氷河・氷床の変動および熱動力学に関する研究

グレーベ ラルフ杉山 慎, 箕輪 昌紘

数10年を超える長い時間スケールにおいて、氷河と氷床は地球気候システムの変動に重要な役割を果たしています。地球に存在する淡水の90%以上が氷河・氷床に蓄積されており、もしそのすべてが融解して海洋に流れ込めば、約70m の海面上昇に加えて海洋や大気の循環に大きな影響が予想されます。温室効果ガスの排出によって温暖化する地球の将来を知るために、氷河・氷床の変動を理解することがきわめて重要だといえます。

私達のグループでは数値シミュレーションや野外観測によって、過去の氷河・氷床変動を再現し、その将来を予測することを目的に研究を進めています。氷床の熱動力学モデルを駆使した研究では、氷期- 間氷期サイクルにおける北半球の氷床変動、南極氷床の過去と現在の変動、温暖化によるグリーンランドと南極氷床の将来変動の予測などが主要な課題です。このような数値モデルは、南極やグリーンランド、高山域で掘削された氷コアの年代決定にも応用されています。

また、氷河・氷床の変動をコントロールする氷の流動、氷河水文、質量収支などを理解するため、アルプス、カムチャツカ、アラスカ、パタゴニアや南極において、野外観測を実施しています。得られた観測データは、数値計算や室内実験などを援用して解析をおこないます。さらに新しい研究領域として、火星の極氷冠や、氷で構成されていると予想される木星の衛星エウロパなど、地球外の氷体にも取り組んでいます。

グレーベ ラルフ

杉山 慎

箕輪 昌紘

氷河・氷床コアの物性・化学特性と古気候・古環境の復元研究

飯塚芳徳

氷床コアは数10万年に及ぶ地球の気候・環境変動史を記録しています。私達のグループではX線や可視光線の光散乱測定技術を駆使したミクロな視点から氷床コア解析を進めています。氷床コアに含まれる溶存性不純物が直径数μmの塩微粒子として存在していることを発見し、溶存性不純物を用いた独創的な古気候変動を提案しています。溶存性不純物は気候・環境変動史の有力な記録媒体であり、その存在形態が解明されたことは世界中の氷床コア研究社会に大きなインパクトを与えています。

飯塚芳徳