共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

東南極における定着氷・棚氷による氷河流動の抑制
新規・継続の別 継続(R03年度から)
研究代表者/所属 日大工学部
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 中村和樹

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

山之口勤 RESTEC 主幹研究員

2

青木茂 北大低温研

3

杉山慎 北大低温研

研究目的 白瀬氷河やトッテン氷河等の流動場および接地線を含む流動環境を、衛星観測されたデータを解析することにより導出する。とくに、Calving端の前後に注目して、主として合成開口レーダ(SAR)を用いることにより、氷河およびそれを取り囲む定着氷・棚氷の流動環境の時間的かつ空間的変動に関する考察を目指す。
  
研究内容・成果  白瀬氷河の下流域(Grounding line: GLから沖側)に着目し,流動速度はALOS-2/PALSAR-2の高分解能モード(10 m)HH偏波データにオフセットトラッキング法を適用して求めた.氷厚はCryoSat-2/SIRALのSINモードデータに静水圧平衡を適用して,表面高度から氷厚に変換して求めた.本研究の解析期間は,ALOS-2/PALSAR-2とCryoSat-2/SIRALを組み合わせて解析できる2016年から2020年である.
 白瀬氷河浮氷舌における流動速度および氷厚について,2016年から2020年のGLから15 km下流(以降,15 km DGLと呼ぶ)から60 km DGLにおける年々変動を調べた.その結果,氷河浮氷舌は末端へと流動速度が速くなる傾向を示し,氷厚は薄くなる傾向を示した.また,白瀬氷河下流域における氷厚と流動速度の関係を調べた結果,大局的には流動速度の加速に伴い氷厚が薄くなる負の相関関係が見られ,その相関係数は0.61であった.以上の傾向について,氷河の流動は非圧縮性流体として近似できるため,質量保存の法則に基づくと,流動速度と氷厚の間には流動速度の加速に伴い,氷厚が薄くなる関係にあることが導出できる.そのため,流動速度の加速に伴う氷厚が薄くなる負の相関関係が見られた結果と調和的である.
 氷厚の平均場からは,35 km DGLを境界として上流側と下流側の氷厚に顕著な変化量の違いが見られ,上流側(15–35 km DGL)の変化量が235 mに対して,下流側(40–60 km DGL)では36 mと上流側の1/6以下であった.下流域における平均流動速度は2.5 km a–1であることを考慮すると,氷河の20 kmの伸長は8年の経過と見なせる.白瀬氷河下の底面融解モデル5)では6–13 m a–1の融解と見積もられており,下流域における氷厚変化は底面融解の寄与が大きいと考えられる.一方,上流側における氷厚の変化は,底面融解の他に,流動速度の加速に伴う水平方向の発散に依拠すると考えられた.
  
成果となる論文・学会発表等 佐竹祐里奈, 中村和樹: 白瀬氷河における東西流線の違いによる氷厚の非対称性, 雪氷研究大会(2023・郡山), 福島県郡山市, 2023年9月.
中村和樹, 佐竹祐里奈, 山之口勤,青木茂: 人工衛星データから得られた白瀬氷河下流域における流動速度と氷厚の関係, 雪氷研究大会(2023・郡山), 福島県郡山市, 2023年9月.
大川翔太郎, 土井浩一郎, 青山雄一, 中村和樹: 白瀬氷河における流動速度変動と氷山座礁の流動速度への影響, 日本リモートセンシング学会第75回学術講演会, 宮城県仙台市, 2023年11月.
佐竹祐里奈, 中村和樹: CryoSat-2/SIRALを用いた白瀬氷河浮氷舌の東西流線における氷厚分布, 日本リモートセンシング学会第75回学術講演会, 宮城県仙台市, 2023年11月.