共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
透過型電子顕微鏡による氷の結晶化におけるサイズ効果の解明 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 東京大学先進科学研究機構 |
研究代表者/職名 | 准教授 |
研究代表者/氏名 | 羽馬哲也 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
佐藤玲央 | 東京大学先進科学研究機構 | 博士課程2年 |
2 |
木村勇気 | 北大低温研 |
研究目的 | 星間空間には氷と鉱物でできた微粒子である氷星間塵が存在し,太陽系を含む惑星系は氷星間塵が合体成長することで形成する.氷星間塵のサイズは約100 nm以下であるため,氷星間塵の氷の構造を理解するためには,氷のサイズをナノスケールで制御しつつ構造解析する必要がある.本研究では,低温ナノ物質科学グループが現有する超高真空極低温透過型電子顕微鏡によって,蒸着法で生成した氷についてその場観察によるサイズ測定と構造解析を行い,アモルファス氷,立方晶氷,六方晶氷が生成する条件を明らかにする.得た結果から,氷星間塵の構造が,星間空間の温度,水分子の分圧,氷のサイズに伴いどう変化するかを議論することを目指す. |
研究内容・成果 | 本研究課題の遂行のために,研究分担者である佐藤玲央氏が北大低温研に1か月滞在し実験研究を行った.滞在当初は超高真空極低温透過型電子顕微鏡によって蒸着法(低温な基板に水分子を暴露し不均質核生成によって氷を生成する方法)で生成した氷のその場観察を行う予定であったが,装置の立ち上げに時間を要することが判明した.そこで滞在期間内に研究を遂行するために,北大低温研現有の走査型電子顕微鏡(TM4000Plus, Hitachi)を用いた実験を行うこととした. 走査型電子顕微鏡によって蒸着法で生成した氷の構造をその場観察するために,まずは顕微鏡の装置改良を行った(図1).改良前の走査型電子顕微鏡では,試料室内の圧力を測定できなかったため蒸着の条件が全く制御できなかった.そこで走査型電子顕微鏡の側面から試料室にガス導入管を繋ぎ,圧力計を設置することで,試料室内の圧力を測定できるようにした.また,ガス導入管に液体の水が封入されたシリンダーを接続し,走査型電子顕微鏡の試料室内に水蒸気を導入できるようにした.加えて,試料室内に水蒸気が過剰に導入されてしまった場合,走査型電子顕微鏡に内蔵されているポンプだけでは真空引きができないことが判明したため,新たにドライポンプを外付けで設置し,試料室内の効率よい真空引きができるようにした. 図2は走査型電子顕微鏡の試料ホルダーの写真を示している.試料ホルダーは試料室外部のペルチェ素子と繋がっており,基板温度を最低-100 ℃まで冷却できる.そこで予察的な実験として,全圧2.6 Pa,基板温度-70 ℃という条件で試料室に残留する水蒸気を用いて金基板に氷を生成させる実験を行った.結果として,マイクロメートルスケールの単結晶の氷のその場観察に成功した.さらに実験中に,ペルチェ素子の冷却に使用されている冷媒であるフロリナート(フッ素系不活性液体)が偶然試料室に混入し,単結晶となっていることを発見した.このフロリナートの単結晶を観察すると結晶表面にステップがあることも確認できた. 本研究によって,改良した走査型電子顕微鏡によって結晶の成長を理解するうえで重要な「ステップの観察」が可能であることがわかったが,いっぽうで将来的な課題や改善点も多く見つかった.例えば,基板上に生成した単結晶氷のサイズをナノメートルスケールで制御しその構造を観察するためには,試料室内の水蒸気分圧(過飽和度)を精密に制御する必要がある.しかし現状の走査型電子顕微鏡では圧力計の試料室の外部に設置されているため,試料室内の圧力を直接測定できず,水蒸気分圧の制御が困難であることが判明した.そこで今後の研究方針として,試料室内の水蒸気分圧は一定にし,氷ができる基板温度を調節することで単結晶氷の平衡蒸気圧を変化させ,過飽和度依存性を調べることができないか検討を行っている. |
成果となる論文・学会発表等 |