共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
地球外含窒素複素環化合物の分子進化の解明 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 海洋研究開発機構 |
研究代表者/職名 | JSPS特別研究員 |
研究代表者/氏名 | 古賀俊貴 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
高野淑識 | 海洋研究開発機構 | 主任研究員 |
2 |
大場康弘 | 北大低温研 |
研究目的 | 申請者と低温科学研究所内分担者(大場)は、炭素質小惑星リュウグウ試料や炭素質隕石試料から地球外起源の核酸塩基を同定してきた。それぞれの地球外試料中に含まれる核酸塩基の分布は、星間分子雲から小惑星・隕石母天体環境まで進行した有機反応の違いを反映していると考えられるが、その詳細は明らかにされていない。本研究では、地球外試料から検出される含窒素複素環化合物に着目し、極低温環境で生成する単純な構造を持つ有機分子から、プリン塩基のような複雑な構造を持つ有機分子が生成される分子進化のメカニズムを解明することを目的とする。この目的のため、星間分子雲環境を模擬した実験生成物を出発物質とした加熱実験を行った。 |
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研究内容・成果 | 極低温環境(約10K)を模擬した室内実験生成物(以下、模擬氷実験生成物)と、ピリミジン化合物の標準試料である5-カルボキシアミド-4-アミノイミダゾール(AICA)及び5-カルボキシニトリル-4-アミノイミダゾール(AICN)を混合し、加熱実験を行った。模擬氷実験生成物には15N標識アンモニアが使用されており、一方でピリミジン化合物は14Nから構成されている。このため、生成されるプリン塩基には14Nと15Nの両方が含まれると予想されていた。加熱実験の結果、14Nのみから構成されるプリン塩基が主に生成されていることが確認された。これは、模擬氷実験生成物由来の有機分子を介さずに、AICAやAICNから直接プリン塩基が生成されたことを意味している。模擬氷実験生成物中に含まれる多量のC1分子(例えば尿素)とAICAやAICNの間の縮合反応によりプリン塩基が生成されると予想されていたが、AICAとAICNのそれぞれの反応がより効率的にプリン塩基を生成することが示唆された。 次に、AICAとAICNを超純水中で加熱反応させた際のプリン塩基の生成を検証した。標準試料を溶解し、窒素雰囲気下で封じたガラスアンプル管を120℃で5日間加熱した結果、AICAからは2,6-ジアミノプリン、グアニン、キサンチン、ヒポキサンチンが、AICNからはこれらに加えてアデニンとウラシルも生成された。先行研究(R. Sanchez, J. Ferris, L. Orgel, Journal of Molecular Biology, 38, 121–128, 1968)では、AICAやAICNとC1分子の反応によるプリン塩基の生成は報告されていたが、それらを単独で加熱反応させることによる多様な核酸塩基の生成は確認されていなかった。本研究の結果から、AICAとAICNのニトリル基(-CN)とアミド基(-CHO)が他の分子と縮合してプリン塩基を生成することが示された。特に、AICNのニトリル基が加水分解してAICAのアミド基を生成することが、AICNからより多種の核酸塩基が得られた理由として考えられる。 今後の研究では、異なる温度やpH条件下でのAICAとAICNからの核酸塩基生成パターンの変化を調査する。さらに、核酸塩基以外に生成される窒素環状化合物の分布を調査し、隕石や小惑星試料において観察される分布との比較を行い、それらの分子の生成機構についての議論を深めることを目指す。 |
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成果となる論文・学会発表等 |