南米パタゴニア氷原、ペリート・モレノ氷河における短期流動変化

 南米のチリ・アルゼンチン国境に広がるパタゴニア氷原は、世界でも類を見ない降雪量によって形成され、数多くの溢流氷河を流し出しています。ペリート・モレノ氷河は氷原の東側、アルゼンチンに流れ出す氷河で、末端が河川をせき止めて氷河湖を形成することで知られています。定期的に起きる氷河湖の決壊現象に加え、多く氷河が後退傾向にある近年もほとんど規模が変化していない、ユニークな氷河です。私たちはペリート・モレノ氷河にて流動速度の観測を行い、その流動メカニズムに関する研究を行っています

 2008年12月から2009年1月にかけて、GPSを用いた流動速度の測定を行い、流動速度が日周期で変化していることが明らかになりました。氷河底面に流れ込む融解水の影響で流動速度が日周期変動することは、アルプスや北米の氷河において明らかされています。しかしパタゴニアの氷河でも同様な変化が生じていることがこの観測で初めて明らかになりました。本プロジェクトでは今後も現地での調査を実施し、ペリート・モレノ氷河の流動特性を明らかにするとともに、特異な氷河変動や氷河湖決壊との関係に着目して研究を進めていきます。氷河での観測の様子はこちらでご覧になれます。このプロジェクトは、筑波大学を中心としたグループとの共同研究です。


図1 ペリート・モレノ氷河末端の写真。写真左側で氷河が対岸にのり上げて、河川をせき止めている。



図2 氷河上のくぼみにたまった融解水。融解水が底面に流れ込むことで、流動速度が変化すると考えられる。



Member: 杉山慎津滝俊刀根賢太榊原大貴箕輪昌紘大橋良彦、安仁屋政武(筑波大学)、内藤望(広島工業大学)、澤柿教伸(北海道大学地球環境科学研究院)、榎本浩之(北見工業大学)
Keyword: 氷河、パタゴニア、流動、氷河水理学
Contact: 杉山慎
Publications: Sugiyama, S., P. Skvarca, N. Naito, H. Enomoto, S. Tsutaki, K. Tone, S. Marinsek and M. Aniya, Ice speed of a calving glacier modulated by small fluctuations in basal water pressure, Nature Geoscience, 4, 597-600 (2011)
Sugiyama, S., P. Skvarca, N. Naito, K. Tone, H. Enomoto, K. Shinbori, S. Marinsek and M. Aniya, Hot-water drilling at Glaciar Perito Moreno, Southern Patagonia Icefield, Bulletin of Glaciological Research, 29, 27-32 (2010)