷河湖下流域に早期警報システムが設置され、今年の5月からは湖そのものの無害化工事が開始されました。JICAによるGLOF案件の主目的は人材養成にあり、氷河など見たもともないネパールの若者を育てることが最重要任務でした。現在この工事現場には本案件で育った人材が活躍していることにいささかの誇りを感じています。
本案件開始当初は測器もネパール側人材も皆無でした。現地大使館やJICAの担当者、建設省、国立極地研の渡辺教授や名大大気水圏研の上田教授の後方支援を得て測器も整い本格的な観測を始めたときには既に2年が経過していました。修士論文としてツォロルパ氷河湖の調査に取り組んだ坂井亜希子君や山田に代わって派遣された名大大気水圏研の門田勤氏の頑張りとネパールヒマラヤ氷河研究グループの助けなしにはこの研究はとても成り立ち得ませんでした。お世話になった皆さんに心から感謝致します。
共同研究採択課題は,「平成11年度共同研究採択課題」を御覧ください。
日付 | 内容 | 氏名 | 旧職(現職) |
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11. 3.31 | 定年退職 | 伊藤 勝美 | 技官 |
任期満了 | 佐原 将彦 | 非常勤研究員 | |
任期満了 | 福井 晶子 | 非常勤研究員 | |
任期満了 | 坂巻 祥孝 | 非常勤研究員 | |
任期満了 | 五十嵐八枝子 | 研究支援推進員 | |
任期満了 | 谷 眞喜子 | 研究支援推進員 | |
任期満了 | 佐藤 円 | 第一研究協力室 | |
11. 4. 1 | 客員教授 | 大串 隆之 | (京都大学・生態学研究センター・教授) |
非常勤研究員 | 大西 敦 | ||
事務長 | 山内 正市 | 農学部附属農場事務長 | |
庶務掛主任 | 菅原 史子 | 工学部総務課研究協力掛主任 | |
庶務掛主任 | 飯田 厚志 | 法学部庶務掛 | |
会計掛主任 | 須戸 昭 | 経理部経理課施設営繕掛主任 | |
会計掛 | 山本 祐巳 | 獣医学部会計掛 | |
研究支援推進員 | 佐藤 卓 | ||
第一研究協力室 | 金子あかね | ||
第三研究協力室 | 佐伯 孝子 | ||
農学部附属演習林事務長 | 重金 昭雄 | 低温研事務長 | |
旭川工業高等専門学校人事係長 | 竹見 吉弘 | 低温研庶務掛主任 | |
文学部会計掛主任 | 水本 愛子 | 低温研会計掛主任 | |
経理部第一契約課付主任 | 脇 征治 | 低温研会計掛主任 | |
文部省併任 | 田中 夏子 | 低温研庶務掛 | |
文部省併任 | 小形 徳応 | 低温研会計掛 | |
工学部総務課図書整理掛 | 猿橋キヨミ | 低温研図書掛 | |
4.16 | 研究支援推進員 | 松田 佳恵 | |
4.30 | 辞職 | 山本 孝造 | 研究支援推進員 |
5. 1 | 外国人研究員(客員教授) | デイヴス,A, J | 連合王国 リーズ大学研究員 |
研究支援推進員 | 長尾 学 | ||
7.31 | 辞職 | 澤柿 教伸 | 非常勤研究員 |
8. 1 | 総務部人事課第一任用掛 | 田中 夏子 | 低温研庶務掛 |
外国人研究員(客員教授) | サス,ミクロス | ハンガリー Eotovos Lorand 大学教授 | |
非常勤研究員 | スーデック,スィルヴィアン | ||
9. 1 | 外国人研究員(客員助教授) | 郭 振海 | 中国北京大学講師 |