共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

南大洋における棚氷-海氷-海洋相互作用に関する観測・数値モデルの統合的研究
新規・継続の別 継続(R05年度から)
研究代表者/所属 海洋研究開発機構
研究代表者/職名 副主任研究員
研究代表者/氏名 草原 和弥

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

Alexander Fraser タスマニア大学 主任研究員

2

青木茂 北大低温研 教授

研究目的 南大洋では、氷床の質量損失や海氷面積の急激な減少が報告されている。南大洋における雪氷海洋圏の相互作用は海面水位上昇とも密接に関わっており、その理解は科学的観点にとどまらず、社会・政治・経済的観点からも重要である。しかし、南極沿岸域では観測の困難さから、現場観測データは時間的・空間的に極めて限られている。近年、大型計算機の発達により数値海洋モデルの高解像度化が進み、各種観測データとの直接比較が可能になりつつある。そこで本研究では、観測結果をできる限り現実的に再現できる数値モデルの構築を通じて、観測データの時空間的な不足を補い、南大洋の雪氷海洋圏相互作用の理解を深めることを目的とする。
  
研究内容・成果 本年度は、南大洋の海氷減少および南極棚氷融解に関する数値モデリング研究を継続して実施し、前年までに得られた成果の発展と新たな解析を行った。本報告では、(1) 近年の南極海氷面積の減少要因の解析、(2) 南大洋の雪氷圏の気温変化に対する応答および棚氷融解水の役割の解析について報告する。(1) の研究成果は国際誌 Geophysical Research Letters に受理された。(2) については、温暖化実験に加えて棚氷融解水の有無に着目した追加数値実験を実施し、南極沿岸域を起点とする深層循環への影響を調べた。また、オーストラリアの研究者と研究連携を進め、今後も継続的に共同研究を進めていくことを確認した。

(1) 南大洋の海氷面積は、1970年代後半から2015年にかけて緩やかな増加傾向を示していたが、2016年に急激な減少が発生し、その後も記録的な低水準が継続している。本研究では、この南極海氷面積変化におけるレジームシフトの要因を明らかにすることを目的として、全球0.25°解像度の海氷-海洋モデルを用いた解析を実施した。大気再解析データから計算した海面境界条件を与えた一連の数値実験の結果、近年の海氷面積の減少は主として熱力学的境界条件、特に海氷縁北側の亜極域における海面水温上昇によって引き起こされていることが示された。これらの成果は、海氷縁付近での海洋-大気相互作用が近年の南極海氷減少に重要な役割を果たしていることを示しており、成果をまとめた論文は Geophysical Research Letters に受理された。

(2) 本研究では、棚氷要素を含む海氷-海洋モデルを用いて、南大洋の雪氷圏と海洋の変動が大気温暖化にどのように応答するかを解析した。大気温偏差を-6℃から+6℃の範囲で与えた数値実験の結果、冬季海氷面積および南極沿岸域の海氷生成量は温暖化レベルに対してほぼ線形に応答する一方、夏季海氷面積は温暖化の進行に伴って大きく減少し、一定の温暖化条件下では消失に至ることが示された。また、棚氷底面融解は非線形的・超線形的な応答を示し、その変化には南極表層水および周極深層水の寄与増加が関与していることが分かった。さらに本年度は、棚氷融解水の効果を調べるため、融解水の有無を切り替えた on/off 実験を新たに実施した。その結果、温暖化時に棚氷融解水が存在すると、南極沿岸を起点とする深層循環セルが顕著に弱化することが示された。これらの結果は、将来温暖化の進行に伴い、南極棚氷および海洋深層循環の応答が従来想定よりも大きくなる可能性を示唆している。

さらに、2025年11月には低温科学研究所の担当教員と研究打ち合わせを行い、東南極域を対象とした高解像度沿岸モデリングの現状と今後の展開について意見交換を行った。打ち合わせでは、これまでに得られた観測結果および今後の観測計画を踏まえ、観測と数値モデリングを融合的に連携させながら研究成果を深化させる方針について議論した。
  
成果となる論文・学会発表等 Kusahara, K., & Tatebe, H. (2025). Causes of the Abrupt and Sustained 2016–2023 Antarctic Sea‐Ice Decline: A Sea Ice–Ocean Model Perspective. Geophysical Research Letters, 52(15). https://doi.org/10.1029/2025GL115256
Suganuma, Y., Itaki, T., Haneda, Y., Kusahara, K., Obase, T., … Miura, H. (2025). Antarctic ice-shelf collapse in Holocene driven by meltwater release feedbacks. Nature Geoscience, 18(12), 1216–1223. https://doi.org/10.1038/s41561-025-01829-7
Galton-Fenzi, B. K., Porter-Smith, R., Cook, S., Cougnon, E., Gwyther, D. E., Huneke, W. G. C., Rosevear, M. G., Asay-Davis, X., Boeira Dias, F., Dinniman, M. S., Holland, D., Kusahara, K., Naughten, K. A., Nicholls, K. W., Pelletier, C., Richter, O., Seroussi, H., & Timmermann, R. (2025). Multi-model estimate of Antarctic ice-shelf basal mass budget and ocean drivers. The Cryosphere, 19(12), 6507–6525. https://doi.org/10.5194/tc-19-6507-2025