共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

海氷放射スキームの高度化に資する海氷面ラフネスの計測とそのモデル化
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 気象庁気象研究所
研究代表者/職名 主任研究官
研究代表者/氏名 谷川朋範

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

大河原望 気象庁気象研究所 室長

2

荒川逸人 防災科研雪氷防災研究部門 研究員

3

中山雅茂 北海道教育大学釧路校 准教授

4

豊田威信 北大低温研

研究目的 海洋モデル、特に海氷放射スキームの高度化に資するため、放射伝達論に基づく大気―積雪・海氷系の放射伝達モデルの開発を進めてきた。放射計算において、海氷面(氷面)の反射・透過モデル(海氷面ラフネスモデル)を高精度に求めることが重要である。一般に、海氷面は鏡面ではなくラフネス(凹凸)を持つため、入射光は乱反射や乱屈折を起こし、大気や海氷中に伝搬する。しかし、現行モデルでは、海氷面のラフネスの変化が考慮されておらず、正確な反射・透過モデルが得られていないため、不確定性が存在した。本研究では、放射伝達計算の精度向上を目指し、海氷面のラフネス計測を実施し、海氷面の反射・透過モデルの精緻化を試みる。
  
研究内容・成果 北海道教育大学釧路校に設置した屋外実験海氷プール(Nakayama et al., 2024)において、氷厚の異なる3つの海氷サンプルを生成し、それぞれ海氷面のラフネスを計測した。具体的には、防災科学技術研究所のμCT装置を使用し、Manninen et al. (2021)の手法を参考に、10〜100umの範囲の細かな表面ラフネスを計測した。測定結果をもとに海氷面ラフネスモデルについて検討を行った。その結果、当初は、それぞれのラフネスが異なる向きや傾きを持ち、方位角方向には無指向性の二次元正規分布モデルを仮定していたが、実際には方位角方向に指向性が見られ、一般的な二次元正規分布モデルが示唆される結果が得られた。この結果は、特に裸氷面の双方向反射率およびアルベドに対して重要な影響を与える可能性を示している。現時点では測定データが限定的であるため、今後これまでに取得した北海道野付湾およびサロマ湖の実海氷データを解析し、汎用的な海氷面ラフネスモデルの開発を進める予定である。
 この他、海氷表面の波長別および広帯域アルベドに対する海氷面ラフネスの影響を、放射伝達モデルを用いて調査した。雪粒子や気泡、ブラインなどによる一次散乱にはMie理論と幾何光学近似法を、大気、積雪や海氷などの多重散乱には加算法・倍増法を用いた。さらに、氷表面での屈折率の変化を考慮するため、海氷面の反射・透過モデルを導入し、海氷面のラフネスを組み込んだ。その結果、海氷表面のラフネスが波長別および広帯域アルベドに与える影響は大きく、特に裸氷面では、表面ラフネスがアルベドの変動を支配する重要な因子であることが示された。本研究成果は現在、学術雑誌に投稿中である(Tanikawa et al., in review)。なお、本研究で用いた海氷面ラフネスは、方位角方向に無指向性の二次元正規分布モデルである。そのため、今後は実測データをもとにした汎用的な海氷面ラフネスモデルを構築し、放射伝達モデルに導入する予定である。
 最後に、2025年2月に英国科学・イノベーション・技術省が主催する国際共同研究「Understanding the impact of predicted changes in sea ice within the Sea of Okhotsk」の一環として、英国南極観測局の研究者とともに北海道サロマ湖で海氷放射観測を実施した。海氷下の光環境を明らかにすることを目的に、海氷の狭帯域および広帯域透過率・アルベドを測定し、さらに海氷サンプルの採取も行った。詳細な解析は今後行う予定であるが、観測を通じて互いの技術を深く学び合う貴重な機会となり、非常に有意義な成果が得られた。
  
成果となる論文・学会発表等 ・谷川ら (2024):裸氷面の狭帯域・広帯域アルベドに対する表面ラフネスの影響、雪氷研究大会(長岡・2024)
・Veyssière, Tanikawa, Toyota et al. (2025): Understanding the impact of predicted changes in sea ice on the under-ice lightscape within the Sea of Okhotsk, The 39th International Symposium on the Okhotsk Sea & Polar Oceans 2025
・Nakayama, Tanikawa et al. (2024): Development of a sea ice tank system for measuring microwave properties of sea ice, Journal of Glaciology, 2024:1-10, doi:10.1017/jog.2024.6
・Tanikawa et al. (in review): Modeling of ice surface albedo: A quantitative study of the impact of surface roughness, Journal of Quantitative Spectroscopy & Radiative Transfer.