プロジェクト概要

研究の全体像

研究の全体像

北極の夏の海氷面積はこの40年で半減し(図1・2)、その影響はすでに(短期に)大気大循環を介して世界の気候に影響を与えている。一方、安定していた南極の海氷も8年前から減少し始め、2023年2月に過去最少を更新した(図1)。海氷は生成される際に高塩の重い水を排出し、その水が沈み込むことで深層まで及ぶ海洋深層循環が駆動される(図3・4)。深層循環は数十~千年の時間スケールを持ち、海は熱容量が大きいので長期の気候変動を決めている。南極周りでは多量の海氷生産が生じ、世界一重い水、南極底層水が生成され、深層大循環を駆動する(図3)。オホーツク海の海氷生産は中層水となる重い水を生成、北太平洋の中層循環を駆動する。IPCC等から、これら中深層水の昇温、中深層循環の弱化が示唆されているがその原因はわかっていない。中深層循環が弱化すると熱やCO2輸送が弱化し、Mildな気候が極端化したり、温暖化を加速する可能性がある。北極海氷の激減は、現在の全球の気候に影響を与えているが、海氷激減そのものが生ずるメカニズムはよくわかっていない。黒っぽい海面は白っぽい海氷よりも日射に対する反射率(アルベド)が著しく小さく日射を吸収しやすいため、アルベドの違いがフィードバック効果を生み、海氷減少を加速していることが衛星データの解析から示唆されているが、現場観測からの実証が乏しい。両極での海氷の激減がなぜ起こり、それが深層大循環や気候の変動をもたらしうるか?この問いに答えるのが本課題である。<\p>

図1
図1: 夏の海氷面積の年々変動
図2
図2: 北極海と南極海の夏の海氷分布の変化

図3
図3: 海氷生成による重い水の沈み込みと中深層循環
図4
図4: 沿岸での高海氷生産による底層水形成

核心をなす問い:研究の目的

問い1: 海氷変動は、中深層循環や気候の変動をもたらすのか?長期の大規模な気候変動を決める中深層水・循環の変動は、起点となる南極及びオホーツク海の海氷生産変動によるのかを解明する。(図5)

問い2: なぜこのような海氷激減が生じたのか? 現在生じている北極海氷の激減は海氷と海面のアルベドの違いによるフィードバック効果によるのか?南極でも同様なメカニズムが進行しうるか?の解明をめざす。(図6)

図5
図5

図6
図6: 北極海氷の激減と海氷海洋アルベドフィードバック効果

研究の独自性・国際的優位性

全球で海氷生産量を推定する手法の開発

どこでどれだけ海氷ができているかは、現場観測が困難なため、よくわかっていなかった。当グループは、衛星マイクロ波放射計データと熱収支計算を駆使することで、海氷生産量を推定するという手法を開発し、高海氷生産域と中深層水形成域とが明確に対応していることを世界で初めて明らかにしてきた(図7)。この手法により、未知の南極底層水生成域なども突き止めてきた(図7のケープダンレー沖)。

北極域研究砕氷船みらいIIの就航

北極域研究船みらいIIが2026年度に就航するが、北極海の海氷激減域は日本からアクセスがしやすく(図2を参照)、海氷激減域に対する世界最強級の観測プラットフォームとなる。

図7
図7:衛星データと熱収支計算から導出した海氷生産量のマッピング。(左)南大洋。Nihashi & Ohshima (2015)より加筆。(右)北半球。Ohshima et al. (2016)より加筆。

研究計画

核心問い1に対して: ①高精度の海氷生産量の見積もりは2003年以降のみで、高海氷生産域と中深層水形成域の変動の関係性はわかっていない。マイクロ波データは、過去50年の蓄積がある。過去の衛星マイクロ波のアルゴリズム開発により50年の海氷生産量の全球データセット作成を行い、長期で変動する中深層水との関係を解明する。

図8
図8

②オホーツク海での高海氷生産が北太平洋の中層循環を駆動しているが、ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシア領海でのオホーツク海の海洋データが得られていない。フロート観測により海洋モニターを再開し、オホーツク海での海氷生産と北太平洋中層循環の関係を解明する。(図9)

図9
図9

核心問い2に対して: ③現在の北極海の海氷激減メカニズムとして、「融解期に一旦海氷が覆う割合が低下すると、日射を吸収しやすい海面が増加、海が温められ、その熱で海氷が融解され海氷面積が減少し、さらに日射を吸収する(図10参照)」、 という海氷海洋アルベドフィードバックが衛星データから提案されている。砕氷船みらいIIからの観測により、このメカニズムを現場観測から実証する。④北極海の海氷変動に効いている可能性の高い「波浪と海氷の相互作用」及び「氷縁での雲・エアロゾルシステム」に対して、自作で開発中の海氷設置型波浪観測ブイと気象ドローンを用いて、砕氷船みらいIIから現場観測を行う。(図10参照)

図10
図10: 海氷海洋アルベドフィードバックによる海氷融解加速メカニズムと北極海氷縁での観測

⑤南極海氷の変動に関しても、日本南極地域観測と連携して、砕氷船しらせから「海氷海洋アルベドフィードバック」、「波浪と海氷の相互作用」及び「氷縁での雲・エアロゾルシステム」に関わる観測を行う。

図11
図11

期待される成果・波及効果

本課題の成果をIPCC等で使用されている気候モデルに取り込むことで気候変動研究に貢献。

図12
図12

参考資料

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