共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

地球外含窒素複素環化合物の分子進化の解明III
新規・継続の別 継続(R05年度から)
研究代表者/所属 海洋研究開発機構
研究代表者/職名 ポスドク研究員
研究代表者/氏名 古賀俊貴

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

大場康弘 北大低温研

研究目的 小惑星サンプルリターンミッション「はやぶさ2」および「OSIRIS-REx」により回収された小惑星リュウグウ・ベヌー試料から、低温科学研究所の分担者(大場)と申請者が主導する分析により、核酸塩基やビタミンB3などの含窒素環状化合物が検出されている。特にトリアジン環を有するメラミン系分子は、加水分解によってアンメリン、アンメリド、シアヌル酸へと変換されることが知られており、小惑星母天体における水質変質過程を反映する可能性がある。本研究では、メラミン系分子の生成および加水分解挙動を室内実験により検証し、小惑星試料において観測される分子分布の起源を明らかにすることを目的とした。
  
研究内容・成果 本年度は、メラミン系分子の加水分解反応を検証するため、メラミンおよびシアヌル酸を出発物質とした室内加熱実験を実施した。メラミンまたはシアヌル酸をアンモニア水溶液に溶解し、密閉アンプル中で110–160 ℃の温度条件において最大96時間加熱した後、液体クロマトグラフィー質量分析(HPLC/TOF-MS)を用いてメラミン、アンメリン、アンメリドおよびシアヌル酸の定量分析を行った。
メラミンを出発物質とした実験では、加熱時間の増加に伴いアンメリンおよびアンメリドが生成し、さらに反応が進行するとシアヌル酸が生成することが確認された。特に140℃で96時間加熱した条件では、初期のメラミン濃度が大きく減少し、アンメリンおよびアンメリドが中間生成物として検出された後、最終生成物としてシアヌル酸が主要成分として蓄積する傾向が認められた。これは、トリアジン環上のアミノ基が段階的にヒドロキシ基へ置換される加水分解反応により、メラミンからアンメリン、アンメリドを経てシアヌル酸へと変換される反応経路を示すものである。
一方、シアヌル酸を出発物質として110–140 ℃の条件で最大96時間加熱した場合には、メラミン、アンメリン、アンメリドの生成は確認されなかった。この結果は、シアヌル酸からメラミン類への逆反応が起こらないことを示しており、トリアジン系分子の加水分解反応が実質的に一方向的に進行することを示唆する。
これらの室内実験の結果は、小惑星ベヌー試料において観測されたトリアジン系化合物の分子分布とよく一致する。ベヌー試料では、メラミン4 pmol g-1、アンメリン8 pmol g-1、アンメリド200 pmol g-1が検出されているのに対し、シアヌル酸は 2748 pmol g-1と著しく高濃度で存在している。本研究で得られた結果は、このような分子分布が小惑星母天体内部における水質変質環境での加水分解反応によって形成された可能性を支持するものである。以上の知見は、小惑星における含窒素有機分子の化学進化過程を理解する上で重要な手掛かりを与えるものである。
  
成果となる論文・学会発表等