共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

氷床中の宇宙線生成核種を使った太陽粒子嵐の復元
新規・継続の別 継続(R04年度から)
研究代表者/所属 名古屋大学宇宙地球環境研究所
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 栗田直幸

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

三宅芙沙 名古屋大学宇宙地球環境研究所 准教授

2

的場澄人 北大低温研 助教

研究目的 本提案研究は、氷床試料に記録されている宇宙線生成核種(10Beなど)の履歴を用いた古太陽活動の高精度復元に取り組む。太陽活動の直接観測が開始された1950年代から現在までの10Be変動を明らかにし、直接観測結果との相互比較から、氷床中10Beが記録する太陽活動の規模や周期を明らかにする。さらに、太陽活動以外に10Be変動を引き起こす要因を特定し、その影響を取り除くことで、より詳細に古太陽活動を復元できる古環境プロキシ開発にも取り組む。
ドームふじ基地で採取した積雪ピットの化学分析結果  
研究内容・成果 申請グループは、第63次南極地域観測夏隊に参加し、ドームふじ基地にて深さ5.4mの積雪ピット試料を採取した。令和5年度は、この積雪ピットを利用して1950年代から現在までの10Be変動を明らかにし、太陽活動周期との比較を実施した。日本に持ち帰った積雪試料を融解させたのち、名古屋大学にて水素・酸素安定同位体比とトリチウムの分析、そして10Be分析の前処理を行った。その後、東京大学(MALT)の加速器質量分析計を用いて10Be分析を行った。低温科学研究所では、無機イオン化学成分の分析を行った。過去に同地域で行われた研究では、核実験由来トリチウム極大値、大規模火山噴火(ピナツボ、アグン等)マーカーから年代決定が行われている。そこで、本研究でも同様の手法を用いて年代決定を行い、試料採取年(2022年)からアグン火山噴火由来降下物の観測年(1964年)までの年代を決定した。そして、この期間における10Be時系列データと太陽活動周期(11年周期)の比較を行った。

10Be時系列データは、周期的な変動を示すものの太陽活動周期に応じた変動は不明瞭であった。一方、10Beは、水素・酸素同位体比と統計的に有意な負相関関係(R=-0.56)を示していた。申請者が昨年度までに実施した研究より、ドームふじ基地の水安定同位体比の変動は、沿岸域からの暖気輸送、内陸域からの寒気輸送に対応していることが明らかとなっている。それゆえ、10Be変動も大気輸送の影響を受けていると考えられる。そこで、この影響を取り除いた10Be-anomaly指標を新たに導入した。そして、この新プロキシーの時系列は、太陽活動周期に対応した変動を示した。この結果は、大気輸送過程を取り除くことで、従来よりも正確に太陽活動の変調を復元できることを示している。また、氷床中の10Be変動に影響する大気輸送過程を明らかにするため、ドームふじ基地周辺で行われた気象データを収集し、1993年から2022年までの過去30年間にわたる気温データセットの作成も行った(Kurita et al., 2024)。

次年度は、気象データと10Beとの相互比較を行い、10Be変動を引き起こす大気循環場の特徴を明らかにするとともに、新しく導入した10Be-anomaly指標が他の氷床試料にも応用できるか検討を行うことを計画している。
ドームふじ基地で採取した積雪ピットの化学分析結果  
成果となる論文・学会発表等 N. Kurita et al. Near-surface air temperature records over the past thirty years in the interior of Dronning Maud Land, East Antarctica, J. Atmos. Ocean Technol. 41, doi:10.1175/JTECH-D-23-0092.1, 2024

N. Kurita et al. SAT change at Relay Station in the interior East Antarctica during the last 30 years, 18th Workshop on Antarctic Meteorology and Climate (WAMC),Madison, Wisconsin, USA, 31/05/2023

N. Kurita et al. A regime shift in surface temperature over the East Antarctic Plateau in the twentieth century, IUGG 2023, Berlin, Germany, 11/07/2023

N. Kurita et al. Warming trend in the Dome Fuji region of East Antarctica over the past three decades, The 14th Symposium on Polar Science, Tokyo, Jaoan, 15/11/2023

F. Miyake, N. Kurita et al. Investing the sub-annual 10Be variation at the Antarctic Dome Fuji for the past 70 years, The 9th East Asia Accelerator Mass Spectrometry Symposium, Seoul, Korea, 23/11/2023