共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

南半球高緯度域の白亜系中の長鎖アルケノン個別分子を用いた炭素同位体比層序構築
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 金沢大学
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 長谷川卓

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

高橋月香 金沢大学 大学院生

2

力石嘉人 北大低温研 教授

研究目的 南インド洋高緯度域からIODP第369次航海で採取されたU1516地点の白亜紀の約9650万年前の堆積物を分析対象とした.この時代には中期セノマニアン事変(MCE)と呼ばれる炭素循環攪乱現象が生じたことが世界的に知られる.温室地球期に炭素循環攪乱現象が生じると,高緯度域に如何なる変化が生じるかを理解することを究極目的とする.本研究では植物プランクトン・ハプト藻類のバイオマーカーであるアルケノン(炭素数40)の個別分子炭素同位体比測定を行った.その目的は世界の先行研究地との詳細な層序対比,および炭素同位体比値に特異な変動がみられる場合,そこから当該海域の環境変動を議論することである.
  
研究内容・成果 令和6年1月29-31日の日程で,長谷川卓が北大低温研究所・力石嘉人教授の研究室を訪問して共同で研究を行った.内容は炭素数40の2不飽和アルケノン(C40:2Et)の炭素同位体比分析,および標準試料の分析である.C40:2Etに関しては,分析限界に近い試料も含まれていたため,S/N比や標準試料を用いた分析精度の確認なども進めながらの分析となった.
 合計14試料から炭素同位体比データを得ることができた.値は-39.6‰から-26.5‰までの約13‰に及ぶ広い範囲を取った.当該層位範囲に対応する期間の大気・海洋系のCO2の炭素同位体比の変動は3‰以下であると推定されるため,明らかに環境負荷がハプト藻の光合成プロセスにおける炭素同位体比分別に何らかの影響を与えていたことが確実になった.最も明瞭な変動は,MCEに相当する層位範囲に記録されていた.MCEの開始層準直下で最小値-39.6‰を記録し,MCEに入ると約8‰の急激な正側への値のシフトが見られ, MCE後半でさらに5‰の正シフトを見せてピーク値(26.5‰)を記録し,その後MCE末には-37‰まで10‰以上の急激な低下を見せた.正側にシフトしている期間がほぼMCEと一致していることから,この急激かつ大きな正シフトの要因はMCE期における南半球高緯度域における何らかの環境変動であると考えてよい.
 分析精度の確認に関しては,長谷川が離札後に力石教授によって複数のノルマルアルカン類を含むヘキサン溶液(研究室標準試料:金沢大学で混合)を,濃度を変えて多数分析することによって進められた.C40:2Etの分析に用いた最も導入量の少ない試料でも信頼できる分析値が得られていることが確認できた.また,金沢大学で類似の分析を進める際に,研究室標準試料を北大と金沢大の双方で分析し,インターキャリブレーションをすることができたことは今後の共同研究推進の上でも重要であると考える.
  
成果となる論文・学会発表等