共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

南大洋における棚氷-海氷-海洋相互作用に関する観測・数値モデルの統合的研究
新規・継続の別 継続(R05年度から)
研究代表者/所属 海洋研究開発機構
研究代表者/職名 研究員
研究代表者/氏名 草原和弥

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

青木茂 北大低温研

研究目的 南大洋では氷床質量損失、海氷面積の急激な減少などが報告されている。南大洋の雪氷海洋圏の相互作用は海面水位上昇にも密接に関係するため、その理解は科学的観点だけではなく、社会・政治・経済的にも極めて重要な課題である。しかしながら、南極沿岸域では現場観測の難しさから、現場観測データは時間的・空間的に極めて限られたものとなっている。大型計算機の発達により、数値海洋モデルは徐々に高解像度化され、ようやく種々の観測データと直接比較できるようになってきた。観測結果を十分現実的に再現できる数値モデルを構築できれば、観測データの時空間的な希薄性を補い、南大洋の雪氷-海洋圏の相互作用の解明に役立てることができる。
  
研究内容・成果 本年度は、南大洋の海氷減少および南極棚氷融解に関する数値モデリング研究を実施し、その成果を取りまとめた。本報告では、(1) 近年の南極海氷面積の減少要因の解析、(2) 南大洋の雪氷圏の気温変化に対する応答の解析について簡単に報告する。前者の研究成果は現在国際誌に投稿中であり、後者の内容は国際学会の要旨として投稿した。

(1) 南大洋の海氷面積は、1970年代後半から2015年にかけて緩やかな増加傾向を示していたが、2016年に急激な減少が発生し、その後現在に至るまで記録的な低水準を更新し続けている。本研究では、この南極海氷面積の変化におけるレジームシフトの要因を明らかにすることを目的とし、全球0.25°解像度の海氷-海洋モデルを用いて解析を実施した。本数値モデルには、大気再解析データから計算した海面境界条件を利用し、数値実験を実施した。一連の数値実験結果の解析から、南大洋の海氷面積の減少は主に熱力学的な境界条件、特に海氷縁の北側における亜極域の海面水温の上昇によって引き起こされていることが明らかになった。これらの数値モデル結果は、海氷縁付近での海洋と大気の相互作用が、近年の南極海氷の減少に重要な役割を果たしていることを示唆している。

(2) 本研究では、南大洋の雪氷圏と海洋の変動が大気の温暖化にどのように応答するのかを、棚氷要素を含む海氷-海洋モデルを用いて解析した。具体的には、氷期から間氷期、または温暖化が進行した気候条件を想定し、南大洋の大気温偏差を-6度から+6度の範囲で与えた数値実験を実施した。一連の数値実験の結果、南大洋の冬季海氷面積および南極沿岸域の海氷生成量は、温暖化レベルに対してほぼ線形的に応答することが明らかになった。一方で、夏季の海氷面積は温暖化の進行とともに大幅に減少し、一定の温暖化レベルを超えると下限値に達すること(夏季に海氷が消滅)が示された。また、棚氷底面融解は温暖化レベルに対して非線形的・超線形的な応答を示し、その変化は南極表層水と周極深層水の寄与の増加によって励起されることが分かった。これらの結果は、今後温暖化が進行することで南極の棚氷の応答は、これまでの観測に基づく線形的な推定を超え、従来の予測を上回る規模で変化する可能性があることを示唆している。
  
成果となる論文・学会発表等 草原和弥・建部洋晶, Integrating an ice-shelf component into a global ocean-sea ice model: Assessing the impact of the recent Antarctic cryosphere changes on the Southern and global ocean, 日本地球惑星科学連合大会, 千葉, 2024年5月
草原和弥・建部洋晶, 海氷海洋モデルを用いた近年の南大洋の海氷面積激減に関する要因分析, 日本海洋学会秋季大会, 品川, 2024年9月
草原和弥, Modeling Antarctic ice-ocean interaction in a warming climate, 地球環境史学会年会, 立川, 2024年11月(招待講演)
Kazuya Kusahara and Hiroaki Tatebe, Responsible factors for the recent regime shift in Antarctic sea ice, Symposium on Polar Science, 立川, 2024年12月
Kazuya Kusahara and Hiroaki Tatebe, Causes of the abrupt and sustained 2016-2023 Antarctic sea-ice decline: A sea ice-ocean model study, 第39回北方圏国際シンポジウム, 紋別, 2025年2月