末端氷河湖の形成に起因した氷河の変動メカニズムの解明
氷河の末端に形成される氷河湖は、カービング(氷山分離)や流動速度の上昇を引き起こし、氷河の後退を加速させる可能性があります。しかしながら、湖の形成が氷河流動に与える影響は十分に理解されておらず、その結果生じる氷河変動を観測した例はほとんどありません。私たちは、スイスアルプスのローヌ氷河に形成された氷河湖に着目し、2007-2009年に詳細な観測を実施しました。
ローヌ氷河は長さ約9km、面積約17km2の山岳谷氷河で、19世紀から現在にかけて急速に縮小が進んでいます。氷河の後退に伴って、氷河末端と
の前方にある岩盤凸部との間に、2005年に氷河湖が形成されました(図1)。
この湖がローヌ氷河の流動に与える影響を明らかにし、ローヌ氷河の今後の変動を予測することがこのプロジェクトの目的です。新しく開発した熱水ドリルで氷河を掘削し、底面水圧や底面流動の測定、氷底堆積物のサンプリングを行うなど、氷河内部と底面で測定を行うことを特徴としています。これまでに、正確な岩盤高度を明らかにしたほか、2000年以降に氷厚の減少が加速していることがわかってきました(図2)。ローヌ氷河での観測の様子はこちらでご覧になれます。このプロジェクトは、スイス連邦工科大学と共同して進めています。
図1 | ローヌ氷河末端部の写真。写真左側の氷河末端部に氷河湖が見える(撮影は2008年8月)。 |
図2 | (a) | ローヌ氷河末端部の地図。グレー斜線部が氷河湖、黒丸が2007年に熱水掘削を実施した位置を示す。等高線は従来推定されていた底面高度。 |
(b) | A線(図2a)に沿った氷河縦断面図。掘削によって明らかになった氷河底面高度(黒丸)と 2000年から2007年にかけての表面高度の変化を示す。実線は従来推定されていた底面高度。 |
Member: | 杉山慎、津滝俊、西村大輔、吉澤猛 |
Keyword: | 氷河、氷河湖、気候変動、スイス、熱水ドリル、GPS、氷底堆積物 |
Contact: | 杉山慎 |
Publications: | Tsutaki, S., S. Sugiyama, D. Nishimura and M. Funk, Acceleration and flotation of a glacier terminus during a proglacial lake formation in Rhonegletscher, Journal of Glaciology, 59(215), 559-570 (2013) |
Tsutaki, S., D. Nishimura, T. Yoshizawa and S. Sugiyama, Changes in glacier dynamics under the influence of proglacial lake formation in Rhonegletscher, Switzerland, Annals of Glaciology, 52(58), 31-36 (2011) | |
Sugiyama, S., T. Yoshizawa, M. Huss, S. Tsutaki and D. Nishimura, Spatial distribution of surface ablation in the terminus of Rhonegletscher, Annals of Glaciology, 52(58), 1-8 (2011) | |
Tsutaki, S. and S. Sugiyama, Development of a hot water drilling system for subglacial and englacial measurements, Bulletin of Glaciological Research, 27(58), 7-14 (2009) | |
Sugiyama, S., S. Tsutaki, D. Nishimura, H. Blatter, A. Bauder and M. Funk, Hot water drilling and glaciological observations at the terminal part of Rhonegletscher, Switzerland in 2007, Bulletin of Glaciological Research, 26(58), 41-47 (2008) |