過去の低温研セミナー

第40回低温研セミナー 「植物におけるクロロフィルの分解機構」 伊藤 寿(生物適応分野)

日時 2018年 2月22日(木)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
植物はクロロフィルを光合成色素として使っています。秋の紅葉は、このクロロフィルが分解されることによって起こる現象です。クロロフィルは環状の分子で、中心にマグネシウムを持っています。クロロフィルの分解はこのマグネシウムが外れることにより始まります。最近我々はこの反応を行う遺伝子を同定しました。これによって、クロロフィルの分解反応やその制御機構を調べることができるようになりました。今回のセミナーでは、クロロフィルの分解機構を中心に、これまでの研究の流れや、光合成におけるクロロフィルの役割も含めて紹介いたします。

第39回低温研セミナー 「極域・外洋域の大気化学:ブラックカーボン起源などの未解明問題に迫る」
金谷 有剛(海洋研究開発機構 地球環境観測研究開発センター長代理)

日時 2018年 1月26日(金)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
大気微量成分の濃度変動は地球放射収支の変調を通じて気候変動を引き起こす。地球温暖化を促す物質としては、オゾンやブラックカーボン (BC) 粒子などの反応性・短寿命の大気汚染物質もCO2に加えて重要である。また、エアロゾル粒子は雲核となり気候へ影響する間接効果をもつが、氷晶核生成で果たす役割の不確実性は依然として大きい。JAMSTECでは、これらの物質の収支や役割について、とくにこれまで情報が限られてきた極域・外洋域での動態を明らかにするために、海洋地球研究船「みらい」などを用いた観測を進めている。本セミナーでは、北極域の温暖化との関係で注目が増しているBC粒子の収支等に関する新しい研究成果について詳述する。具体的には、長崎県・福江島での長期観測や「みらい」北極航海、シベリア・アラスカ北方森林火災の解析から見えてきた、アジアなどの発生源と北極域を結びつけてゆくために鍵となる知見を示す。また、生物起源バイオエアロゾルの氷晶核生成や、オゾン・窒素酸化物の収支を探る取組についても合わせて広く紹介する。

第38回低温研セミナー 「塩酸液滴として氷に取り込まれる塩化水素ガス」 長嶋 剣(相転移ダイナミクス分野)

日時 2017年12月 4日(月)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
「氷点下でも氷表面だけは濡れている(表面融解)」という考えをマイケル・ファラデーが提唱してから150年以上が経ちました。我々のグループでは結晶表面観察に特化した高分解能光学顕微鏡を用いて氷の表面を観察しており、氷の成長機構や表面融解現象の問題に取り組んできました。演者は雰囲気ガスが氷に与える影響について研究しており、中でも塩化水素ガスは氷表面での液滴の出現を促進し、液滴はHClガスが溶け込み塩酸液滴となることを見出しました。また、氷を成長させると塩酸液滴は氷内部に取り込まれ、不純物を取り込みにくい氷が多量のHClガスを含むことができることもわかってきました。講演では氷表面で何が起こっているのかを動画を交えながら紹介いたします。

第37回低温研セミナー 「Modeling Elementary Heterogeneous Atmospheric and Interstellar (Photo)chemical Processes on Ice and their Dynamics using Amorphous Solid Water」 Prof. Patrick AYOTTE (Département de Chimie, Université de Sherbrooke, CANADA)

日時 2017年 2月21日(火)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
A thermodynamically reversible path was suggested to exist linking the low density forms of amorphous ice (LDA) and deeply supercooled liquid water (LDL), through the so-called no man's land and finally onto normal liquid water. Furthermore, at temperatures below its calorimetric glass transition temperature (Tg ∼ 136K), transport kinetics are exceedingly slow in amorphous solid water (ASW). Therefore, it might provide a convenient model system to study elementary heterogeneous atmospheric and interstellar chemistry processes that occur on the quasi-liquid layer (QLL) that forms at the air-ice interface in the atmosphere at T>180K. We will discuss how studying interfacial dynamics at cryogenic temperatures enables the decoupling of processes occurring onto the surface of ASW from those that take place within the bulk by strongly inhibiting the diffusive uptake kinetics. Using this strategy, we will show that ionic dissociation of simple acids (i.e., HF, HCl, HNO3) remain facile down to temperatures as low as 20K at the surface of ASW. We will also demonstrate that heterogeneous nitrates photolysis can be enhanced up to 3-fold at the ASW surface hinting at a significant contribution from heterogeneous (photo)chemistry to the photochemical NOx fluxes that emanate from the sunlit snowpack to polar boundary layer.

第36回低温研セミナー 「太陽プロトン現象に誘起される地球中層大気の微量成分濃度変化 - ボックスモデルシミュレーションによるイオン化学反応の影響の研究」 中井 陽一(理化学研究所・仁科加速器研究センター/低温科学研究所客員教授)

日時 2017年 1月19日(木)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
太陽表面での爆発現象である太陽フレアでは陽子(プロトン)などの荷電粒子が放出される。特に巨大な太陽フレアでは、10メガ電子ボルト(MeV)程度から500MeVを超える大きな運動エネルギーを持つ多くの陽子が放出され、地球大気に侵入する。この現象を太陽プロトン現象と呼ぶ。この高エネルギー陽子は、高度が20kmから70km程度の中層大気まで侵入することができ、大気中の原子や分子を電離や励起する。電離や励起された原子や分子から生成されたイオンやラジカルは化学反応を引き起こし、大気中の化学組成(微量成分濃度)が変化する。また、高エネルギー陽子の多くは地球磁場の磁力線に捕捉されて侵入してくるため、極域の大気にその影響が出やすい。すでに、大気力学と大気化学を結合させた1次元(高度方向)から3次元(緯度、経度、高度方向)シミュレーション計算による研究が進められているが、数多くのイオン化学反応をあらわに取り扱った計算は極めて少なく、我々は簡便な均一な静止大気のモデル(ボックスモデル)によって、太陽プロトン現象中でのイオン化学反応の影響を調べている。講演では、2003年10月末に起きた太陽プロトン現象を例とした計算から、イオン化学反応の影響を議論したいと考えている。

第35回低温研セミナー 「水素酸化還元酵素ヒドロゲナーゼの反応機構」 緒方 英明(マックスプランク化学エネルギー変換研究所)

日時 2016年11月 4日(金)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
金属酵素「ヒドロゲナーゼ」は、主に微生物がもつタンパク質で、水素分子をヒドリド(H-)とプロトン(H+)に分解し、最終的には、ヒドリドをプロトンと2個の電子に分解する酵素である。活性部位に金属をもち、その金属原子の構成により、[NiFe]型,[FeFe]型,[Fe]型ヒドロゲナーゼとよばれる。ヒドロゲナーゼの触媒能力は、高価なプラチナ等の化学触媒と同等の効率である。これらの酵素を模範にした安価な人工触媒や燃料電池の開発への応用も含めて基礎研究が進められてきている。本セミナーでは、[NiFe]型ヒドロゲナーゼの立体構造および反応メカニズムについて紹介する。

第34回低温研セミナー 「大循環スケールと乱流スケールをつなぐ海洋モデリング」 松村 義正(海洋・海氷動態分野)

日時 2016年 1月22日(金)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
シミュレーションにより海洋の循環を再現する数値海洋モデルは計算機の発達とともに発展し、今では海洋物理のみならず気候変動予測や生物・地球化学研究においても主要な役割を担っている。従来の海洋大循環モデルは静水圧近似に基づくため、鉛直対流や乱流混合等を表現できず、経験的なパラメタ化によってこれらの効果を取り入れてきた。近年の著しい計算機の進展によって、従来はそもそも解像できなかった微小スケールの現象を直接表現できるようになりつつあり、静水圧近似を廃した新たな数値海洋モデルを構築することが求められている。セミナーでは発表者が開発している非静力学海洋モデルについて、特に最近取り組んでいる粒子追跡によるモデルの高度化とその応用例を紹介する。

第33回低温研セミナー 「Survival strategies of unicellular phototrophs: using microalgae to study photosynthesis, energy storage and stress adaptation」 寺島 美亜(微生物生態学分野)

日時 2015年11月 6日(金)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
Microalgae are found in diverse environments from soil, marine waters, to alpine snowfields. Ecologically, they are an important group of organisms as they are one of the main primary producers in aquatic environments and are responsible for a vast amount of oxygen produced on this planet. Being unicellular, microalgae are constantly exposed to changing environments and must rapidly adjust its cell physiology accordingly and establish long-term survival strategies when conditions become suboptimal. Photosynthesis is the main metabolic driving force in these phototrophs and must constantly be monitored and adjusted. In order to survive stressful conditions (such as low nutrients), microalgae can photosynthetically assimilate carbon in the form of oil (mostly triacylglycerols) as intracellular high-energy reserves. Regulatory mechanisms for photosynthesis and oil accumulation are not yet fully understood. Increasing our understanding of these cellular processes would be valuable for understanding the effects of environmental changes in microalgal metabolism, but also for biotechnological applications, as algae are used for industrial oil production. Chlamydomonas reinhardtii is a unicellular freshwater green alga that has been used to study many basic components of photosynthesis. C. reinhardtii is a good model system to study these bioenergy-relevant mechanisms because there are many molecular tools already established.
In this talk, I will first present work on understanding the regulation of photosynthesis under anaerobic stress conditions, where we found new components of photosynthetic complexes. Secondly, I will present a high-throughput screen method that we have developed for isolating mutants with increased oil accumulation in C. reinhardtii. Finally, I will discuss plans for future research where I will investigate the survival mechanisms of snow microalgae found in Antarctica and alpine snowfields and its interaction with this unique psychrophilic microbial community.

第32回低温研セミナー 「大気から落ちるエアロゾルとその後の役割」 安成 哲平(北大工学研究院 環境創生工学部門 助教)

日時 2015年10月 2日(金)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
大気中に浮いている微粒子はエアロゾルと呼ばれる。近年日本でもエアロゾルのうち特に微小サイズであるPM2.5の世間での認知が広まっている。エアロゾルが大気から落ちることを「沈着」と言うが、この沈着でエアロゾルが大気から落ちた後はいったい何か意味を持っているのだろうか?これまでの研究では、太陽光の吸収能力があるエアロゾル(Light-absorbing aerosol: LAA)である砂漠の砂(ダスト)や、森林火災や人為的な活動で不完全燃焼起源によって発生した煤(ブラックカーボン)といったエアロゾルなどに主に注目し、その沈着や積雪域に落ちたあとの影響についての研究を観測データや数値モデルを用いて行ってきた。LAAのこれまでの研究を中心に、沈着研究や大気からエアロゾルが沈着した後の話について紹介する。

第31回低温研セミナー 「ナノ粒子の生成過程と溶解過程」 木村 勇気(宇宙雪氷学分野)

日時 2015年 6月25日(木)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
原子や分子は、どのように集まって固体粒子へと成長し、固体粒子はどのように分解し、溶けていくのか。この一見単純な現象に対する素朴な疑問に答えるのは、実は簡単ではない。ナノ領域であるが故に、我々が考えもしなかったプロセスが潜んでいることが分かってきた。本セミナーでは、これまでの実験から分かってきた知見について紹介する。

第30回低温研セミナー 「物質循環の鍵を握る未培養バクテリアの生態」 小島 久弥(微生物生態学分野)

日時 2015年 1月15日(木)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
多様なバクテリアが持つ種々の機能のなかには、各種元素循環の駆動力として重要なものが含まれる。環境中の物質循環とエネルギーの流れに大きな影響を及ぼす微生物のうち、純粋培養によってその性質を詳細に調べることができる状態にあるのは、例外的な一部のものに過ぎない。生態系内における各種元素の動態に関する現状を把握し、その環境変化への応答を予測するためには、環境中の未培養バクテリアに関する理解を深めることが重要である。本セミナーでは、水界における窒素循環に重大な影響を及ぼしていると考えられている生物群を例に、未培養バクテリアの性質を探る試みについて紹介する予定である。

第29回低温研セミナー 「生物に学び結晶成長を操る-ねじる・並べる・折り曲げる」 今井 宏明(慶應義塾大学応用化学科教授/低温研客員教授)

日時 2014年11月27日(木)16:00-
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
生物は、有機分子によって結晶成長をコントロールし、多様な構造をもつバイオミネラルを作り出している。本セミナーでは、バイオミネラルに見られるナノ~マクロスケールの階層構造を示すとともに、生体内のシステムをヒントに、有機分子や高分子などを利用して結晶成長を制御し、結晶の集積体やねじれ・曲がりなどのユニークな構造体を形成する方法やそのメカニズムを紹介する。

第28回低温研セミナー 「凍った南極を融かすものは?」 青木 茂(大気海洋相互作用分野)
“What melts "Frozen" Antarctica?” Shigeru Aoki (Atmosphere-Ocean Interaction Group of ILTS)

日時 2014年10月31日(金)16:00-
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
海洋の深層大循環は地球規模で“熱”や物質を運んでいる。南極大陸周辺の海は深層大循環の起点の一つである。南極の沿岸における水と氷のせめぎあいが、この循環をコントロールしている。海水が効率よく凍って海氷ができることで残された海水が重くなり、その水が沈みこんでできた南極底層水が全世界の海洋底に拡がっていく。一方で、海水が陸氷を融かすことで淡水分が供給され、海水が軽くなる場所もある。一口に南極沿岸とはいっても、“西”と“東”では海洋構造が違い、この海氷と陸氷のバランスが異なる。西南極では陸氷の融解量が多いことは知られていた。最近の我々の酸素同位体比を使った研究により、東南極にも、海氷の生産量も多く陸氷融解量も多い海域があることが明らかになった。近年、南極底層水が暖水化、淡水化しつつあることが分かってきたが、その原因の一つは陸氷の融解が加速しつつあることだと言われている。新たな観測手法と数値モデルを使って、南極海における水と氷のせめぎあいの実態に迫っていきたい。

第27回低温研セミナー 「遺伝子発現調節の変化による環境適応形質の進化」 田村 浩一郎(首都大学東京)

日時 2014年 9月26日(金)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
遺伝子発現調節の変化が生物進化の要因として重要であることは、古くは“Gene regulation hypothesis”としてOhno (1972) によって提唱されたが、近年、外部形態の進化に関する研究によって脚光を浴びている(Carroll 2005, 2008)。近年、我々はショウジョウバエの環境適応に関連する生理学的形質の進化においても、遺伝子発現調節の変化が大きな要因となっていることを発見した。本セミナーでは、クロショウジョウバエの抗カビ耐性、アカショウジョウバエの低温耐性の進化に関する我々の研究成果について紹介し、遺伝子発現調節の変化が形質進化に及ぼす影響について議論したい。

第26回低温研セミナー 「大気中の有機エアロゾル:発生源、分子組成およびエイジングプロセス」 フ・ピンチン(低温研特任教授)
“Organic aerosols in the atmosphere: sources, molecular compositions, and aging processes” Pingqing FU (Visiting Professor)

日時 2014年 9月10日(水)16:00-
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
Organic aerosols are ubiquitous in the earth’s atmosphere. They can be briefly divided into primary organic aerosols (POA, particle mass directly emitted from sources such as plant material, soil dust, biomass and fossil fuel burning) and secondary organic aerosols (SOA, particle mass formed by the oxidation of gas-phase precursors in the atmosphere). Organic aerosols can account for up to 50-80% of the fine aerosol mass, and potentially control the physicochemical properties of atmospheric particles. During the past decade, organic aerosols are highlighted because they are important environmental issues related to global and regional climate, chemistry of the atmosphere, global biogeochemical cycling, and human health.
Our research interests include the study of the sources, formation processes and long-range transport of organic aerosols in the urban, rural, remote marine and polar regions. We mainly focus on secondary organic aerosols (SOA) from the photooxidation of biogenic volatile organic compounds (BVOCs), which are emitted from terrestrial vegetation and marine biological activities. Specially, I would like to present our measurements on the organic molecular composition and stable C isotope ratios of atmospheric aerosols from urban and rural regions, and marine organic aerosols that are influenced by a combination of long-range transported continental aerosols and by the sea-to-air emission of marine organics.

第25回低温研セミナー 「Microclimate: why and how to measure it?」 Dr. Jan Wild (GIS and Remote Sensing laboratory, Institute of Botany, Academy of Sciences of the Czech Republic)

日時 2014年 7月30日(水)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
The specificity of microclimate defined as a near ground climate at a very local scale (tens of meters or even less) is well known to every field biologist, but also farmer or even hobby gardener. Its relevance for all biotic and physic processes was well recognized by climatologist long-term ago, but less reflected in last decades of intensive research on species-climate relationship done mainly by ecologists. The reason can be that only standardized climatic data from meteorological stations were long-term only available and therefore used by ecologist as correlates for species distribution. However recently developed topoclimatic maps remembered the local climatic variability and its importance especially for species distribution.
Different kind of affordable tools, often not originally developed for measurement of microclimate, are used to build topoclimatic maps. But most of them suffer from non-standardized installation or shielding, low memory and/or battery life or wire connected constructions increasing probability of damages in a field. All these factors decrease the quality and comparability of gained microclimatic data.
Keeping in mind all these drawbacks we developed and thoroughly tested a new tool resembling small plant. I would like to present its basic technical concept comparative measurements with standard meteorological station and examples of its application ranging from long-term microclimatic monitoring in topographically complex area to microclimatic measurements in extreme conditions of alpine desert in Himalaya.

第24回低温研セミナー 「水溶液系における液体・液体転移の普遍的性質」 村田 憲一郎(相転移ダイナミクス)

日時 2014年 6月19日(木)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
液体・液体転移とは、単一成分液体が複数の液体相を有し、その液体相間を1次転移する現象である。一見乱雑な液体相が複数の相を有するという事実は、液体の本質に関わる重要な現象であり、これまでの液体の概念に対する新機軸として注目されている。特に、水の液体・液体転移の可能性については、それ自体の興味もさることながら、この転移の臨界現象と水の熱力学的異常(4℃での密度の極大など)との関連から、今なお活発な議論がされている。しかし、予想される転移点は結晶化に対する絶対不安定領域(通称:no man’s land)に存在し、この領域内で水の実験を行うことは極めて難しい。我々は、水に結晶化に対するフラストレーションとしてグリセロールを含む糖アルコール、多糖類を混入することで結晶化を阻害し、水に起因する液体・液体転移の直接観察を試みた。セミナーでは、液体・液体転移を含む低温での水溶液の相挙動とその普遍的性質に着目し、純水における液体・液体転移の存在の可能性について議論する予定である。

第23回低温研セミナー 「地球環境と生物多様性」 原 登志彦(寒冷域植物生理生態)

日時 2014年 2月24日(月)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
生物多様性とは、同一種の生物集団内における遺伝的多様性、生物種の多様性(種多様性)、そして生態系における生物の機能や相互作用の多様性(生態系多様性)を含む概念である。これら3つのレベルにおける生物多様性について、地球環境の観点から我々の研究成果を中心に紹介する。まず、ヨーロッパ山地草原における遺伝的多様性と植物集団が存続するメカニズムに関する研究を紹介する。草原の主要な植物は主にクローンにより無性的に繁殖するが、意外にもその遺伝的多様性は高いことを示す。次に、同一種内の遺伝的多様性は、複数の生物種が共存する種多様性にとっても重要であることを示す理論的研究を紹介する。最後に、カムチャツカ北方林における寒冷圏環境と種多様性および生態系多様性の関係について紹介する。北方林では、種多様性は低いが生態系多様性は高いことを示す。そして、今後の地球環境変動と生物多様性の未来について議論したい。

第22回低温研セミナー 「放射線による水の微粒子生成」 中井 陽一(理化学研究所 仁科加速器研究センター 櫻井RI物理研究室(兼)望月雪氷宇宙科学研究ユニット)

日時 2014年 2月13日(木)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
放射線による水微粒子生成に関して、古くから「ウィルソンの霧箱」による放射線の飛跡の観測がよく知られている。これは過飽和の水蒸気を含む清浄な空気中で放射線の飛跡に沿って生成されたイオンのまわりに水分子が凝結し光を散乱する粒子まで成長して飛跡が観測されるのである。また近年では、雲粒子の凝結核生成が(高エネルギーの放射線である)宇宙線による大気中でのイオン生成と関係があるという仮説に対し、放射線による微粒子の凝結核生成の実験が行われている。
本セミナーでは、放射線が気体中の原子分子に引き起こす物理化学過程とそれらの過程の一部であるイオンによる微粒子核生成について簡単に説明し、「ウィルソンの霧箱実験」と実際の地球環境との関連性をもつ雲粒子核生成の宇宙線仮説の検証実験の例について触れたあと、放射線による水微粒子生成に関連して講演者が共同研究を行なっている二つの実験―1)陽子線による液滴生成、2)水蒸気を含んだ気体中での水和クラスターイオンの平衡質量分布測定―について説明をする予定である。

第21回低温研セミナー 「Presentation of the Mediterranean Institute of Oceanography (MIO), Aix Marseille University France; information about the MERMEX/MISTRALS Research program.」 Richard Sempere(CNRS, Director of MIO/低温研客員教授)

日時 2014年 1月22日(水)16:30-17:30
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
The MIO is a French Oceanography research laboratory and forms part of the OSU-Pytheas Institute and is under the joint direction of Aix- Marseille University, Toulon University, the CNRS and the IRD. MIO goal is to better understand the oceanic system and its evolution in response to global changes. MIO constitutes a center of expertise in marine biology, ecology, biodiversity, microbiology, physics, chemistry, biogeochemistry and sedimentology. Although MIO working environment is the world ocean, one objective is to better understand the Mediterranean marine ecosystems response to changes in physical, chemical and socio-economical forcing induced by climate change and by growing anthropogenic pressures. Such research is undertaken in the framework of the MERMEX/MISTRALS program. MERMEX(1) Research objectives is deduced from the MERMEX group article (Progress in Oceanography, 2011) in which ~100 co-authors presented current knowledge on biogeochemistry in the Mediterranean Sea and highlighted the uncertainty on the responses to global change in the 21th Century. MERMEX is endorsed by the IGBP programs including SOLAS , IMBER and LOICZ.
(1) The MERMEX group, (2011) Marine ecosystems' responses to climatic and anthropogenic forcings in the Mediterranean, Progress In Oceanography, 91 : 593-594.

第20回低温研セミナー 「Modeling the past and future of glaciers and ice sheets」 Prof. em. Dr. Heinz Blatter(低温研客員教授)

日時 2013年12月19日(木)16:30-17:30
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
Mathematical models and numerical simulations for glacier and ice sheets have become reliable tools for the study of the evolution of the ice masses, both for the past for testing models and for predictions of the future of mountain glaciers and the big ice sheets.
Two topics are presented. The first is a cooperative study with the University of Tokyo and JAMSTEC for understanding the glacial cycles, by using an ice sheet model indirectly coupled to a climate model. We show that the different climatic conditions of the Eurasian and North American continents, given by their geographical settings and feedbacks in the atmospheric circulation, and between the atmosphere/ocean system on one side and the ice sheets on the other side, together with the astronomical forcing of solar radiation, can explain the periodicities and amplitudes of the glacial cycles, in particular the 100’000-year cycles.
The second topic is a cooperative study with the mathematics department of the ETH (Swiss Federal Institute of Technology) Lausanne on the development and application of a so called full Stokes ice dynamics model, which is feasible for simulating small Alpine glaciers with large aspect (Thickness to horizontal extent) ratios. The model is tested with recorded changes of Alpine glacier geometries during the last 150 years. The projected evolution of the ice geometry and mass in Swiss glaciers strongly depends on the imposed climate scenarios. Even if the climate would remain as during the past 10 years, all of the Swiss glaciers would shrink to about half their present mass, and many small glaciers in lower elevations would disappear completely.

第19回低温研セミナー 「コンピューターで探る分子の動き:氷の構造はどのようにしてできていくのか」 灘 浩樹(産業技術総合研究所環境管理技術研究部門主任研究員/低温研客員教授)

日時 2013年11月18日(月)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
コンピューターシミュレーションは、理論、実験に次ぐ第三の研究手法として広く科学技術の世界に浸透しつつある。本講演では、分子動力学法と 呼ばれるシミュレーション法による氷や関連結晶の成長メカニズムに関する研究についてお話しする。分子一つ一つの運動から結晶の構造がどのよ うにしてできていくのか、アニメーションを交えてお話しする。

第18回低温研セミナー 「氷期-間氷期の気温変動に硫酸塩エアロゾルが寄与していたことを解明」 飯塚 芳徳 (氷河氷床)

日時 2013年10月 1日(火)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
アイスコアに保存されている水溶性エアロゾル(大気中に浮遊する微粒子)を微粒子1粒ごとに観察する手法を世界に先駆けて開発しました。この 手法を用いて,南極で採取されたドームふじアイスコアに含まれる硫酸塩エアロゾルを測定しました。その結果,過去30万年間の氷期-間氷期サ イクルにおいて,硫酸塩フラックスと気温の指標(酸素同位体比)の間に逆相関(気温が低い氷期に硫酸塩フラックスが大きい)がみられました。 この事実は,硫酸塩フラックスが大きい時代は,エアロゾルの間接効果が気温低下をもたらしていることを示唆します。南極で約8℃の変化と考え られている最終氷期最盛期(約2万年前)から現在の間氷期(現在~約1万年前の温暖期)への気温変動のうち,硫酸塩エアロゾルの間接効果によ る寄与は最大で5℃と見積られ,硫酸塩エアロゾルが氷期-間氷期の気温変動に寄与したことを明らかにしました。

第17回低温研セミナー 「非静力学大気モデルを用いた雲・降水システムの研究」 川島 正行 (雲科学)

日時 2013年 7月11日(木)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
近年、気象学分野では高解像度の数値大気モデル(非静力学大気モデル)が精力的に開発され、天気の数値予報のほか、積乱雲や竜巻などの小規模現象から、台風や熱帯の積乱雲群など比較的大規模な現象の研究に盛んに用いられるようになっている。本セミナーでは温帯低気圧に伴う降雨帯の研究を中心に、講演者が行っている非静力学大気モデルを用いた雲・降水システムの研究について紹介する。

第16回低温研セミナー 「Effect of melting sea ice on microbial communities in the Southern Ocean」 Delphine Lannuzel
「Quantification of the east Antarctic fastice iron pool and its potential to control coastal biogeochemistry during the spring melt」 Pier Van Der Merwe

日時 2013年 1月22日(火)15:00-16:30 (40分講演2つ)
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
所内担当者 西岡 純

第15回低温研セミナー 「Deciphering the morphology of ice films on metal surfaces (金属表面で成長した氷薄膜のモルフォロジー(形)を読み解く)」 Konrad Thürmer(サンディア米国国立研究所)

日時 2012年11月26日(月)13:00-14:00
場所 低温科学研究所 新棟3階 講堂
様々な固体表面上で氷の薄膜が形成される様子についてはこれまでに多くの研究がなされて来ましたが,最近,30分子層程度までの厚さであれば,金属表面上で氷が成長する様子を「走査型トンネル顕微鏡(STM)」で直接観察できることがわかりました.そしてSTM観察の結果,固体と水との相互作用が様々な興味深い現象を引き起こすことを見出しました.例えば,Pt(111)表面上で氷を成長させると,まずはじめに通常の6角形の氷以外に,5角形や7角形の氷が現れます.これらの氷中では金属表面からの相互作用により,水はプロトンが秩序化された偏極した状態をとります.やがて氷の厚みが増すにつれ,立方晶の氷が現れ,そして最後になじみのある六方晶の氷が現れます.これらの様子を様々なSTM画像を用いて紹介したいと思います. (もう少し長い要旨 pdf)

第14回低温研セミナー「Life Strategies and Lipid Diversity of Polar Zooplankton」 Wilhelm Hagen(ブレーメン大学教授)

日時 2012年10月17日(水)13:30-14:30
場所 低温科学研究所 2F 講義室
The talk is about how especially herbivorous (phytoplankton-feeding) copepods and krill cope with the pronounced seasonality of primary production in polar oceans and what energetic and biochemical adaptations they have developed to survive the long polar winter without phytoplankton.

第13回低温研セミナー「メタン醗酵と嫌気メタン酸化のエネルギー代謝」 嶋 盛吾(マックスプランク陸生微生物学研究所グループリーダー/低温科学研究所客員教授)

日時 2012年 5月17日(木)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
メタンは温室効果ガスの一つであるが、微生物によって生成される一方で消費もされる。メタンの消費に関与する微生物はメタン酸化細菌と呼ばれ、好気的に行われることが従来知られて来た。しかし、近年、嫌気的条件下でメタンを酸化するプロセスが発見され、地球の炭素循環を再考する必要に迫られている。本セミナーでは、微生物による嫌気的メタンの酸化および生成について、最新の知見(Shima et al., Nature 481:98-101,2012)を交えて紹介する。

第12回低温研セミナー「光合成のダイナミズム」 皆川 純 (生物適応)

日時 2010年 9月27日(月)15:00-16:00
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂

第11回低温研セミナー「系外惑星科学の展開」 山本 哲生 (理論惑星科学)

日時 2010年 8月30日(月)14:30-15:30 (いつもと時間が違いますので注意してください)
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
これまで400を超える系外惑星系--太陽系以外の惑星系--が発見され,系外惑星科学は新たな展開段階に入った.観測的には,地球とよく似た系外惑星の検出,そこに生命の兆候を見出す努力が行われている.一方,理論的には,太陽系形成の標準モデル(京都モデル)の一般化や観測とのリンクが精力的に行われてきたが,惑星系形成における基礎的過程においていくつかの困難にも直面している.系外惑星大気や生命科学ともリンクする研究も行われつつある.
わが国においては,科研費特定領域研究において系外惑星研究ネットワークが構築され,連携研究を通して広範な研究が展開されてきた.当研究グループは,惑星形成の現場であるである原始惑星系円盤におけるダスト研究においてノードの役割を果たしてきた.セミナーでは,系外惑星研究の現状の紹介とともに,原始惑星系円盤におけるダストが関与する物理過程や惑星形成に関するわれわれの研究の例を紹介する.

第10回低温研セミナー「有機エアロゾルと大気環境」 河村 公隆 (大気環境)

日時 2010年 6月28日(月)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
エアロゾルは、大気中に浮遊する微粒子を意味しますが、有機物の占める割合はしばしば50%を超えます。エアロゾルは太陽光を反射・吸収するとともに、凝結核として雲の形成に関与することにより地球放射への間接効果を持ちます。更に、雨や降雪の過程に関わり、地球上の水循環にも重要な役割を果たします。エアロゾルを構成する有機物のおよそ半分は水に溶ける成分からなっており、カルボン酸など極性の有機成分は水蒸気を凝結する特性を持ちます。このように有機エアロゾルは気象や気候変化にとって重要な役割を果たしていると考えられておりますが、その組成・起源についてはよくわかっていない部分が多くあり、大気科学における大きなブラックボックスとして重要です。セミナーでは、有機エアロゾルの分子組成の特徴から、その起源・変質過程について現状の理解をお話します。特に、イソプレンなど植物から放出される揮発性有機物(VOC)は、これまでエアロゾルの生成に大きな寄与をしていないと考えられていたのですが、最新の研究からイソプレンの酸化生成物などがエアロゾル中に数多く見つかっております。発表では生物起源VOCが有機エアロゾルの生成にどう寄与しているのかを紹介するとともに、有機エアロゾルが関わる生物圏と大気圏の相互作用や大気環境へのインパクトについても考えてみたいと思います。

第9回低温研セミナー「氷河の流れとその短期変動 −世界で最も気の短かい氷河研究−」 杉山 慎 (氷河・氷床)

日時 2010年 4月26日(月)17:00-18:00
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
氷河の研究といったら何を想像されますか?低温研のみなさんは、氷コア解析による古環境復元を思い浮かべるかもしれません。数10万年という悠久の時間を相手にする氷コア研究とは対照的に、数日、数時間というスケールで氷河のふるまいを理解することも重要です。たとえば氷河が流れる速さは、氷を支える力のつりあい、例えば氷河底面の状態に応じて刻々と変化します。GPSや人工衛星を用いた近年の測定技術は、氷河の流動とその短期的な変動に新しい知見をもたらしてきました。そしてそのような流動変化が今、南極やグリーンランド氷床に大きな変動をもたらしています。このセミナーでは、GPSや氷河底面での観測を用いた、世界で最も時間スケールの短かい氷河研究についてお話しします。また最新の成果として、今年2月から3月にかけてパタゴニアで実施した熱水掘削と観測の結果を報告し、その意義と今後の展望について紹介します。氷河の底で撮影した映像など、野外観測の写真や映像も準備します。学生のみなさんをはじめ、ぜひさまざまな方に聴いて頂けたら幸いです。

第8回低温研セミナー「昆虫の自然免疫 - 昆虫 vs 微生物」 落合 正則 (生物分子機構)

日時 2009年 9月28日(月)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
すべての生物は秩序をもって、外界から侵入してくる異物から己を守っている。この自己を守るシステムを生体防御系という。昆虫は地球上で海洋を除くほとんどの陸地に生息しており、多様な生活環境に適応している。昆虫が地球上でもっとも繁栄している動物群に成りえた理由のひとつとして、様々な環境に存在する病原体に対抗できる強力な生体防御系をもっていたためと考えられている。高等脊椎動物にみられる抗体多様性を利用した獲得免疫(後天性免疫)をもたないにもかかわらず、無脊椎動物である昆虫の生体防御系が強力なのは自然免疫(先天性免疫)が機能的に発達しているためである。
本セミナーでは微生物感染に対して昆虫が備えている自然免疫の分子機構を概説し、最近の我々の研究の成果を紹介する。

第7回低温研セミナー「オホーツク海・北西太平洋の熱塩循環と物質輸送」 三寺 史夫 (環オホーツク観測研究センター)

日時 2009年 7月28日(火)16:00-17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
海氷が生成される際にはブラインと呼ばれる低温・高塩分(高密度)水が海氷 から排出され、海洋における中層・深層循環の主な要因となっている。オホーツク海では北西陸棚域で海氷が大量に生成されて高密度水ができており、オホーツク海から北太平洋にかけての中層循環を駆動している。この高密度水および中層水には酸素や二酸化炭素などが溶存するとともに、大陸棚上に沈積している物質を大量に含んでおり、太平洋の生物地球化学過程においても重要な役割を果たしている。
本セミナーでは、環オホーツク観測研究センターが取り組んできた中層循環や物質輸送に関する観測および数値モデルの研究を紹介する。中でも、植物プランクトンの光合成にとって必須の微量栄養物質である鉄に注目してきた。アムールオホーツクプロジェクトや道東沖の定線(北海道区水産研究所)などの観測から、オホーツク海北西陸棚から親潮域にかけて中層(約300m深)に高濃度の鉄が存在することが見出され、それが北西太平洋の生物生産に重要であることが明らかとなりつつある。そのような中層循環は、塩分を介して表層の風成循環や海氷形成、千島列島沿いの潮汐混合、北太平洋亜寒帯循環と密接に結びついた 3次元的な循環を形成している。このため気候変動に敏感であり、温暖化による物質輸送の弱まりが懸念されている。一方、釧路、問寒別、カムチャツカで実施したエアロゾル観測とアラスカとカムチャツカで採取されたアイスコアの解析から、大気由来の鉄の海洋表面への沈着量の定量的な評価も行っており、生物生産へのインパクトを評価している。さらに、海氷生成時の大気起源物質の輸送や、海氷と海氷下海洋とでブラインを通しての物質輸送・交換に関しても研究を進めている。

第6回低温研セミナー「光合成研究にどのように取り組むか」 田中 歩 (生物環境部門・生物適応)

日時 2009年 5月26日(火)16:00-17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
光合成は地球上の生命活動を支え、地球環境の形成に大きな役割を果たしてきた。このような光合成の研究は、他の生命科学の分野とは少し異なった様式で発展してきた。多くの分野では、新しい概念が研究の発展とともに次々と提案されてきた。しかし、光合成の分野では、主要な概念は20世紀の中ごろまでに確立し、その後の研究は、この概念を分子の言葉(分子機構)で解明することに向けられた。このため、過去3度にわたり、光合成研究は終わったと指摘された。光合成研究のもうひとつの特徴は、他の分野との交流が希薄であったことが挙げられる。例外的に、物理化学の分野から大きな影響を受けたが、生命科学の中にあっては、比較的独立して発展してきた。しかし、現在、このような状況に変化が起こっている。光合成の新しい役割が提案され、また多くの分野との密接な関係が生まれてきた。今回のセミナーでは、先ず、このような光合成研究の特徴を紹介する。できれば、低温研の他の分野との違いも議論したい。次に、このような研究状況を背景に、我々が取り組んでいる研究を紹介したい。特に今回は光合成の進化に焦点をあてる。光合成による酸素発生は、生物のみならず地球環境にとっても大きなインパクトを与えた。しかし、どの様にして酸素を発生する光合成が誕生したかは、殆ど理解されていない。勿論、これは困難な課題であり、現在のところ大きな進展は期待されない。その中で、この理解に向けた我々の些細な試みを紹介する。

第5回低温研セミナー「海氷生成と海洋中深層(熱塩)循環、温暖化で循環は弱まる?」 大島 慶一郎 (共同研究推進部、環オホーツク圏;物質循環部門、海洋・海氷動態)

日時 2008年11月27日(木)16:00-17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
海洋の中深層まで及ぶ地球規模の循環(中深層循環)は、重い水が沈み込みそれが徐々に湧き上がってくるという密度(熱塩)循環である。重い水は、海氷生成の際にはき出される高塩分水が重要な生成源になっている。南極海の沿岸近くでは大量の海氷が生産されるために、この時に作られる重い水は海底に沈みこみ、世界で一番重い海水である南極底層水として世界中の底層に拡がっていく。海氷生産量は中深層循環とその変動を決める最重要な因子にも拘わらず、それを捉える現場観測が極めて困難であることから、変動はもとよりその平均的な量・分布さえも今までよくわかっていなかった。我々研究グループは、人工衛星データに現場観測・気象データも組み合わせて、海氷生産量のグローバルマッピングを行ないつつある。南極海での海氷生産量マッピングからは、ロス海に次ぐ高い海氷生産領域が日本の南極昭和基地東方約1200kmにあることもわかった。ここが未知の南極底層水生成域である可能性が示され、それを確かめるべくここでの集中観測を現在実施中である。オホーツク海北西部は北半球で最も海氷生産が高い海域の一つであり、北太平洋で一番重い水が作られる。この水は南極起源のもの程重くはなれないが、北太平洋の中層まで及ぶ循環を作っている。我々の研究から、近年の温暖化でオホーツク海の海氷生産が弱まり重い水の生成も減少し、北太平洋まで及ぶ沈み込み(中層循環)も弱まっていることが示唆された。これによって、物質(例えば生物生産に不可欠な鉄分)の循環が弱まると、生態系にまで大きな影響をもたらす可能性がある。

第4回低温研セミナー「低温氷表面反応:宇宙における分子進化の鍵」 渡部 直樹 (雪氷物性/惑星科学)

日時 2008年9月16日(火)16:00‐17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
恒星や惑星は宇宙の分子雲と呼ばれる非常に冷たい(-263℃程度)領域で誕生します.分子雲は目で見ると真っ暗で何も無いように見えますが,実は,そこには多種多様な分子とタバコの煙ほどの小さな氷微粒子が存在しています.これまでの天文観測で,分子雲には複雑な有機分子を含め,140種類以上の分子の存在が確認されています.これらの分子は,極低温の分子雲内部で簡単な原子・分子から徐々に複雑化(進化)してきたと考えられています.それでは,星も存在しないような極低温の環境で分子はどのように進化したのでしょうか?最近の私たちの取り組みから,極低温下での分子進化に氷微粒子が大きな役割を果たしていることが分かってきました.講演では宇宙における分子進化の基礎知識と,最近の私たちの成果,今後の研究の方向性についてお話しする予定です.

第3回低温研セミナー「メタオミクスから探る環境の微生物コミュニティー」 笠原 康裕 (微生物生態学)

日時 2008年7月29日(火)16:00-17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
地球上の物質循環は生態系の重要な機能の一つです。その生物地球化学的プロセスは、動植物と相互作用しながら主に微生物がネットワーク的に担っています。このプロセスに関連する微生物やコミュニティー、ネットワークを明らかにするために、細胞レベル・分子レベルでの解析を行っています。近年、環境中のDNAを網羅的に解析する「メタゲノム」研究から微生物や遺伝子の新規存在・多様性、環境因子と関連付けて微生物コミュニティーの理解が進められています。さらに、環境中のRNA、タンパク質、代謝産物など網羅的に解析する「メタオミクス」研究が行われつつあります。本セミナーでは、微生物生態学とは?メタオミクスとは?合わせると何がわかるのか?話したいと思います。

第2回低温研セミナー「光を使って結晶が成長するメカニズムを理解する」 佐崎 元 (雪氷相転移ダイナミクス)

日時 2008年7月1日(火)16:00-17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
水は地球上に最も多量に存在する物質の一つであり,地球環境科学,地球・惑星科学における様々な自然現象は水の「相転移」現象としておこります.そのため,水が気相や液相から固相(雪および氷)に相転移(結晶化)する現象のダイナミクスは,幅広い分野を理解するための鍵を握ります.この結晶化ダイナミクスを理解するべく,これまで私は,結晶の成長素過程をその場観察する研究を,生体巨大分子であるタンパク質を題材に行ってきました.本セミナーでは,結晶が成長する基本メカニズムを,多くのムービーをご覧いただく事で,視覚的に捉えていただければ幸いです.

第1回低温研セミナー「陸面と大気の科学」 渡辺 力 (雪氷環境)

日時 2008年6月3日(火)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
地球大気の上端に入射する太陽放射のエネルギーは、その約半分が大 気層の下にある地表面(陸と海)に吸収されます。地表面に吸収されたエネルギーが、顕熱(直接加熱)、潜熱(水の蒸発・凝結に関連する熱)、長波放射(赤外線)の形で大気に伝わり、海陸風やモンスーン循環、果ては大気大循環などを駆動します。それによって熱や水が時空間的に再配分された結果として、現在の気候が形成されています。陸域では、こうして形成された気候に応じて、森林、砂漠、草原、雪氷域などが分布していますが、これら熱的な性質の異なる地表面が、それぞれ異なる影響を大気に及ぼすことで、気候に再び影響(フィードバック)を及ぼします。本セミナーでは、こうした大気陸面相互作用について、なるべく分かり易い解説を試みます。