共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	気候変動に対する北方林の脆弱性評価のための定量的・効率的な古植生復元手法の開発
新規・継続の別	新規
研究代表者／所属	滋賀県立琵琶湖博物館
研究代表者／職名	専門学芸員
研究代表者／氏名	林竜馬

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	関宰	北大低温研

研究目的	現在進行している地球温暖化による北方林の変化が危惧されており、その影響は陸上生態系にとどまらず、地球規模での気候システムへも大きな影響を及ぼす可能性が指摘されている。　本研究では、過去の北方林動態を定量的かつ効率的に復元するための新たな手法開発を目指して、①花粉分析に基づく定量的な植生景観復元モデルの応用と、②バイオマーカー分析による高時間分解能での定性的復元手法の検討を行った。ただし、2023年度については研究代表者の健康上の理由により、北海道大学雨龍研究林でのフィールド調査を実施することができなかったため、①に関連した北海道における遺跡での花粉分析データの収集のための調査を行なった。
北大博物館資料から収集した遺跡花粉分析報告書リスト　北大図書館北方資料から収集した遺跡花粉分析報告書リスト
研究内容・成果	過去の陸域植生の復元には、湖沼や湿原、海洋堆積物の花粉分析が広く実施されてきた。しかし、花粉が遠方から飛散することや、植物分類群によって花粉生産量が異なることから、定性的な植生の増減を解明することはできても、定量的な植生量を復元することは困難であった。さらに、花粉分析は機械化・自動化することができておらず、高時間分解能での分析が難しい点も大きな課題である。　本年度は、過去の北方林動態を定量的に復元するための①花粉分析に基づく定量的な植生景観復元モデルの応用と、北方林動態を効率的に復元するための②バイオマーカー分析による高時間分解能での定性的復元手法を検討するため、北海道大学雨龍研究林における表層堆積物の花粉分析と周辺植生との比較調査を計画した。本研究では、北海道大学雨龍研究林に分布する北方針広混交林をフィールドとして、泥川湿原周辺のエゾマツやトドマツと落葉広葉樹の混交林、湿原内のアカエゾマツやヤチダモの湿地林など、様々な植生タイプで表層堆積物を採取し、周辺植生調査を実施することを計画し、調整を行なった。　しかしながら、研究代表者の健康上の理由で2023年度に実施することができなかった。そのための代替調査として、①花粉分析に基づく定量的な植生景観復元モデルに適用する花粉分析データ収集のための、①-1) 千歳・苫小牧周辺における湖沼の現地下見調査と、①-2) 北海道の遺跡での花粉分析データの収集整理を実施した。　北海道の遺跡での花粉分析データの収集整理については、2024年2月に北海道大学図書館、理学部図書館、北海道立図書館において、北海道における発掘調査報告書の調査を行なった。調査対象とした報告書は、埋蔵文化財研究会（2001）がまとめた自然科学分析データベースに記載されている花粉分析データを基にした。今回の調査の結果、大学図書館本館の北方資料53報告書、理学部図書館で調査した北海道大学博物館収蔵図書62報告書、北海道道立図書館収蔵図書6報告書、計121報告書内で花粉分析データが見つかり、報告書の精査と必要箇所の複写を実施した（別添資料参照）。また、共同研究費での調査計画について低温科学研究所の関宰氏と、発掘調査報告書について北海道大学埋蔵文化財センターの高倉純氏とそれぞれ打ち合わせを行なった。　遺跡の花粉分析データを用いた定量的な植生景観復元モデルに適用に関しては、滋賀県における事例についての報告が公表され、モデル適用の可能性について議論を行なっている（林， 2024）。また、北方林における植生景観復元モデルに不可欠な亜寒帯性針葉樹の花粉生産量調査に関するデータも蓄積が進められている（佐々木ほか， 2023）。本年度に収集することのできた北海道の遺跡花粉データベースを活用することにより、植生景観復元モデルを応用した新たな北方林動態の解析手法の開発が期待される。
北大博物館資料から収集した遺跡花粉分析報告書リスト　北大図書館北方資料から収集した遺跡花粉分析報告書リスト
成果となる論文・学会発表等	林竜馬（2024）滋賀県の遺跡花粉データベースからみる地域・局所スケールの植生変遷史．第四紀研究 63， 3-17. 佐々木尚子・斎藤俊彦・高原光・林竜馬・中村琢磨・竹谷尚樹・野坂麻子・杉田真哉（2023年12月3日）アカエゾマツ林の花粉生産量:定量的植生復元の基礎資料として．第 38 回日本植生史学会・日本花粉学会第 64 回大会，鹿児島大学（鹿児島市）．