ILTS

雪崩事業費による研究の経緯と成果
外部点検評価報告

平成11年3月

目 次

はじめに
  1. 雪崩事業費研究の経緯と成果
    1. 雪崩の発生に関する研究
    2. 雪崩の運動に関するモデル実験
    3. 雪崩災害と雪崩分布の調査研究
    4. 高速雪崩の運動に関する野外観測
    5. 広域の積雪特性調査
  2. 外部点検評価
    1. 外部点検評価委員
    2. 外部点検評価の方法
    3. 外部点検評価
  3. 資料
    1. 雪崩事業費の推移
    2. 北海道大学低温科学研究所雪害科学部門教官
    3. 『雪害科学部門のあゆみ』

I. 雪崩事業費研究の経緯と成果

雪崩事業費は、1) 雪崩の発生機構と運動に関する基礎的研究、2) 雪崩防止工法の基礎的研究、および 3)雪崩地における造林、斜面の土壌崩落防止の基礎的研究、を主テーマに昭和40年度に予算化され、主として低温科学研究所雪害科学部門 (昭和38年度発足) の研究活動の中で支弁されてきた。包含する研究課題は、雪崩の発生と運動に関連する基礎的研究から、雪崩の防止や予測を直接の目的とする実用研究まで極めて広範であるが、雪崩事業費はそれらの研究の実施に有効に使用され多くの成果を生み出してきた。

研究が実施された主な課題を列挙すると、積雪斜面内の応力測定、しもざらめ雪の生成、雪崩発生状況調査、人工雪崩実験、積雪内弱層、積雪引張り試験、群杭による雪崩防止、等々であるが、これらの研究から得られた多くの成果は、内外の学術誌や報告書に発表され評価が与えられている。また、その中の幾つかは実際の雪崩関連の業務に利用されている。

昭和60年ころからは、雪崩の発生と運動に直接あるいは間接に関係する、雪害科学部門以外の部門の研究者も雪崩事業費に参加するようになったため、研究の幅と質は以前より更に広がり、また出版等の成果の量も増加することとなった。雪害科学部門によって実施された主に昭和61年 (1986年) 以前の雪崩事業費研究 (主として、1) および 2) の研究) に関する成果の要約と文献は『雪害科学部門のあゆみ (北海道大学低温科学研究所雪害科学部門発行、1986年)』に纏められている。この点を勘案し、本報告の第I章には過去10年 (1986年以降) に限って資料が収集されている。なお、本報告書第III章には『雪害科学部門のあゆみ』の主要部分を掲載した。

(執筆責任者:前野 紀一)

1. 雪崩の発生に関する研究

1-1. 目的

なだれ発生の研究は、なだれ予知を如何に効果的、且つ的確の行うかを目標としている。そのために、積雪を破壊に至らすまでの挙動とその破壊の核要因を知る必要がある。本研究は、気象条件で様々に変化する斜面積雪の内部応力、及び変形 (挙動) と弱層形成 (核要因)、及び物理過程の基礎的研究を行い、なだれ予知の構築をすることが目的である。

1-2. 経過

1986年までのなだれ発生に関する研究は、斜面積雪の内部応力、変形、破壊に関する観測と実験を中心に行われてきた。そして、1987年以降は、これまでの斜面積雪の挙動の研究を継続すると共になだれ発生の核に注目した研究に移行した。すなわち、雪崩発生の直接原因となる積雪内の弱層の形成条件、形成過程、強度の時間的変化と力学的不安定の推移に関する研究である。斜面積雪の挙動に関する基礎研究は一応の段階を終えたが、発生予知のためにその挙動を如何に連続で遠隔的に捉えるかという実用上の問題が残されている。一方、積雪内の弱層に関する研究は、次節で述べるように、その形成条件と形成過程、そして強度の研究が行われたが、形成後の発達・衰退過程とそれに伴う力学的不安定の推移の問題が残されている。

1-3. 成果

雪崩事業費に基づくなだれ発生に関する研究は、北海道大学農学部天塩地方演習林 (問寒別) の雪崩観測所を中心に展開された。特に、1990年以降は斜面積雪内の弱層形成の研究では、多くの事例観測と解析と共に形成成因が究明された。それらは、表面霜と霜ざらめがその後の降雪によって積雪内部に取り込まれ、弱層と化す過程とサン・クラストの形成がなだれ発生の滑降面となると共に表面霜と同様に弱層を形成することである。両者ともなだれ発生の重要な核である。これらの形成機構の研究は、雪崩観測所での野外観測と室内実験の両面から詳細に行われ、弱層のせん断強度の研究と共に国際的にも先駆けて行われたものである。そして、総観的 (synoptic) な気象情報から形成予知を得るまでに至り、国際的に高い評価を受けている。そして、これらは、雪崩発生予知をシミュレートするための重要因子に加えられつつあり、上記の二つの課題は、北海道大学の学位論文となった。また、雪の変形・破壊の研究は日本雪氷学会学術賞を受け、そして、シリコンの破壊とよく似た振る舞いをすることから金属学分野に多孔質金属の破壊の挙動に関する研究に貴重な情報を提供した。

1-4. 展望

なだれ発生機構の解明は、なだれ予知や防止対策に欠かせない重要な問題である。春先等に発生する全層なだれは地形的常習性を持ち、その防止対策に比較的対処し易い。現時点では、その防止のための基礎研究はおおよそ終え、その対策はコンサルタント事業に委ねられている。しかしながら、表層なだれは、発生が気象条件によって突発的であり、地形的常習性を必ずしも持っていない。そのために多くの基礎研究がまだ必要である。本雪崩特別事業費によるこれまでの研究によって、表層なだれの発生は積雪内の弱層形成が重要な点であることが指摘され、その形成機構の解明にかなりの研究成果を得たが、まだ多くの問題が残っている。それは、表面でできた弱層の核が積雪内で如何に発達するか、また、衰退するかという過程の究明である。これらは気象・地形条件で複雑に変化する。この究明は、なだれ予知に不可欠であり、今後の重要な研究課題である。

また、我が国の一般向けの雪崩危険情報は広域的「警報」のみで漠然としているのが現状である。地域的、且つ時間的に「警報解除」を含む情報提供のために本研究の継続が必要である。

1-5. 文献(1987年以降、*査読あり)

〔学術論文〕

〔その他〕

(資料収集・執筆責任者:成田英器)

2. 雪崩の運動に関するモデル実験

2-1. 目的

雪崩の直接観測の結果 (5.参照)、我々は底面近傍の流れ層内部の速度分布やそれを被う雪煙り層の乱流構造などについていくつかの知見を得ることができた。しかし、黒部峡谷では自然条件下で発生する雪崩を待ち続けるという観測上の制約から、またその他の人工雪崩実験においても、雪崩そのものの規模の大きさ、高い危険性に加えて、実験条件のコントロールが難しいなどの理由からその成果はいまだに十分とはいえない。そこでより基礎的なデータ収集を目的とした各種の模擬雪崩実験を新潟大学、科学技術庁防災科学研究所などと共同で実施するとともに、雪崩の運動を記述する数値モデルの開発を行った。

2-2. 経過と成果

まず低温室内で 1) 傾斜した樋上を流動雪または氷球を流下させる、2) 鉛直の管内に雪を充填してこれに下方から空気を送り「雪の流動層」をつくる、という手法で運動状態にある雪 (流動雪) の動的特性 (構成方程式) を求めた。

続いて1995年からは札幌の宮の森ジャンプ競技場のジャンプ台を実験斜面として、1) 冬季は自然積雪を流下させ、急斜面を流れ下る過程での粒状化・流動化そして堆積という実際の雪崩に見られる全過程を再現する。2) 無雪期には最大55万個のピンポン球を流下させ、3次元粒子流全体の挙動、形態変化、粒子間の衝突など相互作用に着目した測定を行った。前者は、主に雪崩観測で得られた結果の検討と理解を深める目的で実施されているが、後者は雪崩を「粒子の集団が重力により (場を介して粒子を励起)、斜面上を空気や底面、それに粒子間で相互作用しながら流れ下る現象」のひとつとしてとらえたアプローチである。スケールの大きい粒子流実験を行い、その成果を雪崩等の大規模崩壊現象の解明に結びつける試みの例は国際的にも少ないが、こうした取り組みに共鳴してスイス連邦工科大学および英国ケンブリッジ大学から Post Doctor が訪れ共同研究が展開されるに至った。

ピンポン球は空気中で重力落下する終速度が小さいため、短時間で空気抵抗とバランスした定常状態に到達する。相似計算からは秒速8メートル程度のピンポン球雪崩実験は、50m/s で 4km 以上流れ下った大規模な煙り型雪崩に匹敵することが導かれる。これまでの実験では、3次元粒子流モデルの構築に不可欠な速度や密度分布構造が測定されたほか、雪崩などの大規模崩壊現象に共通するクリアーな頭部と尾部構造などの形態的特徴やその形成過程、さらには一定の波長を持った内部波動の存在が確認された。軽い粒子を用いた模擬雪崩実験は、発泡スチロールでも行なわれており、粒子流に潜在的に含まれる非線型性の解明へと研究は新たな展開をみせている。さらに、発泡スチロールからピンポン、そして雪崩にいたるこれらの粒子流を関係づけるスケール則が確立されると、実験に基づいた雪崩防御施設の設計・施工も可能となり、自然災害の軽減にも貢献できるであろう。

実験と併行して、3次元粒状体流れという立場から雪崩の数値モデルの構築も行われた。離散要素法 (DEM、分子動力学の分野で開発されたもので粒子間の相互作用として摩擦と非弾性衝突を考慮) に流体との相互作用を組み入れるというもので、検証にあたっては、ジャンプ台でのピンポン球を用いた実験の成果が用いられた。すでに10000個程度の流れについては、3次元の速度、粒子密度分布等について良い精度で記述が可能となっている。

2-3. 今後の課題

3次元粒状体流れの数値モデルは、現在スーパーコンピュータに移植が進められている。100万個程度まで粒子数を増加させて計算を行うにあたっては、流体との相互作用をいかに厳密な形でモデルに組み込むかが大きな課題である。モデルの検証としても用いられるジャンプ台の実験も同程度の粒子数まで増加して実施される予定であるが、今後は粒子速度、密度分布、さらには流動粒子の挙動の指標となる粒状体温度と応力分布についても詳細な観測が必要となる。こうした粒状体流れの実験とモデル両側面からのアプローチは、単に雪崩にとどまらず、土石流、火砕流、岩屑流、乱泥流などの大規模崩壊現象に共通な問題の解明にも大きく寄与すると期待される。

2-4.文献(1987年以降、*査読あり)

〔学術論文〕

〔その他〕

(資料収集・執筆責任者:西村浩一)

3. 雪崩災害と雪崩分布の調査研究

3-1. 目的

日本国内での雪崩災害は、最近5冬期でも143件、死者は50名に達している。こうした災害をもたらす雪崩の調査方法と目的は、次の3つに大きく分けられる。

A) 事故報告書、アンケート、新聞記事等をもとにして、雪崩発生地点の分布、その時の気象状況をまとめるもの。
B) 雪崩発生後、雪崩の走路やデブリ等の調査により、雪崩の規模、特徴を調べるもの。
C) 雪崩発生後、現場付近の積雪の調査と、気象資料の解析により、雪崩発生の原因を検討するもの。

3-2. 経過と成果

民家、施設、道路周辺のB、Aの調査は清水、秋田谷、西村等によって行われた。現場での積雪観測に加えて、アメダスを中心とする気象データの収集による雪崩発生要因の抽出の結果、雪崩の発生の原因となった弱層の種類と成因が個々のケースについて明らかにされた。一方、ニセコや札幌周辺のCは秋田谷、福沢、成瀬、西村、八久保等によって行われた。とりわけ地元からの強い要請もあり1997年より開始したニセコ山中での気象と積雪断面の連続観測は、1998年1月の春の滝における雪崩発生の要因の徹底調査と当地での雪崩予報基準の吟味に大きく寄与した。山岳地の雪崩のAは成瀬、福沢等により全国山岳雪崩発生地点地図としてまとめられ、登山関係者に有用な資料となっている。

3-3. 今後の課題

昨年より、「気象データを用いて積雪構造の変化を表す数値モデルの適用とその改良」を目的としたフランスとの共同研究が開始されたが、これはかねてよりその必要性が叫ばれている「雪崩発生予報」の確立に向けた着実な第一歩である。

一方、問寒別雪崩観測所では地震計、ビデオ、超長波マイクロフォンによる雪崩モニタリングシステム (北大理学研究科、東大地震研との共同研究) の開発が開始された。本システムが確立されると、数10kmの範囲を対象に雪崩の発生日時や規模、さらにはその発生点と運動も特定可能となると期待される。

これまでの研究で雪崩災害防止や発生予知に関する基本的な知見は徐々に蓄積されてはいるが、今後さらに多くの調査事例が必要であることは言うまでもない。しかし、研究スタッフの減少に伴い雪崩発生直後に迅速に現場の調査を行える態勢の整備がしだいに困難な状況になっている点が大きな課題といえよう。

3-4.文献(1987年以降、*査読あり)

〔学術論文〕

〔資料集・報告書〕

〔その他〕

(資料収集・執筆責任者:成瀬廉二、西村浩一)

4. 高速雪崩の運動に関する野外観測

4-1.目的と経過

乾雪表層雪崩、特に煙型表層雪崩は、高速かつ大規模になり大きな災害を起こすことが知られている。しかしこうした高速雪崩は一般に悪天候のもとで発生するため、観測や測定は極めて難しい。1971-78年に黒部峡谷志合谷において実施された富山大学との共同観測でも、発生や運動に関して得られた情報は断片的なものであった。この経験を踏まえ1986年から新しい組織と測定器による高速雪崩研究が計画された。目的は大規模な高速雪崩のメカニズムの解明であったが、同時に、同年1月に発生し13名の死者を出した新潟県能生町柵口雪崩を契機としての社会的要請に答えるものでもあった。

黒部峡谷志合谷には、1986年以降計画に沿って機器設置が進められた。そして1988年2月にはダイナマイトによる人工雪崩発生が試みられ、以後は自然発生の雪崩の観測が継続して行われている。本研究は多くの機器や人力が必要なため富山大学、富山県、新潟大学、科学技術庁防災科学技術研究所、建設省土木研究所、関西電力他の多くの官民機関の協力のもとで行われている。

4-2.成果と今後の課題

雪崩走路上の2基の鋼鉄製マウンドに、雪崩衝撃圧、静圧変動、風速、音、地震波動などを測定する機器を設置し、多角的側面から雪崩の観測を実施した。それらの測定データの解析の結果、雪崩の内部構造に関する多くの新しい情報が得られた。雪崩の動きを記録したビデオ映像からは雪崩運動の複雑な挙動が明らかにされたほか、走路に設置された超音波風速計の記録は、雪崩風の存在を確認した世界ではじめての測定となった。

また1996年には速度が 60m/s 以上に達する大規模な雪崩について、底面近傍の流れ層内部の速度分布や雪煙部の乱流構造および両者の相互作用についても新しい知見が得られた他、それらが周期的波動、すなわち一定の秩序構造をもつことが明らかになった。

黒部峡谷志合谷は、現在組織的な高速雪崩の観測が行われているスイスのシオン、ノルウェーのリグフォン、フランスのアンドーラと並ぶ国際的にも貴重なフィールドのひとつである。より詳細な雪崩メカニズムの理解とそれに基づくモデルの確立にあたっては、今後とも継続したデータの集積が必要不可欠である。昨年行われた測定システムの更新と新開発の混相流流速計測システムの導入は雪崩内部の3次元構造の把握の大幅な進展をもたらすと期待されるが、今後はドップラーレーダーなど新システムの導入さらには映像を含むデータ収録の自動化、テレメータ等を用いたモニタリングシステムの確立など研究観測環境を維持する方策の導入も課題である。

4-3. 文献(1987年以降、*査読あり)

〔学術論文〕

〔資料集・報告書〕

〔その他〕

(資料収集・執筆責任者:前野紀一、西村浩一)

5. 広域の積雪特性調査

5-1. 目的

本調査研究の目的は、A) 北海道 (本州の一部を含む) における積雪の性質の地域的相違、B) 北海道における積雪量の分布とその年変動、を調べることにある。

5-2. 経過

北大低温科学研究所では1963年以来、毎年約10日毎に積雪断面観測を行ってきた。これを広域に展開したのは、1975年、遠藤と秋田谷によってであった。その後不定期年に、地域も方法も様々ながら、秋田谷、河島、石井、成瀬等が中心となって調査が行われた。調査方法は、10km から 100km の間隔にて調査地点を選び、積雪全層の断面観測、またはスノーサンプラーとラムゾンデの組み合わせによるものである。

5-3. 成果

目的Aの最も大きな成果は、積雪が少なく寒冷な北海道東部は全層しもざらめ雪となることが多く、積雪が多い北海道西部はしまり雪層が卓越する、という地域特性が明らかとなったことである。目的Bの成果として、積雪が多いと圧密がすすみ密度が高くなるため、積雪水量分布はアメダスデータにもとづく積雪深分布より著しく多雪/少雪のコントラストが強調されることが分かった。

5-4. 今後の課題

本調査が数日にまたがると、積雪の変化が無視できない。次のステップの成果をあげるためには、複数のグループが同一の手法で同時に調査を展開することが必要である。

5-5. 文献(1987年以降、*査読あり)

〔学術論文〕

〔資料集・報告書〕

(資料収集・執筆責任者:成瀬廉二、西村浩一)


II. 外部点検評価

1. 外部点検評価委員

主査 小林 俊一新潟大学積雪地域災害研究センター長
佐藤 篤司科学技術庁防災科学研究所新庄雪氷防災研究支所長
新田 隆三信州大学農学部付属演習林教授
柳沢 昭夫文部省登山研究所所長
石本 敬志北海道開発局土木研究所構造部長
加藤 信夫建設省土木研究所新潟試験所所長
阿部 勉株式会社イヌズカ副社長

2. 外部点検評価の方法

外部点検評価は、所内点検評価委員会の雪崩事業費専門委員会が作成した「雪崩事業費による研究の経緯と成果」(本報告書第I章に収録)、および外部点検評価委員による所長および関係教官に対する質疑応答によって行われた。特に、平成10年12月15日には外部点検評価委員全員の出席のもとで外部点検評価に関する活発な質疑応答が進められた (写真参照)。その後、主査より外部点検評価委員に下記の点検評価項目表が配布され、各委員からの評価結果は主査によって以下のように纏められた。

北海道大学低温科学研究所雪崩事業費評価項目

記入委員名 印 

  1. 研究の目的と目標
    (1) 問題意識の明確さ
       かなり明確   明確   普通   やや不明確   不明確
    (2) 研究課題の独創性
       かなり明確   明確   普通   やや不明確   不明確
    (3) 研究目標の妥当性
       かなり明確   明確   普通   やや不明確   不明確
  2. 社会的背景
    (1) 社会的な必要性及び緊急性
       かなり明確   明確   普通   やや不明確   不明確
  3. 研究成果及び期待される効果
    (1) 研究全体の目標と達成度
       達成している   一部達成している   達成していない
    (2) 目標とする防災関連分野への期待される効果
       効果あり   普通   効果少ない
    (3) 関連する分野への波及効果
       あり   普通   なし
  4. 国内の他施設との共同研究
       非常に活発   普通   あまり活発でない
  5. 国外の他施設との共同研究
       非常に活発   普通   あまり活発でない
  6. 全体計画及び年度毎の予算
    (1) 研究を実施するにあたってのスケジュールの設定の妥当性
       かなり明確   明確   普通   やや不明確   不明確
    (2) 研究に投じる資金の規模の妥当性
       多すぎる   余裕がある    適当   やや不足   不足 
  7. 総合評価
    (1) 本事業を今後も推進すべきか
       進めるべき   一部修正して進めるべき   中止すべき
  8. その他のご意見

3. 外部点検評価

3-1. 研究の目的と目標

(1) 問題意識の明確さ

      2かなり明確  5明確    普通    やや不明確    不明確

(2) 研究課題の独創性

      2かなり明確  5明確    普通    やや不明確    不明確

(3) 研究目標の妥当性

      1かなり明確  5明確    普通  1やや不明確    不明確

北大低温科学研究所は、雪氷学の基礎から応用までの広い分野でこれまで独創的な研究成果を挙げてきた。これらの研究の蓄積を背景に、(1) 雪崩の発生機構と運動に関する基礎的研究、(2) 雪崩防止工法の基礎的研究、(3) 雪崩地における造林、斜面の土壌崩落防止の基礎的研究の目標が掲げられた。(1) の問題は雪崩研究の基本的研究課題であり、その成果は直ちに (2) への課題に応用できるものである。さらに、(3) の課題は、現在も、来る21世紀においても地球環境の重要課題となっている山腹、森林保全に関係している。従って、本事業費の研究目的と目標は明確であると言える。その他、各評価委員から次のような具体的提案を頂いた。

3-2. 社会的背景

(1) 社会的な必要性及び緊急性

      4かなり明確  2明確  1普通    やや不明確    不明確

わが国の戦後の雪害として、まず初めに「昭和36年豪雪」が挙げられる。この冬は北海道でも雪崩事故が多発した。これを契機として低温科学研究所で雪崩事業が企画され昭和38年に「雪害科学部門」の設置が認められた。偶然にも、この冬は、被害の点でも戦後最大であった「昭和38年豪雪」が発生したことから正に先見性をもった事業と評価されたに違いない。時を同じくして、科学技術庁の付属機関として「国立防災科学技術センター (現:防災科学技術研究所)」が設立され、国の防災対策強化の声が社会的な高まりを見せた。翌昭和39年には、同センターでも新潟県長岡市に「雪害実験研究所 (現:長岡雪氷防災実験研究所)」が設置された経緯をみれば、社会的な必要性及び緊急性はかなり明確であったと言える。その後、雪崩災害を伴う豪雪は昭和49年、52年、56年、59年、60年、61年、平成8年と続いており、社会的な必要性は継続していると見るべきであろう。更に平成9年6月に国の中央防災会議が公表した「防災基本計画」の中にも、国の責務として、雪崩災害の発生メカニズム、雪害の防除等に関する研究を推進することが述べられている。また、各評価委員からは以下のような意見を頂いた。

3-3. 研究成果及び期待される効果

(1) 研究全体の目標と達成度

      達成している  7一部達成している    達成していない

(2) 目標とする防災関連分野への期待される効果

      6効果あり  1普通    効果少ない

(3) 関連する分野への波及効果

      6あり  1普通    なし

研究成果については、昭和38年〜昭和60年の前半では全層雪崩と表層雪崩を意識して、(1) 積雪斜面内の応力測定、(2) しもざらめ雪の生成、(3) 雪崩発生状況調査、(4) 人工雪崩実験、(5) 積雪内弱層、(6) 積雪引っ張り試験、(7) 群杭による雪崩防止等の基礎的研究を問寒別の観測斜面で行ってきた。最近10年では、(1) 雪崩の発生に関する研究、(2) 雪崩の運動に関するモデル実験、(3) 雪崩災害と雪崩分布の調査研究、(4) 高速雪崩の運動に関する野外観測、(5) 広域の積雪特性調査など広く国内の雪崩研究者との共同研究が行われている。前半を低温科学研究所のスタッフによる個別的研究とすれば、後半は他研究施設の研究者との連携による共同研究として位置づけられる。

しかし、いずれの研究の中からも世界的に誇れる研究成果が生まれている。例えば、しもざらめ雪の研究や積雪の引っ張り試験による雪の破壊の研究成果は、現在も世界の雪崩や積雪の教科書の中で度々引用されているし、雪崩研究の成果の中から多くの (社) 日本雪氷学会賞を受賞している。また、雪崩災害と雪崩分布の調査研究も他機関の研究者に引き継がれ、最近では100年間の雪崩災害のデータベースが構築されつつある。今後期待される研究成果としては、高速雪崩の内部構造の測定の試みが成功して、より有益なデータが得られ表層雪崩のモデル化に貢献することが雪崩学の発展となろう。あえて言えば、人工雪崩実験、雪崩防止工法及び雪崩予測の研究はやや希薄であったと思えるが、研究全体の目標は一部達成していると思われるし、関連する分野への期待される効果もあり、波及効果も十分あったと評価できる。その他、各評価委員から次のような意見を頂いた。

3-4. 国内の他施設との共同研究

      3非常に活発  4普通    あまり活発でない

国立大学の中では、豊富な研究者と施設を背景に雪崩事業を行っている施設は低温科学研究所だけで、これまで中心的役割を果してきた。更に建設省土木研究所 (新潟試験場) や科学技術庁 (防災科学技術研究所、新庄雪氷防災研究支所) の中に雪崩の実験的な施設があるので密接な交流のもとでの共同研究の進展が望まれる。特記すべきは、北大と富山大の共同で行われた「黒部の高速雪崩の研究」で外国の研究者からも高く評価され、なお研究の進展が注目されている。最近は、模擬雪 (ピンポン玉) を用いた人工斜面上の実験で、多くの機関の研究者や学生達が参加し、公開で行われていることは高く評価される。この他、各評価委員より次のような意見を頂いた。

3-5. 国外の他施設との共同研究

      2非常に活発  4普通  1あまり活発でない

国際学会などの研究発表は活発である。また、国際学術等の共同研究や研究者の交流等は若干行われているが、施設同士の継続的な交流による共同研究や留学生の受け入れをもっと進展させることが望ましい。そのような素地があれば、国外で発生した突発的な大規模雪崩災害の調査研究にも迅速に対応ができ、国際貢献も可能となる。

3-6. 全体計画及び年度毎の予算

(1) 研究を実施するにあたってのスケジュールの設定の妥当性

      かなり明確    明確  4普通  3やや不明確    不明確

(2) 研究に投じる資金の規模の妥当性

      多すぎる    余裕がある     適当  3やや不足  4不足

全体的計画は妥当であるが、少ない予算で多くの基礎的成果を挙げることができたのは、予算の継続性があったからである。しかし、予算的な面では不足であったので、大規模雪崩や高速雪崩の研究及び雪崩予測技術や雪崩防止技術の開発では十分に研究は達成されていない。今後は、長 (5〜10年)、中 (3〜5年)、短期 (2年) に焦点を絞り計画を立て、適正な予算を要求して行く工夫が必要である。

3-7. 総合評価

(1) 本事業を今後も推進すべきか

      3進めるべき  4一部修正して進めるべき    中止すべき

* 総合評価として、各評価委員の意見を以下のごとく列挙する。

  1. 低温科学研究所の雪崩事業を通じて、我が国の雪崩研究者の育成に大きく貢献してきた。最近はフィールドサイエンスを軽視している印象が一般的にある。雪は融点近くに広く存在する粉体として、応用、関連分野のすそ野は広いので、これまで以上に他分野との交流を図り、研究の継続と研究者の育成を期待する。
  2. 雪崩の発生機構、破壊力、走路予想等についてはまだ理論的、定量的に不明確な点が多い。科学的データを蓄積し、予測や防災システムの構築へと発展させるべきである。
  3. 雪崩研究の社会的必要性を意味付け、我が国の雪崩研究機関の現状を踏まえ、基礎研究の領域にとどまらず応用研究への踏み込みが必要である。
  4. 雪国の道路、鉄道、集落、スキー場、登山者等の管理者は、雪崩危険地域の危険度分類や、雪崩発生予測式の開発をその地域の雪崩に対応した処置方針を決定するために必要としている。
  5. COE的研究を立ち上げ、資金を集中して重点的研究を国内外の他施設の研究者との共同研究の形態で推進すべきである。
  6. 最近の地球環境科学ブームに乗りにくいと言って、世界に冠たる北大低温科学研究所が雪崩防災の研究を手放すことは人類の損失である。雪崩防災研究は、地道な継続が必要である。地域社会が研究所を身近な存在として誇りに思えるよう、雪崩事業へもっと人とお金をつぎ込んでいただきたい。

3-8. その他の意見

  1. 雪崩本来の研究の他、自然環境の問題として、雪崩と土砂崩壊、防雪施設との組み合せによる植林、環境を考慮した防雪施設の問題等、官民協同での研究がある。また、研究成果を北海道大学図書刊行会を利用して啓蒙することが必要である。
  2. 雪崩等の防災対策は既存技術で対応できない部分が多いので基礎科学のすそ野の広がりを必要としている。我が国の雪氷研究がグローバル化で総括されて良いとは思えない。道路雪氷、道路気象の分野へも、理学的視点から発信できる世界に通用する貴重な人材を雪崩研究とともに今後もぜひ育成して欲しい。大学が流行を追い始めたら国は滅びる。
  3. グローバル気候変動に関する研究は、社会的要請により大いに進展させる必要があるが、一方低温科学研究所を世界に知らしめてきたのは雪崩研究を含む積雪の科学であった。この分野を上記の気運のために切り捨てるようなことになれば、研究所の因って立つ基礎雪氷学を失うことになる。このことは当研究所の存在理由を希薄にするのではないかと大いに懸念される。
  4. スイス連邦雪・雪崩研究所では、雪崩研究者約40名を擁し、大学の教育、学位の授与、基礎研究、応用研究、事業化研究を一貫して行っており、世界で最も先進的な研究機関となっている。低温科学研究所の雪崩事業に関しては、極めて少ない研究者で、基礎的研究領域において先進的な研究成果を得ており大いに評価されるべきだが、基礎的研究の成果のみでは我が国の雪崩対策研究全体が効果的に進まない。横断的連携に加え、研究領域の川上から川下まで視野に入れた縦断的な連携が望まれる。
  5. 現在の数少ないスタッフは優秀であるが、低温科学研究所の将来のために、もし許されるならば、雪崩研究をやる気のある30歳前後の若手を当研究所は採用すべきである。次代の研究者を育て、老化、マンネリ化を避ける手段を、今打っておかねばならない。

北海道大学 低温科学研究所