共同研究報告書


研究区分 開拓型研究

研究課題

陸海結合システム: 沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリー
新規・継続の別 開拓型(3年目/全3年)
研究代表者/所属 金沢大学 環日本海域環境研究センター
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 長尾誠也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

大西 健夫 岐阜大学応用生物科学部 教授

2

木田 新一郎 九州大学・応力研 准教授

3

黒田 寛 水産研究・教育機構 主任研究員

4

田中 潔 東京大学大気海洋研究所 准教授

5

谷内 由貴子 水産研究・教育機構 主任研究員

6

長坂 晶子 北海道総合研究機構 主任研究員

7

中田 聡史 国立環境研究所 主任研究員

8

山下 洋平 北海道大学・地球環境 准教授

9

入野 智久 北海道大学・地球環境 准教授

10

芳村 毅 北海道大学・水産 准教授

11

松村 義正 東京大学大気海洋研究所 助教

12

伊佐田 智規 北海道大学・北方圏 准教授

13

佐々木 章晴 北海道大学・農学研究院 特任教員

14

白岩孝行 北大低温研

15

中村 知裕 北大低温研

16

三寺 史夫 北大低温研

17

的場 澄人 北大低温研

18

西岡 純 北大低温研

19

江淵 直人 北大低温研

研究目的 沿岸に付加される元素の割合(栄養物質ストイキオメトリー)は、高次生態系の特性や沿岸で固定される炭素量を左右する生物生産特性を決定する要因である。沿岸域は、沖合の海水と陸域河川から入ってくる栄養物質ストイキオメトリーの両方に影響を受ける。陸域河川水は、陸面の表層地質・土壌に応じた化学特性をもつ河川水として輸送され、河口域で塩析などによる物質の除去など物理化学的フィルターにかけられる。一方、沿岸に流入する沖合の海水は、陸棚や湾内の堆積物での地球化学的なプロセスにより変化を受ける。このようにして沿岸域の栄養物質ストイキオメトリーが決まっている。本研究ではこの沿岸の生物生産を規定する過程を解明する。
  
研究内容・成果 【陸域】河口に位置する水文観測点において季節を変えて3回の精密な流量観測を実施し、別寒辺牛川から厚岸湖への流出量が流域にもたらされた過去5日間の降水量で近似できることを見出した。河口域での栄養物質の輸送・拡散過程を知るためのトレーサーとして、有色溶存有機物(CDOM)に着目し、現場観測とマルチスペクトルカメラを搭載したドローンによる水面空撮、および衛星データ解析より、別寒辺牛川を起源とするCDOMが春季に厚岸湾を越えて太平洋沿岸域に広がっていることを確認した。

【汽水域】
別寒辺牛川河口から厚岸湾へと流出する河川水の力学過程を検証するため、数値モデル実験を行うとともに、ドローンと係留観測を実施し、数値モデルとの比較を行った。数値実験からは厚岸湾への流出過程を特徴づけるのは厚岸湖が広くかつ浅いこと、そして海峡部で海底が急激に深くなることの三要素が重要であることがわかった。厚岸湖が広く浅いことで海峡部ではTidal Pumpingが発生し、厚岸湖と厚岸湾の両方向に起きている。海峡部で深くなることで流速シアによる混合と海底摩擦による混合の二種類の混合プロセスが発達することも明らかになった。
別寒辺牛川から厚岸湾への懸濁物質輸送を検討するため、2021年10月に別寒辺牛川河口で底泥上にセジメントトラップを設置し、海水の流入に伴う溶存成分の凝集沈殿、さらに河川から輸送される懸濁粒子の移行量と沈着量を調査した。その結果、河口域で沈着した粒子は砂質であり、微細粒子のほとんどが別寒辺牛川から厚岸湖に移動することが明らかとなった。また、大気由来のexPb-210放射能濃度を表層堆積物で計測した結果、大気沈着物とともに河川流域からの粒子は厚岸湾へ移動することが明らかとなった。

【海域】
沿岸親潮域と、その上流の南部オホーツク海の集中観測を実施した。酸素同位体比やCDOMをトレーサーとして水塊構造を調べた結果、冬季の南部オホーツク海では、海氷融解水、オホーツク中冷水、東サハリン海流水が混じり合って高い栄養塩と鉄濃度水塊を形成し、春季の沿岸親潮の水塊に強く影響していることが明らかとなった。
一方、2021年秋の道東海域で発生した前例のない大規模赤潮の分布や発生後の低次生態系応答を調べた。船舶観測と蓄積したモニタリングデータならびに衛星データを解析し、カレニア属の細胞密度を推定するアルゴリズムを作成し、赤潮の発生、維持、衰退過程を記述した。2021年秋の海洋表層では、珪藻の細胞密度は例年よりも二桁小さく、ピコ植物プランクトンの一種であるシネココッカスの細胞密度は一桁小さく、植物プランクトン間での栄養塩をめぐる競争以外に、カレニア・セリフォルミスによるピコ植物プランクトンの捕食やアレロパシーの影響を検討する必要性を指摘した。
  
成果となる論文・学会発表等 Kida, S., Tanaka, K., Isada, T. and Nakamura, T. : Impact of a large shallow semi-enclosed lagoon on freshwater exchange across an inlet channel. Journal of Geophysical Research Oceans, 129, e2023JC019755. https://doi.org/10.1029/2023JC019755, 2023.

Liu, K., J. Nishioka, et al.: Phytoplankton and microzooplankton population dynamics along the western area from the North Pacific to the Bering Sea in summer, Limnology and Oceanography, Accepted.

Taniuchi, Y., Watanabe, T., Azumaya, T., Takagi, S., Kasai, H., Nakanowatari, T., Ohnishi, T., Kakehi, S. and H. Kuroda: Drastic changes in a lower-trophic-level ecosystem attributed to unprecedented harmful algal outbreaks in 2021 on the Pacific shelf off southeast Hokkaido, Japan. Continental Shelf Research, 267, 105114.J, 2023.