共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
地球外含窒素複素環化合物の分子進化の解明II |
新規・継続の別 | 継続(R05年度から) |
研究代表者/所属 | 海洋研究開発機構 |
研究代表者/職名 | ポスドク研究員 |
研究代表者/氏名 | 古賀俊貴 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
高野淑識 | 海洋研究開発機構 | 主任研究員 |
2 |
大場康弘 | 北大低温研 |
研究目的 | 申請者と低温科学研究所内分担者(大場)は、炭素質小惑星リュウグウ試料や炭素質隕石試料から、核酸塩基を含む多様な窒素環状化合物を同定してきた。それぞれの地球外試料に含まれる核酸塩基の分布は、星間分子雲から小惑星・隕石母天体環境に至る有機反応の違いを反映していると考えられるが、その生成メカニズムの詳細は未解明である。本研究では、地球外試料から検出される含窒素環状化合物に着目し、極低温環境で生成する単純な有機分子から、プリン塩基のような複雑な構造を持つ有機分子がどのように形成されるか、その分子進化のメカニズムを解明することを目的とする。 |
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研究内容・成果 | 昨年度の共同研究の成果により、星間環境下でのプリン塩基の生成において、イミダゾール誘導体の存在が重要であることが明らかになった。そこで、本年度は、鉱物存在下でのイミダゾール誘導体標準試料の加熱実験を行い、生成される核酸塩基の分布を調査した。 イミダゾール誘導体である5-カルボキシアミド-4-アミノイミダゾール(AICA, 20 nmol/µL)および5-カルボキシニトリル-4-アミノイミダゾール(AICN, 28 nmol/µL)の標準試料水溶液50 µLを、それぞれアモルファスシリケイト(50 mg)を含むアンプル管に封入し、ヘッドスペースを窒素ガスで置換後、140–160 ℃の温度条件で6時間から3日間加熱した。加熱後、反応生成物をメタノール1000 µLで抽出し、適宜希釈した試料を用いて高速液体クロマトグラフィー時間飛行型質量分析を行った。 本実験で生成されたプリン塩基のうち、グアニンの収量が最も高く、AICN加熱実験では最大0.833%(140 ℃、2日間)、AICA加熱実験では最大0.652%(140 ℃、2日間)の収率が得られた。他のプリン塩基であるアデニン、ヒポキサンチン、キサンチンの最大収率は、AICN加熱実験においてそれぞれ0.099%、0.078%、0.010%、AICA加熱実験においてそれぞれ0.005%、0.057%、0.012%であった。さらに、アデニンやヒポキサンチンの構造異性体、およびジアミノプリン分子も検出された。 本実験において、グアニンが最も豊富に生成されたという特徴は、先行研究におけるマーチソン隕石の分析結果と一致していた(Koga et al., 2024, GCA)。これは、CM炭素質コンドライト母天体におけるプリン塩基の生成メカニズムとして、イミダゾール誘導体を中間体とする経路の重要性を示唆する。また、マーチソン試料にはAICAとAICNが微量に検出されていることが報告されており(Oba et al., 2022, Nat. Commun.)、これらの中間体は母天体環境の水質変質過程において、プリン塩基を含む多様な含窒素環状化合物へと変化した可能性が高いと考えられる。 したがって、本研究の成果は、隕石母天体環境における窒素環状化合物の化学進化に関する知見を、イミダゾール誘導体標準試料を用いた室内実験から新たに提供するものである。今後は、極低温環境で生成される他の含窒素化合物や、その後の母天体環境における有機分子の生成にも着目し、地球外起源の有機分子の形成メカニズムについて、より包括的な理解を深めることを目指す。 |
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成果となる論文・学会発表等 |