共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
野外観測による永久凍土融解と北方林の温室効果ガス交換過程の解析とそのモデル化 |
新規・継続の別 | 継続(R03年度から) |
研究代表者/所属 | 海洋研究開発機構 |
研究代表者/職名 | グループリーダー代理 |
研究代表者/氏名 | 小林秀樹 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
|
所 属
|
職 名
|
|
1 |
甘田岳 | 海洋研究開発機構 | ポスドク研究員 |
2 |
伊川浩樹 | 農業・食品産業技術総合研究機構 | 上級研究員 |
3 |
渡辺力 | 北大低温研 | |
4 |
森章一 | 北大低温研 | |
5 |
藤田和之 | 北大低温研 | |
6 |
斎藤史明 | 北大低温研 |
研究目的 | 本研究では、前年に引き続き、自動開閉チャンバーを用いた土壌CO₂フラックスの観測を継続する。また、昇温区では、雪解け直後にヒーターの稼働を再開し、チャンバー設置箇所の周辺から地温を徐々に上昇させることで、地温と土壌水分の変動、および永久凍土の融解プロセス(活動層厚)の季節変化を観測する。チャンバーシステムに問題が生じた場合は、渡辺教授および技術部の森氏、藤田氏、斎藤氏から助言を受ける。対照区と昇温区の環境条件(地温・活動層厚)が土壌CO₂フラックスに与える影響について、分析する。また、得られた結果と現地観測サイトでの微気象データを活用し、数値モデルの構築方針を検討する。 |
|
|
研究内容・成果 | 本研究の中核となる 自動開閉チャンバー は、2021年度に開発され、2022年度にアラスカ州の常緑針葉樹林サイトへ設置された。コントロール区および昇温区のそれぞれに土壌呼吸測定用の暗チャンバー3基と、アクリル樹脂製の明チャンバー1基を設置し、温暖化実験開始前の夏季におけるCO₂フラックスの連続測定を行ってきた。 2024年の気候条件とサイト環境の変化 2024年の観測サイトの気候は、2022年・2023年とは異なる特徴を示した。 ・雪解け時期: 2023年は5月8日と2011年以降で2番目に遅かったが、2024年は4月24日と約15日も早かった。 ・降水パターン: 5月から6月上旬にかけては晴天が続いたが、7月から8月にかけて2回の大規模な降雨イベントが発生した。 ・積雪開始: 2024年の根雪の開始は10月15日であり、これは2010年以降の過去15年間の平均に近い値であった。 こうした気候条件の変化は、永久凍土融解実験区の昇温区および対照区の土壌環境にも顕著な影響を及ぼした。 永久凍土融解の進行と土壌環境の変化 昇温区では、温暖化処理の影響で永久凍土の融解が進み、活動層が最大150cmまで深化した。一方で、対照区の活動層深は89cmにとどまり、両区間で61cmの差が生じた。昇温実験開始前(2022年)の活動層深は60–70cmであったため、昇温区では2年間で活動層が約2倍に増加したのに対し、対照区の増加は約30 cmにとどまった。 この活動層深の違いは、土壌の水分環境にも大きな影響を与えた。 ・2022年・2023年: 昇温区の土壌水分量は対照区よりもわずかに高い傾向を示したが、その差は小さかった。 ・2024年: 7月上旬の降雨イベント後、昇温区の土壌水分量は急激に増加し、対照区の約3倍に達した。 この急激な土壌水分の増加は、永久凍土の融解により深部まで雨水が浸透したこと、および地盤の沈降に伴う周辺水分の流入が影響している可能性が考えられる。 CO₂フラックスの変動と降水イベントの影響について 自動開閉チャンバーによるCO₂フラックス観測は、2024年5月から9月末まで継続した。2024年は、前述のように7月〜8月の降雨イベント後に昇温区の土壌水分が急増したが、これに伴いCO₂フラックスが抑制される傾向が確認された。これは、活動層土壌の高湿潤状態が微生物の呼吸活性や土壌有機物の分解プロセスに影響を及ぼした結果と考えられる。なお、2024年度の観測では光合成計測用のクリアチャンバ内のクロトウヒやラブラドールティーなどの低木が、昇温区、対照区の両方で枯死してしまった。クリアチャンバでは日射を受けて強い温室効果が生じてしまったと考えられる。クリアチャンバ観測をどのようにするかについては次年度の課題である。 研究成果の発表 本研究で得られた一部の成果については、2024年7月の JaLTER OSM にて発表を行った。 |
|
|
成果となる論文・学会発表等 |
小林秀樹・甘田 岳・伊川 浩樹・岩花剛・斉藤 和之・斎藤史明・滝川雅之・中井太郎・永野博彦・野口享太郎・藤田和之・森章一・渡辺力, アラスカ内陸の永久凍土地帯の常緑針葉樹林における生態系CO2吸収・放出量の長期観測, 高山サイト30 周年記念ワークショップ / JaLTER Open Science Meeting, 2025年8月1日-2日, 岐阜県高山市(国⽴乗鞍⻘少年交流の家) |