共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
シリアンハムスターの冬眠における生殖細胞の品質管理機構についての単一細胞解析 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者/職名 | 助教 |
研究代表者/氏名 | 池田宏輝 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
|
所 属
|
職 名
|
|
1 |
曽根正光 | 北大低温研 | 助教 |
2 |
山口良文 | 北大低温研 | 教授 |
研究目的 | 我が国の少子高齢化問題が抱える重要な課題の一つに、晩婚化とそれに伴う妊娠・出産の高齢化が挙げられる。出産を望む夫婦が不妊治療を受ける割合は年々増加しているが、そうした治療で問題となるのが、加齢に伴う女性の妊娠成功率の顕著な低下である。こうした問題はヒトにおける卵子の「品質」の低下現象と見ることができる。本研究では、シリアンハムスターをモデルとして、冬眠哺乳類がいかにして冬眠に伴う様々な細胞性/身体性ストレスから卵を保護し、その品質を保っているのかを単一細胞レベルの解析から明らかにし、卵子を老化から守り機能保持を可能とする画期的な生殖医療技術の開発に道を拓くことを目的とする。 |
|
|
研究内容・成果 | 卵巣は、卵母細胞を管理、維持、成熟させる組織であり、全身性のホルモンを分泌する組織でもある。シリアンハムスターは、冬眠中に度重なる中途覚醒による血流や体温の変化を経験するにもかかわらず、冬眠後すぐに繁殖行動に移ることができる。これは、こうした環境の変化から卵母細胞を守る機構が卵巣や卵母細胞に備わっているためと考えられる。そこで本研究では、冬眠期および冬眠前後の卵巣における、卵母細胞と卵胞を構成する細胞の遺伝子発現を網羅的に調べることで、冬眠時の厳しい環境に耐えて生殖機能を維持する分子メカニズムの解明を行う。 卵母細胞は、その品質管理や成熟過程で周辺の細胞と相互作用しつつ、転写活性を大きく変化させ、成長段階に従い卵巣の皮質側から髄質側へと局在を変化させることが知られている。これらのことから、卵巣の組織像と統合的に網羅的な遺伝子発現解析を行うことで、冬眠から卵母細胞を維持、成熟させるための分子基盤をより詳細に明らかできると考えた。本研究では、2023〜2024年度にかけて報告した、組織切片よりレーザーマイクロダイセクションにより採取した1細胞から高効率でRNAを溶出し、詳細な単一細胞トランスクリプトーム解析を実現する独自手法 (DRaqL-Smart-seq2)を用いて、ハムスター卵巣の冬眠前後、冬眠期における卵巣中の卵母細胞とその周辺の微小環境を構築する細胞の単一細胞レベルのトランスクリプトーム解析を行った。 低温科学研究所の山口研究室の協力を得て、曽根助教により採取、瞬間凍結された冬眠時、冬眠前後のハムスター卵巣から15μmの厚さで凍結切片を作成し、固定染色切片を作成した。この卵巣組織切片の全体像を取得しつつ、レーザーマイクロダイセクションを用いて単一細胞レベルで顆粒膜細胞、及び卵母細胞を採取した。続いて、マウス卵巣との組織学的な違いを確認しつつ、採取した卵母細胞と顆粒膜細胞からcDNA合成を行い、定量的PCR(qPCR)法によりArbp, Zp3の発現の確認を行うことで、その合成効率の評価確認をした。これにより、ハムスター卵巣においても、マウスやヒトと同様に、原始卵胞、一時卵胞、二次卵胞、成長卵胞等、各成熟段階にある卵母細胞とその周辺の細胞の形態や局在情報を取得しつつ、単一細胞トランスクリプトーム解析の実施が可能なcDNAが得られることを確認した。加えて、予備的実験として、このサンプルからRNA-seq用ライブラリ(DRaqL-Smart-seq2を使用)を作成し、単一細胞レベルのトランスクリプトーム解析を実施しマウスとの差異を検討した結果、マウスに比べ、ハムスターの卵母細胞では代謝や卵胞成熟停止に関わる遺伝子群の発現量が多いことが示唆された。現在、残りの卵巣サンプルについても同様の解析をするため、組織切片の作製を行っている。 |
|
|
成果となる論文・学会発表等 |