共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

グリーンランド南東ドームアイスコアを用いた産業革命以降の大気酸化剤濃度の復元
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 金沢大学環日本海域環境研究センター
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 石野咲子

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

坪井彩紀 金沢大学大学院自然科学研究科 修士課程1年

2

飯塚芳徳 北大低温研

3

的場澄人 北大低温研

研究目的 オゾン(O3)とOHラジカルに代表される「大気酸化剤」は、あらゆる大気成分の生成と消滅を駆動するため、人為活動による大気酸化剤の変遷の把握は極めて重要である。しかし大気酸化剤の多くはアイスコアに保存されないため、有効なプロキシが無いか探索が続けられている。その一案として、申請者はこれまで、過酸化水素の酸素同位体組成(Δ17O(H2O2)値)の分析手法の開発に取り組んできた。本研究では、このΔ17O(H2O2)値という新規プロキシの分析を、低温研・飯塚准教授らが掘削した第2期グリーンランド南東ドームアイスコア(SE2コア)に適用し、産業革命以降の大気酸化剤濃度の変遷を復元することを目的とする。
  
研究内容・成果 今年度は主に金沢大のΔ17O(H2O2)値分析装置の改良を進めた。本分析装置は、溶液試料中のH2O2を過マンガン酸カリウムと反応させることで生成する酸素ガス(O2)の同位体比を分析するものである。この手法をアイスコア試料に適用することを目指し、必要試料量などの分析条件の検討を行った。
まず、既知量の純酸素をシリンジで装置に導入することで検量線を作成した。直線性をもった検量線(R2 = 0.999)が得られ、酸素の定量には問題がないことを確認した。また、シリンジで導入することができた最低量の酸素が2 uL(約100 nmol)だったが、そのときの酸素同位体比Δ17Oは約-0.3‰と、純酸素に期待される通りの値が得られた。この値を一般的な雪氷試料中のH2O2濃度で換算すると、約50 mLの雪氷試料があれば同位体比を測定できることが示唆された。この試料量ならばアイスコアの分析にも問題ないと期待される。
次に、装置内からのO2ブランクの除去方法の検討に取り組んだが、装置内を純ヘリウムキャリアガスでパージするだけではブランクを十分に除去することできなかった。正確な同位体測定を行うためにブランク量を低減することを優先課題とし、今年度はアイスコア試料の分析まで到達しなかった。現在、ブランクをより低減するために、反応容器の密閉性の改良に取り組んでいる。ただし、残念ながら1月1日に発生した地震の影響により同位体比質量分析計が故障したため、一時的に研究を中断している。
一方で、装置改良後のテスト試料として使用するため、グリーンランド南東ドーム(SEドーム)で採取された積雪試料の切り出しを低温研において行った。金沢大学へ輸送後、その一部を分取してH2O2濃度を行ったところ、平均で約2 uMであり、同位体分析に必要な量のH2O2が含まれていることが確認できた。今後装置の修理と改良が完了次第、順次同位体分析に着手していく。
そのほか、前年度までに分析していた第2期SEドームアイスコアのH2O2濃度のデータを用いた年代決定の結果について、3件の学会発表を行った。
  
成果となる論文・学会発表等 Tsuboi, S., S. Ishino, K. Kawakami, S. Hattori, T. Sagawa, S. Matoba, Y. Iizuka “Long-term variations of hydrogen peroxide in Greenland ice cores over the past 200 years”、日本地球惑星科学連合大会、千葉、2023年5月
Kawakami, K., Y. Iizuka, M. Sasage, M. Matsumoto, T. Saito, A. Hori, S. Ishino, S. Fujita, K. Fujita, K. Takasugi, T. Hatakeyama, S. Hamamoto, A. Watari, N. Esashi, M. Otsuka, R. Uemura, K. Horiuchi, M. Minowa, S. Hattori, T. Aoki, M. Hirabayashi, K. Kawamura, S. Matoba “A 220-year record of accumulation rate and melting history of the SE-Dome II ice core from southeastern Greenland” 、日本地球惑星科学連合大会、千葉、2023年5月
Yagihashi, R., K. Horiuchi, K. Yoshioka, Y. Iizuka, S. Matoba, K. Kawakami, S. Ishino, M. Sasage, M. Matsumoto, T. Yamagata, H. Matsuzaki, “グリーンランド南東ドーム第二期アイスコアから得られた2000年から2020年の約一ヶ月分解能10Be記録” 日本地球惑星科学連合大会、千葉、2023年5月