共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

グリーンランド南東ドームアイスコアを用いた産業革命以降の大気酸化剤濃度の復元
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 金沢大学環日本海域環境研究センター
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 石野咲子

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

下森陽道 金沢大学大学院社会基盤学専攻 博士前期課程1年

2

飯塚芳徳 北大低温研

3

的場澄人 北大低温研

研究目的 オゾン(O3)とOHラジカルに代表される「大気酸化剤」は、あらゆる大気成分の生成と消滅を駆動するため、人為活動による大気酸化剤の変遷の把握は極めて重要である。しかし大気酸化剤の多くはアイスコアに保存されないため、有効なプロキシが無いか探索が続けられている。その一案として、申請者はこれまで、過酸化水素の酸素同位体組成(Δ17O(H2O2)値)の分析手法の開発に取り組んできた。本研究では、このΔ17O(H2O2)値という新規プロキシの分析を、低温研・飯塚准教授らが掘削した第2期グリーンランド南東ドームアイスコア(SE2コア)に適用し、産業革命以降の大気酸化剤濃度の変遷を復元することを目的とする。
  
研究内容・成果 令和7年4月に初期テストとしてアイスコア試料3深度の切り出しを行った。その後、令和5年度に切り出したグリーンランド積雪試料でテスト分析を行ったところ、試料量に依存して同位体比(Δ17O値)が変化してしまうという異常が生じたため、6月以降、装置の点検・再調整に切り替え、アイスコア試料は冷凍保存をすることとした。
試料量に依存したΔ17O値の変化は、標準酸素ガス試料(O2)についても同様の傾向が確認された。さらに、同位体比質量分析計(IRMS)のリファレンスガスについても、導入量を増やすごとにΔ17Oが徐々に高くなる傾向があることを発見した。2025年6月以前には、試料量に依らずΔ17O = -0.3 ± 0.1‰ で安定した測定ができていたため、装置・配管の劣化の可能性を検討した。これまでに (i)ガス濃縮トラップの改良、(ii) IRMSのイオンソース洗浄、(iii) 全配管のパーツ交換、(iv)バックグラウンド水蒸気の低減、を検討したが、明確な改善には至っていない。今後、IRMSの検出器側の抵抗や真空度の変更を計画している。量依存性が解消され次第、アイスコアの分析に着手する予定である。
装置開発に並行し、SE2コアから復元された過去220年間の硝酸塩濃度の解析も行った。アイスコアの硝酸塩量は人為窒素酸化物(NOx)の排出量の変動と概ね一致したが、硝酸塩のピーク期(2000年頃)はNOx排出のピーク(1970年代)から遅れて生じていることを見出した。全球大気化学輸送モデルを用いた解析により、1970年代以降の大気酸性度の中和に応じて、硝酸の形態が沈着しやすいガス状から輸送されやすい粒子状へと部分的に変化したことで、長距離輸送に有利になり、この観測されたタイムラグを生じていることをつきとめた。本研究成果はNature Communications誌に掲載された。
  
成果となる論文・学会発表等 (論文)
Iizuka, Y.*, Matsumoto, M., Kawakami, K., Sasage, M., Ishino, S.*, Hattori, S.*,et al.“Acidity-driven gas-particle partitioning of nitrate regulates its transport to Arctic through the industrial era”, Nature Communications, 16, 4272. 2025.

(学会発表)
Shitamori, H., S. Ishino, et al. “A measurement system for triple oxygen isotopic compositions of hydrogen peroxide (Δ17O(H2O2)) with reduced sample size applicable to ice core analysis” 日本地球惑星科学連合2025年大会、千葉、2025年5月(口頭)
Iizuka, Y., Matsumoto, M., Kawakami, K., Sasage, M., Ishino, S., Hattori, S. et al. “Acidity-driven gas-particle partitioning of nitrate regulates its transport to Arctic through the industrial era”, 8th International Symposium on Arctic Research (ISAR), Tokyo, Japan, October 2025. (口頭)