共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
ダイオードツリーを用いた樹冠の光吸収様式の再評価 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 京都府立大学 |
研究代表者/職名 | 教授 |
研究代表者/氏名 | 隅田明洋 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
細井新悟 | 京都府立大学大学院生命環境科学研究科 | 修士課程2年 |
2 |
小野清美 | 北大低温研 | |
3 |
森章一 | 北大低温研 | |
4 |
千貝健 | 北大低温研 |
研究目的 | この研究の目的は,森林の葉群内部での光吸収パターンを定量的に表す既存のモデル(樹冠の光減衰モデル)では十分に考慮できていなかった光吸収のプロセスを洗い出すことにある。この目的のため,超小型フォトダイオード(小型ソーラーパネル)を樹木の個々の葉に見立てて空間中に配置した人工樹冠“ダイオードツリー”を用い,樹冠による光吸収過程をその発電量をもって実測することとした。この研究により,森林の構造が垂直方向に発達することが光エネルギーの吸収という観点からどのような意味があるか,が明らかとなり,地球環境保全における巨木林の存在の重要性について新たな知見を加えることができる。 |
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研究内容・成果 | 森林の単位土地面積上の空間に存在する葉の総面積(葉面積指数)は土地面積の3 〜10倍に達する。特に高緯度の亜寒帯域に広がる常緑針葉樹林の葉面積指数は大きい。同じ気候帯においては葉面積指数が大きいほど森林の総光合成速度も大きいことから,光合成を司る葉面積と光吸収量との関係を把握することは重要である。森林群落への入射光が群落最上面からの積算葉面積の増加とともに指数関数的に減衰する現象は定式化されているが,葉群が垂直方向に広がることが光吸収に及ぼす効果は事実上モデルに考慮されていない。一方,太陽の直射光は,1枚の葉のすぐ上に別の葉があるとき下側の葉に半影や本影と呼ばれる影をつくる。理論的には葉どうしの鉛直方向の距離が近いほど下側の葉が受ける光の量は少なくなるので,葉と葉との間の鉛直距離は光の減衰に何らかの効果を与えるはずである。 これらの矛盾を確かめ,樹冠による未知の光吸収様式を明らかにするため,人工樹冠“ダイオードツリー”(以下,ツリー)の発電量によって樹冠の光吸収量を直接測定する実験を行った。ツリーは,樹木の個々の葉に見立てた多数のフォトダイオードを水平面に一定間隔で配した“ダイオード盤”を複数枚鉛直方向に配置したものである。ダイオード盤どうしの鉛直方向の間隔を変えることで層間の鉛直間隔の違いに対するツリー全体の発電量の変化を調べた。内壁を鏡面加工した円筒および内壁を黒体スプレーで塗装した円筒にツリーを入れ,散乱光の効果について調べた。また,1層のダイオード盤の上下両面にダイオードを取り付けた両面ダイオード盤と,下面を黒体スプレーで塗装したダイオード盤とを用意し,葉層自身からの上向きの反射光の効果について調べた。 散乱光を抑えた黒塗り円筒内では,ダイオード盤の鉛直間隔がごく近い場合には下側のダイオード盤の発電量が減少したが,鏡面円筒内では減少しなかった。この結果は,下側の葉層からの反射光や散乱光が半影/本影効果を無視できる程度まで小さくすることを示唆している。両面ダイオード盤5層のツリーを円筒に入れずに野外においた実験では,層間の鉛直間隔が一定の値のときにツリーの総発電量が最大となった。このことは,層間の鉛直間隔が狭すぎる時は層間の相互被陰が大きすぎて発電量が減り,離れすぎると下層からの反射による上側の層の下面の発電量が減るためだと考えられた。また,単位土地面積を1枚のソーラーパネルで覆うよりも,総面積が土地面積の数倍となる小型ソーラーパネルを単位土地面積上の空間中に配置するほうが発電総量が大きくなると推定され,森林において葉面積指数が1よりはるかに大きいことと対応していると考えられた。 以上から,ツリーや森林群落の受光量が大きく保たれるためには,下層の葉からの光の反射や散乱光が重要であり,森林の葉群の鉛直方向の距離の効果の重要性を示唆していると考えられた。 |
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成果となる論文・学会発表等 | 細井新悟, 森章⼀, 千⾙健, ⼩野清美, 隅⽥明洋. ⼈⼯樹冠「ダイオードツリー」を⽤いた植物群落内の光減衰様式の推定.⽇本⽣態学会第72回全国大会、P1-023. 札幌コンベンションセンター,札幌. 2025年3月16日. |