共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
凍結・融解作用が湿原土壌水からの鉄溶出過程に与える影響の解明 |
新規・継続の別 | 継続(R05年度から) |
研究代表者/所属 | 岐阜大学応用生物科学部 |
研究代表者/職名 | 教授 |
研究代表者/氏名 | 大西健夫 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
田代悠人 | 秋田県立大学 | 助教 |
2 |
白岩孝行 | 北大低温研 | 准教授 |
研究目的 | 陸域における溶存鉄の供給源では、寒冷圏において湿原が重要と考えられている。申請代表者らの研究によると、寒冷圏の湿原からの溶出には、積雪・永久凍土・季節凍土といった湿原土壌の冬季における環境変化が深く関わっている。湿原は一般的に還元的な環境であるため、湿原内の土壌水に含まれる溶存鉄濃度は高い傾向にあるが、どのような機構により、積雪ならびに土壌の凍結・融解が流出する土壌水・河川水の溶存鉄濃度を変化させるかは、未解明である。本研究は、昨年度に開始した観測を継続して通年での基礎データを取得し、湿原における溶存鉄の季節的変動特性を決める要因の解明をすることを目的とする。 |
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研究内容・成果 | 本年度は、2023年度に整備した観測体制により観測を継続し、春季から秋季にかけて計4回(5月11〜12日、7月27〜29日、9月21〜22日、11月9〜10日)の定期観測を実施した。観測体制は、猿払川流域上流丸山湿原内にて深度1, 2, 4, 5.77mの4深度からの地下水の定期採水と地下水位の連続観測、テンションライシメータによる深度10, 20, 30, 50,120, 140cmからの土壌水の定期採水、0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 6.91mの各深度における地温の連続計測、そして湿原に隣接する丸山橋からの猿払川の定期採水である。試水は溶存鉄濃度の定量のため、採水後速やかに0.45μmメンブレンフィルターによりろ過したのち1mol塩酸により酸固定し、ICP-AESによる分析に供した。加えて、DOCをTOC計により、主要陽・陰イオンをイオンクロマトグラフィーにより計測した。得られた結果は次の通りである。加えて、2023年度に採取した10mまでの泥炭コアの含水比、TN、TCを計測した。 含水比は深度6mまでは最大982%平均545%であるのに対して、7m以深は200%以下であり、6〜7m付近に泥炭質土壌と鉱質土壌の境界があることを示唆された。これは土壌粒子中の鉄の存在形態が深度7m以深で結晶質鉄の割合が増加することにも対応している。土壌水および地下水のdFe濃度には季節的変動が見られ、変動幅は10cm深で最大9.6mg/Lとなり、それ以深では1.2〜2.0mg/Lと明確に異なった。変動の大きい10cm深では、7月に最大値10.8mg/L、10月に最小値1.2mg/Lを示した。一方、地下水のdFe濃度は深度に応じて増加する傾向が見られた。変動幅は浅い順に18.2、3.9、19.8、26.0 mg/Lであり5.44m深でも季節的変動を示すことがわかった。なお、3月の積雪期では一番浅い1.00m深において22.5 mg/Lと特異的に濃度上昇する挙動が見られた。さらに、降雨後の dFe濃度の変動傾向は土壌水で濃度上昇がみられた一方、地下水では深部において濃度低下が見られた。これらの対照的な挙動は土壌水や地下水中の鉄濃度が降水の頻度や量に敏感に反応することを示唆している。河川水の鉄濃度に関して、5月に最小値の0.1mg/L、7月に最大値の0.5mg/Lを示し急激な増加が見られる。これは融雪や水温変化の影響を強く受けていると推察されるものの、水位や降水量との直接的な相関は見られなかった。また、表層土壌水と河川水におけるdFe濃度の季節的変動には類似した変動傾向が見られた。さらに、河川水の溶存鉄濃度、湿原における地表から地下5.77mまでの深度別溶存鉄濃度の比較により、河川水の溶存鉄濃度には、地表付近のみならず、少なくとも深度4m程度までの地下水に含まれる溶存鉄も無視できないことが示唆された。 |
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成果となる論文・学会発表等 |