共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

多雪地域森林環境における好雪性変形菌の群集構造及び分布拡散機構の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 静岡県立大学食品栄養科学部
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 梅澤和寛

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

出川洋介 筑波大学生命環境系 准教授

2

谷幸則 静岡県立大学食品栄養科学部 教授

3

福井学 北大低温研 教授

研究目的 変形菌はライフステージにより形態を変化させる微生物であり、子実体から放出された胞子が発芽して運動性のあるアメーバ細胞となる。細菌などを捕食して成長し、変形体となり、やがて子実体を形成する。子実体を用いた調査が変形菌研究の主流であり、それ以外のライフステージにおける変形菌の生態学的知見は未だ少ない。なかでも、融雪期に子実体を形成する好雪性変形菌の生態はその多くが未解明である。本研究では、環境試料から遺伝子に基づく菌叢解析を行うためのプライマーを作成した。また、筑波大学菅平高原実験所で融雪期の野外調査を実施した。
  
研究内容・成果 変形菌はLucisporomycetidae亜綱とColumellomycetidae亜綱に大きく分類されるが、菌叢解析に用いる既存のプライマーのほとんどはColumellomycetidae亜綱を標的としている。そこで、Leontyevらが作成した18S rRNA遺伝子の強固なアライメント配列を参考にして(Leontyev, Dmitry V., et al. (2019) Phytotaxa 399.3: 209-238.)、Lucisporomycetidae亜綱とColumellomycetidae亜綱の両方が検出される18S rRNA遺伝子のほぼ全領域を標的としたプライマーを設計した。そして、作成したプライマーがNCBIのデータベース上にあるLucisporomycetidae亜綱とColumellomycetidae亜綱の両方の18S rRNA遺伝子が検出されることをPrimer-BLASTを用いて確認した(Ye, J., et. al. (2012) BMC Bioinformatics. 13:134.)。変形菌の多くが18S rRNA遺伝子上に挿入配列があるため、PCR産物の長さは均一ではなく長いものでは7000bp弱になると予想された。
2022年9月に筑波大学菅平高原実験所で採取したTrichia属の未成熟子実体からDNAを抽出して、設計したプライマーを用いてPCRを実施した。その結果、3000〜5000bpの2つのPCR産物が得られた。今後シーケンサーにより配列を解読することが必要であるが、Trichia属の18S rRNA遺伝子が増幅されたことが示唆された。Trichia属はLucisporomycetidae亜綱に分類されるため、本プライマーはLucisporomycetidae亜綱に対しても機能する可能性がある。また、同実験所内にある滝周辺の土壌および池の堆積物から抽出したDNAを用いて本プライマーでPCRを行った。その結果、両方の堆積物からPCR産物が得られ、陸水環境にも変形菌がいる可能性が示された。
また、残雪がある2024年3月に同実験所で調査を行った。調査時点では雪が多くあり、子実体の形成はみられなかったが、融雪期に好雪性変形菌が多く出現する地点で調査を行い、表層の雪、土壌付近の深層の残雪、そして、その下のリターおよび土壌を採取した。今後は、これらの試料からDNA抽出を行い作成したプライマーでPCRを実施する。そして、Nanopore sequencingなどの次世代シーケンサーを用いて、これまでに増幅したものを含むPCR産物をシーケンス解析して、設計したプライマーで変形菌の18S rRNA遺伝子が増幅されることを確認し、環境中の変形菌叢を明らかにしたい。
  
成果となる論文・学会発表等