低温科学研究所は、「低温における科学的現象に関する基礎および応用の研究」を行うことを目的に、昭和16年(1941年)に北海道大学初の附置研究所として設立されました。既存の学問分野の壁を越えた新たな科学の創造を期して、純正物理・気象・生物・医学・海洋・応用物理の6部門体制でスタートしました。その後、当研究所が雪氷学や低温生物学の黎明期を担った研究機関として、内外にその存在を知られるようになったのも、このような創立の精神が生み出した成果でありましょう。
平成7年(1995年)には、設置目的の冒頭に「寒冷圏」を付け加えて地球環境科学への貢献を鮮明にするとともに、全国共同利用型研究所に衣替えしました。同時に、それまでの小部門編成から、寒冷海洋圏科学、寒冷陸域科学、低温基礎科学、寒冷圏総合科学の4大部門に改めました。これには、それまで進めてきた低温条件下で生じる様々な現象の個別的研究スタイルから、当研究所の特徴を生かした学際的研究を有機的に推進していくことにより、地球環境システムにおける寒冷圏の役割の解明を実現させたいとの狙いがありました。
平成16年(2004年)には、北海道大学が法人化され、当研究所もさらなる変革を迎えることになりました。北海道大学法人における全国共同利用型附置研究所としての新たな出発は、必然的にその立場を幾分複雑なものにさせました。即ち、外(研究コミュニテイ)と内(北海道大学法人)の双方への貢献を鮮明に打ち出し、その存在意義を認められる組織であらねばならない立場になったということです。本来、研究所のあるべき姿は、社会(人類)が必要とする一研究分野を切り開き、可能な限り高いレベルのオンリーワン研究を輩出し続ける組織のはずです。そのため、当研究所は、これまで未開拓であった「寒冷圏環境科学」の中枢的研究機関としての役割を担う一方で、総合大学附置研究所でしかできない長期的展望に立った、個性溢れる先端的基礎・応用研究を推進していくことを目指してきました。これら両側面からの有機的な学際的研究展開によって、研究コミュニテイに対しては、研究分野自体の科学的レベルアップに大きく貢献するとともに、北海道大学法人においては、大学全体にみなぎるアカデミックな活力の一翼を担うことが当研究所の課せられた大きな役割であると考えています。
また、当研究所はこの度創設以来初めてといえる本格的な「自己点検評価報告書」を作成致しました。それは、今回の外部評価用の資料として必要なだけでなく、今後の当研究所における存在意義をゆるぎないものにするための指針作りを急がねばならない、そのための資料作成との大きな目的によるものでした。当研究所将来計画委員会WG(田中委員会)が、初めての経験から悪戦苦闘の末作り上げた報告書は、必ずしも満足のいくものになっていないものの、少なくとも研究所の現在の姿を率直に表現したものであり、貴重な資料として今後大いに活用していきたいと考えています。しかし、いくら厳しい眼からの自己評価であっても、自ずと限界があるので、外部有識者による、より広い視点からの意見も受け入れるべきであり、両者からの総合評価に基づいて自分達の未来像を描いていく作業を進めていくことが、組織としての最も健全なあり方であろうと考え、今回、国内外の有識者による評価を厳粛に受けることに致しました。
最後に、藤井理行委員長をはじめ外部評価委員各位には、公務多忙の中、評価委員会にご出席賜り、貴重なご意見を頂戴致しました。ここに、深く感謝申し上げます。
今後とも末永く低温科学研究所を厳しい目で見続けて頂くことを念願し、本報告書をお送り致します。
2007年3月
北海道大学低温科学研究所長
若 土 正 曉
氏 名 | 所 属 ・ 職 名 |
---|---|
和 田 正 三 | 基礎生物学研究所特任教授 日本植物学会会長 |
向 井 正 | 神戸大学大学院自然科学研究科教授 日本惑星科学会会長 |
今 脇 資 郎 | 九州大学応用力学研究所所長 日本海洋学会会長 |
藤 井 理 行 (委員長) |
国立極地研究所所長 |
徳 永 正 晴 | 北海道大学名誉教授 元副学長 |
池 田 元 美 | 北海道大学大学院地球環境科学研究院長 |
齋 藤 裕 | 北海道大学大学院農学研究院教授 |
(国外)
Hajo Eicken (海洋・海氷科学) |
Geophysical Institute, University of Alaska Fairbanks, U.S.A. Professor |
Heinz Blatter (氷河・氷床科学) |
Institute for Atmospheric and Climate Science, ETH, Switzerland Professor |
Valerio Pirronello (惑星科学) |
Dipartimento di Metodologie Fisiche e Chimiche Universita' di Catania, Italy Professor |
Kamil Láska (植物生態学) |
The Institute of Geography, the Faculty of Science, Masaryk University, Czech Research Scientist |
(1) 研究所の理念(目的)・学問的意義
(2) 研究所の組織体制
・管理運営
・研究体制(部門・研究グループ)
・研究支援体制
(3) 全国共同利用の機能
(4) 研究活動状況
・これまでの研究の方向性(独創性・発展性・国際水準に比して)
・研究成果(業績)
・外部資金獲得状況
・国際交流
・研究者養成(人材育成・教育活動)
(5) 研究所の位置づけ・役割が果たされているか
・北大法人の中において
・我が国において
(6) 社会貢献(含広報活動)
(7) 今後の研究の方向性(何に期待するか)
・特に、Center of Excellence (COE) 研究所としての役割
2006年11月15日、低温科学研究所会議室において、全評価委員出席の下、外部点検評価委員会が開催された。当研究所からは、若土正曉(所長)、江淵直人(附属環オホーツク観測研究センター長)、本堂武夫(将来計画教授委員、寒冷陸域科学部門主任)、田中歩(将来計画教授委員、低温基礎科学部門主任)、藤吉康志(寒冷海洋圏科学部門主任)、福田正巳(寒冷圏総合科学部門主任)、及び遠山節徳(事務長)他事務担当職員が出席した。
会議では、予め配布済みの当研究所概要、年報、共同利用研究報告、自己点検評価報告書、過去の外部点検評価報告書などの資料を参考に、先ず、4つの部門と附属環オホーツク観測研究センターのそれぞれの研究活動について各部門主任、センター長が説明した後、質疑応答を行った。次に、「自己点検評価報告書」に書かれた内容を中心に、当研究所全体に関わること、および個々の諸問題についての質疑応答を行った。当日の議論および各評価委員の評価は、藤井委員長のもとでまとめられ、以下のような報告書として提出された。
低温科学研究所は、平成7年(1995年)、「寒冷圏及び低温条件の下における科学的現象に関する学理及びその応用の研究」を設置目的とした国立大学附置全国共同利用研究所として改組された。それまでの「低温現象の総合研究」から、気候システムや地球環境の中での寒冷圏の役割を総合的・学際的に解明することを目指す研究所への転換であった。この選択は極めて時宜を得たものであったと言える。
改組から10年が経ち、現在の研究活動から、その方向性の定着が確実に窺える。寒冷圏と低温下の現象を研究対象とする唯一の国立大学附置全国共同利用研究所であるとともに、世界的にみても特色ある研究所として、貴重な存在である。また、北海道大学の特色ある教育研究の代表部局の一つとしての低温科学研究所の存在は、評価できる。寒冷圏での自然現象の研究を、地球規模の環境変動の解明、予測、保全など人類的課題に対応した総合的・学際的研究として推進する世界レベルの研究拠点の構築を目指し、今後もしばらくはこの理念(設置目的)の下で研究を進めるのがよいと思われる。
平成7年(1995年)の改組以来、研究グループ制を取っている。これは、それまでの教授・助教授・助手で構成された講座制に代わる、ある意味で先進的な制度である。特に、平成19年度から導入される、助手に代わる助教が、自分自身で独自に研究することを本来の役割とされていることを考えると、その感が強い。
しかし、現在の研究グループ制は、研究基盤の脆弱性に繋がる可能性も危惧される。低温科学研究所における研究推進は、研究者個人の研究興味を重視し、自発的に研究課題を設定して研究を遂行することを基本としており、どのような研究グループを構成するかは各研究者に任せられている。研究グループの設置は、研究所内の議論を経て決定しているようだが、その結果、教員一人の研究グループも存在可能であり、現実に存在する事が気がかりである。現在の科学研究においては、一人で世界的水準の研究を継続して遂行してゆくことは非常に難しい。
研究所は、大学院のように基礎研究や個人研究が重視されるところとはやや事情が異なり、ある程度、研究所の設置目的に沿った研究が求められるところである。あまりに少人数のグループは、研究の効率の点で疑問視せざるを得ない。研究所全体の中長期の研究方針の策定や、人材や経費の重点配分によって研究所の柱となる重点研究を設定するような新規の取り組みにおいて、細分化されたグループが主体となることは効果的ではないと思われる。研究の遂行のみならず、研究費の獲得、学生・院生の教育、その他研究グループとしての単位で対処するべきことを分かち合える最低限の規模を有するグループの形成が必須であろう。限定されたポスト数の中で、研究グループ当たりのスッタッフの人数を増やそうとすれば、研究グループ数を減少せざるを得ないだろう。その意味では研究所全体として研究内容の整理統合が必要と思われる。
これらのグループが所属する四つの「大部門」の役割が、自己点検評価報告書でも指摘されているように、不明確である。これには、研究所の歴史的および現実的制約があることは理解できるが、さらなる検討が必要である。自己点検評価報告書での研究活動や研究成果の紹介では、大部門ではなく分野別の三つの系(大気海洋系、雪氷系、生物系)で整理されている。分野別の系を核とした研究組織の方がはるかに分かりやすい。所内外に分かりやすい研究組織の構築は、社会に対する説明責任との指摘もあった。できれば早い機会に、公式の組織上も、後者の方向で改定されることを望む。
限られたポストを使って効率的な研究を遂行するためには、低温科学研究所程度のポスト数では分散し過ぎて共倒れになる恐れがある。研究機器等の大学内での共同運用制度、客員部門制度の導入などの検討が必要かもしれない。
研究所の教員人事は、研究所の将来を決定する重要なことがらである。低温科学研究所では、空きポストの補充は、教授の場合も含めて、まず公募分野について構成員からの提案を求め、教授会で検討することから始めている。研究所が真に必要とする分野を、一部の特定の教授だけではなく、大勢で民主的に決めていることを高く評価する。しかし、教員の人事を通じて新たな分野への展開を考える場合、全国共同利用という研究所の性格を考えると、運営協議会などで外部の意見を聞く必要があると思われる。
公募による教員人事という方針を厳格に運用し、透明性の高い人事を進めてきたことは高く評価できる。結果として、研究体制の一部に歪みが生じているが、改組の理念を実現するには人事面では時間を要することである。過渡期の現象と理解できる。平成7年(1995年)の改組により、研究所の目的を寒冷圏の役割の解明にも広げたため、空席となった教授ポストの研究分野を、それまでの低温科学研究所にはなかった新しい分野に展開する必要もあったはずである。結果として教授ポストへの内部昇格がなかった理由はこの辺りにあると思われる。また、若手の優秀な人材を昇格によってエンカレッジすることも必要である。今後の人事に注目したい。なお、人事に関して、改組後の10年間に、教授2名、助教授1名の外国人教員を採用するなど、広く人材を求めたことを高く評価する。
研究支援体制に関しては、研究部門の事務的補助と秘書的業務を整理し、研究協力室を1室体制に改編して、研究所の共同研究、広報・情報・知財に関する業務や海外連携業務などを強化したことを評価する。全国共同利用の研究所として、このような教員と事務室とのインターフェイス的な機能を有する組織は、今後ますます重要になってくると思われる。
欧米の研究施設では当然であるといわれているが、低温科学研究所では、最近の方針として、大卒、院卒レベルの技術職員を採用している。これは研究所における特殊目的の装置や機器の維持・管理、開発の必要性を見通した適切な方針である。その評価は時期尚早とも言えるが、自己点検評価書には具体的には表れていない。今後ますます増加するその重要性に鑑み、自己点検評価報告書で技術職員の評価の項目を設けるなど、技術職員の職務への期待を表すべきではないかと考える。また、研究所として採用した技術職員のキャリアパス、待遇等を考える必要がある。
低温科学研究所の全国共同利用の機能は、特別共同研究、一般共同研究、研究集会によって着実に実施されている。ただし、申請者が固定される傾向にあること、一般共同研究の応募件数が漸減傾向にあること、採択率が100%に近いことなど、再検討が必要な点も見受けられる。
また、低温実験室や各地の観測施設など全国共同利用に供される研究施設・設備の運営は高く評価できる。しかし、共同利用の現状を見ると、利用者が固定される傾向がある。施設・設備の充実を図り、利用者の裾野を拡げることが重要であろう。共同利用経費の拡充も差し迫った課題である。共同利用研究から生まれた論文リストを作成し、全国共同利用による具体的な成果がどれだけあるのかを検討し始めたことを評価する。
平成7年(1995年)の改組により、研究の方向は、それまでの低温現象の総合研究から、気候システムや地球環境の中での寒冷圏の役割を総合的・学際的に解明する研究へと、大きく転換された。地球環境問題が人類の生存に関わる大きな課題となっている現在、この改組に伴う研究の方向の転換は、時宜を得たものであったと言える。改組後の10年、研究所は、新たな設置目的として掲げたこの分野の研究をリードし、国際的にも高く評価される研究成果を生み出していると評価できる。
大気海洋系、雪氷系では、特に、オホーツク海およびその周辺海域の環境及び動態に関する研究、物性物理学の基礎研究の成果をアイスコアに応用した独創的な地球古環境の研究、研究所伝統の雪氷学を発展させた惑星科学に関連する物性物理学の研究等で、文字通り先導的な役割を果たすとともに優れた成果を上げており、高く評価する。
生物系では、微生物生態グル−プによる成果が特筆されるが、このグル−プはすべての研究者が就任後数年しか経っていないので、当該研究所の業績というより、このグル−プの人事の適切さを示しているものと判断される。
研究業績には、系、グループ、個人によって、大きな差が読み取れるが、その相対評価には留意が必要である。自己点検評価報告書においては、論文数、研究歴(学位取得後および当該機関就任後)、論文の引用回数等を基準としてあげており、その努力は評価したい。しかし、こうした指標は、異なる学問分野間の比較・評価のための共通基準とするのには無理があるので、使用にあたっては、留意や工夫が必要である。
優れた人材が多数存在することが、高い外部資金獲得状況から読み取れる。科研費の獲得状況に関しては、採択率は全国平均に比べて非常に高く、しかも基盤研究(S)や(A)など大型種目の獲得が多く、申し分ない。さらに、戦略的創造研究推進事業(CREST)、学術創成研究など、さらに大型の競争的外部資金も獲得しており、研究水準の高さが評価された結果と言えよう。外部資金の獲得状況から、少なくとも研究予算面においては、懸念はない。
研究者の国際交流は、学術交流協定等に基づく国際共同研究の推進などと関連して、世界各地への研究者派遣、外国人研究者の招聘、留学生の受入れなど活発に行われている。また、国際シンポジウムも、毎年1−2件開催されている。人材育成・教育活動にも関連するが、国際南極大学(IAI)の一翼を担うべく、関連カリキュラムの整備に着手するなど、この構想に積極的に参加している努力を高く評価する。
北海道大学内で、環境科学院だけに閉じず、生命科学院、理学院の教育にも新たに参加したことは、学内外の学部学生に研究所の研究を周知させるため、また学内他部局との研究協力関係を発展させるためには、良い判断であったと評価できる。
しかし、研究所に配属される大学院生の数は、定員を満たしておらず、しかも、漸減傾向にある。研究所が進めている研究内容と、国際的なフィールド展開などを、学生へ適切な言葉で発信すれば、研究所への大学院進学志望者数は増加するのではないか。また、進路志望検討期の高校生への入学説明会は、模擬授業等として北海道内外で年4〜5回行われている。研究所教員の貢献が望まれる。
本研究所が主体となる国際交流や人材育成をより積極的に推進されることを期待したい。また、教育活動も研究所の重要な任務であるという認識を広く共有して、全国の若手研究者に向けた教育事業の創成にも期待したい。国際南極大学(IAI)構想への参加は、こうした観点から高く評価できる。
低温科学研究所は、所内では、異なる分野を様々なテ−マで相互に結びつけて発展させようという試みが活発に行われていることは高く評価できる。地球環境分野では、学内のリーダーとして、地球環境科学研究院などの研究者と様々な学際的研究を進めてきたが、必ずしも期待に応える連携を十分果たしているとは言えない。本研究所が全国共同利用研究所であると同時に北海道大学の研究所でもあるという点から、地球環境以外の分野においても、大学内での部局横断的な研究プロジェクトに、さらに積極的に関わることを期待する。
また、学内に限らず、北海道内での分野を越えた寒冷圏に関わる共同研究や研究会の立ち上げのイニシアティブをとることも研究所の役目であると考える。多くの新任教官が道外及び学外からの赴任者であると言う状況が、この役目の遂行にマイナスに働いていなければいいのであるが、地域社会との連携も重要な姿勢である。
研究施設や設備については、適切な維持管理が必要で、その経費の確保は重要であるが、それらを運営交付金によってまかなうのが困難であれば、全学的な体制整備も図ってゆく必要がある。そのため、創成科学共同研究機構等との連携も視野に入れるのはどうであろうか。
国内では、低温科学、寒冷圏科学に関する唯一の全国共同利用研究所として、存在意義は十分にあるとともに、日本のこの分野の研究をリードしており、その役割を果しているが、必ずしも充分ではない。まだまだ、重要かつ未解明な課題が山積している。このため、国内の大学や関連研究機関との連携を模索すべきと考える。当研究所に求められる役割は、大学に所属する研究所という立場と全国共同利用研究所としての役割を、整合的に果たすことである。
広報活動に関しては、様々な努力をして社会への説明責任を果たそうとしていることを評価する。ホームページは、研究所の社会に対する窓口なので、今後も充実を図っていただきたい。社会への説明という点では、2006年度の朝日新聞社との連携プログラムによるアラスカ変動調査の成果が、同新聞誌上で連日紹介されたのは特筆に値する。
低温科学研究所の広報活動は、研究所への院生の勧誘だけでなく、北海道大学の特色ある教育研究の代表として、意欲ある学生を大学に勧誘する大きな力となる。「雪は天から送られてきた手紙である」に代わる研究体験に基づいた新しいメッセージを発信して、若者のロマンをかきたてて欲しい。
研究所の見学者へのガイドとして、リサーチアシスタント(RA)を活用しているのは適宜な判断である。また、独自の一般向け公開講座の実施や、研究所の開放展示といった試みを継続し、研究所の実態を学内外に広報することも大切である。
しかし、広報活動の拡充が研究者への過度な負担とならないよう、アウトソーシングの活用などの方法を構築する必要がある。
北海道大学を代表する全国共同利用研究所として、低温域における科学的検証を通じて、地球規模の気候変動等についての長期的な視野に立った研究の進展により、この分野で、我が国、ひいては世界をリードする研究所に発展することを期待したい。また、低温科学研究所における惑星科学研究の活発さを考えると、惑星科学が近い将来、研究所の顔となれる分野であると考える。
大学の研究所という利点を生かすのは、教育への参画である。全国でも寒冷域の自然システムに関する教育を行う大学は多くない。研究を遂行することと、教育を担当することは矛盾すると考える人もいるかもしれないが、学生を研究に参加させることによって、研究活動を活性化できる側面があり、また将来の研究者を育成することが、その研究分野の重要性を高めることにもなる。大学附置のCOE研究所として、教育について、これまで以上の取り組みが求められる。
平成7年の研究所の改組時、設立目的を、地球環境の中での寒冷圏の役割の解明に広げた選択は、極めて時宜を得たものであった。今後、グローバルな視点と同時にリージョナルな視点として、寒冷圏が、東アジア域の大気海洋環境の中で果たす役割にも注目し、国内外の研究組織との連携をさらに強めることを期待する。
また、低温科学を標榜する国内唯一の研究所であり、地の利もあるので、日本の低温科学関連分野の中核研究機関として、また、さらにこの分野で世界を先導してゆく研究所への発展を期待したい。
国外からも4名の著名な研究者による点検評価を受けた。米国アラスカ大学アイケン教授は、当研究所客員教授として約4ケ月滞在され、海洋・海氷研究グループと活発な研究交流を行い、帰国後、非常な力作といえる点検評価報告書をお送り頂いた。また、スイスETHブラッター教授、イタリアカターニャ大学ピロネロ教授、チェコマサリク大学ラスカ博士には、当研究所の氷河・氷床科学、惑星科学、植物生態学等の研究グループとのこれまでの共同研究などの実績に基づいて、それぞれの研究グループの研究活動について点検評価報告書を提出頂いた。
以下に抄訳とあわせて掲載する。
The Okhotsk Sea is a principal source of ventilation of North Pacific Intermediate Water (Shcherbina et al. 2003), harbors ecosystems important for fisheries, and serves as the breeding and overwintering grounds of a number of protected marine bird and mammal species. A key feature of the Okhotsk Sea is its seasonal ice cover. Along the northern coast of Hokkaido, sea ice is near its southernmost limit in the Northern Hemisphere. As the Arctic sea-ice cover appears to be undergoing dramatic change over the past few decades (Stroeve et al. 2005), and the Arctic system is potentially on a trajectory to a different climate state (Overpeck et al. 2005), studies of atmosphere-ice-ocean interaction in the Okhotsk Sea can provide major clues to help understand the causes and impacts of global climate variability and warming.
Economically and geopolitically, the Okhotsk Sea is of disproportionate importance as well (Kitagawa 2006). Of particular note are the recent oil and gas exploration and production activities off Sakhalin, poised to grow into the largest offshore facilities in ice-covered waters anywhere. With the Russian government and several major international oil company consortia planning for continued expansion of activities and different plans for delivery of gas to markets via pipeline, the importance of environmental data to aid with planning efforts and to help minimize impacts of these activities (or aid in remediation and response efforts in case of accidents) is likely to increase in importance.
Against this backdrop, the implementation of the Pan-Okhotsk Research (POR) Center at the Institute of Low Temperature Science (ILTS) at Hokkaido University (HU) represents both a timely and important move. Building on the substantial expertise of researchers at ILTS and aiming for a broader perspective, both geographically and methodologically, the POR Center is well positioned to assume its role as a preeminent center of expertise on the Okhotsk Sea. The present document is based on the premise, that the members of the POR Center through their previous and ongoing work have contributed successfully world-class research findings to the understanding of the Okhotsk Sea in a local, regional and hemispheric context. While one cannot overemphasize the importance and high quality of work carried out at ILTS and HU as Japan's premier Arctic research institution, the aim of this brief evaluation is seen less in focusing on past achievements, but rather in highlighting opportunities and potential for growth and consolidation in strategic areas.
2.1. Oceanography of the Okhotsk Sea
While a body of literature exists from past Okhotsk Sea studies by Russian, Japanese and foreign researchers, substantial progress has been made recently, elucidating the regional oceanography and key processes driving atmosphere-ice-ocean exchange in the Okhotsk Sea. Much of this work has been carried out at ILTS, by researchers who are now members of the POR Center. Building on this highly successful past work, the Center is well positioned to continue advancing our understanding of the Okhotsk Sea through thorough, well-designed research. Given the challenges of working in the Russian Exclusive Economic Zone (EEZ), the strategy of combining a high-density observation network at the southern edge of the Okhotsk Sea in Japanese waters (comprising surface-ocean radars, oceanographic moorings and regular survey cruises on Japanese Coast Guard and vessels of opportunity) with exploratory research in the central and northern Okhotsk Sea through collaboration with Russian colleagues is sensible and has shown great success in the past. Of particular value are studies of the East Sakhalin Current which is unique and important in its own right as a previously “white spot” on the map. However, this current also passes through areas of substantial offshore oil and gas development and provides a highly dynamic and rapid link between the central and southern Okhotsk Sea.
Members of the POR Center and their colleagues have been extremely productive in summarizing and synthesizing the fruits of this research effort in a range of high-profile publications and presentations. However, in addition they have had great success in conveying the findings of their studies to the general public, both through the media as well as by working on the production of educational video/multimedia products. Given the level of interest of the public in northern Hokkaido as well as the present and future of the Okhotsk Sea as an area for industrial development and environmental conservation, the importance of such activities cannot be overestimated. One might consider putting such activities on a more permanent footing by entraining a (part-time) education and outreach professional to relieve some of the pressures on POR Center scientific staff.
2.2. Okhotsk Sea ice research
The sea-ice component of the POR Center's research plans builds on the solid body of work assembled at ILTS' Sea Ice Research Laboratory (SIRL) in Mombetsu. SIRL Leadership and personnel form an important core component of the POR Center. Of particular interest is the work carried out in the central Okhotsk Sea off northern Sakhalin in collaboration with Russian researchers, that may provide key baseline data for the ice cover surrounding the oil and gas exploration areas (Shirasawa et al. 2005). This model of collaboration with Russian colleagues may point the way towards a more comprehensive strategy of continued long-term international collaboration in the Okhotsk Sea sector.
A keystone of the sea-ice research is one of the most extensive and substantial long-term records of ice cover variability collected in a strategic location near the southernmost limit of sea ice extent in the Northern Hemisphere. This includes observations of ice occurrence and ice dynamics off northern Hokkaido based on the >30-year record of land-based sea-ice radars as well as a recent program of ice mass balance and atmosphere-ice-ocean observations in a coastal lagoon (Saroma-ko). The value of these data sets cannot be underestimated as they help us unravel key aspects of what may well be first signs of a long-term decline in (sub-)Arctic sea-ice extent.
By combining these observations with educational efforts, significant benefits are derived for research and student training. Moreover, the value of the data is also apparent to local stakeholders and the general public. Thus, there is an important long-term commitment to help with observations and field work by local fishermen. At the same time, tourism and a high level of interest by the public throughout Japan reflect well on past and ongoing efforts and provide guidance for future work.
These ground-based observations tie into a strong remote sensing program that has produced a number of important publications over the years. Due to its focus on aspects of the sea-ice cover (distribution and thickness of thin ice from passive-microwave data, analysis of ice kinematics, etc.) that are of relevance for the Okhotsk Sea, there is substantial benefit and synergy to be gained from continued and intensified coordination between these activities.
3.1. Oceanography
With a multitude of data sets assembled over recent years, including highly detailed observations of circulation using drifters and remote sensing techniques (e.g., Ohshima et al. 2002) and considering the important role of the Okhotsk Sea, integrated modeling efforts of the Okhotsk marine system appear to be timely. Ultimately, understanding the principal role of the Okhoktsk Sea for North Pacific processes (and also to further understanding and prediction of living marine resources) simulations with high-resolution coupled ice-ocean model may substantially increase insight into the functioning of the Okhotsk Sea and provide constraints on fluxes of heat and salt that are difficult to derive from measurement programs. The latter is particularly true for ice production rates, where assimilation of satellite data, building on previous work at the POR Center, may be of significance. Such work may also help integrating the various data streams that are coming online, such as the surface ocean radar operated by the POR Center, or results from ice-profiling sonar on moorings.
Another area that may provide opportunities for future development is an intensification of the study of land-ocean interaction in the Okhotsk Sea. With the Amur River as a significant source of freshwater, nutrients and other dissolved and particulate matter, an intensification of the initial studies of the role of freshwater fluxes in forcing surface circulation and mixing as well as its potential implications for other marine processes appears to be timely. Such work would also provide a more direct link between the Terrestrial and Marine Groups within the POR Center.
3.2. Sea ice
Given the great value of the Northern Hokkaido sea ice radar data set and the importance of continuity of these coastal sea-ice observations, there exists substantial potential to consolidate and coordinate current measurements from different sources, as well as carry out a “calibration” of the sea-ice radar data from satellite remote sensing observations. Specifically, it should be noted that the Okhotsk Sea Ice Tower in Mombetsu still operates a coastal radar. Though less powerful, this system still provides data of high temporal and spatial resolution of ice conditions and dynamics at one of the historic sites. Ensuring proper archival and preprocessing of this data in collaboration with the Sea Ice Tower Observation Team appears highly promising. At the same time, the Doppler Radar system operated by the Atmospheric Research Group within the POR Center may provide valuable data on the presence and movement of ice that could also be integrated into a sea-ice climatology for this region, along with ice volume and flux estimates from ice-profiling sonar observations. Finally, for a period of a few years of overlapping passive microwave data and radar observations a detailed intercomparison may allow for at least partial continuation of these observations. While highly localized, it is the length of the time series (incl. historical visual observations) and the high resolution of the data that justifies such an approach.
The efforts to set up a longer-term collaboration with Russian researchers on sea-ice observations in the central/northern Okhotsk Sea are far-sighted and deserving of support, both in the context of climate change and as important background observations for offshore industrial development. The latter requires information on environmental conditions, in particular the heavy coastal ice regime.
3.3. Strengthening linkages and developing synergies
An area of great potential benefit to the POR Center, that appears deserving of further examination concerns the strengthening of linkages at various levels within the scientific research groups and institutions involved in and affected by Okhotsk Sea research. Hokkaido University is a powerhouse of Arctic research in the Japanese research and educational landscape and it appears that there is tremendous potential for growth and synergistic benefits to be derived from a strengthening of inter-institutional and interdisciplinary ties.
Within the POR Center itself, such objective might be achieved through a regular meeting or seminar series that would help bring the different components together and foster intellectual exchange between senior scientists, students and research support personnel. This is also important in the context of recruitment of new students and other junior personnel.
This latter point also holds true for other groups within the ILTS and in particular within the broader context of other HU departments and schools or faculties. Given the importance of physical oceanography and ice information for fisheries and marine mammal and bird ecology, there is great benefit to be derived for all involved from a closer coordination between these disciplines. This may be challenging due to the physical separation between Hakodate and Sapporo Campuses, but continued oil and gas development is likely to increase the need for an integrated assessment of the impacts of these activities on the environment. This in turn, can only be achieved through close collaboration between different departments and institutions. A good example of how much can be achieved in this fashion are the Norwegian research programs carried out in the Barents Sea prior to significant oil and gas exploration (Sakshaug et al. 1992). The Okhotsk Sea is in many ways an international testbed for development of natural resources under the most challenging environmental conditions. Whatever can be learned here, and the POR Center, ILTS and HU are one of the focal points for these activities, can hold major lessons for the global community. Traditionally, such projects have been driven mostly by engineering constraints, but it appears that a more holistic view of the challenges and opportunities is emerging (Kitagawa 2006). However, this also requires closer coordination in both research and education between the engineering, natural sciences and socio-economic sciences sectors. Developing and strengthening these ties could be both a major challenge and a tremendous opportunity for the POR Center and other institutions at HU for the years to come.
The fact that media attention in regards to explaining the potential impacts of toxic spills into Okhotsk Sea waters or drainage systems has turned to members of the POR Center may also point the way towards recognizing that the POR Center and HU can play a major role in providing scientific, objective guidelines for desaster response. In the US, it has been recognized that despite industry assurances, gas and oil spill response in ice-covered waters is marginally effective at best (Dickins Associates 2004), and a number of recent studies suggest that only through effective collaboration between scientists, federal and local agencies and industry can these problems be overcome. The recent work by the POR Center on surface circulation and sea-ice processes in the Okhotsk Sea would make the Center a natural source of information and expertise in the case of accidents. This is a tremendous opportunity but also carries with it substantial responsibility that may have to be taken into account in future planning efforts.
While the author's point-of-view on this may be skewed and unrealistic, there is definitely the potential for the Okhotsk Sea to evolve into a major testbed and model for environmental and socio-economic and geopolitical change in the North of the 21st Century. Lessons drawn from studies in the Okhotsk Sea in the next 10 to 20 years may well inform and guide efforts in mitigation of impacts of climate warming in the high Arctic later in the century. At the same time, economic activities currently underway in the Okhotsk Sea may form the blueprint for projects in Arctic Russia, Alaska and Canada in years to come. In light of these developments, the POR Center could play a major role in providing objective, timely and reliable scientific data guiding our evolving understanding of the Okhotsk Sea, not just as a region, but as a system.
Whatever the direction that the Pan-Okhotsk Research Center is going to take in the near and far future, it may be well worthwhile to integrate the results of this planning process into a more concerted effort to shape the Center's corporate identity, including its self-image and projected image. As an example, both informal discussions with various personnel at ILTS as well as a visit to the Center's web site indicate that while people are aware of the Center, it's actual goals, aims and achievements are less clear. While this may not be applicable here, comparable institutions in the US often gain substantially from the process of developing a vision (Where do we see the POR Center fit into the biggest of pictures, five years or ten years down the line?) and a corresponding mission statement (What are the aims resulting out of this vision and how do we plan to achieve them?) that then provides guidance both in the short- and long-term planning process. The current web site indicates that there is a good start made in this direction, but that the presently available information does in no way justice to what one can consider one of the jewels in HU's Northern research fabric. Furthermore, this information is currently only available in Japanese, yet a presence in English and Russian could be of substantial benefit to both HU-ILTS and the Center as well as the international scientific community and other stakeholders.
References cited
北太平洋中層水形成の主な源であるオホーツク海(Shcherbina et al. 2003)は、漁業の糧である生態系を擁し、多種の鳥類、哺乳動物には繁殖や越冬の場を提供する。オホーツク海の主なる特色は季節海氷域であるということだ。北海道オホーツク海沿岸域の海氷は北半球では最南端に近い。過去数十年間の北極海海氷域で起きていると思われる急激な変化(Stroeve et al. 2005)や、北極における激しい気候変動の可能性について報告(Overpeck et al. 2005)される、地球の気候変動と温暖化の原因や影響を理解するためには、オホーツク海の大気、海氷、海洋の相互作用の研究が重要な糸口になると期待される。
オホーツク海はまた、経済学、地政学の見地からも途方もない重要性を持つ(Kitagawa 2006)。特記すべきは、近年のサハリン沖での石油、ガスの発掘、生産活動で、氷に覆われた海においては最大規模の沖合施設となることが予想される。ロシア政府と国際石油会社数社で提携し、発掘拡張やパイプラインによる天然ガス輸送など様々な計画が進行するなか、周辺環境への影響を最小限に抑えるため、また事故時の対処、対策のためにも、環境データはさらに重要性を増していく筈である。
このような背景のもとで、北海道大学低温科学研究所環オホーツク観測研究センター(センター)の設置はタイムリーで有意義なことだ。低温科学研究所(低温研)の研究者の優れた業績を土台に、地理的にも方法論的にもより広範な見地から、センターはオホーツク海研究において中心的役割を担っていくだろう。センター研究員たちによる過去、現在の研究成果が世界的に重要なものと評価され、オホーツク海研究が地域的のみならず北半球全体に関わるという前提に立ち、この評価レポートを作成する。北海道大学(北大)及び低温研が日本における北極研究の重要な研究機関として果たしてきた高レベルの実績業績を踏まえたうえで、ここでは将来計画の充実、拡張などの可能性に焦点をしぼってみたい。
2.1. オホーツク海の海洋学
ロシア、日本、諸外国の研究者による従来の研究に加え、オホーツク海の地域海洋学と大気—海氷—海洋の関係を解明する上でここ近年さらなるめざましい研究成果が報告されていて、その多くが現在はセンター所属の低温研の研究員によるものだ。ロシア排他的経済圏(EEZ)の条件下において、オホーツク海南端の日本の領海内での、(海洋レーダ、係留系、海上保安庁などの船舶を利用した定常海洋観測などによる)高密度観測ネットワークとロシア側研究者との共同研究による中部、北部オホーツク海の観測研究を連動させる計画は意義深いもので、すでに多大な成果をみている。かつては地図上の空白地域という独特の性質を持っていた東樺太海流の研究は、特に重要だ。この海流はまた、石油・ガス開発の現場を通過し、かつオホーツク海の中部と南部を動的に強く結び付けている。
センターの研究者たちは優れた研究成果を多くの学会誌に発表しているのみならず、メディアを通じ、また教育的ビデオの製作などで社会に還元している。産業の発展と環境保全の見地からオホーツク海の現在及び将来に関して社会の関心は非常に高い。このような社会還元を継続的に行うことは非常に意義深いが、研究者たちには負担が大き過ぎると思われるので、外的専門家や機関などに委ねた方がよいであろう。
2.2. オホーツク海の海氷研究
センターの研究計画中、海氷に関しては紋別の流氷研究施設での実績に基づき、センターで中核的役割を果たしている。北サハリンでのロシアの研究者との共同研究は特記すべきもので、石油・ガス開発海域の海氷研究にとって基礎的なデータを供給すると思われる(Shirasawa et al. 2005)。このような共同研究をモデルとして今後もオホーツク海での長期的国際共同研究態勢が望まれる。
海氷研究にとっての要は、北半球の海氷域の南限に位置する重要な場所での長期的な海氷の継続的変動記録である。30年以上に渡る流氷レーダによる北海道オホーツク海沿岸域の流氷出現や動態の観測や、最近の沿岸域汽水湖(サロマ湖)での海氷質量バランスや大気—海氷—海洋の観測などがその例である。これらのデータは、北極(亜北極)域の海氷域の長期的減衰の兆候を解明する上で不可欠である。
これらの観測を教育と結びつけることは研究にとっても学生の教育にとっても重要と思われる。また、データは地元関係者や地域社会にとって有用であるし、現場での観測やフィールドワークにおいては地元の漁業関係者の長期的な援助が得られてきた。同時に、流氷観光が盛んになり、過去、現在、未来における流氷研究が注目されている。
リモートセンシングの研究計画における現場観測から多くの重要な研究成果が発表されている。オホーツク海の海氷分布、マイクロ波放射計による薄氷の厚さ、海氷の運動解析などに焦点を置いて、リモートセンシングと現場観測を継続的、集中的に連携させることにより大きな効果が期待される。
3.1. 海洋学
近年多量のデータ——漂流ブイやリモートセンシング技術を用いた海洋循環の詳細な観測などのデータ(Ohshima et al. 2002など)を含む——が収集され、かつオホーツク海の重要な役割を考慮すると、オホーツク海の海洋システムの統合モデルは機を得たものであろう。北太平洋のプロセスへのオホーツク海の主な役割を考えると、(さらに海洋生物の理解と予測を助けるためにも)、高分解能海氷—海洋結合モデルによるシミュレーションは、オホーツク海の働きの理解を助け、観測からは得られ難い熱及び塩フラックスを導くであろう。後者は特に海氷生産量に当てはまり、センターの過去のデータに衛星データを同化させることは重要であろう。さらには、オンラインで得られる様々なデータ(センターで運用している海洋レーダのデータなど)や、係留型氷厚計によるデータを統合することに役立つであろう。
もう一つ、将来の研究計画として提案したいのは、オホーツク海の陸域?海洋相互作用の研究の強化である。アムール川が淡水や栄養分や他の溶存物質や粒子の主たる供給源であるので、淡水フラックスが表層循環や混合に及ぼす影響や他の海洋過程との関わりを解明することが求められる。このような研究はまた、センター内の陸域グループと海洋グループとの連携を促進するであろう。
3.2. 海氷
北北海道の海氷レーダデータセットの重要性と沿岸海氷観測の継続の重要性を考えると、異なる情報源からの観測結果を整理し、衛星データと流氷データの比較をすることなどは重要である。紋別のオホーツクタワーで沿岸レーダがまだ稼動していることは特記される。強力ではないが、このシステムは以前の流氷レーダ観測地での海氷の分布や動態の高い時空間分解能データを現在も提供している。オホーツクタワーのグループと共同でデータを適切に保存し、解析していくことは十分可能であろう。さらに、センターの大気研究グループが所有するドプラーレーダは、海氷の存在と動きの貴重なデータを提供するだろう。
また、このレーダ領域のデータは、氷厚測定ソナーから得られる海氷体積やフラックスと共に海氷気候に組み込まれるのではないか。最後に、マイクロ波データとレーダデータが数年間同時に観測されれば、詳細な比較研究ができるだろう。時系列データの長さや期間(長期目視観測データを含む)、またその分解能の高さを考慮すれば、たとえ一地域的なものではあっても今後もこのようなアプローチが重要と思われる。
中部、北部オホーツク海の海氷観測におけるロシアの研究者との長期的共同研究を構築することは、将来的にも有意義なことと思われる。気候変動の観点から見ても、また大陸棚開発にとっての重要なバックグラウンドとしても支援を受けることに値する。大陸棚開発は、特に厳しい沿岸域海氷に関する環境情報を要求している。
3.3. 連携の強化と相乗効果
今後の可能性として提案したいのは、オホーツク海研究に携わっている或いは関係のある研究グループや機関との様々なレベルでの連携の強化である。北大は日本における北極研究と教育のメッカであり、学内の学際的連携の強化により大きな成果と相乗効果が期待されるのではないか。
センター内においても、異なる分野の交流や研究者、学生、研究支援者間の知的交流を促進するために、定期的にセミナーなどのミーティングを持つとよいのではないか。そのような活動は、新しい学生や研究者のリクルートにも繋がるであろう。
このことは、低温研内の他のグループや、また北大内の他の学部、学科などにも広く当てはまるであろう。水産、海洋哺乳類、鳥類の生態にとって、海洋物理と海氷情報は重要なので、それらの分野間で緊密な関係を構築することで、それぞれが得るものは大きいと思われる。函館—札幌間の距離を考えると簡単ではないかもしれないが、石油・ガス開発が進行中の現在、環境への影響を共同で研究して行く必要性が更に増している。逆に言えば、異なる学科や研究機関での緊密な協力なくしては達成されないであろう。そのような共同研究の良い例として、バレンツ海の大規模な石油・ガス開発に先立って、ノルウェーでは研究が実施され、大きな成果が上げられた(Sakshaug et al. 1992)。オホーツク海は、困難な環境条件下における天然資源開発の試金石として国際的にも注目されている。この現場で、またセンター、低温研、北大が学んでゆくことは、世界的に共通するレッスンである。今までは、このような研究は、主に工学の分野に限られていたが、全体的見地で立ち向かうようになってきた(Kitagawa 2006)。工学、自然科学、社会経済学間で密接な共同研究、また共同教育が要求される。このような繋がりを発展、強化することは、センターや北大の他の機関にとって今後の大きな課題であり、極めて有意義なことであろう。
最近、オホーツク海で起きた有毒物質流出か廃液処分が疑われた件で、メディアがセンターに説明を求めてきたことからも明らかなように、センターや北大は災害に対する科学的、客観的な対策を提供する役割を担っている。米国では、企業の言質に反して、氷海域での石油・ガス流出時の対策はあまり効果的ではなかったとの報告があり(Dickins Associates 2004)、最近の数々の研究は、科学者、国、地方行政、企業間での効果的協力によってのみ、この問題の解決がみられると指摘している。オホーツク海の表層循環と海氷過程に関する研究がセンターで最近なされ、事故が発生した場合には情報や知識を供与できる立場にあるが、それは非常に大きな責任を伴うということを、将来計画を立てるうえで忘れてはならない。
著者の偏った非現実的な意見かもしれないが、オホーツク海は、21世紀北方圏の環境・社会経済・地政学的変化に対する重要な試金石、またはモデルとなる可能性が大きいと思われる。今後10年、20年間になされる研究は、今世紀後半の高緯度地域の温暖化による影響の緩和に向けた努力につながっていくだろう。同時に、オホーツク海で現在進行中の経済活動はロシア、アラスカ、カナダの北極域の今後のプロジェクトの青写真となりうる。センターが提供する信頼度の高い、タイムリーで客観的科学的データは、オホーツク海を地域としてだけではなく、システムとしてとらえ、理解をより深めていくことに役立つであろう。
環オホーツク観測研究センターが今後どのような方向に向かうにせよ、センターのアイデンティティー、自己像と対外像を明確にすることが望ましいと思う。低温研の研究者数名と談話し、またセンターのウェブサイトを見たことから、著者は気付いたのだが、センターの存在は知られていても、具体的にセンターの目指すところ、その目標、内容は明確ではない。比較には無理があるかもしれないが、米国の研究機関での具体例を挙げてみよう。先ずヴィジョンを展開させる(5年後10年後のセンターの位置付けは?)。ヴィジョンに沿った実行計画を立てる(ヴィジョンに適う具体的目標は何か?その目標をどのように達成するか?)。こうして短期・長期の計画を立てる。ウェブサイトの開設はよいスタートではあるが、その内容は北大の北方圏研究の宝石ともいえるセンターを十分に紹介しているとは言えないのではないか。また、ページは現在のところ、日本語のみである。英語・ロシア語のページがあれば、諸外国の研究者にも有用であろうし、センター、低温研、北大にとっても有意義と思われる。
This report is based on my personal experience during my collaboration with some members of the glaciology group and various visits of a few weeks to months in the Institute of Low Temperature Science since 1999. I did not have close contacts with all members of the group, and therefore, I will not be able to report on all activities on the same level of details.
The Experimental and Theoretical Glaciology Group at the Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University, Sapporo, consists of two professors, Dr. T. Hondoh and Dr. R. Greve, associate professor Dr. T. Shiraiwa, lecturer Dr. S. Sugiyama and assistant professor Dr. Y. Iizuka. The group may be considered in a transitional stage since several members, Prof. Greve, Dr. Sugiyama and Dr. Iisuka, started their employment in the group and one associate professor, Dr. R. Naruse, retired during the period in consideration. Dr. Shiraiwa is delegated for five years to the Amur-Okhotsk Project at the Research Institute for Humanity and Nature (RIHN) in Kyoto since two years. The period for applications for a position of a professor just ended at the end of October 2006 and is now under evaluation. It will be important to stabilize the group to maintain and secure its longer term goals of basic research in the physics of ice related to the analysis of the ice cores retrieved from Dome F in Antarctica and other high mountain drilling sites at lower latitudes.
The group spans a wide range in the fields of ice physics from the microscopic scale of molecules and crystals to the continent size scale in the dynamics of large ice sheets. This composition of the group bears a great potential of bridging the wide gap between micro- and macro scales, which however, may prove to become a longer term endeavour and requires some stability in the personal composition of the group for some time.
Experimental glaciology: The work in the laboratory is primarily aimed at two main streams, the basic physics of ice and its applications to the analysis of ice cores. In this respect, the laboratory plays an importants role among the worlds leading laboratories in ice physics and ice core analysis and in some specialisation, it plays a leading role since many years. Under the leadership of Prof. Hondoh, the group developed a modern laboratory for advanced investigations in ice physics and produced an impressive number of well cited papers in the past years. The fact that most papers are multi-author papers reflects the team working style in the laboratory and the many national and international collaborations.
At present, the leading fields of the laboratory are in the analysis of formation and occurrence of gas hydrates in the ice of the Antarctic ice sheet, the diffusion of gas and the fractionation of air molecules in the ice, and the analysis of size, shape and chemical composition of microparticles in the ice of Antarctica. The applied experimental techniques make use of X-ray diffraction, ion chromatography, mass spectrometry, liquid scintillation methods and back-scattered Raman spectroscopy. The experimental results obtained from the study of samples from the ice cores are used to study the underlying processes by theoretical analysis as well as numerical modeling. The deeper understanding of these processes provides the basis for a variety of analyses of ice core samples and correspondingly to extract more detailed and variable information on past climate from ice cores. The study of dislocations in ice crystals and their role in the rheological properties of ice in general and of glacier ice in particular is one possible path for bridging the microphysics of ice to the large scale modeling of glaciers and ice sheets.
Field work: Dr. Shiraiwa successfully organised and participated in several high mountain ice core drilling projects in Patagonia, Alaska, Kamchatka and Siberia. His publications reflect several topics concerning the reconstruction of climatic conditions from ice cores in lower latitudes. The multi-author papers of Dr. Shiraiwa reflect his many contacts and successfull international cooperations. At present, Dr. Shiraiwa is delegated for five years to RIHN in Kyoto. To maintain the expertise of high mountain ice core drilling, which is an important complement to ice core drilling in the polar ice sheets, it will be important to secure his position at ILTS on longer terms.
With Dr. Sugiyama, the promissing combination of expertise in modern methods of experimental glaciology and state of the art glacier modeling is brought into the group. He is a member of the group since 2 years after spending 2 years as a postdoctoral study at the glaciology group of ETH Zurich. In the past few years he designed, tested and applied novel instruments to observe strain rates on glacier surfaces and in boreholes. He combines great skills in experimental work with a deep insight in the theoretical background of glacier physics and developed unconventional and ingenious interpretations of the sometimes surprising and intriguing experimental findings.
Theoretical glaciology: Prof. Greve is a member of the Group since three years. He is one of the pioneers in numerical modeling of ice sheets and his ice sheet model SICOPOLIS and specialized versions of it found many applications in coupled climate systems models. His research activities span a range of topics from a) numerical modeling of the dynamics of glacier and ice sheet, b) coupling of the ice sheet model to climate models of various complexities, c) numerical process studies of ice sheet surging in connection with Heinrich events, d) dating of ice cores, e) modeling Martian ice caps, f) implementation of novel ice physics. in particular anisotropic flow behaviour, in ice flow models. At present, further studies for the implementation of anisotropic flow behaviour of ice are performed. This is a timely step in ice sheet modeling but also a step in the direction of bridging the still wide gap between the research on the small scale in the ice physics laboratory and the large scales in the ice sheet models.
An important aspect of the modeling group is the broad international contacts and cooperations. Prof. Greves contacts to the German and broader international ice sheet and climate modeling community are well established and are expected to remain so in the future.
The group is contributing to the education on the level of graduate and doctoral studies at the Hokkaido University, Sapporo. As in most universities, the groups scientific output relies on graduate and doctoral studies. Several doctoral students in recent years were quite successful in their following academic career, a fact that also reflects the high level of supervision by the principal researchers.
The cryosphere in general and in particular land based ice masses such as glaciers and ice sheets play an important role in the global and local climate systems. It may thus be advisable to contribute additionally to undergraduate studies, not only to strengthen the consciousness and awareness of the role of the cryosphere in a wide range of Earth systems processes, but also to promote further interest for good students in various fields such as physics, chemistry, environmental science, engineering and computational science to embark in cryospheric research.
The groups contacts to ETH Zurich are not only of mutual interest in research cooperations but also in exchange of teaching courses for both universities. Furthermore and with high priority, teaching will be coordinated with the International Antarctic Institute (IAI) in Hobart, Tasmania, which is a partly real and partly virtual university founded in connection with the International Polar Year 2007/08.
このレポートは、当該グループに所属する数名のメンバーと行った共同研究、および1999年以降に数週間から数ヶ月にわたって低温科学研究所に滞在した経験に基づくものである。私はすべてのメンバーと密接な関係にあるわけではないので、当該グループの活動すべてに関して詳細にレポートすることはできないことを断っておく。
北海道大学・低温科学研究所・雪氷変動/理論雪氷グループの構成員は、本堂武夫およびラルフ・グレーベ教授、白岩孝行助教授、杉山慎講師、飯塚芳徳助手である。本レポートが評価の対象としている期間中に、ラルフ・グレーべ、杉山慎、飯塚芳徳の3名がグループに加わり、成瀬廉二助教授が退職していることから、現在グループはある意味での遷移期間にあるといえよう。さらに、白岩孝行はアムール‐オホーツクプロジェクトに参加するために京都の総合地球環境学研究所に出向中である。また、2006年10月末に公募が締め切られた教授職は、現在応募者の審査が行われているところである。南極ドームふじや低緯度地域の高山で掘削された氷コアに関する基礎的な氷物性研究の分野で、グループの長期的な目標を達成するためには、グループメンバーを安定させることが重要であろう。
当該グループは、氷分子や結晶といった微視的スケールから、巨大な氷床の動力学といった巨視的スケールまで、氷物理の広い分野を研究対象としている。このような研究体制は、微視および巨視的スケールの間に存在する研究上のギャップをつなぐ可能性を秘めている。しかしそのような成果を挙げるためには長期的な取り組みが必要であり、グループメンバーがある程度安定することが求められる。
実験雪氷学:当該グループが実施している実験分野での取り組みは、氷の基礎物性、およびその氷コアへの応用というふたつに大別できる。当該グループは、世界の氷物性や氷コア解析グループの中にあって重要な役割を果たしており、一部の課題においては長い間世界を牽引する立場を担ってきた。当該グループは本堂武夫教授の指導のもと、最先端の氷物性解析に必要な最新実験設備を備え、良く引用される論文をこれまでに多く発表してきた。多くの論文が複数名の著者によるものである事実が、チームワークを重視し、国内外の多くの研究者と共同研究を実施する、当該グループの研究スタイルをよく表している。
現在最も力を入れている研究課題は、南極氷床中におけるガスハイドレートの生成過程、氷中における気体拡散と空気分子の分別、南極氷コアに含まれる不純物のサイズ、形状および化学組成の解析である。これらの解析にはX線回折、イオンクロマトグラフィー、質量分析計、液体シンチレーション法、後方散乱ラマン分光などが使われている。氷コアから得られた実験結果は、関連する基礎プロセスの理論解析や数値計算に用いられている。それら基礎プロセスのさらなる理解は、さまざまな氷コア解析の基盤を形成し、氷コアからさらに詳細な古気候情報を引き出すことを可能にするものである。氷結晶中の格子欠陥が氷、特に氷河氷床氷の流動に果たす役割に関する研究は、微視的な氷物理の成果を巨視的な氷河氷床モデリングにつなげる可能性のひとつである。
野外観測:白岩孝行はパタゴニア、アラスカ、カムチャッカ、シベリアなどの高山における掘削プロジェクトを企画実行し、成功を収めてきた。彼が発表した文献のいくつかは、低緯度地方の氷コアから古気候を再現する様々な研究課題を扱ったものである。複数の著者からなる彼の論文は、国際的に多くの人的交流を果たしてきた事実を良く物語っている。現在白岩孝行は京都の総合地球環境学研究所に出向中である。極地氷床での掘削と相補的な関係にある高山氷コア研究の分野で、今後もレベルの高い研究を続けていくためには、長期にわたって彼の職を低温科学研究所内に保持し続けることが重要である。
最新の氷河観測技術と先鋭的な氷河モデリングとが融合した、将来性のある研究分野が杉山慎によってグループに導入された。彼は2年間をスイス連邦工科大学・水文水理氷河学研究所の研究員として過ごしたあと、グループに加わって2年になる。過去数年間において、氷河表面や掘削孔内で氷のひずみを測定するために新しい測定装置を設計し、試験、運用してきた。彼は優れた実験的な手法を氷河物理学の理論に関する深い理解と結びつけ、非常に興味深い観測結果に独創的な説明を与えてきた。
理論雪氷学:ラルフ・グレーベ教授はグループに加わって3年になる。彼は氷床モデリングに関する先駆的研究者の一人であり、彼が開発した氷床モデルSICOPOLISとそれを様々な課題に専門化したモデルは、気候システム結合モデルの分野で多く応用されている。彼の研究活動は、a) 氷河氷床動力学の数値モデリング、b) 様々な複雑さでの氷床および気候モデルの結合、c) ハインリッヒイベントと関連した氷床サージに関する数値的なプロセス研究、d) 氷コアの年代決定、e) 火星氷床のモデリング、f) 新しい氷物理の氷床モデルへの応用、特に氷流動モデルへの異方性の導入、といった幅広い分野を対象としている。流動モデルへの異方性の導入は氷床モデリングにおいて時宣を得た課題であると同時に、実験室における微視的な氷物性研究と、巨視的な氷床モデリングとを結びつける課題でもある。
数値モデリング分野において重要な側面は、国際的な広い人的交流と協力関係である。グレーベ教授は、ドイツ、およびさらに広く国際的に、氷床と気候モデリングのコミュニティーと交流があり、今後もその交流関係が継続されることが望まれる。
当該グループは北海道大学の修士および博士課程レベルでの教育に貢献している。多くの大学がそうであるように、このグループの学術的成果の多くが修士および博士課程の研究テーマから生まれている。過去数年に博士課程を修了した学生の幾人かはその後大きな成功を収めており、グループ内研究者による高度な指導体制を裏付けている。寒冷圏一般、特に氷河や氷床といった陸上の氷体は、地球規模および局地的な気候システムにおいて重要な役割を担っている。したがって、大学院教育からさらに踏み出して、学部学生への教育にも貢献することが期待される。学部での教育は、学生に寒冷圏が地球システムの様々なプロセスに果たす役割を意識させるためだけでなく、物理、化学、環境科学、工学、コンピュータ科学の分野に在籍する優秀な学生を寒冷圏科学の分野に引き入れるためにも重要である。
当該グループがスイス連邦工科との交流を行っているのは、相互が研究協力に興味を持っているからだけでなく、お互いの教育カリキュラムを交流させる目的でもある。国際極年(2007/2008年)に関連して助成を受けたタスマニア・ホバートの国際南極大学(IAI: International Antarctic Institute)との連携によって、教育体制はこれからますます大きな重要性をもって整備されていくことであろう。
I have been requested to write an evaluation report about the research performed by the Planetary Science Group at the Institute of Low Temperature Science (ILTS) at Hokkaido University.
The group has been actively producing very high level research both on the experimental and on the theoretical ground for several years and I am familiar with it.
I strongly support the proposal of Prof. Akira Kouchi and Prof. Naoki Watanabe to carry on and extend experimental measurements of the catalytic efficiency of the surfaces of solids of astrophysical interest, that are currently done in their laboratory at the Institute of Low Temperature Science (ILTS) of the Hokkaido University in Sapporo.
Laboratory simulations of physical-chemical processes, occurring in conditions and on the type of surfaces of solids close to those encountered in the interstellar medium, started to be performed only few years ago due to their intrinsic difficulties; it is therefore the most virgin field in Astrochemistry and the one in which in the next future important steps will be made. Prof. Kouchi and Prof.Watanabe have already contributed very much to the advancement of this field with a series of important papers about hydrogenation reactions taking place on the surface of various ices and, for the results they obtained, they are already highly recognized by the international community of astrophysicists and astrochemists.
At present the laboratory of Prof. Kouchi and Prof. Watanabe is one of the very few in the world where surface reactions are investigated in simulated interstellar scenarios.
Furthermore, their effort to concentrate investigations on the deuteration of species by surface reactions is of particular importance in light of the very recent growing observational evidence that deuterium fractionation in the interstellar medium is much more relevant than previously believed, and the project to construct new apparatuses with sophisticated analytical devices is fundamental to enlarge the number of possible reactions, whose occurrence can be studied in the laboratory for the years to come.
I also strongly support the project carried out by Prof. Tetsuo Yamamoto and Dr. Hidekazu Tanaka. The objective of the project, which is supported by the MEXT, is the study of dust relevant to exoplanetary science and of the formation of planetary systems around stars. Prof. Yamamoto and Dr. Tanaka organize a dust group in Japan, and make fruitful collaborations with Japanese and international dust groups including the ones in Nagoya, Kyoto, Kobe, Sendai, Tokyo, Cairo, Muenster and NASA Goddard. In fact, the group of the ILTS acts as one of the international centers for the study of astrophysical dust.
Prof. Yamamoto has worked on dust formation and processing relevant to formation of planetary systems and minor bodies in the solar system. His study of dust formation and the origin and of evolution of cometary ice is highly recognized in the international community. He acts as a chair of a Working Group of physical study of comets in the Commission 15 of the International Astronomical Union. Dr. Hidekazu Tanaka has developed a theoretical model of planet migration and thermal evolution of protoplanetary disks in connection with observations of extra-solar planets. His model is widely accepted as a standard model in the community of the planet formation theory. He has recently completed a computer code for simulation of 3D collisions of dust aggregates in collaboration with Dr. Wada and Prof.Yamamoto. This is the first code in the world, which enables to reveal realistic growth processes of dust in the disks. This also enables to make a state-of-the-art analysis of the observations of protoplanetary disks.
In addition, the theory group works in collaboration with several other groups also on a wide range of topics on astrophysical dust, such as: dust evolution in protoplanetary and debris disks, molecule formation on dust surfaces, light scattering by dust aggregates (applicable to any shape and structure), and low temperature crystallization of amorphous dust.
In summary, the planetary science group in the ILTS is very active in the international standard in both experimental and theoretical studies.
I very strongly hope that the ILTS will support their activity.
私は北海道大学低温科学研究所の惑星科学研究グループが行っている研究に関する評価を行うよう依頼を受けました.
当該研究グループはここ数年,実験と理論の双方の分野で非常に高いレベルの研究成果を出し続けています.
私は香内晃教授と渡部直樹助教授が現在行っている天文学的に重要な氷表面での触媒効果に関する実験的研究や今後それらを発展させようとしている研究計画を強くサポートします.
星間空間の固体物質表面で起こる物理化学過程の実験室でのシミュレーションは,実験的困難が大きかったためごく最近始められたばかりです.それ故,シミュレーション実験は星間化学では未開拓の領域であり,今後しばらく重要な進歩が期待されます.香内教授と渡部助教授は種々の氷表面で起こる水素付加反応に関して一連の重要な論文を発表して,この分野の進歩に大変大きな貢献をしています.これらの研究成果によって,彼らはすでに天体物理学や星間化学の国際コミュニティから高く評価されています.
香内教授と渡部助教授の研究室は星間表面反応を研究する世界でもほとんど例のない研究室です.
さらに付け加えると,表面反応による星間分子の重水素濃集に関する彼らの研究は特に重要です.というのは,最近の天文観測により星間空間での重水素分別が,これまで考えられてきたよりはるかに重要な役割を果たしているらしいことが明らかになってきたからです.また,彼らが現在開発中の新しい分析装置を備えた実験装置は,星間空間で起こりうる反応をさらに多く調べるために本質的に重要です.今後数年でそれらの研究が行われることを期待します.
私は山本哲生教授と田中秀和助教授により行われている研究プロジェクトも強くサポートします.彼らの研究は特定領域研究によりサポートされており,太陽系外惑星の発見や惑星系の形成機構の理解にとって本質的に重要なダストに関する研究です.山本教授と田中助教授は日本でのダスト研究グループの中心であるとともに,以下の国内外の研究グループと密接な共同研究を行っています:名古屋,京都,神戸,仙台,東京,カイロ,ミュンスター,NASAゴッダード.
山本教授は太陽系の惑星や彗星などの小天体の形成にとって重要なダスト形成やその後の変化過程の研究に従事しています.彼のダスト形成理論や彗星の起源と進化に関する理論は国際的に高く評価されています. 彼はまた国際天文学連合の彗星研究ワーキンググループの委員長を務めています.田中助教授は太陽系外惑星の観測に必要な惑星移動過程や原始惑星系円盤の熱進化過程の理論的モデルを発展させてきました.彼らのモデルは広く受け入れられており「惑星形成の標準モデル」として有名です.最近は,和田博士,山本教授と共同で,ダスト集合体の3次元衝突シミュレーションのための計算コードを完成させました.これは世界初の快挙で,原始惑星系円盤でのダスト集合体のより現実的な成長過程が明らかになると期待されます.さらに,これは原始惑星系円盤の観測結果の解析をよりすばらしくするものです.
さらに付け加えると,理論グループは他の研究グループとの共同研究により以下のようなダストに関する多様な研究も行っています:原始惑星系円盤でのダスト進化,ダスト表面での分子形成,ダスト集合体による光散乱,アモルファスダストの低温での結晶化.
最後にまとめると,低温科学研究所の惑星科学研究グループは,実験,理論の双方とも国際基準からみて非常に活発な研究グループである.
私は低温科学研究所が彼らの研究を強くサポートして下さることを心より希望致します.
Recently, I am a research worker at the Institute of Geography, the Faculty of Science, Masaryk University in Brno, Czech Republic. For the first time, I worked at the Cryosphere Science Research Section of the Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University in 2002. Prof. Dr. Toshihiko Hara, the head of Cryosphere Science Research Section, invited me to carry out a climatological research in his laboratory. My stay was supported by the Japan Society for the Promotion of Science (JSPS), I got a Postdoctoral Fellowship Project from September 2002 to November 2003. Within the frame of research project “Spatial and temporal variability of the climatic conditions in sub-boreal forest ecosystems” I have mainly focused on monitoring of physical parameters of the atmosphere boundary layer inside and/or above sub-boreal forest. I also focused on general description of the interactions between climatic conditions and vegetation cover dynamics. The measurements were carried out in the northern part of Hokkaido at two forest stands differing in age and species composition: 1) secondary forest of Betula ermanii, and 2) mixed forest of conifers and deciduous trees. The forest floors of both study sites were densely covered with dwarf bamboo (Sasa kurilensis).
Close co-operation with the principal researchers of the Cryosphere Science Research Section was established during following short-term stays at the Institute of Low Temperature Science in 2004 and 2005. Due to the core project “Atmosphere-Biosphere-Cryosphere Interaction in the Cold Regions”, which was held by Prof. Hara, I prolonged climatological and ecological measurements at the same study plots and made intensive field experiments there. Some of university students from Hokkaido University and postdoctoral fellows were also involved in the above-mentioned projects and assisted me a lot with field work and data collection.
In 2006, I was invited to continue the previous scientific activities at the Institute of Low Temperature Science under the Specially Appointed Lecturer Program of Hokkaido University and performed field work in the summer season. The main research objective was to study the effect of climate change on energy?water cycles and growth dynamics of a boreal forest. The complex monitoring of energy and water transfer processes in forest stands was performed during one growing season (June ? September) and subsequently compared with data taken in previous years. The study included the measurement of water vapour fluxes by eddy-covariance, gradient and Bowen approaches, measurement of tree and understory sap flow by THB method, the stem growth measurement, and soil water monitoring.
First of all, I would like to appreciate help and support of the authorities of the ILTS and also technical assistance provided by research workers and technicians of the ILTS. Large data sets were collected within several last years of the project(s) that could not be possible without great help of other colleagues from the Cryosphere Science Research Section and several Ph.D. students and postdoctoral fellows. In summary, I find that the collaboration between Masaryk University (CZ) and the Cryosphere Science Research Section (ILTS) was effective, fruitful, and profitable for both institutions.
I feel, however, that co-ordination of field work and exploitation of existing local climatological databases should have been more effective. For future research, extensive data mining taken before the period of experimental design planning and field measurements is recommended. Invitation for a larger number of experts from different faculties of Hokkaido University is a reasonable solution in order to promote future research outcomes. Also involvement of international scientists, Ph.D. students in particular, is a prospective measure to assure continuation of bioclimatological measurements at the above-specified experimental forest plots. An offer for participation in the project will be made for Czech students starting their Ph.D. studies in Sept. 2007.
私は現在、チェコ共和国・マサリク大学理学部・地理学研究所の研究員である。私が最初に北海道大学低温科学研究所の寒冷陸域科学部門で研究を行ったのは、2002年のことであった。原教授が北方林における気象学的研究を推進するため私を招待してくれたのであった。私は日本学術振興会の外国人特別研究員として来日し、2002年9月から2003年11月まで低温研で研究を行った。私は、研究プロジェクト「北方林生態系における気象条件の空間的・時間的変動」を計画し、主に北方林における大気境界層の物理的パラメータの観測を行った。そして、気象条件と植生動態の相互作用にも着目して解析を行った。これらの観測や調査は、北海道北部、母子里の北海道大学・雨龍研究林において林齢や種構成が異なる二つの森林で行った:1) 広葉樹ダケカンバの二次林、そして2) 針葉樹・広葉樹混交林、である。これら二つの調査地ともに林床はチシマザサで密に覆われていた。
2004年と2005年にも3〜4週間ずつ短期滞在し、共同研究を継続したのであるが、兒玉博士や石井博士など寒冷陸域科学部門の他の研究グループの研究者とも密接な共同研究を行うことができた。そして、原教授の研究プロジェクト「寒冷圏における大気−植生−雪氷相互作用の解明」を推進すべく、同じ母子里の調査地で気象学的・生態学的研究を継続した。寒冷陸域科学部門の大学院生やポスドク研究員たちも上記の研究プロジェクトに参加しており、フィールドでの調査や観測では彼らの援助を大いに得ることができた。
2006年には、低温研の特任講師として再び札幌に来ることができ、6〜9月の4ヶ月滞在し上記の母子里での観測・調査を継続した。主な研究目的は、気候変化が北方林の熱・水輸送と生長動態に及ぼす影響を解明することである。北方林における熱・水輸送に関する様々な観測を樹木の生長期である6〜9月に行い、これまでに取っていたデータと比較検討した。この研究では、渦相関法やボーエン法による水蒸気フラックス、TBH法による樹木と林床植生ササの樹液流、樹木の幹直径の生長、土壌水分などの観測・調査を行った。
まず、低温科学研究所からの様々な援助に対して感謝したい。また、低温研の研究者や技術部からの科学的・技術的支援に対しても感謝したい。過去数年間で膨大なデータセットを得ることができたが、これは寒冷陸域科学部門のスタッフ、大学院生、ポスドク研究員など多くの方々の協力なくしてはなし得なかったものである。結果として、マサリク大学と低温科学研究所の共同研究は、双方にとって非常に有意義で実り多いものであったと言える。
しかしながら、野外調査の準備を事前にもっと周到に行うことやこれまでにこの地域の測候所などで蓄積されている気象データをもっと活用することなどが十分に行えればさらに実りある研究が行えたと感じている。今後の研究においては、野外調査・観測を行う前にこのような気象データを十分に活用、解析し、それに基づいて研究計画を練ることが重要であろう。また、北海道大学の他学部・研究科からも気象や生態の専門家に参加してもらうことも今後、研究を発展させる上で重要であろう。さらに、海外からの研究者、特に博士課程の大学院生にも母子里における研究プロジェクトに参加してもらい、国際的な研究グループで北方林の生態・気象学的研究を行うことも今後、この学際的な研究プロジェクトを発展させるうえで重要になってくるであろう。まずは、2007年9月からチェコの博士課程大学院生が博士号取得を目標にこの母子里プロジェクトに参加できるよう提案を行いたい。
今回、当研究所にとって6年振りの外部評価を頂いた。頂戴した最終報告書は、全体的に極めて格調の高い、力のこもった立派なものであり、藤井委員長をはじめ委員各位のご尽力に心よりの謝意を申し上げる。全国共同利用型研究所に改組されてから10年経過後の外部評価であったが、最大の方向転換であった、「寒冷圏環境科学」の中枢的研究機関としての役割を果たす、という点での方向性については順調に進んでおり、国際的リーダーとしての役割を充分に果たしている、との温かい評価を頂いたことには正直ホッとしている。
しかし、いくつかの鋭いご指摘に対しては、そのほとんどがもっともなことであり、今後大いに反省し、早急に改善策を講じていかねばならないと認識している。ご指摘の最も重要なポイントは、研究体制と人事に関わる部分であります。先ず、研究体制であるが、現在の4大部門である「寒冷海洋圏科学部門」、「寒冷陸域科学部門」、「低温基礎科学部門」、「寒冷圏総合科学部門」のそれぞれの役割や相互間の連携具合が不明確で必ずしも充分に機能していないのではないか、とのご指摘である。これは、各部門の中に存在する研究グループの位置づけや役割が明確でないことも大きな要因になっているのかもしれない。この研究グループ制については、前回の外部評価でも強く指摘されていたことであるが、現実的に微妙な問題が内在していることでもあり、中々手がつけられないでいた。
研究は、究極的には個人単位のものであるので、それを最大限に尊重しなければならない。その結果として、個々の研究グループの立ち上げを認めることになるが、一方で、研究所、それも全国共同利用型研究所に所属するスタッフの一員という立場では、研究所全体のパワーアップに個人として最大限の貢献をすることが強く望まれる。この点では、各個人や各研究グループがそれぞれの特徴を生かしつつも、全体として統合する編成換えが望ましいのかもしれない。研究体制に対する見直しについての二度にわたる同様の厳しいご指摘に対しては、所員一同深刻に受け止め、今度こそ早急に議論を開始し、個人としても、また研究所全体としても、今後より素晴らしい研究活動が実現できるような研究体制を構築していかねばならない。今回委員会から頂いたご指摘が、その一つの足がかりになるかもしれない。つまり、4大部門制よりも現実的に研究アクテイビテイの基本になっている3研究系「大気海洋系」「雪氷系」「生物系」という大枠を生かした上で、各系が最低限必要とする複数の研究グループから構成された組織にする、というのも改善策の一つと考えられるが、これは当研究所にとって大きな問題であるので今後の課題としていきたい。
次に、組織を維持・発展させていく上で最も重要な、しかし最も困難なのが人事である。当研究所がこの10年間に進めてきた、「明確な方針の下、公募による透明性の高い人事プロセス」に対する高い評価は頂いたものの、その結果として研究体制の一部に歪が生じているのではとのご指摘については、我々も認識しているところであり、優秀な若手の内部昇格などの点も含めて今後の検討課題と考えている。ただ、この10年間に進めてきた人事について、勿論完全というわけにはいかなかったが、全体的な方向性としてはそれ程間違っていなかったと判断している(勿論、この最終判断は後世に委ねられるが)。それまでの当研究所に対する学内外からの厳しい評価に打ち勝ち、大きく飛躍していくためには、基礎体力作りが当面の課題であったし、そのためには外からの優秀な人材を確保する時期も必要であった。委員会からも改組の理念を実現するには、人事面では時間を要することであり、過渡期の現象だとして一定のご理解を頂いた。今後については、ご指摘の点を充分考慮した対策作りを進めていきたいと考えている。
また、研究支援組織、特に研究協力室と技術部の組織改編については有難い評価を頂いた。一方、技術職員の優れた職務内容、実力についての評価を、キャリアパス、待遇等の具体的改善方策により反映させてはとの前向きのご指摘については、今後充分に考慮していかねばならない。研究支援組織の強化は、全国共同利用型研究所として最も重視すべきことの一つであり、今後もさらなる向上を目指していきたい。
研究活動については、それぞれの研究分野とも概ね高い評価を頂いた。今後とも、それぞれ研究系の特色を生かしつつ、研究所全体としての大きなインパクトが与えられるような成果を生み出していきたい。今後の研究の方向性の中でご指摘頂いた、長期的視野に立った地球規模の気候変動研究や惑星科学研究のさらなる発展へのご期待に応えていきたい。
COE研究所として果たすべき役割については、低温関連科学分野の中核的研究機関として世界を先導していく研究所へのご期待の他に、積極的な教育への参画に取り組んでほしいとの強いご要望を頂いた。当研究所は、環境科学院、理学院、生命科学院に協力講座として大学院教育に参画している。今後は、これら通常の大学院教育の他に、研究所なるが故の教育のあり方について模索していきたい。例えば、大学院学生を国際研究プロジェクトに早い段階で直接参加させたり、最先端研究現場で新しい研究が生まれていく瞬間を体得させるなどの現場授業による教育を志向していくことも一つのあり方であろう。より早い段階から研究に対する興味を植えつけるべく、今後は学部教育にも積極的に参画していきたいと考えている。
海外からも4名の有識者による貴重な評価を頂いた。外国人評価委員は、海洋・海氷科学分野の米国アラスカ大学地球物理学研究所アイケン教授、氷河・氷床科学分野のスイスETH大気気候科学研究所ブラッター教授、惑星科学分野のイタリア・カターニャ大学ピロネロ教授、さらには植物生態学分野のチェコ・マサリク大学ラスカ博士である。各分野ともそれぞれ全体的に極めて高い評価を頂いた。アイケン教授から、環オホーツク圏環境科学分野における高い研究成果の評価とその結果生まれた「環オホーツク観測研究センター」が果たすべき役割の重要性と今後への大きな期待が寄せられた。また、ブラッター、ピロネロ両教授からは、氷河・氷床科学、惑星科学両分野の世界的に極めて優れた研究アクテイビテイと両者に共通する理論と観測のバランス良いグルーピングに高い評価を受けた。また、ラスカ博士からは、母子里における植生動態グループと気象・雪氷グループとの共同研究に対する評価とともに、より効果的なフィールド観測研究推進への期待が寄せられた。さらに、ブラッタ教授からは、未開拓分野であり、息の長い研究分野である寒冷圏環境科学の重要性を早い時点から学生に認識させるためにも、大学院教育だけでなく、学部教育にも力を入れていくべきだとの貴重なご指摘を頂いた。
尚、本外部点検評価報告書では、沿革・組織・運営等、当研究所の概要について掲載していない。それらについては、委員会開催日に向けて作成された「自己点検評価報告書」(2006年10月発行)に詳細に書かれているので、それをご参照頂くこととした。
今回の外部点検評価にあたっては、評価委員には以下の資料を配付しました。 本報告書には、これらの資料は含まれていませんが、お申し出があれば随時お送 り致しますので、必要な方は下記連絡先にご一報下さいますようご案内申し上げ ます。
〒060-0819 札幌市北区北19条西8丁目
北海道大学低温科学研究所 庶務担当
Tel. 011-706-5445
Fax. 011-706-7142
E-mail: syomu [at] pop.lowtem.hokudai.ac.jp