ILTS

北海道大学低温科学研究所

外部点検評価報告書

平成13年3月

目 次

はじめに

は じ め に

北海道大学低温科学研究所は、平成7年に全国共同利用研究所に衣更えをした。昭和16年の創立以来、初めての大改革と言えよう。この改革の要点は、それまでの設置目的の冒頭に「寒冷圏」を付け加えて、「寒冷圏及び低温条件の下における科学的現象に関する学理及びその応用の研究」と変更した点に如実に表れている。すなわち、低温下で生ずる様々な現象を個別的に研究するだけではなく、それらを有機的総合的に捕らえて、地球環境の成り立ちにおける寒冷圏の役割あるいは寒冷圏における自然現象を総合的なシステムとして理解することを標榜したのである。

これは、いわゆる学際領域あるいは総合科学への貢献を謳った改革であるが、この点は実は、当研究所が設立当初から掲げていた理念に他ならない。設立当時まだ未解明の課題が多かった低温条件下における自然現象の解明を目指して、既存の学問分野の枠を越えた研究組織として発足したのが、低温科学研究所である。戦後、雪氷学や低温生物学の黎明期を担った研究機関として、低温科学研究所が内外にその存在を知られるようになったのも、このような創立の精神が生み出した成果であろう。

平成7年の新たな出発は、すでに伝統的な研究として一分野を占めるに至った雪氷学や低温生物学を基礎として、さらに広い視点で学際的総合的な研究分野の創造を期したものである。いわば、創立時の精神を受け継いだ改革である。今日の科学は、膨大な知の体系であると同時に、かつての学問分野や専門領域には収まりきれない研究が次々に生まれるという状況にある。特に、地球環境の仕組みを理解するには、様々な分野の知恵を集めることが不可欠である。しかし、皮相的な総合化は何も生み出さない。高度に専門化することによって発展してきたそれぞれの研究分野をいかに有機的に結びつけて、新たな研究領域を生み出すことができるか、専門化と総合化という一見矛盾する両者をいかに結合させるか、という点に改革の成否がかかっていると言えよう。

今回の外部点検評価は、研究所全体に関わる外部点検評価としては、平成9年度に続いて2度目である。前回は、改組の効果に的を絞って評価委員から様々な提言を頂いたが、今回は、さらに各研究者の研究業績や実際の運営方法も含めて、改組以降の当研究所の活動についてご意見を頂いた。改組以降の方向性については、前回も今回も、いずれの委員からも、改組の目的に適った方向に進んでいるとのポジティブな評価を得ており、今後もこれを発展させるべく不断の努力を期する次第である。

最後に、外部評価委員各位には、公務多忙の中、評価委員会にご出席頂き、貴重なご意見を頂きました。ここに、深く感謝申し上げます。また、評価委員に限らず、今後とも低温科学研究所を厳しい目で見続けて頂くことを念願し、本報告書をお送りいたします。

2001年3月

北海道大学 低温科学研究所
所長 本堂 武夫


I. 低温科学研究所の概要

1. 沿革

昭和16年11月 低温科学研究所設置
物理学部門、応用物理学部門、気象学部門、海洋学部門、生物学部門、医学部門設置
昭和38年4月 雪害科学部門増設
昭和39年4月 凍上学部門増設 (教官定員36名)
昭和40年4月 附属流氷研究施設設置 (紋別)
昭和40年11月 雪崩観測室新築 (問寒別)
昭和41年4月 植物凍害科学部門増設 (教官定員41名)
昭和43年3月 研究棟 (2,892平方米) 新築
昭和43年11月 低温棟 (2,342平方米) 新築
昭和44年4月 (教官定員40名)
昭和45年4月 融雪科学部門増設 (教官定員44名)
昭和47年11月 凍上観測室新築 (苫小牧)
昭和48年4月 低温生化学部門増設 (教官定員48名)
昭和49年4月 (教官定員49名)
昭和50年12月 研究棟 (1,064平方米) 増築
昭和53年2月 附属流氷研究施設宿泊棟新築
昭和53年10月 融雪観測室新築 (母子里)
昭和54年4月 医学部門を生理学部門に転換、生物学部門を動物学部門に、低温生化学部門を生化学部門に名称変更
昭和56年4月 降雪物理学部門増設
昭和59年4月 (教官定員48名)
平成3年4月 降雪物理学部門廃止、雪氷気候物理学部門増設
平成7年4月 全国共同利用の研究所に改組
寒冷海洋圏科学部門、寒冷陸域科学部門、低温基礎科学部門、寒冷圏総合科学部門の4大部門を設置 (教官定員52名)
平成9年3月 分析棟 (1,622平方米) 増築
平成12年3月 研究棟新館 (2,441平方米) 増築

2. 組織と運営

  1. (1) 理念および基本方針
    1. 1) 目的・使命

      雪氷で覆われる寒冷圏の存在は、地球の気候システムや地球環境の成り立ちにおいて、極めて重要な意味をもっている。低温科学研究所は、寒冷圏及び低温条件の下における様々な科学的現象の解明という学術上の要請に応えるための基礎研究および応用研究の推進を目的としている。あわせて共同研究、共同利用などを行う全国共同利用施設として、地球環境科学の発展に貢献し、学術情報の中心的な役割を果たす使命を担っている。

    2. 2) 組織改編の経緯

      低温科学研究所は、昭和16年 (1941年) の創立以来、既存の学問分野の壁を越えた新たな科学の創造を目指して、異なる研究分野の融合的な組織として運営されてきた。純正物理・気象・生物・医学・海洋・応用物理の6部門体制でスタートし、その研究活動が、後に雪氷学や低温下の生物学という新たな学問分野を生む原動力となった。以降の拡充によって、昭和56年 (1981年) には、12部門1附属研究施設となり、雪氷学、海洋学、気象学、生化学、生態学等を網羅する総合的な研究所になった。その後、平成7年 (1995年) に、設置目的の冒頭に「寒冷圏」を付け加えて、地球環境科学の一翼を担う中枢的な研究機関たるべく、全国共同利用研究所に組織を変えた。同時に、専門化・細分化し過ぎたことの反省に立って、それまでの小部門編成を、寒冷海洋圏科学、寒冷陸域科学、低温基礎科学、寒冷圏総合科学の4大部門に改めた。また、平成8年度から COE (Center of Excellence) として、寒冷圏研究の中核的研究機関の役割を担っている。

      以降今日まで、4部門・1附属施設の研究組織で運営されており、その概要は、(1) 気候システムにおける寒冷海洋圏の役割および寒冷海洋圏の自然環境とその変動のメカニズムを解明することを目的とする寒冷海洋圏科学部門、(2) 寒冷陸域における雪氷圏と生態系の変動史、変動機構およびそれらの相互作用を明らかにすることを目的とする寒冷陸域科学部門、(3) 低温および特殊環境下での自然現象および生命現象を実験的な立場から研究することを目的とする低温基礎科学部門、(4) 寒冷域の海洋圏、地圏、生物圏にまたがる自然現象を総合的に研究することを目的とする寒冷圏総合科学部門、(5) オホーツク沿岸海域の自然環境と生物環境の長期観測および実験的研究を目的とする附属流氷研究施設、となっている。

    3. 3) 研究および教育理念

      低温科学研究所はこれまで、世界各地の寒冷地域で様々なフィールド研究を展開すると共に、様々な実験研究を推進してきた。その研究活動は広範な学問領域に及ぶが、寒冷圏で生ずる様々な自然現象を学際的総合的に解明することを共通の理念として研究活動を進めている。

      このような理念のもと、大小様々な研究プロジェクトや共同研究が内外の研究者と連携して進められているが、COE研究機関として長期的に取り組むべき研究課題として、オホーツク海とその周辺陸域に注目して、寒冷圏における大気・海洋・雪氷・植生の相互作用を解明することを掲げている。この地域が寒冷圏の南限であり、その自然環境が気候変動に鋭敏に変化すること、太平洋への寒冷水塊の供給源であること、また季節海氷域独特の熱・水・物質循環があること等々、地域的な問題と同時に地球の気候システムを理解する上でも重要な地域と位置づけて、長期的視野で推進を図っている。すでに、オホーツク海における海洋調査では、日本・ロシア・アメリカの共同研究として、ロシア領海内で初めての本格的な海洋観測と試料採取を実現し、カムチャッカでは、氷河や植生の調査をロシアと共同で進めている。

      一方、このようなプロジェクト型の研究とは別に、多くの個別研究が行われている。多様な研究形態を擁する研究所の運営にあたって、学術的・社会的要請に応えるプロジェクト研究の推進を図ると同時に、将来開花するかもしれない研究を育む自由な研究環境を保持することを研究所運営の基本方針としている。プロジェクト研究がいわば時流に乗った研究であるとすれば、自由な発想に基づく個別研究は、次の時流を作るために不可欠な研究活動と位置づけている。

      以上のような研究活動と併せて、学術研究の発展に対応して独創的、先駆的な研究をなし得る次代の研究者を養成することも、本研究所の使命である。低温科学研究所は、大学院地球環境科学研究科の3つの専攻に4つの講座を担当しており、修士課程および博士課程の教育指導を行っている。最新の手法や最先端の機器を使った研究指導等、大学院学生の教育、研究指導のための環境充実に力を注いでいる。

  2. (2) 組織と管理運営
    1. 1) 組織

      寒冷海洋圏科学部門
      寒冷陸域科学部門
      研究部門
      低温基礎科学部門
      寒冷圏総合科学部門
      附属施設 流氷研究施設
      機器開発
      所長
      技 術 部 特機開発
      観測解析
      第一研究協力室
      第二研究協力室
      第三研究協力室
      事 務 部
      庶務掛
      会計掛─低温機関室
      図書掛
    2. 2) 運営

      ○運営協議会

      審議事項: 所長の諮問に応じ、(1)研究所運営の基本方針に関する事項、(2)共同利用及び共同研究に関する事項、(3)その他本研究所に関する重要事項
      組  織: (1)所長、(2)本研究所の専任の教授若干名、(3)本学の専任の教官若干名、(4)学外の学識経験者若干名
      開  催: 年2〜3回

      ○共同利用委員会

      審議事項: 共同利用及び共同研究についての計画案の作成
      組  織: (1)所長、(2)本研究所の専任の教官10名以内、(3)本学の専任の教官及び学外の学識経験者10名以内
      開  催: 年2〜3回

      ○教授会

      審議事項: (1)組織に関する事項、(2)所長候補者の選考に関する事項、(3)施設長候補者の選考に関する事項、(4)教員の人事に関する事項、(5)予算に関する事項、(6)共同利用及び共同研究に関する事項、(7)その他本研究所に関する重要事項
      組  織: 本研究所の専任の教授
      開  催: 月1回

      ○運営委員会

      審議事項: (1)組織に関する事項、(2)予算に関する事項、(3)その他本研究所の運営に関する事項
      組  織: (1)本研究所の専任の教授、(2)専任教授のいない研究グループの代表者
      開  催: 月1回

      ○将来計画委員会

      審議事項: (1)研究所の将来計画についての基本方針に関する事項、(2)研究組織の設置・改廃及び概算要求に関する事項
      組  織: (1)所長、(2)選挙により選出された教授2名、(3)選挙により選出された助教授又は講師2名、(4)選挙により選出された助手2名、(5)所長が必要と認める教官2名以内
      開  催: 必要に応じ開催
    3. 3) 部門等の定員と現員

      平成7年度から11年度まで、過去5年間の各部門等の定員と現員および所属教員の変遷については、「平成12年度外部評価資料」の173-175頁を参照して頂きたい。また、平成12年度における各部門・附属施設の教員配置および各掛等の人員数は下表の通りであり、その詳細および研究体制(研究グループの構成等)については、概要2000を参照して頂きたい。

低温科学研究所部門別教員配置表

平成12年12月1日現在

部門名 研究分野 教 授 助教授 講 師 助 手
寒冷海洋圏科学部門 大気海洋相互作用 遠藤 辰雄
大島慶一郎
中塚  武
河村 俊行
深町  康
川島 正行
豊田 威信
(欠 員)
海洋動態 若土 正曉
海洋環境 河村 公隆
環境数理解析 藤吉 康志
定  員 4 4 7 15
現  員 4 3 4 11
寒冷陸域科学部門 雪氷変動 本堂 武夫 堀口  薫
水野悠紀子
山田 知充
隅田 明洋
石川 信敬
成瀬 廉二
成田 英器
石井 吉之
西村 浩一
曽根 敏雄
白岩 孝行
堀   彰
兒玉 裕二
鈴木準一郎
雪氷循環 小林 大二
雪氷環境 大畑 哲夫
寒冷生物圏変動 原 登志彦
定  員 4 4 7 15
現  員 4 7 7 18
低温基礎科学部門 雪氷物性 前野 紀一 古川 義純
早川 洋一
(欠 員)
荒川 圭太
荒川 政彦
片桐 千仭
落合 正則
竹澤 大輔
渡部 直樹
田中 亮一
島田 公夫
生物適応科学 田中  歩
惑星科学 香内  晃
生命科学 芦田 正明
定  員 4 4 7 15
現  員 4 2 8 14
寒冷圏総合科学部門 気候変動 福田 正己 丹野 皓三 串田 圭二
大舘 智志
生物多様性 戸田 正憲
低温総合科学 客員教授
II・III種 *2
定  員 2 *2 2 1 5 *2
現  員 2 *2 1 2 5 *2
附属流氷研究施設 青田 昌秋 白澤 邦男
定  員 1 1 2
現  員 1 1 2
合計 定  員 15 *2 15 0 22 52 *2
現  員 15 *2 13 1 21 50 *2

備考:寒冷圏総合の*印は、外数で客員教授 (II種及びIII種) である。

教員以外の職員の配置表

事務職員 技術職員 技能職員 事務補助員等 非常勤研究員 研究支援推進員
事務部 12 2 5 19
技術部 10 4 14
部 門 5 6 11
施 設 1 1 2
13 10 2 6 5 10 46

3. 教員の人事

教員の選考にあたっては、公募を原則とし、人事選考委員には所外から必ず複数名の委員を加えることとしている。また、公募要領、人事選考委員および最終候補者の決定にあたっては、運営協議会の承認を条件として、教授会で決定している。教員人事に関する詳細(内規および申し合わせ)については、「平成12年度外部評価資料」を参照して頂きたい。

教員の流動性については、平成7年度から11年度までの転出・転入状況、在職年数状況、年齢構成および出身大学を、「平成12年度外部評価資料」の178頁-181頁にまとめてある。この5年間の転出入の総数は、転入者18名、停年退職を含む転出者9名であり、現職教員の約3分の1はこの5年間に外部から任用された者である。

4. 予算および研究施設・設備等

校費および科学研究費などの競争的研究資金の受け入れ状況は、下表の通りであり、その詳細ならびに施設・設備等の整備状況については、概要2000および「平成12年度外部評価資料」の181頁-183頁にまとめてある。

校費が減少傾向にあるのに比べて、競争的な資金の急激な伸びが特徴的である。総額に占める校費の割合は、平成7年度の80%に対して、平成11年度は41%である。

5. 研究活動

研究活動については、「平成12年度外部評価資料」に「研究課題と成果」として、過去5年間に行われた研究活動および研究業績を各研究部門・施設毎にまとめてある。同冊子の1頁から168頁を参照して頂きたい。

6. 教育活動

教育活動については、ほぼ全教官が大学院地球環境科学研究科の担当教官となっており、在籍学生数は、過去5年間の平均でみると、博士課程43名、修士課程52名である。また、課程博士の授与数は、5年間の総数で24名である。詳細については、「平成12年度外部評価資料」の186頁-187頁を参照して頂きたい。


II. 外部点検評価

1. 外部点検評価の経緯と方法

平成7年度の改組以降、外部点検評価を実施するにあたって、研究機関等の評価と研究プロジェクト等の評価を別々に行うことにし、COE研究プロジェクトの評価を平成8、9年度に先行して実施した。研究プロジェクトの評価を先行したのは、当該プロジェクトが広範な共同研究体制を必要とする大規模なものであり、計画初期の段階から外部の意見を導入する必要があると考えたからである。また、全国共同利用研究所となったことを契機に、当研究所としてのプロジェクトをできるだけ早い機会に内外に明らかにするという目的もあった。

また、研究機関の評価は、全国共同利用研究所への改組 (平成7年度) の効果を問うものとして、平成9年度に実施した。改組の効果に的を絞ったので、全般的な外部評価や個々の研究者の研究業績などを問う外部評価とは、いささか趣を異にしている。改組後3年を経て、改革の実が上ったか、いかなる問題があるか、といった点について率直なご意見を頂き、研究所の活性化に資するものであった。

当研究所では、毎年発行している年報を自己点検評価報告書と位置付けており、研究グループごとの「研究課題と成果」および教官ごとの研究業績を公表している。その上で、3年ごとに (次回からは4年ごとに) 外部点検評価を行うことにしている。今回の外部点検評価は、その2回目にあたり、当研究所の活動全般に関する外部評価とした。このような経緯から、今回の外部評価委員には当研究所の活動に通じている方にお願いするという趣旨で、運営協議会の学外委員の中から専門分野のバランスを考慮して7名の方にお願いした。ただし、現在の運営協議員には、生物の実験系の方がいないので、基礎生物学研究所の毛利秀雄所長に特に加わって頂いた。また、外国人評価委員には、当研究所の最近の国際交流でもっとも交流が活発なロシアから、長年科学アカデミー会員を務めてこられた地理学研究所のコトリャコフ所長にお願いした。

これまでに実施した外部評価をまとめると以下の通りである。

(1) 平成8年度:COE研究プロジェクト「オホーツク海と周辺陸域における大気−海洋−雪氷圏相互作用」の外部評価 (事前評価)。10名の評価委員 (国内5名、海外5名) によって、プロジェクトの重要性、独創性、妥当性、遂行能力などについて評価を受け、報告書を発行した。

(2) 平成9年度:上記COE研究プロジェクトの2回目の外部評価 (中間評価)。2名の評価委員 (国内1名、海外1名) によって、プロジェクトの進捗状況などについて評価を受け、1回目の報告書に加筆して「オホーツク…・II」として発行した。

(3) 平成9年度:平成7年度に行われた改組の効果に的を絞って、6名の評価委員によって外部評価を実施し、外部点検評価報告書を発行した。

(4) 平成10年度:当研究所の伝統的な研究を支えてきた「流氷研究施設」と「雪崩事業」を対象として、前者は研究機関等の評価という位置づけで9名の評価委員によって、後者は研究プロジェクト等の評価という位置づけで7名の評価委員によって、外部点検評価を実施し、それぞれ外部評価報告書を発行した。

2. 外部点検評価委員 (敬称略)

東京大学海洋研究所長平  啓介
名古屋大学大気水圏科学研究所長福嶌 義宏
国立極地研究所長 渡邉 興亞 (主査)
海洋科学技術センター地球フロンティア研究システム長 松野 太郎
宇宙科学研究所惑星研究系主幹水谷  仁
岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所長毛利 秀雄
京都大学生態学研究センター長中西 正己
ロシア科学アカデミー地理学研究所長Kotlyakov, V

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3. 国内評価委員による点検評価報告

平成12年12月14日、全評価委員出席のもとで、外部点検評価委員会を低温科学研究所会議室で開催した。当研究所からは、本堂武夫 (所長)、青田昌秋 (附属流氷研究施設長)、竹内謙介 (寒冷海洋圏科学部門主任)、原登志彦 (寒冷陸域科学部門主任)、前野紀一 (低温基礎科学部門主任)、福田正己 (寒冷圏総合科学部門主任)、および所内点検評価委員会から大畑哲夫 (教授委員)、遠藤辰雄 (助教授委員)、大舘智志 (助手委員)、山内正市 (事務長) が出席した。

会議の席上、予め配布してあった外部評価資料に基づいて、所長および施設長、部門主任から要点の説明が行われた後、質疑応答を行った。当日の議論および各評価委員の評価は、渡辺主査のもとでまとめられ、以下のような報告書として提出された。

3.1 総合的所見ならびに提言

低温科学研究所の平成7年度の改組は、それまでの低温現象の総合的研究から、地球環境科学としての「寒冷圏」現象の総合的・学際的研究活動への転換であり、かつ大学附置全国共同利用研究所としての「寒冷圏」研究のナショナルセンターとしての整備を目指して行われたものである。平成9年度の外部評価では、この改組の効果について評価が行なわれており、良い方向に変わりつつあることおよび新しい動きをさらに発展させるべきことが提言されている。その後、この方向への努力は所期の目標に沿って進められてきており、目標達成度も概ね良好なレベルにあると評価される。改組以降の5年間の変化は、低温科学研究所が名実ともに寒冷圏科学のCOEとなって行くと期待するに足るものである。

しかし、現時点では不十分な点も多々見られる。上記のような特徴をもつ研究所としては、その理念が社会的にも広く理解されるために、プロジェクト研究の推進が不可欠である。COEプロジェクト「オホーツク海と周辺陸域における大気−海洋−雪氷圏相互作用」では、低温科学研究所の存在を内外に示したと評価できるが、研究所がカバーしている広範な専門分野を考えると、もっと多様なプロジェクトの推進母体となってしかるべきであろう。また、研究所の運営方針として、プロジェクト型研究とは別に、自由な発想の個別研究を奨励しているとのことであるが、配布資料を見る限り、次の時流を作るための研究とは考えにくい内容も多々見られる。萌芽的な研究は、次の共通課題への FS (フィジビリティ・スタディ) と位置付けされるものではないか。個人ベースの研究に重点を置くのであれば、重点化された大学院となんら相違がなくなってしまうであろう。

また、研究所の方向性および運営について、以下のような評価委員の所見があったことを付記する。「寒冷圏の自然全体を対象として、多くの専門家の協力による総合的な研究プロジェクトが行われるようになったことは高く評価できるが、その一方で、地域に密着した研究や実用、特に災害科学に結びついた研究が弱体化している。新しい方向が定着した段階で、この方向をもう一度見直す必要があるのではないか」、「全国共同利用研究所としては、他の部局では対応できない大型のプロジェクトによる研究推進への組織体制が重要であり、研究部門の下にある多数の研究グループが適正に機能しているか、疑問である」。

3.2 研究所全体に関わる課題

(1) 組織および運営

平成7年度の改組の趣旨に沿って、組織面でも運営面でも実質的な改革が進められてきたと認められるが、必ずしも十分ではない。改組によって、4大部門1附属施設の体制となり、実際の組織も徐々に整備されてきているが、各部門を実際に担う教官の数にはかなりのアンバランスがある。 また、 実際の運用は、研究グループが単位となっているとのことであるが、多数の小グループに分かれているのは研究推進にとってマイナスではないか。研究の進展に合わせて研究グループをフレキシブルに再編できるというメリットはあるかもしれないが、18グループのうち、半数のグループが1人または2人のグループであるという現状は再検討の必要があろう。改組後の過渡的な状況と解すべきなのか、研究課題をみても、小グループに分かれる必然性が理解できない。ただし、固定的な分野を設定すると、かつての小部門と同じになり大部門制が生かされない。現在のグループ制には上記の指摘のような問題点はあるが、教官各層の意見を取り入れて運用していることは評価できる。

運営に関しては、教官人事等の重要案件も含めて、運営協議会および共同利用委員会において外部委員の意見を取り入れて、これを運営に反映させており、全国共同利用研究所として適正に運営されている。

(2) 教官人事

教官人事をすべて公募で行っていること、人事選考委員に外部の委員を加えていること、および一連の手続きにおいて運営協議会を通じて外部の意見を反映していることは、全国共同研究所として適正な人事選考方法である。また、実際の任用において部門の目的に適った外部の人材を登用していることは高く評価される。その一方で、勤続年数の長い助教授や助手がおり、外部との人事交流が機能していないことが懸念される。評価委員の中には、「古くからの教官に沈滞感が広がっていることが懸念される」という指摘もあった。

また、低温科学研究所に限らない問題であるが、女性教官が1名しかいないし、外国人教官は0である。今後の教官任用にあたっては、女性教官および外国人教官の積極的な任用が望まれる。

(3) 研究活動 (COEプロジェクトを含む)

研究所教官および共同研究の研究活動は、改組以前に比べて活発であり、高いレベルにあると認められる。COEプロジェクト「オホーツク海と周辺陸域における大気−海洋−雪氷圏相互作用」は、地球科学的に重要でありながら手つかずだったこの地域で本格的な観測を成し遂げたという点で高く評価される。特に、国内外の共同研究として、地球科学の広範な分野にまたがる研究を展開したことは、全国共同利用研究所としての存在価値を示したものである。今後さらに総合的な視点で研究を継続することが望まれる。次の5ヶ年計画として、環オホーツク陸域の植生・雪氷・大気の相互作用に重点を移して実施する方針とのことであるが、現時点で目標が必ずしも明確には示されていないことが懸念される。

また、評価委員の個別所見として、「かつての主要な研究活動であった災害科学関連分野の活動が必ずしも活発とは言えないことについて、何らかの説明が必要である」、「大学院地球環境科学研究科の協力講座として、同研究科との交流・協力が機能している全国でも希有な例であるが、まだ一部に止まっているように見受けられる。一層の交流を期待したい」との指摘があった。

(4) 大学院教育及び社会活動

教官数52名に対して大学院生が100名を越えており、大学院教育は十分評価できる水準にある。ただし、修士課程の学生が減少傾向にあり、広報活動の強化が必要であろう。社会活動としては、小学生から研究者まで幅広い層の見学者に対応していることや放送講座などの活動も活発と聞いているが、年報などにデータとして残すことが必要ではないか。また、寒冷圏である北海道の日常的な課題を発掘するような姿勢も必要ではないか。

また、評価委員の個別所見として、「大学院の教官配置の方が、‘研究課題’に対応するグループ編成よりも理解し易い。現行の研究グループには再検討が必要ではないか」、「北海道内には多くの観測施設を有しているが、それらを十分活用した質の高いフィールド・サイエンスの教育が期待される」という指摘もあった。

(5) 研究支援体制

技術部を重視していること、および非常勤の研究支援推進員を有効に活用していることなど、研究支援体制は比較的整備されていると思われる。実験においても野外観測においても、先端的であればあるほど、既製の装置にはない機能や性能が求められるのが常である。研究者との共同作業として、今後さらに技術レベルの向上を図ることが望まれる。

事務的な支援については、配布された資料だけからは、研究協力室の役割が良く分からない。研究秘書的役割が主であると聞いているが、全国共同利用研究所として共同利用に関わる交渉および海外との交渉等々、一般事務量だけではなく教官の負担も増大しているはずであり、これを支援する態勢の整備が望まれる。

(6) 予算・施設・設備

COE研究機関として重点化されたにもかかわらず、基本運営の予算が小額で減少傾向にあるのは残念なことである。科学研究費や戦略的基礎研究費などの競争的な資金を活用していることは高く評価するが、外部資金の獲得状況で研究動向が左右されかねないことについて、研究所として内容の分析をする必要があると思われる。

施設面では、平成8年度の分析棟および平成11年度の研究棟の新築で整備が進んでおり、特に国際的な研究集会も開催可能な講堂を設けたことは、国際COE研究所としての活動の支えになろう。分析機器等の実験設備および低温実験室は、世界的レベルにあり、研究および共同利用の面でさらなる活用が望まれる。

(7) 国際交流

海外との研究交流は活発に行われており、国際的な研究機関として十分なレベルにあると評価できるが、研究者の個人レベルでの交流が中心になっており、研究所間の交流協定等の推進も図るべきである。研究者の招聘・派遣もかなりの数に上っているが、このような交流、特に外国人研究者の受入状況は、研究所の国際的な評価の現われでもある。したがって、外国人研究者の受入状況に関しては、具体的に、国名・研究機関名・地位および滞在中の研究内容等を公表し、内外の関連する研究機関に対する優位性あるいは弱点を分析することも必要ではないか。

また、評価資料および年報によると、研究所主催の国際シンポジウムは、1例を除いて、すべて“オホーツク”に関係しており、総合的な研究所としては、奇異な感じがする。低温科学研究所全体のアクティビティを示すような総合的なシンポジウムあるいは個別テーマ毎のシンポジウムでも良いが、低温科学研究所の研究内容にふさわしいバラエティに富んだシンポジウムの開催を考慮すべきである。実際には、様々なシンポジウムが低温科学研究所で開催されているとのことであるが、これらのデータを年報等に掲載することも必要であろう。

3.3 各部門の研究課題と成果、および研究業績

各部門それぞれに適切な研究課題と取り組んでいると認められるが、研究グループの研究内容を研究所のキーワードである「寒冷圏」「地球環境科学の一翼を担う中枢的研究機関」と照らし合わせると、問題が残るという印象を受けた。研究所のキーワードに対する研究グループの研究内容の位置付けを明確にすべきであろう。また、部門によっては、研究グループ間で研究課題の相違が良く分からない複数のグループがあり、グループ構成の必然性が理解できない部門もある。

研究業績については、論文数でみると個人差も大きいし、研究グループ間の格差も大きいが、全体として十分なレベルにあると評価できる。中には、その分野の世界的権威になっている人もいて、低温科学研究所の名を高めている。しかし、研究グループごとの研究成果や研究業績に大きな格差があり、専門分野による違いはあるとしても、一部の研究グループのアクティビティの低さが懸念される。また、各部門毎の教官配置(現員)にアンバランスがあり、その理由と今後の方針について、何らかの説明が必要であろう。部門ごとの評価は以下のとおりである。

(1) 寒冷海洋圏科学部門

平成7年度の改組において増員が行われた部門であり、その趣旨に合わせて、半数近くの教官が改組後に着任している。既存の研究グループと連携して活発な研究が行われており、研究レベルも高い。特に、COEプロジェクト「オホーツク海と周辺陸域における大気−海洋−雪氷圏相互作用」で中心的な役割を果たし、大きな成果が生まれている。これらの成果は、観測が困難な地域での観測を成し遂げたという意味で重要であり、今後も観測重視の姿勢に期待すると共に、これらの成果を総合的に捉える研究へ発展することを期待する。

(2) 寒冷陸域科学部門

伝統的な低温科学研究所を代表する部門であり、雪氷グループと植生グループから構成されている。研究グループの数も多く、バラエティに富んだ多くの研究が行われている。COEプロジェクト「オホーツク海と周辺陸域における大気‐海洋‐雪氷圏相互作用」では、ロシア側研究機関との連携の下に、カムチャッカ半島における雪氷および植生の研究を実施し、この地域の古環境復元などの成果を上げている。また、南極深層コアの物理的性質の解析、特にクラスレート・ハイドレートの研究は卓越した成果を挙げている。部門全体としてみれば、論文業績も十分であり、活発な研究が行われていると認められるが、似通った名前の研究グループが存在し、研究グループ間の交流が十分ではないように見受けられる。ただし、次期COEプロジェクトでは、雪氷圏における植生の役割が取り上げられるということであり、雪氷グループと植生グループの共同研究が本格化することを期待する。

また、研究所全体の研究活動の項でも言及したが、災害科学関連分野の研究の位置付けを寒冷陸域科学部門として明確にすべきではないか。特に、平成10年度に実施した雪崩研究に関する外部評価(1999年3月発行「雪崩事業費による研究の経緯と成果—外部点検評価報告書—」参照)以降の検討状況および方針が示されていない点については、何らかの説明が必要である。

(3) 低温基礎科学部門

各研究グループがそれぞれ高いアクティビティを示しているし、国際的にもユニークな研究業績を上げていると認められる。しかし、メンバーが一人の研究グループや助手のみの研究グループもあり、このような体制が部門全体としての研究活動として最適かどうか疑問である。また、伝統的な雪氷物理の研究が、宇宙の氷天体の研究や南極氷床の物性研究などに発展しているのは高く評価できるが、氷河・氷床の流動など巨視的な振る舞いの研究に微物理研究の成果がどのように結びついているか、必ずしも明らかではない。雪氷に関しても、実験室の基礎から実際の自然現象までつなぐCOEとなることを期待している。

生物系に関しては、低温下における生物の反応・適応などを調べるためには、生命現象の基礎を理解しなければ始まらないという考えがあり、必ずしも低温や寒冷圏に直接関係しないテーマも取り上げられてきた。そういう研究を進めてきた人達がそれぞれの分野で業績を挙げ、世界的な評価を受けてきている。この点に関しては、いずれ研究所全体の方針に照らしてその方向を討議することになろう。

(4) 寒冷圏総合科学部門

二つの研究グループそれぞれが、高いアクティビティを示しているし、全国規模の研究プロジェクトの推進にも貢献しており、十分な研究業績を上げていると認められる。しかし、「研究課題と成果」を見る限り、この部門の名称である“総合科学”的な視点が感じられない。今後の新たな展開を期待したい。

(5) 附属流氷研究施設

本施設については、1999年3月発行の外部評価報告書で詳しく論じられており、ここでは繰り返さないが、オホーツク海をターゲットして研究プロジェクトを推進している低温科学研究所として、流氷研究施設をどう位置付けるかという視点を含めて、新たな計画を立案する時機であろう。特に、海氷域におけるプランクトンの光合成の問題など、生物系を含めて将来構想を検討すべきであろう。

3.4 将来展望

大学院重点化大学における大学附置の共同利用研究所の役割および法人化された大学における附置研究所のあり方等々、低温科学研究所に限らない大きな問題があり、将来展望の難しい時期である。それだけに、他の研究機関との連携や人事交流を活発にするなど、積極的な研究所運営が必要であろう。また、大学院研究科との相違を明確にするには、5年あるいは10年先の目標設定などがひとつの考え方であろう。配布された資料を見る限り、将来計画についての外部への資料は必ずしも十分ではない。次期COEプロジェクトに関しては、第1期プロジェクトと同様、計画の段階でその内容を公表するよう期待する。

研究グループの編成は、基盤を異にする分野の研究者が新しい課題にチャレンジするものと考えるか、もしくはもっと大きく構える研究グループ編成である必要がある。何故ならば、今後環境変動が最も激しくなると予想される寒冷圏を総合的に理解するには、氷河・氷床・永久凍土などの陸面変動と気候との関係をプロセスとして研究するグループ、長期的な気候変動を取り扱うグループ、大気陸面相互作用のモデルから理解するグループ、生態系変動から理解するグループ等、かなり大きな研究チームにならざるを得ない、と考えるからである。

また、低温科学研究所では、寒冷圏研究や雪氷物理の研究という全国的に見てユニークな特性を生かした国際交流が行われており、この特色を生かして、この分野の国際共同センター的な機能を制度化して持つことはできないだろうか。特に、寒冷圏の観測には多くの困難が伴い、長期的な観測が難しい地域である。このような地域で継続的な観測を推進するセンターをもつことは極めて重要である。

4. 外国人評価委員による点検評価報告

評価委員のコトリャコフ所長には、平成12年10月2日から5日まで札幌に滞在していただき、その間、研究所内をつぶさに見学し、また数度にわたる質疑応答によって、低温科学研究所の活動状況の理解を深めていただいた。帰国後、以下のような点検評価報告書を提出して頂いた。抄訳とあわせて掲載する。

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Evaluation of the activities of the Institute of Low Temperature Science,
Hokkaido University, Japan

Academician Vladimir M. Kotlyakov
Director of the Institute of Geography of the Russian Academy of Sciences

The main trends of the Institute's research

The Institute of Low Temperature Science founded almost 60 years ago has taken its steady authoritative place among world scale establishments in the sphere of Earth sciences. In the Institute's research physical, geochemical, and geographical approaches are successfully combined which makes it possible to conduct comprehensive research of cold regions considering them from different viewpoints.

It is nice to see that at the Institute pioneer investigations are not forgotten, specifically those of professor Ukichiro Nakaya, the founder of the Institute of Low Temperature Science, who was the first in the world to create artificial snow crystals and then investigated in detail conditions of snow crystals of different types formation.

To my mind the present day structure of the Institute is very logical. The four main trends show the basic aspects of the Earth cold regions existence. The Marine and Atmospheric Sciences Research Section focuses its research on the main subjects of the atmosphere-ocean interaction in the conditions of cold climate: distribution of temperature and salinity, sea water, sea ice, chemical compounds properties and circulation, heat- and mass exchange between ocean and the atmosphere, simulation of interaction processes in this sphere.

The Cryosphere Science Research Section embraces snow-and-ice phenomena including conditions of snow and ice existence, manifestations of permafrost, meteorology and hydrology of regions with glaciers, snow cover and permafrost, and peculiarities of vegetation development in cold climate are studied.

The Boreal Environmental Sciences Research Section studies impact of climate variations upon biodiversity in cold regions and natural conditions evolution in such regions during Late Pleistocene

Finally, the Basic Cryoscience Research Section focuses on physical basis of matter existence on the Earth in cold conditions.

All enumerated trends apply the main ways of investigations; field observations and experiments in nature and at laboratories are combined with comprehensive theoretical investigations and computer simulation. The Institute carries out investigations not only at Hokkaido Island and the adjoining water areas of the Sea of Okhotsk, the Institute's scientists take an active part in the Arctic and Antarctic investigations.

I would like to mention particularly work of the Sea Ice Research Laboratory which was founded 35 years ago on the northern coast of Hokkaido Island. Broad experience of experimental works of this laboratory made it possible to investigate in detail the character and properties of sea ice and oceanic currents in the southern part of the Sea of Okhotsk which is of not only scientific but practical importance.

Nice equipment of investigations impresses. At all research sections of the Institute the re are instruments of modern models which give a possibilities to carry out fundamental investigations of properties and physical processes usual in cold regions. Finally, it is nice that the extreme cold preservation room with temperature up to -50°C has been built and is in a good working condition. It gives a possibility to conduct unique experiments and preserve ice core for quite a long time without its considerable changes.

But with good equipment of research available GIS are being developed insufficiently, and there are no specialists of this background. However present-day research is impossible without GIS, that is why it is necessary to develop such work and to train special personnel necessary for this purpose.

Present-day state of the Institute

Thus at the Institute a wide range of research in cold regions which is being fulfilled b y a comparatively small number of scientists is presented. Nevertheless the work is successfully carried out, and the limited number of specialists - only about 50 - manage their duties quite well. In any case combination of highly trained scientists with the fundamental trends of research at the Institute, and the results of the work over the recent yea rs seemed very fruitful. That is why my first general conclusion is as follows: At the Institute a considerable number of important research trends is successfully combined with a small number of highly trained scientists.

Further, I liked the system of research publications of the Institute which is an original system including: internal reports on research fulfillment (in Japanese), external reports often published in English, articles in professional Japanese journals, and in the leading reviewing international journals (the latter ones in English), and finally, on the basis of the Institute's investigations scientific monographs on the themes elaborated at the Institute are regularly published. That is why my second general conclusion is as follows: Scientific efficiency of the Institute's staff is very high, and the Institute's works are well known not only in Japan, but in the world scientific community as well.

A considerable part of the Institute's works is connected with a very close to me branch - glaciology. Much has been traditionally done in this sphere over the recent years, and at present the staff of the Institute carries on this tradition. Participation of the Institute in the investigation of the Arctic and Greenland glaciers, in the work of the Japanese Antarctic expedition is very fruitful. It seems to me that contribution of the Institute of Low Temperature Science's staff into the world glaciology is great enough, and their publications in this sphere are world-wide known. That is why my third conclusion is as follows: Glaciology at the Institute is at a good scientific level, and glaciological publications of the Institute's researchers make a considerable contribution to the world science.

International cooperation of the Institute

An important aspect of the Institute's activities is cooperation with scientists of other countries. I would specially note the positive fact in the Japanese system of financing the national science, providing for special means for joint research with scientists of other countries. Specifically, I'd like to note fruitfulness of cooperation with Russian scientists at least in two projects: investigations of heat- and moisture- exchange in th e conditions of permafrost (works in Yakutiya, cooperation with the Institute of Geography of the Russian Academy of Sciences, the State Hydrological Institute and Yakutian research institutions); investigations of volcanism and glaciation interaction (work in Kamchatka, cooperation with the Institute of Volcanology of the Far Eastern Department of the Russian Academy of Sciences).

The experience of international cooperation already acquired by the Institute should be actively developed. I dare say that there is a number of branches of science in which it should cooperate with the Institute of Geography of the Russian Academy of Sciences - the core Russian institute in Glaciology.

1. Setting up of GIS characterizing all cold phenomena in North-Eastern Asia: snow cover, glaciers, permafrost, sea ice and accompanying processes, forming these natural phenomena. Such a GIS can be elaborated on the basis of recently published the World Atlas of S now and Ice Resources with regard for all other information available. CD-Rom including data base and other sources of information with the possibility of use in the interactive regime could be the result.

2. Investigation of evolution of the Northern Eurasia natural conditions in Late Pleistocene and Holocene for the purpose of forecasting the development of these cold regions in the conditions of possible global warming. Hokkaido Island, mountains and lowlands of Northern Siberia, Kamchatka could be the key regions for such investigation.

3. Study of the contemporary regime and its possible changes on the Kamchatka and Souther n Siberia glaciers. Besides volcanic regions of Kamchatka which are already under investigation, the work could be fulfilled, for example, on Suntar-Hayata ridge where for the first time glaciers were investigated during the International Geophysical Year.

4. Investigation of formation of the recently ascertained pseudo-seasonal stratification of isotope composition (by oxygen and hydrogen isotopes) of snow and firn strata. For this purpose experiments with snow cover in the cold room at the temperature from -30 to -40°C with participation of a Russian specialist on isotope geochemistry of snow and ice should be conducted.

5. Study of the dynamics of snow strata changes as well as water vapour transfer and supersaturation in the strata under the impact of temperature and pressure gradient. This work presupposes field experiments and experiments in the cold room; the latter ones will make it possible to simulate various regimes improbable in natural conditions but giving better understanding of heat-and-mass transfer mechanism in snow strata.

All research trends enumerated could be fulfilled jointly by specialists of the Institute of Low Temperature Science and the Institute of Geography.

Academician V.M. Kotlyakov
November 21, 2000

北海道大学低温科学研究所評価報告(抄訳)

科学アカデミー会員 ウラディミール・M・コトリャコフ

ロシア科学アカデミー地理学研究所長

研究の方向性

低温科学研究所は、その60年に及ぶ歴史において、地球科学における世界的な研究機関の中で権威ある地位を築いてきた。低温科学研究所では、物理学、地球化学および地理学の異なる視点で、寒冷圏における総合的な研究を展開してきた。

低温科学研究所で行われてきたパイオニア的研究は人々の記憶に残るすばらしい成果である。中でも、同研究所の創立者である中谷宇吉郎教授による世界で初めての人工雪とその様々な結晶の生成条件に関する詳細な研究は特筆に価する。

私の専門から見て、低温科学研究所の現在の研究組織は、大変理にかなっている。4つの研究部門は、地球上における寒冷圏存在の基本的な側面をカバーしている。寒冷海洋圏科学部門は、寒冷気候における大気と海洋の相互作用に焦点をあて、温度、塩分濃度、海水、海氷、化学物質の分布および海洋と大気の間での熱・物質交換、相互作用過程のシミュレーション等の研究を行っている。

寒冷陸域科学部門は、雪氷や永久凍土の存在条件、氷河・雪氷・凍土地域における気象・水文現象を含む雪氷現象全般を研究対象とし、また寒冷気候における植生の特色についても研究が行われている。

寒冷圏総合科学部門は、気候変動が寒冷圏の生物多様性に与えた影響および後期更新世における寒冷圏の自然環境の進化を研究対象としている。

低温基礎科学部門は、低温条件下における種々の自然現象に焦点を当てている。

個々の研究を総括的に見たときの方向性は当を得たものであり、フィールド研究と実験研究が総合的な理論およびコンピュータ・シミュレーション研究に結びついている。低温科学研究所の研究活動は、北海道に限らずオホーツク海に絡む周辺の水圏に及び、また北極圏および南極圏においても活発な研究活動が行われている。

北海道の北沿岸に35年前に設置された附属流氷研究施設の活動にも言及したい。この施設における実験研究的な経験が、海氷の特性およびオホーツク海の南部における海流の詳細な研究を可能にした。これは、科学的に重要であるばかりでなく実用的な面でも重要である。

低温科学研究所の研究施設のすばらしさに強い印象をもった。すべての部門において、寒冷圏に特有な物質や現象の基礎研究を可能にする最新の研究機器が備わっている。最近、-50℃まで冷却可能な超低温保存室が建設され、良好な運転状況にある。これによって、氷コア試料を長期間安定して保存することが可能になった。

しかしながら、GIS (地理情報システム) に対応できる装置の開発が不十分であることおよびこれをバックグラウンドとする専門家がいないことを指摘しておきたい。最近の研究ではGISは不可欠な手法になっており、これを導入することおよび専門家の育成が求められる。

現在の状況

低温科学研究所では、寒冷圏における幅広い研究が、比較的少人数の科学者によって非常に良く行われており、約50人という限られた数の研究者でその責任を果たしている。どの分野においても、実り多い成果を得ている。そこで、私の第1番目の結論として、「低温科学研究所では、多くの重要な研究成果が少数の優れた研究者によってもたらされている」。

さらに、低温科学研究所における研究成果の印刷公表の方法も適切なものである。すなわち、日本語による内部向けの報告書、英文による外部向けの出版物、日本語の専門誌、国際的な一流欧文誌に発表され、そして低温科学研究所の研究を反映するモノグラフが出版されている。私の第2の結論、「低温科学研究所の研究者の研究活動は非常に高いレベルにあり、また低温科学研究所の研究は、日本国内はもとより国際的な研究コミュニティの中で広く知られている」。

低温科学研究所のかなりの部分は、私の研究分野である雪氷学 (Glaciology) に関係している。低温科学研究所では、この分野で伝統的に多くの研究が行われており、今もこの伝統を受け継いでいる。北極圏やグリーンランドおよび南極観測における低温科学研究所の貢献は、大きな成果をもたらしてきた。低温科学研究所のこの分野の研究者は、国際的な雪氷学に多大の貢献をしてきたし、その論文業績は国際的に広く知られている。私の第3の結論、「低温科学研究所における雪氷学の研究は、高い科学的レベルにあり、その論文業績は、世界の科学界に重要な貢献をなした」。

国際協同

低温科学研究所の活動の中で忘れてはならない重要な活動は、他の国々の研究者との協同である。海外の研究者との共同研究を可能にする日本の研究助成システムは、特筆に価するものである。私としては、特に次の2つのプロジェクトについて、ロシアとの共同研究が実り多いものであることを強調したい。永久凍土地域における熱・水循環の研究(ヤクーツクにおける科学アカデミー地理学研究所、州立水文学研究所、ヤクーツク研究所との共同研究)および火山と氷河の相互作用に関する研究(カムチャッカにおける科学アカデミー極東局火山研究所との共同研究)。

低温科学研究所がこれまで進めてきた国際協同の経験は、いっそう発展させるべきものである。あえて言わせていただくと、多くの研究分野において、ロシアの雪氷学の中心的な研究機関である科学アカデミー地理学研究所との協同が可能である。

1. 北東アジアにおける寒冷現象を表す GIS (地理情報システム) の構築:積雪、氷河、凍土、海氷および関連するプロセス。このGISは、最近出版された‘the World Atlas of Snow and Ice Reso urces’をベースにして、作り上げることができる。データベースおよび他の関連する情報を網羅したCD-ROMにまとめることが可能である。

2. 地球温暖化の下での寒冷圏の変動予測を目的とした後期更新世および完新世における北ユーラシアの自然環境の進化に関する調査研究。北海道、北シベリアの山岳と低地およびカムチャッカが主要な対象地域である。

3. カムチャッカおよび南シベリアにおける氷河の現状と将来についての研究。すでに研究が行われているカムチャッカの火山地域の他に、たとえば、IGYの最初に研究対象となったサンターハヤタが対象となろう。

4. 雪およびフィルン層の同位体組成(酸素および水素同位体)において最近確認された擬季節変動の形成に関する研究。この目的のためには、-30℃から-40℃の低温室で積雪を使う実験をロシアの雪氷同位体地球化学の専門家との協同で行うことが考えられる。

5. 積雪構造の変化のダイナミックスに関する研究、および温度・圧力勾配の影響下での層構造における水蒸気輸送および過飽和現象に関する研究。この研究は、フィールド研究と低温室での実験研究を要する。実験は、自然条件では再現が難しい様々な状況のシミュレーションを可能にし、積雪における熱・質量輸送の理解を深めるのに役立つ。

以上の研究課題すべてが、低温科学研究所と地理学研究所の専門家の協同によって十分達成し得るものである。

科学アカデミー会員 V・M・コトリャコフ
2000年11月21日

5. 所長からのコメント

今回の外部点検評価では、全般的には、改組以降あるべき方向に進んでいるというポジティブな評価であり、寒冷圏科学の研究拠点としていっそうの発展を目指して努力を継続してゆく所存である。個々のご指摘の中には、直ちに対処できる点もあるが、時間のかかる問題も含まれている。時間のかかる問題は、将来計画委員会等の議論を通じて改善を図って行く所存であるが、主要な問題について、若干の補足説明をさせて頂きたい。改善を指摘された問題の中で、もっとも重要な点は、プロジェクトの推進および研究体制に関わる部分と認識している。

重点化された大学院との違いを鮮明にし、大学附置研究所としての存在価値を示すためには、長期的な研究計画・プロジェクトの推進が不可欠である、とのご指摘はいちいちもっともであり、それだけに、オホーツク海と周辺陸域で当研究所が中心となって推進している研究プロジェクトに高い評価を頂いたものと理解している。問題は、低温科学研究所の研究者構成から考えて、もっと多様なプロジェクトがあってしかるべきとのご指摘である。実際には、個々の研究者あるいは個々の研究グループのレベルで、多くのプロジェクトに関わっているが、その実体が見えないのも問題であろう。この点に関しては、外部のプロジェクトに関わる研究活動等を年報に記載することと並行してその位置づけを明確にすることが必要と考えている。また、低温科学研究所が主体となるもっと多くの研究プロジェクトを立ち上げる努力も必要である。今後の大きな課題と受け止めている。

研究体制の問題に関しては、ご指摘のように、個人の自由な研究を基盤とするならば研究所の存在価値は希薄になってしまう。しかし、プロジェクト一辺倒では直に底が見えてしまいかねない。自由な発想の中に次代を担う研究の芽を育てるのは大学附置研究所の使命でもあり、プロジェクト研究とのバランスをどこに置くかという問題と認識している。また、少人数の研究グループに分かれていることに対するご批判は、もっともな点でもあるが、固定的な分野を作ってしまうと、かつての小部門・小講座となんら変わりがなくなってしまう。大部門制の利点を生かして、研究グループをかなり自由に作ることができるという今の制度は、改組に伴う過渡的な措置という側面もあるが、研究者組織の将来のあり方を模索する過程とも考えている。研究プロジェクトの推進には、現在でも研究グループの枠を超えた連携が行われており、上記のバランスと同様な問題でもある。いずれにせよ、なお時間を要する問題であることをご理解いただきたい。

雪崩などの災害科学に関係する研究体制が弱体化しているというご指摘に関しては、教官人事に関わる問題であり、軽々しく言及することは控えたい。ただし、平成11年度の外部点検評価では、雪崩の発生予知に関する研究を展開すべきであるとの指摘を受けており、災害科学の位置づけとあわせて検討が必要と考えている。現在、この方向の研究は、小人数ではあるが雪氷環境グループで行われている。

コトリャコフ委員からは、これまでの活動に対して高い評価を頂いた。今後の国際協同に関して、GIS (地理情報システム) の構築が重要であることなどロシアとの協同が提案されている。当研究所では、すでにロシアと多くの共同研究を実施しているし、研究者の交流も活発である。これをさらに発展させるには、交流協定締結など組織的な対応が必要になってこよう。

上記以外のご指摘に対しても対処できる問題に関しては、早急に対処したいと考えている。


III. 外部点検評価のための資料について

今回の外部点検評価にあたって、評価委員には以下の資料を配布しました。本報告書には、これらの資料は含まれていませんが、お申し出があれば随時お送り致しますので、必要な方は下記連絡先にご一報下さいますようご案内申し上げます。

〒060-0819 札幌市北区北19条西8丁目
北海道大学低温科学研究所 庶務掛
Tel. 011-706-5445
Fax. 011-706-7142
E-mail: syomu [at] pop.lowtem.hokudai.ac.jp

外部点検評価資料(媒体:CD-ROM)

今回の外部評価のために、過去5年間 (1995年〜1999年) の研究活動等をまとめた資料。 (注:冊子体としては総頁数188頁の厚手のものになりますので、今回の配布はCD-ROM版に限らせていただきます。)

収録内容

  1. COEプロジェクト「オホーツク海と周辺陸域における大気−海洋−雪氷圏 相互作用」の研究課題と成果 (1996〜2000)
    1.  I.オホーツク海研究
    2. II.カムチャッカ研究
  2. 各部門の研究課題と成果・研究業績 (1995〜1999)
    1. ・ 寒冷海洋圏科学部門
    2. ・ 寒冷陸域科学部門
    3. ・ 低温基礎科学部門
    4. ・ 寒冷圏総合科学部門
    5. ・ 附属流氷研究施設
  3. 資料編
    1. (1) 組織・運営
    2. (2) 教員の人事
    3. (3) 予算
    4. (4) 研究活動・業績
    5. (5) 教育活動
    6. (6) 研究支援体制
    7. (7) 将来構想

低温科学研究所概要2000(平成12年10月発行、媒体:冊子)

低温科学研究所の沿革、組織、研究内容等をまとめたカラー37頁の冊子 (2000年度版)。

低温科学研究所年報(毎年発行、媒体:冊子)

自己点検評価の一環として毎年発行している報告書。当該年における研究グループごとの「研究課題と成果」および研究者ごとの「論文業績」などを掲載している。

低温科学研究所外部評価報告書(平成10年3月発行、媒体:冊子)

平成7年度に全国共同利用研究所に改組したことの効果について行った外部評価の報告書。

オホーツク海と周辺陸域における大気−海洋−雪氷圏相互作用 −北海道大学低温科学研究所COEプロジェクトと外部評価−(平成9年3月発行、媒体:冊子)

COEプロジェクト「オホーツク海と周辺陸域における大気−海洋−雪氷圏相互作用」を開始するにあたって行った外部評価の報告書。

オホーツク海と周辺陸域における大気−海洋−雪氷圏相互作用 −北海道大学低温科学研究所COEプロジェクトと外部評価 (II)−(平成10年3月発行、媒体:冊子)

COEプロジェクト「オホーツク海と周辺陸域における大気−海洋−雪氷圏相互作用」の進捗状況を評価するために行った外部評価の報告書。

雪崩事業費による研究の経緯と成果 −外部評価報告書−(平成11年3月発行、媒体:冊子)

雪崩事業費によって推進してきた雪崩研究の総括と将来展望に対して行った外部評価の報告書。

流氷研究施設外部評価報告書(平成11年3月発行、媒体:冊子)

附属流氷研究施設のこれまでの研究活動の総括と将来展望に対して行った外部評価の報告書。


北海道大学 低温科学研究所