共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

グリーンランド南東ドームアイスコアの超高解像度宇宙線生成核種分析
新規・継続の別 継続(R04年度から)
研究代表者/所属 弘前大学大学院理工学研究科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 堀内一穂

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

井上颯人 弘前大学大学院理工学研究科 博士前期課程学生

2

山口大毅 弘前大学大学院理工学研究科 博士前期課程学生

3

飯塚芳徳 北大低温研

4

的場澄人 北大低温研

研究目的  地球に入射する宇宙線と大気との相互作用により生成する宇宙線生成核種は、過去の宇宙線強度変動の、ひいては太陽活動や地磁気強度変動の類稀なプロキシである。また、成層圏下部でその3分の2が生成されるため、成層圏・対流圏物質交換のトレーサーにもなり得る。本研究の目的は、従来より格段に高解像度のアイスコア宇宙線生成核種記録を取得し、そのフォールアウト変動を連続的に解明することである。そのために世界で最も優れた試料として、グリーンランド南東ドームアイスコアIIを分析する。
  
研究内容・成果  本年度は、グリーンランド南東ドームアイスコアIIより、1870年から1889年および1919年から1940年の試料を切り分けた。切り分けは、低温科学研究所にて、コアの保管状況と年代モデルを丁寧に確認しながら、約1ヶ月の解像度が実現できるようになされた。切り分け後の試料は、弘前大学の実験室にて前処理が施され、東京大学総合研究博物館の5MVタンデム加速器を用いた宇宙線生成核種ベリリウム10の加速器質量分析に供される予定である。
 研究の最初の基盤となる2000年から2020年のベリリウム10分析データに関して、本年度もさらに解析と研究が進んだ。前年度までに既に判明したベリリウム10濃度の季節変動の特徴は、化合物として対になり得る陰イオンの濃度と強い相関を示しており、この関係に基づいた補正を行うことで、ベリリウム10濃度と宇宙線強度変動(太陽活動)との相関が向上することが明らかになった[実績1]。これは、超高解像度ベリリウム10記録より宇宙線強度と大気環境の情報を定量的に抽出するための手掛かりとなる成果である。また2000年から2020年のベリリウム10データは、第16回加速器質量分析国際会議にて発表され、21年間継続した季節変動の特徴などが大きな注目を集めた[実績2]。
 その他、前年度までに切り分けられた年代区間に関する分析も順調に進んでおり、本年度は、1850年から1869年と1962年から1979年について試料前処理と加速器質量分析がなされた。前者の期間には、観測史上最初にして最大の太陽嵐イベントであるキャリントン・イベント(1859年9月)が含まれており、これを対象にして新たに宇宙線生成核種塩素36の分析を行うための試料も調整された。
  
成果となる論文・学会発表等 [1] 堀内一穂・八木橋理子・吉岡恒星・飯塚芳徳・的場澄人・川上薫・石野咲子・捧茉優・松本真依・浜本佐彩・植村立・山形武靖・松崎浩之, グリーンランドSEドーム10Be記録ー21世紀初頭月解像度記録の解析状況ー.グリーンランド南東ドームアイスコアに関する研究集会,北海道大学低温科学研究所,2024年9月24日-9月26日.

[2] Riko Yagihashi, *Kazuho Horiuchi, Kohsei Yoshioka, Yoshinori Iizuka, Sumito Matoba, Kaoru Kawakami, Sakiko Ishino, Mahiro Sasage, Mai Matsumoto, Saaya Hamamoto, Ryu Uemura, Takeyasu Yamagata, and Hiroyuki Matsuzaki, Monthly and annual variations of 10Be fallout in the early 21st century recorded in a Greenland ice core. The 16th International Conference on Accelerator Mass Spectrometry, Guilin Bravo Hotel, Guilin, China, 21–25 Oct. 2024.