共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

雪氷試料中における不溶性有機物の分光分析法の検討
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 秋田大学国際資源学研究科
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 安藤卓人

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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飯塚芳徳 北大低温研 准教授

研究目的 地球上には様々な種類の有機物が存在し,大部分は高分子で構成される「不溶性有機物」であるものの,放射強制力の理解に重要な分子構造や動態には未だに謎が残されている。大気中の有機エアロゾルについては,「腐植様物質」が不溶性有機物の大部分を占めるが,大気輸送中や堆積後に反応を受けてどのような化学構造・形態で沈着するか,雪氷中でも反応が進行しているかなどの質的な変化に関する研究は乏しい。本研究では,秋田大学で行なう蛍光顕微鏡観察および顕微ATR-FTIR分析と並行して,低温科学研究所に新たに導入されたラマン分光分析器を用いることで,研究の要である不溶性有機物の分析法の検討を進めた。
  
研究内容・成果 まず,2024年4月15-16日に低温科学研究所にて本共同研究に関する打ち合わせを実施した。腐植様物質の主成分は糖(正確には還元糖)とアミノ酸のメイラード反応によって形成された「アモルファス有機物」であると考えられる。そのため,同定に必要な分子的な特徴をもつ多糖類(セルロースなど)やタンパク質(グルテンなど)の標準試薬を秋田大学から持参した。これら非標準試薬のラマン分光分析は,飯塚 准教授とその指導学生である平野 瑞幸さんに実施していただいた。標準試薬の測定結果は,代表研究者が島根大学 医・生物ラマンプロジェクトセンターにて以前にラマン分光分析で得たと結果と大きく異なることはなく,処理法および分析精度に問題ないことが確認された。以後はメールベースでのやり取りを行ないつつ,秋田大学の研究室に設置されている顕微フーリエ変換赤外分光光度計(顕微FT-IR)にて,低温室ないの昇華実験で粒子を沈着させる試料台を用いた分析が可能か検討を行なった。その結果,酸化物のピークは得られるものの,50µm以上の粒子でなければ同定に必要な感度で測定ができないことがわかった。続いて,2回目の共同研究は2024年11月11-15日の期間に低温科学研究所を再訪して実施した。まず,この期間までに飯塚准教授らによってアイスコア試料中から得られた未同定有機物のラマンスペクトルに関する議論を行なった。また,島根県・中海周辺河川の懸濁粒子に含まれるアモルファス有機物について,ラマン分光分析を行なった。本試料の顕微鏡観察および赤外分光分析は秋田大学で直前に実施し,ラマンスペクトルと比較できるようにした。分析の結果,環境中のアモルファス有機物は結晶性が低いためにラマン活性が低くだけでなく,蛍光ピークが強く出るため,分析が極めて困難であることが明らかとなった。一方で,熱などをアモルファス有機物が受け変成した場合にはD,Gバンドが検出されることがわかり,これらがアイスコア試料中にも含まれている可能性が示唆された。さらに,アモルファス有機物中に含まれていた糖タンパクからなるバクテリアの細胞や菌胞子の分析を行なったところ,以前に代表研究者がキチン質の細胞壁と同様の数µm程度の極微小な粒子であっても低温科学研究所の顕微ラマン分光器で分析が可能であることがわかった。この極微小な粒子は「バイオエアロゾル」としても注目されており,令和7年度共同研究ではこれらの高分子分析を実施する。
  
成果となる論文・学会発表等 平野 瑞幸,飯塚 芳徳,川上 薫,的場 澄⼈,⼤野 浩,安藤 卓⼈:グリーンランド南東ドームの積雪やアイスコアに含まれる不揮発性微粒⼦のラマン分析,雪氷研究大会
(2024・長岡),2024年9月16日〜19日