共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

融雪期の湿原におけるメタン動態とメタン代謝微生物の寒冷地適応の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 静岡県立大学
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 梅澤和寛

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

谷幸則 静岡県立大学 教授

2

福井学 北大低温研 教授

3

森章一 北大低温研 技術専門職員

研究目的 湿原は強力な温室効果ガスであるメタンの主要な放出源であり、最大で全体の30%に及ぶと見積もられている。福島県、新潟県、群馬県にまたがり多雪山岳地帯に位置する尾瀬ヶ原湿原では、毎年数m以上の積雪がある。本湿原では、融雪期に湧水に含まれる溶存鉄が酸化した酸化鉄(アカシボ)による彩雪現象が生じ、アカシボ現象と呼ばれている。近年、アカシボでは特徴的な微生物群集が見られることがわかってきており、本研究では、アカシボがメタン動態に与える影響を解明することを目的とした。
  
研究内容・成果 残雪期の4月下旬、一部で残雪期が残っていた6月初旬、無雪期の8月と10月に尾瀬ヶ原湿原で現地調査を行った。4月の調査では、調査地点の積雪量は145-156cmであり、採取した4箇所の雪柱コアの下層(地表から70cm以深)でアカシボが観察された。6月には残雪上に発生したアカシボと泥炭上にアカシボが集積した地点で調査を行った。4月と6月には、pH、溶存酸素濃度、電気伝導度、溶存鉄濃度などの環境パラメーターを測定し、培養等に用いる雪試料やアカシボ堆積物を採取した。8月と10月の調査では、6月に調査地点を含む特徴の異なる複数地点でポータブルガス分析装置(PICARRO社 G4301)を用いたメタンと二酸化炭素の現地フラックス測定等の環境パラメーターの測定を行った。
アカシボがある地点では、溶存酸素濃度(29-75%)が低く、pHは弱酸性(7以下)、低い電気伝導度(4.3-129μS/cm)であった。4月と6月に採取したアカシボ堆積物や溶存鉄を含む雪試料を摂取源として、メタン酸化集積培養系を作成して15度で培養を行った。試料の摂取量、摂取地点、エネルギー源の違いなど全部で30種類の集積培養系を作成し、生育したものは継代培養を行った。一部の集積培養系について、16S rRNA遺伝子配列に基づく微生物群集構造解析を行った結果、酸化鉄を含む集積培養系に新規メタン酸化細菌が含まれていることが明らかとなった。本菌は、鉄を利用したメタン酸化細菌であることが示唆された。
また、8月と10月の調査では、アカシボの有無や植生が異なる計12地点でメタンと二酸化炭素のフラックスを測定した。フラックスは、メタンと二酸化炭素濃度を3分以上現場で測定して1分以上濃度変化が比例する区間から算出した。同地点で、2から5回反復してフラックスの測定を行った。測定の結果、測定地点によってメタンフラックスは大きく異なることが明らかとなった。
  
成果となる論文・学会発表等 梅澤和寛, 福井学,「尾瀬ヶ原湿原で見られるアカシボがメタン動態へ与える影響」, 北海道大学低温科学研究所研究集会「雪氷の生態学(16)⾼地・低温⽣態系における⻑期モニタリング研究」, 2022年12月