南極氷床における表層積雪の物理構造

 南極氷床に降り積もる雪は長い年月をかけて氷に変わり、沿岸に向けてゆっくりと流れ始めます。 雪は南極のいたるところで堆積していますが、その雪がどのように堆積し氷へと変わっていくのか、 そのプロセスが地域によってどう異なるのか、南極の広大さゆえに未解決の問題が多く残っています。 2007年から2008年にかけて行われた日本・スウェーデン合同南極トラバースにおいて、2800 kmの トラバースルート沿いに積雪構造を観測しました(図1)。得られた観測データをもとにして、 氷床の表層1mにおける堆積構造を明らかにすることがこの研究の課題です。

 極端に気温が低く乾燥した南極では、積雪の構造も他の地域と異なります。特に内陸においては、 昇華再結晶のプロセスを経たしもざらめ雪が発達するほか(図2a)、細かい粒子が強く結合した硬い 雪も観察されます(図2b)。これらの積雪構造は密度や結合度に大きな差があり(図3)、まったく 異なる堆積過程が存在することを示唆しています。雪の誘電率はその密度と相関がありますが(図3)、 雪の構造によってその相関関係が異なる可能性もあります。これらの点に着目して、表層積雪の密度と 構造に分布が生まれる原因、すなわち堆積環境を明らかにすることを目指しています。積雪密度と誘電率 との関係を明らかにし、人工衛星データの解析に必要なデータを提供することも重要な研究目的のひとつ です。日本・スウェーデン合同南極トラバースの様子は こちらでご覧になれます。この研究は、国立極地研究所、北見工業大学、スウェーデン・ストック ホルム大学との共同研究です。


図1 日本・スウェーデン合同南極トラバースのルート。白丸の地点で積雪観測を実施した。



図2 南極で観測された(a)しもざらめ雪と(b)細かい粒子が強く結合した硬い雪。



図3 表面から1 mの深さにおける、積雪密度および誘電率分布の例。
カラーチャートは青がしもざらめ層、ピンクが硬い雪、赤線がクラスト層を示す。



Member: 杉山慎、榎本浩之(北見工業大学)、藤田秀二(国立極地研究所)、福井幸太郎(立山カルデラ砂防博物館)、中澤文男(国立極地研究所)
Keyword: 南極、氷床、積雪構造、積雪密度、誘電率
Contact: 杉山慎
Publications: Sugiyama, S., H. Enomoto, S. Fujita, K. Fukui, F. Nakazawa, P. Holmlund and S. Surdyk, Snow density along the route traversed in the Japanese-Swedish Antarctic Expedition 2007/08, Journal of Glaciology, 58(209), 529-539 (2012)
Sugiyama, S., H. Enomoto, S. Fujita, K. Fukui, F. Nakazawa and P. Holmlund, Dielectric permittivity of snow measured along the route traversed in the Japanese-Swedish Antarctic Expedition 2007/08, Annals of Glaciology, 51(55), 9-15 (2010)