共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

星間塵吸着分子のカイラリティ検出法の開発
新規・継続の別 継続(R05年度から)
研究代表者/所属 新潟大学理学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 副島浩一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

渡部直樹 北大低温研

研究目的 極低温固体表面(疑似星間塵)上の光学異性体を加熱蒸発なしに識別観測する装置を実現するために、円偏光を使った共鳴多光子イオン化法(REMPI)の有効性を確認することが本申請研究の目的である。本研究計画の最終的な目標は、光学異性体混合比である光学異性体過剰度の高感度その場観測を実現し、宇宙環境を模した環境下においてアミノ酸前駆体の光不斉合成もしくはラセミ体アミノ酸の非対称分解過程で生じる微小な光学異性体過剰の発現を高時間分解で追跡観測し、ホモキラリティーの発現へ繋がる最初期の極低温分子反応に迫ることである。
dカンファ―イオン強度の基盤温度依存性  
研究内容・成果 エネルギー緩和の自由度が大きいと予想されるカンファー(C10H16O)のような分子数が大きい分子に対して、REMPIが可能か否かの確認実験を昨年度はおこなった。カンファーは光学異性体分子で、常温でも10Pa程度の蒸気圧があるため、広く気相実験で用いられている。先行研究を参考にして、渡部グループの現有装置を使用して408nmの波長領域を中心に (2+1)REMPI実験をおこなった。光パラメトリック発振器を使ってレーザーの波長を405〜411nmで掃引して光イオンのTOFスペクトルの測定をおこなったところ、154auの質量を持つイオンが検出できるような設定条件で実験をおこなったにもかかわらず、カンファー(C10H16O)は多光子イオン化の際に解離を伴い、必ずしも親イオン(C10H16O)+が観測されるとは限らないことが確認された。そこで、解離イオンと思われるO+の信号強度のレーザー波長依存を測定し、先行研究で報告されているカンファーに対するREMPIで得られる全イオン収量の波長依存スペクトルと比較した。その結果、全イオン収量スペクトルのピーク構造に類似したO+スペクトルが得られたことから、カンファーに対してREMPI実験が可能であるという結論に至った。ただし、全イオン収量スペクトルはシャープなピークで構成されているのに対して、測定したO+信号強度の波長依存がバンドピーク的な構造となっていることの理由は不明であった。そこで波長掃引を、前回の光パラメトリック発振器を使った方法から色素レーザーを使う方法に変更した。410nm領域の光掃引を可能にするための蛍光色素が必要であったが、残念ながら色素を溶解させる有機溶媒が準備できていなかったため、812nm領域をカバーする蛍光色素をつかい、倍波を発生させることで410nm領域のレーザー光を得ることを計画した。しかしこれも、倍波を発生させる光学素子がないことが判明し断念せざるを得なかった。そこで、今回はカンファーの脱離温度を決定するために、Qマスを使って温度制御実験(TPE)をおこなうことにした。10K程度まで冷却したアルミ基盤にD体カンファーを200層程度吸着させ、セラミックヒーター、半導体温度センサーおよび温度制御装置によって10K/分の温度上昇率で昇温させていった。カンファーの1価イオンのマスである152の位置での信号ピークを面積積分して(C10H16O)+強度を求め、信号強度の時間依存を測定した。その結果を図に示す。横軸は基盤温度が10Kであった時刻をゼロとした経過時間で、縦軸がイオン強度である。図を見てわかるように、経過時間が1150秒あたりでピークを持っており、これは基盤温度の200Kに対応する。本TPEによって、カンファーは200K程度で脱離することが実験的に確認できた。
dカンファ―イオン強度の基盤温度依存性  
成果となる論文・学会発表等