2005年12月 No.20
砂丘でヨコエビを食べるチビトガリネズミ(写真中央)。この種は世界最小の陸生哺乳類として知られており体重はわずか2グラム前後である。となりのハマナスの実と比べてみてください!チビトガリネズミは,東はロシアのチュコト半島からシベリアを横断し西はノルウエイまで(国内では北海道)とユーラシアの北部に広範囲に分布しているが、いずれの地域でも希少種である。このためどのような個体群構造、遺伝構造をもっているかが興味深いテーマとなっている。現在、当研究所の大舘智志(智氏)助手がロシア、フィンランド、ノルウエイの共同研究プロジェクトとして調査を行っている。
Preface | 巻頭言 |
ご挨拶 | |
若土 正曉(低温科学研究所長) | |
Research | 研究紹介 |
都市大気の流れの可視化 | |
藤吉 康志(寒冷海洋圏科学部門) | |
People | 新しい研究者の紹介 |
惑星形成論の進化 | |
田中 秀和(低温基礎科学部門) | |
環オホーツク海域における微量金属研究を目指して | |
西岡 純(環オホーツク観測研究センター) | |
千島列島の潮汐から環オホーツク圏の気候形成・変動へ | |
中村 知裕(環オホーツク観測研究センター) | |
呼吸の多様性と元素循環 | |
小島 久弥(低温基礎科学部門) | |
自己紹介 | |
的場 澄人(環オホーツク観測研究センター) | |
Administration Office | 平成18年度共同研究・研究集会公募について/会議開催報告/人事異動 |
北海道大学低温科学研究所
http://www.lowtem.hokudai.ac.jp/
低温研ニュース第20号 (北海道大学低温科学研究所広報誌) | ||
発 行 | : | 北海道大学低温科学研究所 所長 〒060-0819 札幌市北区北19条西8丁目 |
編 集 | : | 低温研ニュースレター編集委員会 |
編集委員 | : | 渡部直樹・田中亮一・事務部共同利用担当 (ご意見・お問い合わせ、投稿は編集委員まで) TEL (011)706-5465、FAX (011)706-7142 |
低温科学研究所長 若土 正曉
平成17年4月1日付で、はからずも二度目の所長を拝命することになりました。力不足は承知の上、自分なりに全力で頑張っていきたいと考えております。前回同様、皆様のお力添えで何とか任期をまっとうしたい所存でございますので、よろしくご指導の程お願い申し上げます。
大学も法人化され、その使命として、これまでの「教育」・「研究」だけでなく「社会」とのつながりを強く求められるようになってまいりました。社会とのつながり、と言っても具体的にどうすることが我々の存在を最も認識して頂けることになるのか。ほとんどと言って良いほどに、すぐには社会に役立ちそうにない研究がなされているわが低温研の所長としては、考え込まざるを得ません。でも、正直のところ、研究を進めていく上で、社会との関わりをそれほどに強く意識する必要があるのでしょうか。
大学の使命は、やはり大学でしか出来ない長期的展望に立った基礎・応用研究をしぶとく推進していくことに他ならないと私は強く信じています。いくら社会の眼が厳しい世の中になったと言っても決して怯むべきではない、とも思います。要は、それらの基礎・応用研究がいずれも、本当に優れた、ユニークでいつまでも残るようなものであれば、社会も充分に認めてくれるはずです。ただ、これまで、それらの研究成果を社会に対して発信していく努力を怠っていたことは大いに反省しなければなりません。しかし、一方で、こんな時だからこそ逆に勇気を持って、我々の進むべき道を邁進していくべきだと強く思います。勿論、大学というところにいる以上は、一人一人が、あの人は「何を明らかにした!」、「何を見つけた!」、「どんな謎を解いてみせた!」ということをはっきり認めてもらえる存在でなければならないと肝に銘じておくべきですし、低温研がそういう人々で構成された素晴らしい研究・教育組織であること心より願っています。
藤吉 康志(寒冷海洋圏科学部門)
大気−陸面(雪氷面、森林)、あるいは大気−海洋(海氷)相互作用の研究には、地面近傍の水・熱・物質を更に高さ数km上空まで輸送する大気の流れの研究が重要である。通常の気象レーダーでは、散乱体として雨粒や雪粒子などの比較的大きな粒子(〜mm)を利用して気流の測定を行っているため、降雨・降雪の無い領域での大気の流れは測定できない。そこで我々は、大気中に浮遊する微粒子(エアロゾル,昆虫,霧粒,雲粒,氷晶,吹雪粒子など)からの散乱を利用して風の測定ができる、3次元走査型のコヒーレントドップラーライダー(Coherent Doppler Lidar,以下CDLと記す)を導入した。CDLは、アイセーフ波長帯である1.54µmを使っている。観測範囲は最大で半径20kmであるが、これは巻雲など遠方の雲を観測する際に用い、通常はサンプリング間隔25m(50m,100m)(切り替え)の80レンジビンで観測を行っている。設置場所として、周囲の障害物の影響を可能な限り少なくするために、低温研よりも高い創成科学共同研究機構の屋上(地上約30m)を選んだ。
観測を開始して先ず驚いたことは、高層建築物が予想以上に広い範囲で、周囲(特に風下)の気流を乱していることである。第1図は,ライダーの南東方向にあるJR札幌タワーなどの高いビルの風下に発生した後流域を可視化したものである。これらのビルの風下数kmにわたって、周囲に比べてドップラー速度が遅くなっている。このことは,ビルの風下では風が弱まっていることを示している。容易に想像できるように、このような高層建築物が引き起こす風の乱れは、都市の汚染物質や熱の鉛直および水平方向の輸送効率を大きく変化させ、ヒートアイランドの形成にも密接に関わってくる。
ここで示した例以外にも、海陸風や局地前線、水平ロール渦、プリュームなどの大気境界層内で形成される組織化された流れの構造、晴天積雲や中層雲の発生過程、花火や煙の拡散過程までも既にとらえている。このようにCDLは、空気の流れを可視・定量化し、気象学・雪氷学のみではなく、都市工学,災害科学,生態学などにも大きな貢献が期待される。
藤吉康志,山下和也、藤原忠誠,2005: 3次元走査型コヒーレントドップラーライダーによる大気境界層の流れの可視化,天気,52,665-666.
第1図 高層建築物によって生じた後流の可視化例(2005年3月15日)。仰角2.2度のドップラー速度の水平分布。南東の風で、風速は5m s-1程度。右下のJR札幌タワーやホテルの風下で周囲に比べてドップラー速度が小さくなっている。太い矢印で風の流れる方向を示した。暖色系はライダーから遠去かる方向,寒色系は近づく方向に風が吹いていることを意味し,それぞれ,赤から黄色,および青から水色ほどドップラー速度の動径成分が大きいことを意味する。
田中 秀和(低温基礎科学部門)
今年の3月に東京工業大学から低温科学研究所に着任してきました。東工大には学生時代から数えて20年間お世話になっていましたが、低温研に移り、新たな環境で多くの刺激を受け、研究をスタートさせて頂いております。これまで、私は惑星の形成過程を理論的に研究してきました。その研究紹介をもちまして私の自己紹介に代えさせて頂きます。
まずは、惑星形成の概略を簡単に紹介しましょう。恒星が生まれる際に、そのまわりをまわるガス円盤(正式には原始惑星系円盤)が同時につくられます。天文観測により、このガス円盤は数多く発見されています。そのガス円盤の中で、氷やシリケイトを主成分とする星間ダストが集まった結果、10km程度のサイズの微惑星と呼ばれる天体が無数につくられます。次に、これら微惑星が互いの重力で引き合いながら,衝突合体を繰り返し成長していきます。そして、最終的に地球や金星のような主に岩石でできた内惑星達がつくられます。一方,外側の領域では惑星はより大きく成長でき、その強力な重力で原始惑星系円盤のガスを吸い込んでまとうようになりました.この様につくられたのが,大量の水素ガスを持つ木星,土星などの外惑星です.このようなシナリオで我々の太陽系の惑星達の起源はほぼ説明できます。このシナリオに沿って、惑星形成論は1960年代より純粋理論として発展してきました。
上で説明した惑星形成過程において、重力による微惑星の衝突合体過程は力学的な問題であり、大規模数値計算により扱いやすい問題です。私を含めた東工大のグループは、数値的に個々の粒子の軌道を計算し合体成長を追う「N体計算」という手法で、惑星成長過程を精密に調べてきました。惑星が合体成長していく様子は、天文観測からあまり情報が得られていません。(但し、以下参照。)そのため、理論的に信頼性の高い結果を出す必要があり、直接すべての天体の軌道を数値的に追うN体計算が、強力な手段であったわけです。我々のグループが大規模なN体計算を行ってきた結果、初期の微惑星分布の条件を決めれば最終的にどのような惑星ができるかを予言できる、という段階にまで現在研究は進んでいます。
一方、星間ダストから微惑星をつくる過程、すなわち、微惑星成長の初期条件を決める段階ですが、これについては、まだわからない点が多くあります。私自身も数年前からダスト粒子の成長の研究に取り組み始めました。ダスト粒子は円盤内で輻射の放射・吸収を支配するので、ダスト成長によってガス円盤の温度構造や熱放射は大きく変化します。また一方、若い星の周りのガス円盤の天文観測は、様々な天体に対し様々な波長で行われており、その観測データから含まれるダスト粒子についての情報を得ることが可能になります。実際、近年の望遠鏡の高分解能・高感度化により、ダストサイズに関する情報が得られるようになりました。近い将来、日本の赤外天文衛星ASTRO-Fや日米欧共同で計画中の大型電波干渉計ALMAからの豊富な観測データによって、ガス円盤内のダスト粒子の姿が格段に明らかにされていくことでしょう。ガス円盤におけるダスト成長は、純粋理論から実証的科学に変わりつつあるとも言えます。
天文観測データは、ダストだけでなく惑星についても得られるようになってきました。1995年に太陽系外に他の恒星をまわる惑星が最初に発見されて以来、現在では150個を上回る太陽系外惑星が発見されています。従来、惑星形成論が扱う対象は太陽系ただ1つでしたが、現在は他の惑星系も含めて統一的に説明しようという試みが進められています。更には、地球のような生命をもつ惑星はどのくらい存在するのかという大きな問題に挑戦する研究者も出始めています。
さて、ダスト粒子の話に戻しましょう。星間ダストが恒星まわりのガス円盤内で成長していく様子は、大気中で雨粒や雪が沈降しつつ併合成長する過程とほぼ同じものです。ダストは固体の氷やシリケイトから主につくられているので、それは雪の成長に近いかもしれません。その点でも、低温研ニュースNo. 18での藤吉先生の研究紹介「雪片形成のモンテカルロシミュレーション」は、私にとって興味深いものでした。ダスト粒子の運動や衝突断面積、光学的性質などを考える上で、その内部構造が重要であることは言うまでもありません。雪片と同様、宇宙のダスト粒子も成長初期段階では空隙の多いフラクタル構造をしていると考えられていますが、成長と共にどのような構造進化をするのか、衝突による圧縮は起こらないのかなどの問題は、まだよく分かっていません。このように、我々惑星形成論の研究者が気象など地球科学の蓄積に学ぶことは多そうです。藤吉先生からは、もう少し詳しい話を聞かせて頂きたいと考えています。惑星形成論を実証的科学に変えていくのに、皆様の知恵をちょっと拝借させて頂ければと考えている今日この頃です。
西岡 純(環オホーツク観測研究センター)
2005年6月1日付で低温科学研究所・環オホーツク観測研究センターに着任致しました西岡と申します。どうぞ宜しくお願い致します。 5月31日までは、財団法人電力中央研究所に10年間勤務しておりました。私は1992年に、北海道大学水産学部で研究活動をスタートしました。大学院時代の研究テーマは「内湾の生物生産を高める陸起源物質に関する研究」であり、対象としたのは主に沿岸の一次生産を高める陸起源の鉄の役割でありました。鉄の研究を行っていたため、1980年代後半から外洋で展開されていた「鉄仮説(外洋の高栄養塩低生産域では鉄が一次生産を制限しているという仮説)」研究に大変興味を抱き、自分の中でもいずれ鉄の研究を外洋に展開したいと考えておりました。1995年に修士課程終了後、(財)電力中央研究所(電中研)に入所し、海洋の一次生産と鉄に関する研究を行う機会を得ました。電中研では、主に北太平洋亜寒帯域を対象とし、鉄という元素を軸にして化学海洋学、生物海洋学に関わる研究を進めてきました。具体的には、地球温暖化対策の一つとして、「海洋の肥沃化による二酸化炭素の固定」を目的とした研究を行ってきました。その中で、外洋の高栄養塩低生産海域である北太平洋亜寒帯域を対象とし、室内実験・船上実験・海洋観測などを通して、植物プランクトンにとって微量栄養素である鉄が、北太平洋亜寒帯域の生物生産や物質循環にどのように関わっているのかを研究してきました。また、国内外の研究者とともに、実海域で人為的に鉄濃度を調整し、海洋生態系の応答と物質循環の変化を観測する実験プロジェクト等を行ってきました。
ここ数年で、我が国に密接に関わる西部北太平洋亜寒帯域でも鉄が生物生産をコントロールし得る元素であるという点で、その重要性が明らかになってきました。しかし、西部北太平洋亜寒帯域、親潮域、オホーツク海域、ベーリング海域等の環オホーツク海域は、低次生物生産の変動が他海域に比べて大きいことが知られておりますが、天然の微量金属元素の供給と生物生産の関係については未解明な点が多く残されております。これらを明らかにすることは、水産業や地球規模炭素循環、さらには気候変動に関わる重要な研究であると考えております。今回、北大低温研・環オホーツク観測研究センターへの赴任する事となり、環オホーツク海域をフィールドとして研究する機会を得ることができました。地球科学に関わる様々な分野の第一線でご活躍されている多くの方々がいらっしゃる低温研は、研究を行っていく場として大変魅力的です。このような恵まれた環境を十分に生かして、今後は皆様と積極的にご議論させて頂きながら研究を展開していきたいと思っております。また大自然に囲まれた北海道での研究生活を楽しんで行きたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。
中村 知裕(環オホーツク観測研究センター)
本年3月16日付で環オホーツク観測研究センターに講師として着任致しました。これからよろしく御願い致します。3月15日までは海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センターに、その前は京都大学理学研究科に、ポスドク研究員として所属していました。
これまでは主に千島列島域の潮汐に関わる海洋物理過程について数値モデルや理論を用いて研究していました。潮汐は沿岸域における重要な過程であり、その研究には長い歴史がありますが、まだまだ未解明の事柄が多く残されています。例えば最近では、海洋深層循環の維持に必要となる鉛直混合のエネルギー源としても注目されるようになってきました。また、地球や月の自転・公転エネルギーを散逸する過程として天文学・測地学的にも重要な課題です。オホーツク海周辺も、潮汐エネルギー散逸に重要な海域と考えられています。
千島列島は、オホーツク海と北太平洋を繋ぐ重要な位置にあります。周辺海域では潮流が非常に強く、それに伴い様々な面白い現象が生じています。例えば潮流は振動流ですが、非線形性を通して正味の海水輸送を引き起こします。千島列島域では、順圧潮流によって、水深の変化に伴い生成される相対渦度の移流および地形に捕捉された波による渦度輸送を介し、浅い方を右に見るような平均流が形成されます。この平均流は、オホーツク海と北太平洋間の海水交換に有意な影響を与えています。また、潮流に伴って成層した海水が海峡内のシル(海底山脈)上を往復すると、内部波が励起されます。このうち非定常風下波は100mを越すような振幅に成長して砕波し、強い鉛直混合を引き起こします。このような強い鉛直混合の結果、千島列島に沿って水温・塩分の潮汐フロントが形成され、それに沿って平均流が生じています。こうした流れは不安定であるため、フロント沿いには渦が形成され、渦はやがて切離して列島域で混合された海水を沖へ輸送します。こうした鉛直混合の影響は、オホーツク海および北太平洋に広がり、中層の水塊形成や循環に影響を与えます。以上の過程は、短周期の潮流過程が時空間スケールの大きな海盆間の相互作用や水塊・循環形成に重要な関わりを持っている点で大変に興味深いものです。
これまでは海洋物理の範疇で、以上のような順圧潮汐、それに伴うメソスケール以下の傾圧過程、そして海盆スケールの循環と様々なレジームの力学を研究対象としてきました。環オホーツク観測研究センターでは、海洋に加えて大気・海氷・陸面とその間の相互作用へと研究を発展させていきたいと考えています。具体的には、環オホーツク域の気候形成・変動とそのメカニズムを対象とし、そのために環オホーツク域結合モデルを構築し使用する予定です。本研究センターの設立趣旨にもあるように、環オホーツク域は地球温暖化や気候変動を理解する上で重要な領域の一つであるだけでなく、特徴的な地理的配置のため独特の興味深い現象が生じています。私個人にはまだまだ足りない点が多々ありますが、低温科学研究所には文字通り寒冷圏における海洋・海氷・大気・陸域の専門家が揃っていますし、数値モデルの検証・改良には欠かせない観測についても本研究所が中心的役割を果たしていますので、お教えを戴きながら頑張って行きたいと思っております。どうかよろしく御願い致します。
小島 久弥(低温基礎科学部門)
微生物とは肉眼で識別できない程度の大きさの生物の総称であり、極めて多様な生物がここに含まれます。微生物はその生活の仕方もまた極めて多様であり、動物や植物といった我々になじみの深い生物とは大きく異なる生き方をしているものが多数存在します。
呼吸は生物の主要なエネルギー獲得様式のひとつであり、多くの生物の活動がこの効率的なエネルギー変換機構に依存しています。呼吸には電子供与体と電子受容体が必要とされます。我々にとっては有機物と分子状酸素がこれに相当しますが、エネルギーを取り出しうる供与体/受容体の組み合わせは多数存在します。環境中では微生物によって多種多様な組み合わせによる呼吸が行われ、窒素や硫黄を含む無機化合物や、鉄やマンガンに代表される金属イオンなどが用いられています。生物による呼吸活性は、電子供与体の酸化と受容体の還元をもたらします。これにより生成・消費される物質はそれぞれ異なる物理化学的特性を持ち、これを構成する元素の環境中における挙動を大きく左右します。このようにして、微生物の呼吸活性は各種の元素循環の駆動力として極めて重要な役割を担っています。
呼吸によって酸化を受けた物質は電子受容体として、還元された物質は電子供与体として、それぞれ別のタイプの呼吸を行う微生物によって再利用されることがあります。また、呼吸によって毒性を持つ物質が生じる場合や、逆に毒性を持つ物質が無毒化される場合もあります。呼吸に用いられる物質を構成する元素の多くは生体を構成するために必要なものでもあります。こうした物質を介して、ある微生物による呼吸はさまざまな経路で他の微生物に影響を及ぼしていると考えられます。
湖の堆積物表面などでは、様々なタイプの呼吸を行う微生物群が空間的に近接して生息し、多様な物質が生成・消費されます。こうした環境に生息する微生物の間では、呼吸に関連した物質を介する直接的、間接的相互作用が網の目状に張り巡らされていると考えられます。これに関与する物質は気体・水溶性イオン・水に溶けない固体といった様々な形態をとり、それぞれの移動性、溶解度、反応性などを異にしています。物質間の非生物学的な化学反応や、単一の微生物による複数の呼吸様式の使い分け等を考慮すると、この相互作用ネットワークは極めて複雑なものであると考えられます。環境微生物が極めて多様である上、その大多数が機能未知の微生物によって占められていることからも、このネットワークの全容の解明には程遠いというのが現状であろうと思われます。しかしながら、このネットワークの構造を部分的にであっても解明することは、様々な元素の環境中での挙動を解明する上で重要な課題です。また、呼吸関連物物質を介した相互作用のネットワークの中には未だ認識されていない機構に基づく結びつきも数多く残されていると予想されます。こうした未知の関係性を発見することも非常に興味深いテーマであると思われます。
以上のような関心のもと、鉄化合物や硫黄化合物の酸化・還元に関わる微生物を中心とした研究を行っています。解析の対象としているのは湖の底泥などの環境試料です。試料は野外調査で採取し、各種の解析に用いています。現在は、現場にどのような微生物がいるのかを把握するためのDNA解析を中心に研究しています。また、特定の能力を持つ微生物を取り出すために様々な条件下での培養も行っています。極めて複雑な系の全容を少しずつ明らかにして行く過程で、関与する物質の特異性に応じた独自の機構による微生物間相互作用を発見することを目指して研究を進めています。
的場 澄人(環オホーツク観測研究センター)
平成17年3月1日より、環オホーツク観測研究センターに助手として赴任した的場澄人と申します。これからよろしくお願いします。現在取り組んでいる研究は、アラスカとカムチャッカの氷河をくりぬいて採取されたアイスコアを解析し、北部北太平洋域の十年から数十年周期の気候変動とその仕組みを明らかにすることです。日本を含め北部北太平洋域の気候は、「太平洋十年振動」(PDO)と呼ばれる長期気候変動に影響を受けていると考えられています。昨年度まで低温研に所属しておられた白岩さんらの研究から、カムチャッカとアラスカのアイスコアから復元された正味の収支の間には負の相関があり、その変動はPDOに密接に関わっていることが明らかになってきました。私は氷に含まれている不純物を測るのが好きなので、この研究の次の段階としてPDOが物質循環に及ぼす影響に着目してアイスコアの解析を進めていく予定です。
子供の頃、ヒーローもののテレビ番組で、「悪そうな博士」が色とりどりの液体を混ぜ合わせて良からぬものを作っている姿に憧れていたからでしょうか、大学院の修士課程までは分析化学の研究室に在籍していました。その後、極地に対する漠然とした憧れと、そのころに始まったグリーンランドでの氷床掘削プロジェクトへの興味から、総合研究大学院大学の博士課程に進学し国立極地研究所でアイスコアの研究を始めました。入学した直後の1995年5月に、スカンジナビア半島の北にあるスバールバル諸島での氷河掘削に参加しました。初めての氷河での野外観測は何もかもが感動的でした。そして、この観測で、私の人生において大きな影響を受けた二人と出会いました。その一人は、2年前まで低温科学研究所に在籍し今年3月に総合地球環境学研究所で退官された成田英器先生です。この観測がきっかけで、私はその後の研究においても成田先生には大変お世話になるのですが、この初めての野外観測で成田先生と出会い、氷河に刻まれた微細なシグナルからダイナミックな地球規模の環境変動を読み取るというアイスコア研究の面白さ、フィールド観測の醍醐味、人としての立ち振る舞いなどなど多くのことを学んだことは私の人生の一つの転機となり、現在までアイスコアの研究を楽しく続けるきっかけになりました。
もう一人はグリーンランドで活動されている冒険家の山崎哲秀さんです。この観測後、山崎さんに連れられグリーンランドのエスキモー村に滞在する機会がありました。エスキモーらは狩猟による生活を営み、雪と氷に密接に関わりながら生活していました。彼らと生活をしている中で、海が凍る時期が遅くなってきたこと、この年は風が吹かず雪が残ったため海氷が薄かったこと、昔より前進してきた氷河があることなど、彼らが生活の中で感じている最近の環境の変化について話をしました。当たり前のことなのですが、人間って自然の中で生活しているんだなぁと改めて実感しました。そして、人の営みと関わりの深い環境に関する研究もしていきたいと思いました。
今年度から、総合地球環境学研究所の「アムール・オホーツクプロジェクト」にも参加しています。このプロジェクトのトピックの一つは、オホーツク海の生物生産が鉄によって制御されていて、その鉄はどこからどれだけ供給されるのかということです。その中で私が担当しているのはアジア大陸の乾燥域からオホーツク海に飛んでくるダストを見積もることです。今年10月にはエアロゾルサンプラーをカムチャッカ半島に設置してきました。来年6月には、カムチャッカのイチンスキー氷河でアイスコア掘削を行います。「なにはともあれ現場に行ってみてナンボ」という野次馬スタイルで精力的に研究を続けていきたいと思っています。ご指導、ご協力を宜しくお願い致します。
平成18年度共同研究・研究集会については,平成17年12月から募集の予定です。
詳しくは,11月下旬発送の公募要領又は共同研究のホームページ (http://www.lowtem.hokudai.ac.jp/kyoudou/) を御覧ください。
日付 | 異動内容 | 氏名 | 職名(旧職) |
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17. 3.31 | 定年 | 石井 弘道 | (技術専門職員) |
17. 3.31 | 任期満了 | 宮本 淳 | (非常勤研究員) |
17. 3.31 | 任期満了 | 日高 宏 | (非常勤研究員) |
17. 3.31 | 任期満了 | 佐々木 明 | (研究支援推進員) |
17. 3.31 | 任期満了 | 松下剛太郎 | (科学研究支援員) |
17. 3.31 | 任期満了 | 松原和歌子 | (産学官連携研究員) |
17. 3.31 | 任期満了 | 橋谷 綾子 | (事務補助員) |
17. 3.31 | 任期満了 | 大畑 恵 | (事務補助員) |
17. 4. 1 | 出向 | 白岩 孝行 | 総合地球環境学研究所助教授(助教授) |
17. 4. 1 | 転出 | 荒川 政彦 | 名古屋大学環境科学研究科助教授(助手) |
17. 4. 1 | 転出 | 中田 繁雄 | 遺伝子病制御研究所会計係長(専門職員) |
17. 4. 1 | 転出 | 濱 勝博 | 工学研究科・工学部総務課庶務係主任(庶務係主任) |
17. 4. 1 | 転出 | 老松 邦男 | 情報基盤センター共同利用係主任(会計係主任) |
17. 4. 1 | 採用 | 小島 久弥 | 低温基礎科学部門助手 |
17. 4. 1 | 転入 | 渡辺 修 | 専門職員(釧路工業高等専門学校会計課総務係長) |
17. 4. 1 | 転入 | 伊藤 敏文 | 庶務係主任(学務部学生支援課保健係主任) |
17. 4. 1 | 転入 | 水野 仁 | 会計係主任(国立日高少年自然の家事業企画課施設管理係主任) |
17. 4. 1 | 採用 | 後藤由佳子 | 技術職員 |
17. 4. 1 | 採用 | 中野渡拓也 | 非常勤研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | 伊藤 陽一 | 学術研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | 澤田 結基 | 学術研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | 宇田 幸弘 | 学術研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | 中右 浩二 | 学術研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | ロペス,ラリー | 学術研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | 城田 徹央 | 学術研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | 大野 浩 | 学術研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | 日高 宏 | 学術研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | 和田 浩二 | 学術研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | 宮本 淳 | 学術研究員 |
17. 4. 1 | 採用 | 石井 弘道 | 研究支援推進員 |
17. 4. 1 | 採用 | 千貝 健 | 技術補佐員 |
17. 4. 1 | 採用 | 今渕 陽枝 | 事務補助員 |
17. 4. 1 | 採用 | 宮本 宏美 | 事務補助員 |
17. 4.30 | 任期満了 | ブロゾスカ,ジーン | (外国人研究員・客員助教授) |
17. 5. 1 | 採用 | 山田 雅仁 | 学術研究員 |
17. 5. 1 | 採用 | 松下剛太郎 | 学術研究員 |
17. 5.24 | 採用 | ハーゲン,ヨン オヴ | 外国人研究員・客員教授 |
17. 6. 1 | 転入 | 西岡 純 | 環オホーツク観測研究センター助教授(電力中央研究所主任研究員) |
17. 6. 1 | 採用 | 伊藤 寿 | 学術研究員 |
17. 6.13 | 採用 | ゼペダ,サルバドール | 学術研究員 |
17. 8.31 | 辞職 | ゼペダ,サルバドール | (学術研究員) |
17. 8.31 | 任期満了 | ハーゲン,ヨン オヴ | (外国人研究員・客員教授) |
17. 9. 1 | 採用 | 中鉢 健太 | 技術職員 |
17. 9.30 | 辞職 | 斎藤 健 | (学術研究員) |
17.10. 1 | 転入 | 笠原 康裕 | 低温基礎科学部門助教授(茨城大学農学部助教授) |
17.10. 1 | 転入 | 杉山 慎 | 寒冷陸域科学部門講師(スイス連邦工科大学研究員) |