共同研究報告書
研究区分 | 開拓型研究 |
研究課題 |
水/氷界面に生成する同素不混和水の構造多様性の解明 |
新規・継続の別 | 開拓型(1年目/全3年) |
研究代表者/所属 | 東北大学多元物質科学研究所 |
研究代表者/職名 | 助教 |
研究代表者/氏名 | 新家寛正 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
灘浩樹 | 鳥取大学学術研究院工学系部門 | 教授 |
2 |
羽馬哲也 | 東京大学先進科学研究機構 | 准教授 |
3 |
木村勇気 | 北大低温研 | |
4 |
山崎智也 | 北大低温研 |
研究目的 | 水からの氷の形成過程の解明は、寒冷圏及び低温下における地球惑星科学および環境科学的現象に関する学理において極めて重要な課題である。これまでに代表者は、高圧環境下で水から生成する氷の界面において水から巨視的に分離する未知の水が生成することを光学顕微鏡その場観察により発見し、この未知の水を同素不混和水と命名した。また、様々な氷多形と水の界面で同素不混和水を確認し、その構造多様性を示唆してきた。本研究では、アンビルを適切に微細加工することで、局所的な分光や電場印可実験により同素不混和水の構造ならびに液晶性を確かめることを目的としている。 |
研究内容・成果 | アメリカ化学会の発行する国際学術誌Crystal Growth and DesignとThe Journal of Physical Chemistry Cの共同Virtual Special Issueである“Heterogeneous Drivers of Ice Formation”への論文招待を受け、本共同研究を通じて作製した動的アンビルセルを用いて、氷Ihベーサル面と水の界面に生成する同素不混和水の印可過加圧に対する応答を顕微レーザー干渉計その場観察により調査した。その結果、生成する同素不混和水の厚さは、過加圧の大きさに比例することを明らかにした。この発見は、同素不混和水は熱力学的な相であるか?という問いに対し、示唆を与えるものである。更に、過加圧の大きさに応じて、液膜状と目玉焼き状の形態をとることを明らかにした。氷/空気界面に生成する疑似液体層にも同様の形態が観察されることが知られているが、疑似液体層の液膜の厚みが9 nm程度であるのに対し、同素不混和水の液膜の厚みは230 nm程度であり、両者には大きな違いがあることを明らかにした。疑似液体層の厚みは氷界面からの狭義のvan der Waals相互作用を反映した厚みであることが指摘されている。一方、230 nmにも及ぶ同素不混和水の液膜の厚みはこの相互作用では説明できず、何らかの別の相互作用を考慮する必要性が示唆された。現時点では、その相互作用を明確に特定することはできないものの、近年の重水のハイパーラマン分光により、分子の振動が永久双極子同士の双極子―双子極子相互作用を介して200 nmを超える長距離の相関を示すことが指摘されている。この長距離相関を考慮することで、液膜の厚みが説明できる可能性が示唆される。これらの発見は、招待論文として掲載された。掲載論文のプレスリリースを東北大学・北海道大学・鳥取大学・東京大学の共同で行い、日本経済新聞など国内の主要なメディアに取り上げられるに至った。 近年、高屈折率誘電体へナノ陥没空孔構造を形成することで、その陥没空間中で光が共鳴するMie空孔共鳴がナノフォトニクスの分野で注目されている。Mie空孔共鳴では、特定の波長で反射率が大きくなるため、その空孔は強く色づく。この共鳴波長(色)は周辺媒質の屈折率により変化するため、Mie空孔共鳴は微小量媒質の屈折率センサとして応用できることが知られている。このセンサを水/氷界面に微小量生成する同素不混和水へ適用し、その屈折率の決定を行うことを目的として、SiCアンビルへのナノ空孔を収束イオンビームにより形成した(図1)。形成した空孔のMie共鳴を、ハイパースペクトルカメラにより反射率スペクトルを測定することで確かめた。今後、この手法を用いて同素不混和水の屈折率の決定に取り組む。また、形成した空孔内に金属ナノ粒子を蒸着し、表面増強ラマン分光を行うことで、同素不混和水の構造に関する知見を得る予定である。現在、分光実験へ向けて、独自に共焦点顕微ラマン分光光学系を構築している(図2)。 |
成果となる論文・学会発表等 |
○論文 【Invited Article】H. Niinomi*, H. Nada, T. Yamzaki, T. Hama, A. Kouchi, T. Oshikiri, M. Nakagawa, Y. Kimura, Dependence of Homoimmiscible Water Dynamics on Overpressure at the Interface between Water and the Basal Plane of Single-Crystal Ice Ih, J. Phys. Chem. C 128(37), 15649–15656, 2024 ○プレスリリース “未知の水“同素不混和水”の圧力に対する2 種類の応答を発見─水/氷間の相転移過程解明に一歩前進─”2024年9月12日 〇メディア掲載 日本経済新聞電子版 “東北大・北大・鳥取大・東大、未知の水「同素不混和水」の圧力に対する2種類の応答を発見”2024年9月12日 〇学会発表 1. Chiral spinodal-like ordering of homoimmiscible water at the chiral ice III/water interface, H. Niinomi, T. Yamazaki, H. Nada, T. Hama, A. Kouchi, T. Oshikiri, M. Nakagawa, Y. Kimura, Chirality 2024 2024年8月28日 2. 【招待講演】非平衡な水/氷界面において水から分離する 同素不混和水の光学顕微鏡その場観察, 新家寛正, 日本 MRS 水素科学技術連携研究会2024年10月4日 他4件 |