共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

バイオエアロゾルの顕微ラマン分光分析の雪氷試料への応用
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 秋田大学国際資源学研究科
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 安藤卓人

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

鈴木貴裕 秋田大学・国際資源学 学生

2

飯塚芳徳 北大低温研

研究目的 大気中に浮遊する生物由来の粒子状物質は,バイオエアロゾルとよばれる。そのうちの花粉や胞子などの「パリノモルフ」は大気中にも多く存在するが,放射強制力の理解にも重要な分子構造や輸送過程などは不明な点が多い。雪氷試料中のパリノモルフの高分子構造の変質には,輸送中および再沈着後に比べると,土壌や水たまりでの分解作用の方が大きく寄与すると考えられるため,「供給源の環境情報」を記録していると想定される。本研究では,環境試料に対して,顕微赤外分光分析および蛍光顕微鏡観察(秋田大学)とともに低温科学研究所にてラマン分光分析を用いることで,雪氷試料中のパリノモルフに応用できる指標の開発を進めた。
  
研究内容・成果 環境試料中の不溶性有機物を酸処理によって分離,湿式単離装置によりバイオエアロゾルを1粒子ごとに単離し,蛍光顕微鏡で観察した。これらの粒子は,低温科学研究所にて非破壊で顕微ラマン分光を用いて測定した上で,秋田大学で非破壊ではない分析となるATR法を用いて顕微赤外分光器で分析した。R7年度の分析でアモルファス有機物をターゲットとしたものの,蛍光ピークが卓越し,分析が困難であったことを踏まえ,本年度は低温科学研究所の顕微ラマン分光器で分析が可能なサイズのパリノモルフに着目した。
4月の分析では主に中海・宍道湖堆積物に多産している菌胞子に着目した。菌胞子のIRスペクトルは,タンパク質に富む,いわゆるキチン質の高分子に特有なAmide I (C=O)とAmide II (C-N)の2つのバンドが卓越するが,顕微ラマン分析の結果,ラマンスペクトルはAmide Iに加えてC-H のバンドが卓越することがわかった。11月の分析では,他のキチン質パリノモルフに拡張し,秋田県男鹿市一ノ目潟の沈降粒子試料を用いて分析した。その際にもキチン質パリノモルフは同様にAmide IとC-Hが卓越しており,菌胞子も含めてラマンスペクトルに大きな違いがみられなかった。なお,本研究に関連して4-11月の間の期間には共同研究者である飯塚芳徳 准教授らが分析を行なっているSE-Dome雪氷試料中の有機物粒子についても,赤外分光分析を実施し化合物同定に成功している。
以上の成果によって,2つの問題が浮き彫りになった。1つ目は,糖やアミノ酸が反応して起こるメイラード反応でアモルファス有機物は形成するため,最終的にはキチン質の高分子と構造が類似してしまう点である。2つ目は,有機高分子で一般的に顕著に検出されるD (~1340 cm-1), G (1580-1600cm-1) のバンドと,前述のC-H (1200-1500 cm-1), Amide I (1550-1700 cm-1) のバンドの位置がそれぞれで極めて近い点である。以上の結果から,有機物の燃焼もしくは熱熟成過程において,C-HとAmide Iのより幅広のバンドがメインのスペクトルから,D, Gバンドが卓越するスペクトルを経て,最終的にはグラファイト化していく過程が想定できる。このスペクトルの変化を正確に理解することができれば,有機物の変質(変成)度を推測することが可能となる。このような僅かな違いを理解するためには,バイオエアロゾル粒子やその起源となる有機高分子を段階的に加熱実験すると良いと考える。
そのため,R8年度に継続研究として,バイオエアロゾルとなりうる微粒子に対して,真空加熱実験を行なうことで,それらが元々持つ高分子構造が加熱することでどのように変化しているかを理解していく予定である。実際に12月には秋田大学において真空加熱実験に試験的に実施し,赤外分光分析から推定された高分子組成から,元々の高分子の違いによって異なる熱変質経路をたどっていることが確認できている。
  
成果となる論文・学会発表等 安藤卓人, 鈴木貴裕, 山岸昇玄, 千代延 俊、顕微ATR-FTIRを用いたケロジェン個別粒子の高分子分析とその応用、第42回有機地球化学会シンポジウム(千葉シンポ)、2025年11月4-5日