共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

星間塵表面における硫黄原子の化学反応実験
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 新潟大学
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 下西隆

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

渡部直樹 北大低温研

研究目的  硫黄は、宇宙において10番目に豊富な元素であり、星間分子を構成する元素の中では水素・酸素・炭素・窒素・ケイ素に次いで高い存在比を持つ。しかし、硫黄を含む星間分子の化学過程については多くの謎が残されている。近年の星間氷の赤外線観測の進展により、極低温の分子雲における硫黄原子の星間氷表面での化学反応の重要性が示唆された。しかし、硫黄原子の表面反応についてはほとんど実験的知見が得られていない。そこで本研究は、硫黄原子の星間氷表面での化学反応の様子を明らかにすることを最終的な目標とし、当該年度の研究では真空チャンバー内に設置された極低温基板上に硫黄原子を吸着させるための技術検討を行う。
  
研究内容・成果  本年度は2024年3月18日から19日にかけて低温科学研究所を訪問し、技術検討および研究打ち合わせを行なった。技術検討は、渡部直樹教授のグループが保有する表面反応実験装置を用いて行なった。原子源が利用可能な水素や炭素と違い、硫黄原子を実験的に取り扱うには、星間氷模擬サンプルの表面上に硫黄原子を滞留させるための手法を開発する必要がある。これにはいくつかの方法が考えられる。一つは、H2Sなどの硫黄を含む分子ガスを極低温基板上に吸着させ、これをレーザーで解離させることでHSおよびSを生成し、さらにこの操作を温度を上げた状態の基板の上で行うことで、発生する余分なHおよびHSを表面から脱離させ、硫黄原子のみを表面に吸着させる方法である。この方法については、今年度渡部教授のグループにおいて技術検証が進み、硫黄原子を極低温の基盤表面に滞留させることが可能であることは示された。しかし、現状では生成可能な硫黄原子の量が少なく、赤外線分光によりその化学過程を追うのに十分な発生量はまだ得られていない。今後、レーザー照射時間や基板温度を調整することで十分な量の硫黄原子を得られる可能性がある。
 もう一つの方法は、H2Sなどの硫黄を含む分子ガスをマイクロ波放電により解離させることで硫黄原子を発生させ、これを基板上に蒸着させるものである。この手法を用いる場合、前者の方法に比べて大きな量の硫黄原子を発生させることが可能になる。しかし、マイクロ波放電は極低温基板の設置されるメインチャンバーとは別のサブチャンバーにて行う必要があるため、発生する硫黄原子がサブチャンバー内壁へ吸着するのを防ぐ必要がある。これには、サブチャンバー自体を暖めて内壁への吸着を防ぐ方法が提案された。また、発生させた硫黄原子を、指向性を持ったガス流として基板に向かわせるための工夫も必要となる。今後も検討を続け、極低温基板上の星間氷模擬サンプル表面における硫黄原子の表面反応を観測する技術的な課題をクリアしていく。
  
成果となる論文・学会発表等