第11回(2025年度)松野環境科学賞が、大学院環境科学院地球圏科学専攻博士後期課程の本田茉莉子さんに授与されることが決まりました(6月30日付け)。同賞授賞式は、2025年9月25日(木)午後に行われました。
対象論文
論文名:Sea ice‑melt amount estimated from spring hydrography in the Sea of Okhotsk: spatial and interannual variabilities.
著者名:Mariko Honda, Kay I.Ohshima1,Vigan Mensah, Jun Nishioka, Masatoshi Sato, Stephen C. Riser
掲載誌名、巻、ページ、掲載年:Journal of Oceanography 80巻, 273–290頁, 2024年, https://doi.org/10.1007/s10872-024-00721-z
対象論文の内容と選考理由
オホーツク海は,大量の海氷生成により高密度水を形成し,それが潜り込むことで北太平洋中層水の起源海域となっており,鉄や二酸化炭素の吸収などの物質循環にも重要な役割を担っている.一方,オホーツク海での海氷融解は,成層を強化し,鉄などの栄養物質を放出することで,植物プランクトンの大増殖(春季ブルーム)を誘起し,高い生物生産をもたらしている.近年の温暖化に対して,オホーツク海は高感度海域であり,その海氷への影響の解明は喫緊の課題である.オホーツク海の海氷面積や海氷生成に関しては,衛星マイクロ波放射計などにより比較的多くの研究がなされているが,海氷融解に関しては,不均一に起こることもあり,その定量化はほとんど行われていなかった.
授賞者は,海氷融解によってできる海洋表層の低塩分層に着目し,その塩分欠損量から海氷融解量を推定する研究を行った.まず,1930年代から蓄積されてきた春季の海洋観測データに基づき,オホーツク海全域の海氷融解量の空間分布を初めて提示した.さらに,データが比較的ある南部オホーツク海(北緯48度以南)において,経年変動を推定し,過去30年間で融解量は約30%減少していることを示した.また,衛星データのない1930年から1970年代には,海氷融解量には有意なトレンドがないことも示唆した.さらに,融解量の減少トレンドにより,表層の成層が弱化していることも示し,海氷融解と成層の弱化が生物生産に影響を与える可能性も指摘している.
今回の研究は,今まで長期変動に関しては全くわかっていなかった海氷の厚さが減少していることも示唆している.これは,人工衛星からは得られなかった知見であり,オホーツク海の海氷量は今まで考えられた以上に減少していることを示唆している.この論文の結果は社会的にもインパクトが大きく,そのため北海道新聞の一面や朝日新聞全国版(夕刊)の一面にも取り上げられた.本論文は,日本海洋学会より,2025年度の奨励論文賞(毎年,若手研究者に物理・非物理各1名に授与)を授与されている.また,本研究の内容は日本地球惑星科学連合2023年大会にて発表され,エントリー者数の5~10%が選出される学生優秀発表賞(大気水圏科学セクション)を受賞している.
以上のことから,本論文は,松野環境科学賞を受けるにふさわしい論文であると判断された.