共同研究報告書
| 研究区分 | 一般研究 |
|
研究課題 |
昆虫環境適応の最前線としての昆虫体表脂質:多機能性と炭化水素組成との関係 |
| 新規・継続の別 | 新規 |
| 研究代表者/所属 | 九州大学水素材料先端科学研究センター |
| 研究代表者/職名 | 特任教授 |
| 研究代表者/氏名 | 金子文俊 |
| 研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
|
氏 名
|
所 属
|
職 名
|
|
|
1 |
片桐千仭 | 数理設計研究所 | 研究員 |
|
2 |
山本真代 | 九州大学 | 研究員 |
|
3 |
佐崎元 | 北大低温研 | 教授 |
|
4 |
長嶋剣 | 北大低温研 | 助教 |
| 研究目的 | 虫の表面は炭化水素の膜で覆われている。この炭化水素層は、耐乾燥性に重要な役割を果たし越冬生存率を左右する。昆虫体表炭化水素は炭素数が20-40個程度の炭化水素鎖からなる薄層(0.01~1μm)であり、水分蒸散抑制に留まらず、機械的損傷からの骨格保護、病原体侵襲抑制、昆虫間情報伝達物質、等の生理機能に関与している。これまで昆虫体表脂質の体表おける集合状態と物性については具体的な知見が乏しかった。この事態を打破するために、体表脂質の状態について、クロマトグラフィーによる化学分析、示差熱量計測定による物性分析、そしてX線散乱法や赤外分光法等による構造分析を組み合わせた研究を実施した。 |
|
|
|
| 研究内容・成果 | (1)温度変化にともなう複数の構造変化の発生 高感度示差熱量分析の法を用いた研究では、昇温過程で昆虫体表炭化水素は複数の吸熱ピークを示すことが見出された。例えば、ワモンゴキブリの前翅と後翅においては、これまで知られていた20〜30℃付近の吸熱に加えて、∸10〜10℃付近、さらに-30〜∸20℃付近に吸熱ピークが観測された。20〜30℃付近のピークは、1930年代にJ. A. Ramsayが、体表炭化水素による昆虫体表からの水蒸気蒸散の制御に関して研究を行ったときに、体表炭化水素の融点として観測された現象に対応するとみなされる。 しかし吸熱の大きさは、∸10〜10℃付近のピークがより大きい。ワモンゴキブリの炭化水素組成、これまでに実施したX線散乱の結果を踏まえると、∸10〜10℃付近に現れるピークは、不飽和炭化水素であるcis, cis-6,9-ヘプタコサジエン、そして20〜30℃付近に現れるピークは飽和直鎖炭化水素であるn-ペンタコサンに由来している可能性が高い。またn-ペンタコサンは単体では融点が54℃であること考慮すると、ヘプタコサジエン融解後はn-ペンタコサンに対して溶媒として振る舞うと考えられる。そしてn-ペンタコサンが示した20〜30℃付近のピークは、温度上昇に伴い急激な溶解が生じたことに対応していると推測される。 現時点では最も低温領域において現れる-30〜∸20℃付近のピークに関しては、まだ詳しい情報は得られていないが、この温度領域ではX線散乱測定では、炭化水素鎖の側面方向のパッキングに関係する反射に著しい変化が観測されることから、炭化水素鎖のパッキングの組み替えが生じているのではないかと推測している。 (2)体表炭化水素組成の場所依存性 これまでに赤外分光による実験では、炭化水素由来の赤外スペクトルは、昆虫の種類と性が同じであっても、得られるスペクトルの特徴が必ずしも一定でない現象が見られた。昆虫炭化水素の組成と物性が、場所に依存して変化することが原因であるという仮説に基づき、まずは示差熱量測定の結果が、ワモンゴキブリ翅の部位に依存するかどうかについて調べた。 その結果、ワモンゴキブリでは、前翅と後翅の両方において、翅の根本(胸部接続部)に近いものと、それから離れた部位では系統的に異なった特徴を示すことが明らかになった。さらに、各部位の炭化水素を抽出し、それを薄層クロマトグラフィーで調べると、飽和直鎖炭化水素、飽和分岐炭化水素、そして不飽和炭化水素の比率が大きく変化していることが示された。このような部位による組成変化と連動した構造と物性の違いは、報告されていない。この現象については、今後より詳細かつ、系統的に調べる必要がある。 |
|
|
|
| 成果となる論文・学会発表等 |
◇論文 [1](共著)(謝辞) Kaneko, F., Katagiri, C., Nagashima, K., Sazaki, G. First In Situ X-ray Scattering Measurements of Insect Body Surface Lipids: American Cockroach. J. Phys. Chem. Lett. 2021,12, 1969-1972. [2] (共著)(謝辞)Kaneko, F., Katagiri, C., Nagashima, K., Sazaki, G., Ikemoto, Y. Cuticular Lipid Topology on Insect Body Surfaces Studied by Synchrotron Radiation FTIR ATR Microspectroscopy. J. Phys. Chem. B 2021, 125, 34, 9757–9767. ◇解説 (共著) [1] Kaneko, F., Katagiri, K. In Search of Real Images of Insect Cuticular Lipids: Synchrotron Radiation FTIR ATR Microspectroscopy Study on Insect Body Surfaces SPring-8/SACLA Research Frontiers 2021, 36-37. ◇学会発表 [1] (共著)日本昆虫学会第83回大会 2023年9月16日-18日 佐賀 その場分析によるフタホシコオロギの体表脂質の構造・物性の性差に関する研究 金子文俊・片桐 千仭・長嶋 剣・佐崎 元 |