共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

昆虫サイトカインの研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 佐賀大農学部
研究代表者/職名 招聘教授
研究代表者/氏名 早川洋一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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落合正則 北大低温研

研究目的 本研究で研究対象とするサイトカインは、発育阻害ペプチド(Growth-blocking peptide, GBP)という昆虫特有のサイトカインであり、寄生蜂によって寄生された宿主昆虫の体液中に発見された生理活性ペプチドである (Hayakawa, Y., J. Biol. Chem., 265, 10813-10816 (1990))。 GBPは前駆体proGBPとして発現する事が知られ、各種ストレスに晒された昆虫体内で活性化してストレス下での昆虫の生理的状態を最適に保つ役割を担っている。本研究では、ストレス依存的なproGBPの活性化機構を分子レベルで明らかにする事を目的とする。
  
研究内容・成果 GBP前駆体proGBPからGBPへの活性化を担うプロセシング酵素がセリン型プロテアーゼである事は各種プロテアーゼ阻害剤を用いて既に生化学的に証明済みである。proGBPの特異的セリン型プロテアーゼによる加水分解反応をより高感度に測定する事は、本研究を進める上で最も重要な点である為、先ずGBPポリクローナル抗体を用いてプロセシング過程を追跡した。アワヨトウ幼虫から採血した(血球も含む)全体液を25oCで培養してウェスタンブロッティングを行なった結果、培養開始直後から前駆体proGBPのバンド強度の減少と、更に培養開始10分後からの活性型GBPバンド強度の上昇が検出できた。ただ、前駆体proGBPおよび活性型GBPのバンドともややブロードに広がりそれぞれの濃度を正確に測定する事は困難であると判断せざるを得なかった。そこで、プロセシング過程をより感度良く正確に測定する為に、proGBPのカルボキシル末端にV5エピトープとポリヒスチジンタグを結合したproGBP-CVHを合成し、これを基質として用いてproGBPプロセシング反応の測定を行なった。その結果、GBPポリクローナル抗体を用いウェスタンブロッティングよりも、非常にシャープなproGBP及びGBPバンドの検出に成功し、proGBPのプロセシング過程をより高感度に分析する事が可能になった。
 当該合成基質proGBP-CVHを用いて採血後の全体液におけるproGBPのプロセッシング反応を分析した結果、活性型GBPは採血後20分で最も高濃度となり、その後減少する事が明らかになった。もちろん、この過程で前駆体proGBPの減少も観察された。検出された活性型GBPの減少は、恐らく、他のプロテアーゼによる分解過程の進行によるものと解釈している。また、採血後の全体液に抗酸化物質であるN-acetylcysteinを添加したところ、前駆体proGBPの減少、更に、活性型GBPの上昇とも阻害されることも証明する事ができた。この実験結果は、proGBPのプロセッシング反応過程には活性酸素種が関与する事を強く示唆する結果と解釈でき、今後の研究戦略を考える上で貴重な情報となった。
  
成果となる論文・学会発表等 T. Matsumura, M. Ono, S. Osada, F. Matsuhisa, M. Ochiai, and Y. Hayakawa (2023) N-acetyloxfenicine strongly induces mitohormesis in mice as well as in insects., FEBS Letters, 597, 288-297.