共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
越冬性変温動物と冬眠哺乳動物の低体温耐性機構の統合的理解 |
新規・継続の別 | 継続(R05年度から) |
研究代表者/所属 | 北海道大学大学院先端生命科学研究院 |
研究代表者/職名 | 学術研究員(常勤) |
研究代表者/氏名 | 津田栄 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
新井達也 | 東京大学新領域創成科学研究科物質系専攻 | 助教 |
2 |
山内彩加林 | 北大低温研 | 助教 |
3 |
山口良文 | 北大低温研 | 教授 |
4 |
曽根正光 | 北大低温研 | 助教 |
研究目的 | 4℃等の低温下に置かれた哺乳動物細胞は、浸透圧ショックや脂質過酸化等により様々な障害を生じるため、長期間生存することは困難である。一方、越冬性の変温動物や冬眠する哺乳動物は、低体温でも細胞に障害を受けないような低温耐性を有する。しかし、この低温耐性の分子機構は未だに不明である。本課題では第1の目的として、越冬性変温動物由来の不凍タンパク質(Antifreeze protein: AFP)の4℃下での細胞保護メカニズムの理解を目指す。第2の目的として、冬眠哺乳動物シリアンハムスターの低温耐性機構を支える分子基盤の理解を目指す。これらの統合的理解に基づき、低温適応生物が獲得した低温耐性の分子機構の理解を目指す。 |
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研究内容・成果 | 地球上には、10℃以下となる低温環境でも生存可能な越冬性生物が存在する。不凍タンパク質(AFP)は、低温環境で生息する魚類・昆虫・微生物などの越冬性生物に見出されるタンパク質である。AFPは、4℃下で哺乳動物細胞の細胞膜に結合し、細胞を低温障害から保護し低温耐性を付与する(細胞保護効果)。AFPは由来する生物種によって、アミノ酸配列や3次元構造が異なるため、細胞保護効果の分子メカニズムはよく分かっていない。この分子メカニズムに迫るべく、複数生物種由来のAFP(魚類3種、微生物2種、昆虫1種)を用いて、低温下での細胞保護効果を検証した。ラット由来膵島細胞を各種AFP含有保存液に浸漬し、4℃または過冷却温度(-2℃および-5℃)下で、1〜20日間保存した。4℃下で1日保存後の細胞生存率は、AFP無しでは20%以下であったのに対し、魚類および微生物AFPでは50〜74%、昆虫AFPでは90%以上であった。昆虫AFP保存液で保存した細胞は、全ての保存期間(1〜20日)および保存温度(4℃、-2℃および-5℃)で最も高い生存率を示した。さらに、共焦点レーザー顕微鏡により、蛍光標識AFPを添加した細胞を観察した結果、昆虫AFPだけは細胞内にも局在することが示唆された。このことから、昆虫AFPは、脂質二重膜の外膜に結合するだけでなく、細胞内に移行し、脂質二重膜の内膜および細胞小器官の膜に結合することにより、高い細胞保護効果を発揮すると推察された。一方、冬眠する哺乳類シリアンハムスターも5℃の低体温状態でも障害を受けない低温耐性を有するが、その分子機構は不明である。脂質は、冬眠期の主なエネルギー源となるだけでなく、低体温状態下での細胞膜の流動性維持への関与が想定される分子である。しかし、冬眠において脂質が果たす役割や、冬眠に向けた各臓器での脂質プロファイルの変化も未だ不明点が多い。これらの点に迫るため、シリアンハムスターの脂質代謝関連組織で網羅的脂質解析および網羅的遺伝子解析を実施した結果、肝臓において冬眠期にのみ特徴的な脂質が複数見出された。冬眠期には、多価不飽和脂肪酸を含有する脂質種の増加や、リポタンパク質分泌経路が亢進する可能性が示唆された。脂質は、越冬性変温動物でも冬に蓄積する分子の1つであることから、越冬性変温動物と冬眠する哺乳類の低温適応機構の共通性や相違性の理解へ繋がると期待する。これらの研究成果についての情報交換を行なった。 |
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成果となる論文・学会発表等 |