共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

全球気候モデルと全球氷床モデルの連携による系外惑星における水・物質循環の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 東北大学大学院理学研究科
研究代表者/職名 特任研究員
研究代表者/氏名 鎌田有紘

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

黒田剛史 東北大学大学院理学研究科 助教

2

小玉貴則 東京工業大学地球生命研究所 特任准教授

3

古林未来 東北大学大学院理学研究科 修士2年

4

グレーべラルフ 北海道大学低温科学研究所 教授

研究目的  今日までに太陽系近傍では5500以上の系外惑星が観測されており,その多くがM型星を周回する惑星である.こうした惑星の公転軌道は主星と近く潮汐固定された惑星環境のため,昼夜間の温度差が大きく,昼側から夜側に水や二酸化炭素が一方的に輸送され,夜側で凝結して厚い氷床となると推測されている.しかしながら,これまでの系外惑星におけるGCMを用いた研究では惑星気候のハビタビリティーが中心的に議論され,惑星全体で整合のとれた水・物質循環を考慮したモデル研究はあまりなされてこなかった.本研究は,従来の研究で十分に考慮されてこなかった雪氷圏が惑星気候に与える影響をGCMとの連携により解明することを目的とする.
  
研究内容・成果  本研究では雪氷圏がTRAPPIST-1惑星系の気候に及ぼす影響を,応募者がこれまでに火星古気候用に開発してきた全球気候・河川・氷床結合モデルを基盤に検証した.また,応募者らが古火星のモデリングで用いた放射コードをTRAPPIST-1惑星系に適用できるように拡張した.さらに,GCMと全球河川モデル,全球氷床モデルをオンラインで計算できるようにモデルを改修し,惑星全体で整合のとれた水・物質循環を考慮できるように設計した.
 本研究ではTRAPPIST-1惑星系の中でも,特に生命存在可能性が高いと考えられているTRAPPIST-1eを対象として気候計算を実施した.水平分解能はT42(約2.8度)として鉛直30層とした.放射伝達計算には,TRAPPIST-1の恒星スペクトラムを使用し,地表面気圧は1気圧,大気成分としてはN2またはCO2を仮定した.本研究に先立ち,THAIプロトコルのベンチマーク(Fauchez et al.,2020)に基づき,乾燥状態(Ben1/Ben2:THAI Part1を参照)と湿潤状態(Hab1/Hab2: THAI Part2を参照)の両方の惑星条件でシミュレーションを行い,われわれが開発したモデルの検証を行った.この結果,我々のモデルは乾燥状態・湿潤状態いずれの場合においても先行研究と概ね一致する結果を得ることができ,モデルの妥当性を示すことができ,当初計画で予定していた通りTRAPPIST-1eの気候再現実験を実施した.
 本研究では,初期水源として夜側に高さ数kmの氷床の存在を仮定した.その結果,昼夜境界領域の夕方側においては,恒星直下点から流れてくる暖気の流入によって,朝側よりも常に暖かくなり,夕方側で活発な氷床表面・底面での融解が促進され,昼側に向かって河川が形成されることがわかった.昼側の川は恒星直下点に向かうにつれて徐々に加熱され,蒸発し,最終的に水蒸気は雪として夜側に降り積もるという惑星規模のダイナミックな水循環が確認された.こうした活発な氷床表面・底面での融解,さらには河川の生成・消滅は,TRAPPIST-1eに複雑な気候システムが存在することを示しており,今後のJWSTによる観測で得られる結果の解釈に重要な示唆を与えるものとなった.
 こうした一連の研究成果は本年5月に開催されるJpGU2024の系外惑星セッションで発表される予定である.
  
成果となる論文・学会発表等 Kamada, A, Kuroda, T., Kobayashi, M., Kodama, T. & Greve, R. Day-Night Water Cycle Dynamics on Trappist-1e using An Integrated Global Climate, Hydrological, and Glaciological Modeling. JpGU Meeting 2024, Makuhari Messe, Chiba, Japan. (発表予定・予稿投稿済み)