共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

海洋細菌による半導体合成過程のその場観察
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 広大先進理工
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 富永依里子

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

岡村好子 広大統合生命 教授

2

椋木亜美 広大先進理工 博士課程前期2年次生

3

姉川輝亮 広大先進理工 博士課程前期1年次生

4

木村勇気 北大低温研

5

山崎智也 北大低温研

研究目的 本研究は、細菌が呼吸をする際に利用する呼吸鎖 (電子伝達系) のはたらきによる金属イオンの酸化還元反応を制御するという着眼点を基に遂行している。研究代表者 (富永) と分担者 (岡村) は、硫化鉛(PbS)や硫化カドミウム(CdS)の微結晶、更に一部が結晶の非晶質InGaAsを合成する海洋細菌をこれまでに得ている[特許第7095871号]。しかし、これらの細菌がこうした化合物半導体を合成するメカニズムは未解明である。本共同研究では、海洋細菌がこれらの半導体を水中で合成する過程を、溶液セル透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いてその場観察し、細菌が化合物半導体結晶および非晶質を合成する機構の解明につなげることを目的とする。
  
研究内容・成果 当該年度は、代表者(富永)と分担者(岡村)が有するPbSを合成する細菌叢に着目した。分担者の木村教授と山崎助教の溶液TEMを用い、まず、代表者らが広島大学で使用している培地の中で細菌が生存した状態でTEMの試料室に設置して観察した。初の試みのため、初めは溶液セル内の細菌を確認することすら困難であったが、徐々に見え方が判明し、楕円体の菌体が溶液TEMで観察できるようになった。その際、菌体の周辺に存在する物質(主にPbS)も同時に確認できるようになった。一方で、長時間TEM装置の中に試料を設置すると、恐らく培地の蒸発が起きており、設置直後とは異なる気泡由来の楕円体の形状が見られ、菌体の観察を阻害することも判明した。また、菌体に長時間電子線を照射すると、試料設置直後から確認できた細菌体内の生体由来の物質を残し、菌体が消失するという現象も確認した。以上のことから、細菌体を溶液TEMを用いて生存した状態で観察するには、手法の改善が求められることが明らかになった。細菌体の観察についてはこのように手法の改善が必要であるため、次に、細菌が合成した物質(今年度はPbS)に焦点を当てた。純水を用いて培地を洗い流し、遠心分離を行って菌体にPbSが付着した状態で試料をTEM用メッシュに滴下し、一晩乾燥させてから翌日TEM観察を行った。菌体もPbSも非常に明瞭に観察でき、この乾燥させた試料においては電子線を照射しても菌体が消失することはなかった。PbSの箇所に対し、TEM付属のエネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて元素マッピングを測定したところ、PbとS由来の特性X線強度がマップ上で重なり、同一領域にPbとSが存在していることが確認できる結果となった。これにより、結晶にはなっていない非晶質の他の半導体材料を合成する細菌と物質に対して同様にEDSマッピングを測定すれば、半導体の構成元素が同一領域に存在しているか物質領域の中で分離して存在しているかを明らかにすることができると現時点で考えている。以上、当該年度は、溶液TEMと通常のTEM両方を用いて半導体を合成する細菌を観察した場合のTEM装置や観察手法の改善点、十分に解析できていないPbS以外の試料に関して得られる有益な情報を明らかにすることができた。
  
成果となる論文・学会発表等 現時点で該当なし。