共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

寒冷圏アマモ群落における好冷性アンモニア酸化アーキアによるビタミンB12生産
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 日本大学
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 中川達功

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

土屋雄揮 日本大学 専任講師

2

福井学 北大低温研

研究目的 アンモニア酸化アーキア(AOA)はビタミンB12を生合成することが知られている。近年、冬季の沿岸域ではAOAがビタミンB12の主要な生産者であることも明らかになった。カキの養殖業が盛んな北海道厚岸湖の水温は1年の半分が10℃以下であるため、AOAによるビタミンB12生産が期待される。昨年度の10月下旬の厚岸湖調査の結果、アマモ群落の底泥の表層にAOAが高い密度で生育していることが示された。しかしながら、寒冷圏アマモ群落における好冷性AOAによるビタミンB12生産については未解明である。そこで本研究では北海道厚岸湖におけるビタミンB12生産好冷性AOAの培養とショットガンメタゲノム法によるビタミンB12合成遺伝子解析を目的とする。
  
研究内容・成果 2024年10月24日に北海道厚岸湖のアマモ群落において底泥および海水を採取した。前日の嵐により海水の透明度は極めて悪く、当初予定していた試料採取地点より北側の水深の浅い地点で試料採取した。悪条件のため採取した柱状試料は各層が撹拌された状態の試料であった。水温は16.9℃であった。試料採取後2時間以内に底泥の柱状試料に対して地点1では0 cm~1 cm層、地点2では0 cm~1 cm層、1 cm~2 cm層、地点3では0 cm~1 cm層の計4つのサンプルを回収した。15 mLチューブに泥を7 mLの線まで加え、DNA/RNA shieldを7 mL加え混合した。残りの泥は培養用に滅菌済みバッグに詰め、冷蔵で輸送した。研究室に試料が到着後、底泥試料を含むチューブを遠心分離機に供し、上清を捨て、泥試料を-80˚Cで冷凍保存した。各泥試料からDNAを抽出後、底泥におけるAOAの分布量を調べるためリアルタイムPCR解析を実施した。ショットガンメタゲノム解析は深度別の試料採取に成功している昨年度の柱状試料を使用し、ビタミンB12の生合成の一つであるcobalamin-5-phosphate synthaseのアミノ酸配列をデータベースとしてBLAST解析を実施した。培養実験には各種アンモニア酸化菌用培地に泥を接種後、4˚C、10˚C、20˚Cで培養し、定期的に培地の亜硝酸イオン濃度を測定した。培養実験の結果では、4˚Cで50%、10˚Cで70%、20˚Cで100%の培養区で亜硝酸生産が認められた。今後はビタミンB12生産が期待されるアンモニア酸化アーキアの培養実験区内の有無を調べる。リアルタイムPCR の結果では、今年度のAOA密度は昨年度に比べ100分の1量であった。ショットガンメタゲノム解析では、すべての層でBacteroidotaや硫酸還元菌のcobalamin-5-phosphate synthaseが高頻度で検出された。AOAのcobalamin-5-phosphate synthaseも出現頻度は低下しているが一部の層で検出された。以上の結果から、厚岸湖のアマモ群落底泥においては嫌気層が発達しているため嫌気性微生物によるビタミンB12の生産が大きく影響し、AOAによるビタミンB12の生産の影響は当初の予想より小さい可能性が示唆された。しかしながら、低温環境下でのビタミンB12生産については更なる検証が必要である。
  
成果となる論文・学会発表等